【2人用声劇台本】蟲ノ姫━邂逅━

未旅kay

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邂逅

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 姫:「…………?」

 国光:「…………」

 姫:「どなたでしょうか?」

 国光:「わたし髪結かみゆいの国光くにみつと申します。道中どうちゅうに脚をいためてしまったのです」

 姫:「髪結い……?」

 国光:「髪をととのえることを生業なりわいにしております」

 姫:(首をかしげる)「そのような職業があるのですね」

 国光:「いつものように、ご贔屓ひいきにしてくださっている地主じぬし旦那様だんなさまの髪をった帰りに、近道ちかみちをしようと見知らぬ林道りんどうに入ったが最後さいご、いくら歩いても目に映るものは木ばかりで」

 姫:「災難さいなんでしたね」

 国光:「食糧しょくりょうをほんの少しだけで良いので、分けていただけないだろうか」

 姫:「このあたりは、病犬やまいぬのようなけもの夜闇やあんまぎれて活発になります」

 国光:「…………どうしたものか」

 姫:「一人で暮らしていると、誰かに髪をってもらう機会もありません」

(間)

 国光:「あまり女性の髪をった経験は多く無いのですが。……泊めていただくわりに髪をうというのは、いかがでしょうか?」

 姫:「部屋も余分よぶんに多いので、ゆっくりしていただけると思いますよ」

 国光:「ご厚意こういにあずからせてもらいます」

 姫:「脚、大丈夫なんですか?」

 国光:「骨までは折れていないはず……」

 姫:「青黒あおぐろれていますよ」

 国光:「足首あしくびくじいたまま、歩き続けたせいですかね」

 姫:「水で冷やしましょう。んで来ますので、座っていて下さい」

(少しの間)

 国光:「あらためて……国光くにみつもうします」

 姫:「国光……様。私はむらさきです」

 国光:「ムラサキさん」

 姫:「ふふっ、かしこまらず」

 国光:「あのままことわられたら、どうしようかと思っていました」

 姫:「怪我けがをしたもの無下むげにはできませんよ」

 国光:「素性すじょうの知らぬ男です」

 姫:「そのような脚では、男性でも無害でしょう?」

 国光:「…………痛いイッッ!」

 姫:「少し冷たいですよ?」

 国光:「くおっ!!」

 姫:「変な声、あげないで下さい」

 国光:「……面目めんぼくない」

 姫:「寝巻ねまき用に男物おとこもの着物きものもありますので、水風呂すいふろよごれを落としてください」

【国光は言われるがままに水風呂に浸かる】

 国光:(N)暮色ぼしょくせまったそらが、まどとおして水面みなも色付いろづける。

 国光:「まわりくどいか……」

 国光:(小声で)「最初におそいかかってくれたほうが……」

 姫:「国光様、お加減はいかがでしょうか?」

【ムラサキが扉をへだて、話しかけてくる】

 国光:「ブハッ!!」

 姫:「大丈夫ですかッ!」

 国光:「はいッ!大丈夫なんで!」

 国光:「満身創痍まんしんそういゆえ。とても助かりました」

 姫:「泥だらけで、顔色かおいろもよろしくありませんでしたから」

 国光:「立派なお屋敷をよごさずにみました」

 姫:「そんなつもりで、ご用意したわけではありません」

 国光:「はははっ、冗談です。とても気持ち良く堪能たんのうさせていただいてます」

(少しの間)

 姫:「お着物きもの、並べておきます」

 国光:「かたじけない」

 姫:「歩くのがつらかったら、お手伝いするので遠慮しないでくださいね」

 国光:「いえ、そこまで気をつかっていただかなくても」

 姫:「……そうですか」

 国光:「…………」

 姫:「夕餉ゆうげ支度したくをいたしますので、すみれに来て下さい」

 国光:「……はいッ!」

(間)

 国光:「廊下が長く続いている……」

 国光:「すみれ…すみれ……。ここか……」

【国光がふすまに手をかける】

 国光:「ムラサキさん、開けてもよろしいか?」

 姫:(肯定)「ええ」

 姫:「開けておくべきでしたね。部屋が多くて、分かりずらかったでしょう?」

 国光:「沢山、ふすまが並んでいましたが、ふだもあったので」

【2人はムラサキの作った料理を食べる】

(少しの間)

