上 下
48 / 74
二章

46

しおりを挟む
同日の昼前。飯前最後の交戦。もう少し進めばセーブポイントがあるという所で、魔物と遭遇してしまった。

白雪犬《スノードッグ》の群れ。脚兎《レグット》と同じく全身を純白で包み実質的な迷彩を持った魔物。数は三十ほど。

口を開かずとも見える大きな牙は、致命傷を与えるにふさわしい見た目をしていた。
先端は尖っていて、噛まれれば激痛と出血を伴うだろう。

「クロノア君、そっちお願い!」

「了解です!」

威勢のいい返事を返すと、ガウナらが向かう方向とは違う別方向へと分岐。
前方には大量の白雪犬《スノードッグ》がやってきている。

身体能力が高いと言っても多勢に無勢。風で押し切られる可能性を潰すため、魔法を発動した。

「ファイアイメイション!」

グリエマ、ニファが使用した中級魔法。
扇状に拡散する炎を放つことができる。

(これで分断して……少しずつ潰して――――)

風魔法で自分が振り撒いた炎を払おうとしたその時。中から一匹の白雪犬《スノードッグ》……いや、先ほどのあまり変わらない数の白雪犬《スノードッグ》が姿を現していた。火が体当たったと言うのに、効いた様子がない。雪は熱で溶ける、その論理に基づいて放った広範囲魔法は、ことごとく打ち破られる。

「火に体勢があるのか……なら!」

歯を強く噛み合わせ、跳躍。紙一重で敵の噛みつきを回避すると、上下逆さのまま、空中で彼らを眺めた。

手に火が集まる。降雪に見舞われながらも、それは確実に槍の形を形成していく。

(耐性以上の威力で攻撃すればいい‼)

「炎槍《グリプス》‼」

腕を勢い良く振るい投射すると、槍は直下して雪の煙を上げる。真下にいた白雪犬《スノードッグ》は体を貫かれ死体へと変わる。
近くにいた同種にもそれなりの損害が出ていた。

(これでかき乱したな。あとは適切に処理すればいい)

体を半回転させ着地。
体を返しグラディウスに炎を集める。

「深炎斬《クリムゾン・ファイバ》」

疾走。作業のように敵を切り付け、三体ほど撃破。

負けじと白雪犬《スノードッグ》が、凶悪な牙をむき出しにして襲い掛かってくる。

「遅い」

足に込める力を強める。
一瞬で加速。
懐に入り逆手に構えたグラディウスで、はらわたを切り裂き絶命させる。

残り……五体。視界に収まるくらいには少ない、なんてことなく撃破できるだろう。

少し離れたところで魔物と戦う二人。ナックルを装備したガウナは敵を粉砕し、バスターソードを握るストレトは敵を両断する。ダメージも今のところ受けていない。

「外気で肺がやられるね、これ!」

「我慢しろ! 寒いんだから仕方ねぇんだよ!」

背と背を合わせた二人。
反発するようにして駆動。
もう残り少ない敵を殲滅するべく、刃と拳を唸らせた。


♢♢♢♢


翌日の四日目の夕方。相変わらずの天気で、吹雪は収まらない。むしろ強まってきている。

「避けろクロノア!」

「わかってます!」

ゴーレムが振り下ろす頑丈な腕。
破壊力は計り知れない。当たればひとたまりもない。

真下にいたクロノアは回避。直後ゴーレムの背後に回り炎縛を用いて動きを拘束。

「今です!」

「言われなくてもな!」

ゴーレムはその材質故生半可な攻撃は通じない。
しかし、拳であればそれは別。
面積、切断ではなく打撃。それらの要素が組み合わさることで、いともたやすく穴を空けることができる。

(ガウナさん……わかって無くない!? そっちに敵は――――)

ゴーレムの真後ろで炎の縄を引っ張りゴーレムの動きを固定するクロノアは、彼女が別の方向へ走っていることに不審さを覚えていた。

だが、方向可変《ベクトルチェンジャー》。
その能力が、彼女の勢いを緩めずにベクトルを変更させることを可能にした。

「メタルスマッシュぁ!!」

ドガ。

ゴーレムに風穴が空いた音が響いた。

ゴーレムを蹴り飛ばし足を接地した彼女は、笑って言った。

「進むぞ」


♢♢♢♢


氷狼《シードウルフ》。

馬鹿みたいにデカい体躯と、白濁を纏った恐ろしい魔物。
前足の鋭い爪が敵を裂き、白雪犬《スノードッグ》よりも強靭な牙が敵を噛み切る。

緑色の眼光で、彼らを貫いていた。

「な、なんですかあれぇ!?」

「氷狼《シードウルフ》だ。ファフ、死にたくなければ回復魔法の準備をしておけ」

呟くように言いながら、全ての荷物を背負ったガードは左手の盾を構える。

「は、はい!」

右手で軽く握っていた杖を両手でがっしり握り締めるファフアル。彼女が見つめるのは、抜剣して走り出すクロノアだった。

「狼とは何回か戦ったことがあります! 俺に任せてください!」

彼はそう言い放ったあとで、疾走していた。

同様の速さで飛び出す狼。
鏡を置いたかのように均等な速度で、両者は虚位を詰めている。
もう直前というところまで来ると、前足を振り下ろす。

「クロノア君!」

「心配いりません! 援護お願いします!」

風魔法で自身を斜方に吹き飛ばし回避。直後指示を送ると、振り下ろされた前足によって大量の雪が縦に昇った。

左足を踏みしめ、右斜め前に突進。
深炎斬《クリムゾン・ファイバ》で斬り込みに行く。

狼は回避。
垂直に飛び上がり、口を大きく開けて息を取り込んでいる。

攻撃の予備動作か……危機感知が働いたクロノアは、
再度風魔法で自身を吹き飛ばす。
そして真下から真上に向かって、一本の槍を投射する。

「炎槍《グリプス》」

口から大量の冷気……氷の塊を吐いた狼に穿つ槍。
とてつもない轟音が、彼の喉から発せられた。
避けて正解だったようだ。

(これで終わり……)

頭上からどんどん高度が下がっていく敵。槍に貫かれた重力のままに落ちてくる。

(じゃねぇっ!!)

雪のカーペットの上で体を転がし、
間一髪で下敷きになることを避けた。

ズシンという音が響くが、大半を雪に吸い込まれてしまい聞こえたのはクロノアだけだった。

「クロノア君! まだ生きてるぞ!」

遠方からそんな声がかかった。
クロノアはハっとして、真横で佇む氷狼《シードウルフ》に目を向ける。

前足についた凶悪な爪が……クロノアに襲いかかる。
被弾を免れようとした。が、最悪のタイミングで雪が目に入ってしまう。

(死――――)

万事休すか――諦めかけたとき、鼓膜が驚いた。

「穿天拳《ピア・フィスト》」

目と鼻の先で、拳を前足に叩き落しているガウナ。
狼は更に悲鳴を上げた。叩き落された前足が、粉砕している。

「ストレト、とどめをさせ!!」

宙に浮かんだまま首を回し、連携を取る。

「任せて!」

いつの間にか眼前まで来ていたストレト。
バスターソードを握る手に、血管が浮かぶ。
歯の隙間から、白い息が溢れる。

「バスタースラッシュ!」

思い切り振り上げる、そして振り下ろす。
そうして炸裂した一撃は、狼の頭を一刀両断。
飛散した血液はかき氷にシロップをかけるときのように、雪を赤く染めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

処理中です...