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混血
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スタート
苅安:(N)彼女は繭島紫。
苅安:(M)華に舞い降りる━━蝶に似ている。
苅安:(N)私服登校で、着物を着た彼女に対して僕が抱いた最初の感情だった。
(間)
紫:「何かしら」
苅安:「素敵な着物……ですね?」
紫:「 …………」
戸張:「どーして疑問形なんだよ!……あ、どーも!コイツのダチやってます。戸張浩司っス」
苅安:「江ノ……苅安です。残り1年ですけど、よろしく」
紫:「そう」
(間)
凪:「もぉ!二人とも、紫ちゃん困ってるじゃないッ!」
紫:「紫ちゃん……?」
凪:「紫ちゃん、私、青山 凪!体育の授業で何回か一緒になったよね!!」
紫:「…………誰?」
凪:「えええええ!……まぁ、いいや!」
苅安:「……切り替えた」
戸張:「切り替えたな」
凪:「もしかして、紫ちゃんって茶道部だったりするの?」
戸張:「いや、無限坂に茶道部ねーじゃんかァ」
凪:「え?そうだっけ!」
凪:「戸張に聞いてないし!」
戸張:「紫と先に話してたの、俺たちだぞ!」
苅安:「……紫」
紫:「苅安くん、別に紫でいいわ。名前なんかにさして価値なんて無いのだから」
苅安:「…………」
苅安:(N)吸い込まれるような青空の下、僕らは出会ったんだ。
(間)
苅安:(N)僕たち4人はそれなりに、卒業までの1年間を毎日一緒に過ごしていた。
苅安:(N)たわい無い話をしたり。休みの日に遊んだり。
苅安:(N)隣に居て当たり前だった彼女。
苅安:「…………紫」
苅安:(N)高校卒業後、紫は忽然と姿を消した。
(間)
【某大学内にて】
戸張:「でもよー、俺や凪なら兎も角だ。苅安まで紫の居場所を知らないなんて、そんなことあるかよ」
苅安:「知らないものは知らないよ」
【ビデオ通話にて凪が話す】
凪:「紫ちゃんに会いたい!」
凪:「ねぇ、苅安!一度くらい紫ちゃんの住所、見聞きする機会とかなかったの?」
苅安:「うぅーーーーん」
凪:「無いよねぇ。電子の海を漂って生きてるような、SNSでしか繋がりのない現代っ子だもんね~」
苅安:「あ」
戸張:「お?」
苅安:「もしかしたら……分かるかも」
凪:「嘘ぉおお!」
戸張:「俺らは3限までだから、凪の専門近くの駅まで行けるぞ」
凪:「じゃあ、4時に駅前近くの『ペルノン』に集合ね!」
【『喫茶 ペルノン』角席】
凪:「じゃあ、聞かせてもらおうじゃない(ふんす)」
戸張:「どうして凪が斜に構えてるんだよ」
凪:「だって!私が知らないのに!」
凪:(かわいい声で)「あ。私、ココアラテ1つ」
戸張:「まぁ、落ち着けって」
戸張:(イケボで)「俺はコーラでお願いします」
苅安:「そんな意味深な理由なんて無い!」
苅安:「あ、アイスコーヒーを……」
苅安:「紫が通販でしか手に入らないスイーツがどうしても欲しいって言うから、代わりに注文したんだ」
凪:「紫ちゃんって、ネットとかに疎かったもんね……」
凪:「タイムスリップして江戸時代からやって来ましたって、言われても納得しちゃいそう」
戸張:「それで?」
苅安:「家の前……庭?……林?の入り口まで、持って行ったんだよ」
【回想】
式護:「江ノ様ですね。わざわざ、お手数おかけしました」
苅安:(M)「おかっぱ童女ッ!!」
式護:「どうかいたしましたか?」
苅安:「紫……繭島さんとは、どのような関係で?」
式護:「繭島……ああ、私は紫様の使用人ですよ」
苅安:「あ、そうなんですねぇ」
式護:「江ノ様は、紫様のご友人!なんですか?」
苅安:「ご友人を……ヤラセテイタダイテマス」
式護:「まだ男女の仲ではないのでしょうか?」
苅安:「まッ!まだ……!!いえ!とても健全な友人の1人を!」
式護:「番いでは無いのですね」
苅安:「ツガーイ……?」
(少しの間)
式護:「もう宜しいでしょうか」
苅安:「はい!すいません。お忙しそうなのに……」
式護:「こちらこそ。お茶の一杯も出せずに……」
【回想終了】
凪:「家に使用人って、どんだけお嬢様なの……紫ちゃん」
戸張:「使用人って本当に存在するんだな」
戸張:「凪も紫と家の話とかしたことは無かったのな」
凪:「戸張、言い方が意地悪……感じ悪いよ!」
戸張:「へいへい」
戸張:「突然、3人で押し掛けるのも迷惑なんじゃねーの?」