 姫:「着物のたけ丁度ちょうどでしたね、良かった」

 国光:「作っていただいた料理も、とても美味しいです」

 姫:「お口に合うか心配でしたけど、安心しました」

 国光:「ムラサキさんは……普段どなたかと食事を?」

 姫:「ずっと一人ですよ」

 国光:「…………」

 姫:「生まれていつつくらいの時はちちのような男性がいたと思うのですが、やまいで亡くなってしまい……」

 国光:「…………」

 姫:「でも苦労することは、お掃除くらいですかね」

 国光:「一人で、これだけの広さを清潔に保つのは大変そうだ……」

 姫:「脚が治ったら、お手伝い頼めますか?」

 国光:「是非ぜひ、任せてください!」

 姫:「ふふっ」

(少しの間)

 国光:「いつ、髪をいますか」

 姫:「今宵こよいはお疲れでしょ。静養せいようしてください」

 国光:「それじゃあ、明朝みょうちょうに!」

 姫:「ふふっ……」

(少しの間)

 姫:「はいッ!……楽しみです」

(間)

 国光:(N)たたみはしから少しずつ、陽光ようこうせまって来た。

 国光:(N)起きなければいけない。

 国光:「最期さいご朝日あさひになるかもしれない」

(少しの間)

 国光:(M)両袖りょうそでまくり、細い腕でわたしの着物をしている。

 国光:(M)その姿ははなに舞い降りる、ちょうに似ている。

(少しの間)

 国光:「……おはようございます」

 姫:「国光くにみつ様、おはようございます」

 国光:「ムラサキさん、なにからなにまで……」

 姫:「見返みかえりとして。……髪、……髪をってくださるんですよね」

 国光:「任されよ!」

 姫:「これじゃあ、私がかみためだけ・・に国光様をお手伝いしているみたいですね」

 国光:「違うのですか?」

 姫:「足、みつけますよ?」

 国光:(上のセリフに後半かぶせても良き)「あいすみません」

(間)

 国光:「髪をっていきますね」

 姫:「よろしくお願いします」

 国光:「後ろ、ととのえていきますね」

【チョキチョキ、整えタイム】

 姫:「国光様は、女性の髪をった経験はどのくらいりなんですか?」

 国光:「ご贔屓ひいきにされている、地主じぬしの娘さんと花道はなみち芸妓げいこさんくらいですかね」

 姫:「私の髪はどうですか?」

 国光:「ムラサキさんの髪、とても綺麗ですよ」

 姫:「どうしてもびていくと、自分でまとめるのが難しくなってきて」

 国光:「毛先けさきそろえるために、少し短くしても良いですか?」

 姫:「国光様にお任せします」

 国光:「…………」

 姫:「どうかしましたか?」

 国光:「…………あっ、はい!」

 姫:「…………」

 国光:「少し持ち上げますね」

 姫:「ふふっ」

 国光:「……?」

 姫:「髪が、首に当たって……くすぐったくて」

 国光:「本日ほんじつはもう少し切ったら、明日あすも時間をください」

 姫:(肯定)「ええ。……?」

 国光:「一度、髪を水ですすいでから、また」

 姫:「ああ。承知いたしました」

(間)

 姫:「ご家族はいらっしゃるのですか?」

 国光:「家族ですか?」

 国光:「…………幼い頃、親戚しんせきからはきらわれて来ました。両親は物心ものごころがついた頃には、いませんでしたので」

 姫:「…………」

 国光:「一人で生きていく為に、とにかく必死で多くの技術ことを学びました」

 姫:「苦労なさったんですね」

 国光:「私にも住む家があったので、寝る場所に困らないだけマシでしたよ」

(間)

 国光:「ムラサキさん、並んでいるつぼには何が入っているのですか?」

 姫:「朱夏しゅかあいだれた野菜を漬物つけものなどにしてるのです」

 国光:「もうすぐ秋ですもんね」

 姫:「秋は多くのものがゆたかになるので好きですよ」

 国光:「此処ここらの草木くさきなら、千紫万紅せんしばんこう 一変いっぺんしそうだ」

 姫:「秋は一瞬いっしゅんで、すぐに冷たい冬がおとずれます」

 姫:「冬はどうしても好きになれません」

 国光:「……?」

 姫:「寒いので、毎年一室いっしつだけを温めてしのいでいます」

 国光:「縁側えんがわから見える銀世界ぎんせかい風情ふぜいがあるんじゃないですか?」

 姫:「考えたこともなかったです」

(間)

