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一章

25 踏み出す一歩

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(……助けられなくてごめんなさい、エマさん)

彼はその後、鼻水を啜りながらダンションの地面を掘って彼女の死体を埋めた。土をかける度に見えなくなっていく亡骸は、クロノアに涙を誘発させるのには十分すぎるものと言えた。
 
鼻水も止まり、目の下の赤みが取れた時。
クロノアはグリエマが下げていたポーチを、
おもむろに開封した。手はいまだに震えていて、それだけ彼女を大事に思っていたことが、その様子から伝わってくる。
言うなれば、第四の母だ。

「……貰いますね」

中には色々あったが、クロノアはそのポーチごと腰に着けた。入っていたものは、『彗星盤』、『行方不明者の情報』、『世界地図』等。どちらも帰郷を辿る上で非常に重要なアイテムであるため、クロノアは心を込めて感謝をした。

長剣はボロボロだった。様々な魔法付与が施されている痕跡があるが、壊れてしまえば使い物にならない。

だがその長剣はどんなわけか、クロノアの右腰の方に、鞘ごと納められていた。

「忘れません。絶対に」

「俺は、誰かを救えるような人になりたい。助けられた分を、助けて返したい。
そこに発生する悲劇を、あなたのような悲劇を、生まないために」

──俺は、あなたになりたいんだ。
そんな願いが、喉に引っ掛かった。

クロノアはそう言い残したあと、またさらに深くまで進んだ。戒禍隋《ハイ・カース》がいる場所が最深部かと思われたか、その奥があったのだ。
そして、見つけたのは扉。少し進むとあったそれは、かなり古めかしく見える。正直開くか開かないかもわからないような代物だったが、クロノアは思い切って中を覗いてみることにした。

2つのノブを両手で引いた時、飛び込んできたのは。

緑に溢れ、雲があり、まるで……『地球』のような、広大な景色だった。

「……え、なんだこれ」

途端に風が吹き抜ける。その突風により後方に吹き飛ばされそうになるが、両腕を盾にしてなんとかバランスを保つ。
クロノアは吹き込んでくる風を凌ぎながらも、開眼状態をなんとか維持して、扉の向こうへと目を向ける。

無意識のうちにある人を探していた。
グリエマが探していた行方不明者。Ⅰ級冒険者で、背は中程度。そんな情報しかなかったが、扉を開けた瞬間、クロノアの頭にあった『ピース』が完全に埋まり、『結論』が完成した。

「この下に……行方不明者がいる」

痕跡が一つもない。それらを踏まえて考えれば、一番妥当な結論だった。

(そうか。それで、ここまで帰ってくることができないから、行方不明者として扱われた……ってことか)

思考を一時中断し、扉を閉めて吹き抜ける風を抑える。開くときと違い、閉めるときは風圧が強い。
数秒間力を加え続けて、なんとか閉じ切ることができたクロノアは、おもむろに扉に背をかける。

休憩も兼ねて、そこに深々と腰を下げた。

(……ここで俺が降りれば、二度と帰ってこれないかもしれない。というより、ダンジョンにあんな場所があった……のか)

「謎だらけだ……」
クロノアは顔を垂らして呟いた。

「だがまぁ……やるべきことはただ一つだな」

足に、心強さを感じさせるくらいの力が込められた。

そして、次なる一歩を、扉から離れるように踏み出す。

「家に帰る。それが今の俺の、最善の一手だ」

彼は心の内に留めておく。ここにこんな扉があったことを、その先に新しい世界が広がっていたことを、強さと優しさを兼ね備えた――、一人の戦士のことを。







♢♢♢♢


やっと一章が終わりました。一章ではクロノアが超越者に至るまでの経緯と、グリエマとの出会いと別れを書きました。

最奥の祠にある扉の向こうに、いつか飛び込む日が来るかもしれません。
これからもどうぞ、私の作品をよろしくお願いします。
面白いと頂けたら、評価・感想を是非。


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