苅安:「まぁ、確かに。訪問者とか多そう……」
戸張:「苅安。1人で行って来いよ」
凪:「うーーん。じゃあ、私達の分までしっかり想いを伝えて来てね……。本当は私も行きたいけど」
苅安:「分かった。そうするよ。明日にでも訪ねてみる」
凪:「私も行きたいけどッ!!」
(間)
(次の日)
戸張:(凪っぽく)「じゃあ、私達の分までしっかり想いを伝えて来てね…………」
戸張:「で、どうして俺と苅安のことを尾行してるんだよッ!!」
凪:「戸張ッ!うるさい!声でかい!距離近い!」
戸張:(小声)「お前が『一緒に来い』って、深夜3時に電話かけてきたんだろが」
凪:「レディーにお前って言ったら、印象悪いよ。あと顔がウザい」
戸張:「レディーって誰のこと言ってるんだ?」
凪:「…………」
戸張:「……ハァ」
凪:「だってぇえ、紫ちゃんに会いたいんだもん!」
戸張:「その為にも、苅安1人に行かせるってことになったろ」
凪:「私だって……、紫ちゃんと……仲良しさんだもん」
戸張:「苅安と紫の間には2人だけの世界ッつーか、空間みたいのがあったじゃん」
凪:「……うん」
戸張:「俺も凪でも……入れねー空間」
(少しの間)
戸張:「……イテ!」
凪:「どうしたの?」
戸張:「蚊かな?虫に刺されたっぽい」
凪:「ここら辺、虫多そうだもんね」
戸張:「虫にも、女にもモテるのかな……俺ってば」
凪:「…………感じ悪~~い」
戸張:「事実だろ」
凪:「私の友達からの告白を秒で断って、めちゃ教室の空気悪くなったの忘れてないからね」
戸張:「しゃーなしだろ」
戸張:「好きでもない女の告白、オーケーしたってなぁ」
凪:「はいはい。モテ男モテ男」
(少しの間)
凪:「苅安、大丈夫かなぁ」
戸張:「……がんばれよ」
凪:「本人に直接、伝えてあげたらイイのに」
戸張:「アイツなら、言葉にしなくても分かってるさ」
凪:「男の友情、おアツいことで!」
戸張:「苅安には何かあったら、すぐに連絡をよこすように言ってるからさ。近くの喫茶店にでも行って、時間潰そうや」
戸張:(M)「連絡が来ないのが、一番なんだけどさ」
凪:「戸張の奢りね」
戸張:「は?」
凪:「戸張の、奢りね!」
戸張:「今度代わりに、手料理くらい振るまえよ。調理系の専門だろ」
凪:「振る舞うのは戸張にじゃなくて、3人に!」
(間)
苅安:「本当に林の中に、家なんかあるのか?」
苅安:「木が密集して歩きずらい。……先が見えない。少し暗い。すでに距離感が、バグってんだよ」
苅安:「ヤバい。疲れてきた。足が痛い。このままじゃ、紫に会う前に……」
式護:「…………今、紫と言いましたか?」
苅安:「うわッ!おかっぱ童女!!」
式護:「おかっぱ……童女」
苅安:「すいませんッ!」
苅安:(M)「しまったーー!つい口に出してしまった!印象が!僕に対する印象が悪くなる!」
式護:「こんなところで、何をしているんですか?」
苅安:「繭島…………。紫さんにお会いしたくて」
式護:(目を細めて)「貴方は……モンブランの人!!」
苅安:「……モンブラン?」
式護:「失礼しました。紫様に会いに来てくださったのですね」
苅安:「難しいですかね?」
式護:「少々、お待ちください」
苅安:(M)急に目を閉じたな……。人形みたいな子だ。
苅安:「…………」
式護:(小声)「…………モンブランの恩義……大きい……ごにょごにょ」
式護:「江ノ様。お友達だったにも関わらず、紫様が連絡もなしに疎遠になったのでしょうか?」
苅安:「まぁ……はい。紫さんにそこまで非は無いと思うんですけど」
式護:「承知しました。お屋敷にご案内しますので、私のすぐ背後から離れずに着いて来てくださいね」
苅安:「まだお若いのに、しっかりしてますね」
式護:「若い……。ええ、紫様が幼い頃から仕えていますので」
苅安:(M)「ジョーク??」
式護:「到着しましたよ」
苅安:「……!」
式護:「どうかなさいましたか?」
苅安:「広いですね」
式護:「紫様のお母様の所有物でした」
苅安:「そっ、そうなんですね」
苅安:(M)お母さんが、お金持ちだったのかな。
苅安:「想像以上のお嬢様だって、凪ならデカい声上げそう……」
式護:「江ノ様以外にもご友人がいるのですね」
苅安:「……いますよ。はい。…………います」
式護:「……紫様ーー!」
苅安:「……!!」
紫:「式護ィ、大きな声なんて出してどうし……た…………のッ!!」
苅安:「紫、久しぶり」
紫:「苅安くん!!」
紫:「着替えてくるから、式護は挨拶しておいて」