 国光:(N)そんな他愛たわいもない会話を、私と彼女・・は繰り返した。

 国光:(N)髪結いなんぞといつわり、髪結道具かみゆいどうぐつつんだ風呂敷ふろしきに隠した簡易かんい狩衣かりぎぬと『神刀しんとうムラマサ贋作レプリカ』。

 国光:(呟くように)「明日あす、私はアレを殺す」

(少しの間)

 姫:「国光様、おはようございます!」

 国光:「ムラサキさん、おはようございます」

 姫:「朝、誰かと顔を合わせられるのってステキなことですね」

 国光:「そうですね」

 姫:「朝食あさげしなも完成しているので、一緒に食べませんか?」

 国光:「はい」

 姫:「国光様のケガが治るように、って作ったんですよ」

 国光:「楽しみだ」

 姫:「昨日さくじつっていただいたおかげで、くしがすんなりとおりました」

 国光:「う前から、毛先けさきまで新芽しんめのようにつやめいてましたよ」

 姫:(呟くように)「褒めていただけるのは……髪だけですか」

 国光:「…………」

 国光:(M)私は、今、彼女の背後うしろに立つ。

 国光:(M)無防備で。ヒトとしか思えない華奢きゃしゃで細い首。薄い肌にそでから取り出したやいばかざす。

(間)

 姫:「国光様。これからも……国光様とく季節を感じたいです」

 国光:(M)「何を言ってるんだ」

 姫:「髪結いの奉公ほうこう合間あいまでも……」

 国光:(M)「来ることのない未来の話なんて……するな」

 姫:「私は、国光様をいて……」

 国光:(苦しみ)「…………あ゛ッ!!」

(間)

 国光:「何が起こったんだッ!!」

 姫:(冷酷に)(N)━━━━男の身体カラダんだ。

 国光:「……ぐッ!」

 国光:(M)躊躇ためらった。

 国光:(M)躊躇ためらってしまった。

 国光:(M)これまで、造形美ぞうけいびそなわった妖怪なんて飽きるほどあやめてきたじゃないか!

 国光:(M)どうして、彼女の首をねられなかったんだ。

 姫:「髪をととのえるにしては、ご立派なかたなですね」

 国光:「…………ムラサキ……ッ!」

 姫:「そんなに見苦みぐるしいですか?」

 国光:(M)カラダが引き寄せられるッ!

 姫:「私って、そんなにみにくいですか?」

 国光:(N)ムラサキを名乗った女の下半身が、わずかに浮かび上がった。

 国光:「ちょうのような大きなはね……。下半身は蜘蛛くものような筋張すじばった太い脚が6本━━蟲ノ姫むしのひめ

 姫:「意外と冷静なんですね。糸で国光様のカラダを引き寄せた時、着ている着物……脱げちゃいましたね」

 国光:「……」

 姫:「中に着ている、おしものって……狩衣かりぎぬって言うんでしたっけ?」

 国光:「そんな大層たいそうなモノじゃないですよ」

 姫:「もっと近くで見せて欲しいです」

 国光:(M)どうする。一度いちど、退散した方がいいのか。

 姫:「行ってしまうのですか?」

 国光:「ええ。そうさせていただきます」

 国光:(呟くように)「骨は再生、水は浄化を意味いみせし。天文てんもんは人をみちび指針ししんであれ」

 姫:「…………行ってしまうのですね」

 国光:(M)彼女の間合まあいの検討がつかない限り、相手にするのは悪手あくしゅだ。

 姫:「国光様……。貴方あなたになら、良かったのに」

 姫:「ってしまうのですね」





【林の中を駆ける国光】

 国光:(冷静)「どれだけ走っても、雑多ざったしげった林が続く。はしが見えない……」

 国光:(M)「……ッ!」

 国光:「歩みを進めるたびに、おぞましいむしおそってくる……」

 国光:「刀で斬り、振り払うのは難しくない。危惧きぐすべきは、私の体力か……」

 国光:「…………キリがない」

 国光:(苦しくも清々しく)「私も終わりか……多くの妖怪を斬り続けた私にはお似合いの最期かもしれない」

(少しの間)

 姫:(深くゆっくりと)「「国光様」」

(国光の視界が反転した)

 国光:「…………何が起こった?」

 姫:「お帰りなさいませ。きずだらけですね」

 姫:「それでも……生きているんですね。私のむしから生還せいかんした……」

(少しの間)

 姫:「貴方あなたは、お強い」

(間)

 国光:(声にならない声)「………………!!」

 国光:「またたもなく、屋敷のたたみの上にいた」

 姫:「桔梗ききょうへようこそ」

 国光:「…………」

 姫:「私の糸を部屋中にめぐらせています」

 姫:「桔梗ききょうを使用した人間は、貴方あなたが初めてです」

 国光:「私の正体しょうたいに……いつから気づいていたんだ?」

 姫:「初めてお会いした時からですよ」

 国光:(天井を仰ぐ)「………………はぁ」

 姫:(穏やかに)「私の屋敷やしき常人じょうじんには見つけることすら、できませんから」

 国光:「そうか」

 姫:「あなたはまじなか何かなのでしょう?」

 国光:「ここの雑木林ぞうきばやしに踏み入った、刹那せつなから。私は一筋縄ひとすじなわではいかないと覚悟したさ」

 姫:「わざわざ、足の骨なんて折らなくても」

 国光:「おろかで、泥臭かったか」

 姫:「まじない師だからって、あんなに速く走ったり。私のむしぷたつに斬ったりできません」

 姫:(独り言のように)「足の一本いっぽん治すことなど、容易たやすい……ですか」

 国光:「もう名前では呼んでくれないんだな」

 姫:「名前もどうせ偽名ぎめいでしょ」

 国光:「本名ほんみょうだ」

 姫:「貴方あなた達みたいなまじない師は、本名を隠して接触せっしょくしてくる……。でないと名を利用されて……」

 国光:「…………」

(間)

 姫:「国光様。貴方あなた、死ぬつもりで……」

 国光:「名前を呼び直してくれるのか」

 姫:「…………」

 国光:「死を意識している」

 姫:「理解できません」

 国光:「私はつね死場所しにばしょを探している」

 姫:「じゃあ、なぜあやかしを退治して?」

 国光:「さぁ、どうしてだろうな」

 姫:「人間はいつもそうです。はぐらかし、軽蔑けいべつし、恐怖きょうふする」

 国光:「私はお前を、恐怖しているように見えるか?」

(少しの間)



(蟲ノ姫が前脚で、国光の手のひらを突き刺す)

 国光:「ぐっ……!!」

 姫:「手のきずも。今からける、おなかあなも。すぐになおしてしまうのかしら」

 国光:(苦しそうに)「私が着せられた着物きものも。つぼに入った犠牲者の者だろ」

 姫:「幻滅げんめつしましたか?」

 国光:「そういうものだろ。お前たちは」

 姫:「人間なんて……大っ嫌い」

(前脚の先が、深く刺さる)

 国光:「ぐああッ!」

 国光:(M)つぼふたを開けると、彼女自身の醜悪しゅうあくさが理解できた。

 国光:「それでも、私は」

 姫:「はい?」

 国光:「お前を、何者なにものよりも美しいと思ってしまう」

 姫:「…………」

 国光:「…………」

 姫:「正気しょうきですか?」

 国光:「どうだろうな。とっくに、正気なんてせていたのかもしれない」

 姫:(強めに)「国光……貴方あなたの上に立つ女は、禍々まがまがしい……バケモノです」

 姫:「意識が飛びそうなら、何度だって……教えてあげます」

 国光:(前脚が肌の上をなぞる)「ぐッ!」

 国光:「これ以上……穴を開けないで欲しいな」

 姫:「…………抵抗しなさい」

 国光:「……ムラサキさん」

 姫:「抵抗しろッ!」

 国光:「私も同じだ。出会う者からは残忍ざんにんなバケモノを見る目で、見られてきた」

 国光:「床をよごす『赤』は、私にとって呪いだ」

 姫:(冷静に)「国光様」

 国光:「蘆屋あしや国光くにみつ

(少しの間)

 姫:「道摩法師どうまほうし……!」

 国光:「なににもにごせない陰陽師おんみょうじとしての強烈な『赤』は、決して私の前に人を立たせなかった」

 国光:「幾重いくえにもきざまれた、呪符じゅふの中で俺は……一人で……ッ!(途中で抱きしめられる)」

 姫:「冷たい」

 国光:「殺したければ殺せばいい」

 姫:「駄目だめです」

 国光:「ムラサキさんになら」

 姫:「死なしてなんて、あげません」

 国光:「…………」

 姫:「死なしてなんて……あげません」

 姫:「今の私を見て、ムラサキって呼んでくれたから」

 国光:「私には、美しくはかない……一人の女にしか見えないんだ」

(少しの間)

 姫:「…………私と一緒にいてください」

(間)

 国光:(N)あれから数十日すじゅうにち、屋敷の外を雪が降り始めた。

 姫:「国光様、離れないでください……寒いです」

 国光:「雪が降る前に、私の傷が癒えて良かった。じゃないと、埋葬のための穴が掘れなかった」

 姫:「寒いので、はなれないでッ!!」

 国光:「まきを取りに行きます」

 姫:「じゃあ、離れないで取りに行ってください」

 国光:「無茶を言わないで」

 姫:「あっ!冬に私をやっつけに来れば良かったんじゃないですか?」

 国光:「……確かにッ!!!」

 姫:「国光様が俗世ぞくせいに帰らない時点で、私への退治令たいじれいが取り消されるんでしたっけ?」

 国光:「ええ。退治令たいじれいと言っても、たんなる現存げんそんするかもしれないあやかし区分くぶんみたいなものですからね」

 国光:「私は最古の陰陽師に最も近いまじない師ですので。私が退治できないモノは誰にも無理な概念がいねん。『時間による解決』と判断されます。その時点で、退治令からムラサキさんは除外される」

 姫:「意外と……、退治令って……雑なんじゃ?」

(少しの間)

 姫:「あっ……雪が積もってます」

 国光:「やはり……銀世界がえる庭ですね」

 姫:「初めて雪を美しいと感じました」

 姫:「誰かと見る雪は、こんなにも美しいだなんて」

 国光:「ムラサキさん、まだ寒い?」

 姫:「このまま暖めてください……永遠えいえんに貴方の鼓動こどうを感じさせて」

 国光:「私が死んだら、食って欲しい」

 姫:「またそのお話ですか。……考えさせてください」

 国光:「そしたら、子をすことも出来るのでしょう?」

 姫:「子を私たちのように、一人にさせるのですか?」

 国光:「私の式神しきがみを、君のむしへと受肉じゅにくさせよう」

 姫:「まるで、陰陽師おんみょうじのようだわ」

 国光:「おあずかり光栄です」

 姫:「いいえ。私の旦那様だんなさまだから当然です」

(少しの間)

 国光:「私たちの子を孤独なんかにしない」

 姫:「…………」


(少しの間)


(十五年後)

 姫:「十五しか・・なのか、十五なのか。国光様にとっては、長かったですか?短かったですか?」

 国光:「…………」

 姫:「どうしようもありませんね」

 国光:「……本当に君は綺麗だ」

 姫:「我が子の顔も見ずに、死のうだなんて。貴方あなたは、どうしようもない人です…………最期さいごまで」

 国光:「……君と一つになれる」

 姫:「許してなんてあげません」

 国光:「……手厳てきびしいな」

 姫:「好きって言って」

 国光:「好きだ」

 姫:「愛してるって言って」

 国光:「愛してる」

 姫:「貴方が大好きな私です。もっとよく見て」

 国光:「ああ」

 姫:「ダメです……もっと!」

 国光:「ふふ。今までだって、何度も愛し合ったろ?」

 姫:「ダメ?」

 国光:「今日は、私が離してあげない」



(間)



(姫 詩朗読シーン)

 愛に

 くわば繋がる

 まゆなか

 朱色しゅいろにじんだ着物きもの

 紅葉もみじともに帰る

【詩朗読 終了】




(間)




 姫:「ただ愛されたかった」

 国光:「愛しかたを知りたかった」

 姫:「2人が出会う物語━━蟲ノ姫むしのひめ 邂逅かいこう



 終わり
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