苅安:(小声)「部屋着の動きやすそうな着物も似合ってるな……」
式護:「ご友人の来訪です」
式護(A):「ご友人!?」
式護(B):「ご友人ですか!!」
式護(C):「紫様のお友達ですってええ!」
式護:「全員静かに!!」
式護(A):「はぁーーい」
式護(B):「はい」
式護(C):「はいですわ」
苅安:「同じ顔ッ!!!!」
(少しの間)
式護:「改めまして、式護と申します」
式護(A):「お茶でーーす」
式護(B):「ティーです」
式護(C):「粗茶です」
式護(A):「全部、お茶でしょ!」
式護(B):「モンブランもあるんだよ~」
式護(C):「苅安くんがモンブランを届けて来てくれてから、皆んなモンブランにハマっちゃて~~!」
式護:「江ノ様は、紫様に用事でいらっしゃたのですよ!」
式護:(セルフSE)「サササササーーーッ!バタン!!!」
式護(C):「扉を閉めるので!扉を閉めましたので、お二人で仲睦まじくぅ~~!」
(少しの間)
紫:「ごめんなさい。騒がしくて」
苅安:「四つ子って、初めて見たよ」
紫:「大事な家族なの」
苅安:「うん。式護さん達、紫のことを大切に思ってるカンジだ」
紫:「苅安くん……」
苅安:「紫……?」
紫:「怒っていないの?」
苅安:「怒る?」
紫:「何も言わずに、あなた達の前から居なくなったから」
苅安:「いなくなった……」
紫:「……」
苅安:「凪も戸張も、怒ってない……」
紫:「……え?」
苅安:「でも少し寂しそうだった。二人とも紫に会いたがってるから」
紫:「そう」
苅安:「紫。何か思う事があるんだったら、僕でよければ……」
式護:「紫様ッ!」
紫:「式護。何かあったの?」
式護:「…………ッ!」
紫:「…………式護?」
式護:「いえ……。ごめんなさい。勘違いだったみたいです……(しょんぼり)」
紫:「……?」
苅安:「……式護さん達も、ご一緒にどうですか?」
式護(A):「いいんですか~!」
式護(B):「お茶菓子、追加で持って来ますね!」
式護(C):「四方山話~~!」
式護:「騒がしくて、すいません」
苅安:「いえ、紫が……紫さんが」
紫:「別に言い直さなくてもいいわ」
式護(C):「きゃ~~!呼び捨てぇ!キュンですわ!」
紫:「うるさい」
式護:「お友達とは仲良くするようにと、お母上の遺言にあります!」
式護(A):「それなのに、紫様はぜーんぜんお友達呼ばないんですよぉ!苅安くんッ!楽しみにしてたのにッ!」
紫:「苅安くん!?」
苅安:「距離の詰め方が凄い……。楽しみにしてたんですね……」
式護(A):「紫様とは高校でお友達になったんですよねッ!」
式護(B):「それ以上の関係に進展することはあるのでしょうか!」
式護(C):「尊いッ!」
苅安:「……えっと」
紫:「ごめんなさい……騒がしくて」
苅安:「いや、いいんだ……それ2回目だからね」
式護:「式護スリー、静粛に!!」
苅安:「紫、どうしても聞かなきゃいけないことがあるんだ……いい?」
紫:「……ええ」
苅安:「紫は今、何を」
紫:(遮るように)「……私、学校というものに高校の3年間以外は行くつもり無かったの」
苅安:「…………え?」
紫:「俗世と関わるつもりは、もう無い」
苅安:「俗世……。ってことは、社会から離れて生活する?自給自足的な?」
紫:「私はこの家で、式護たちとずっと暮らすの」
苅安:「じゃあ!」
式護:「ほよよ?」
苅安:「じゃあさ!時々でも良いから!遊びに来ちゃダメかな?」
紫:「…………」
苅安:「僕は、紫に会いたいんだ。これからも……ずっと……」
式護:「……ッは!」
式護(A):「ズッキュン」
式護(B):「バッキュン」
式護(C):「ドッキュン」
式護:(M)苅安くんのその発言に、私たちは懐かしさという名の既視感がありました。
紫:「……わかったわ。私も苅安くんと一緒にいると安心する」
苅安:「……よっしゃあ!!」
式護:(M)相思相愛じゃん!はよ、嫁げ!
紫:「ただし。必ず林の入り口で、式護に案内してもらってくれるかしら」
苅安:「うん」
紫:「庭で遭難されたら困る」
苅安:(M)やっぱり、ここら一帯の林って紫の土地なんだ……やば。
苅安:「じゃあ、改めて。式護さんたちも、よろしくお願いします……?」
式護:「ジャーンケン」
式護(A):「ポン」
式護(B):「あーいこで」
式護(C):「ポン」
式護:「ポン!ポン!ポン!」
紫:「誰が苅安くんの案内をするかで、早々とじゃんけんしないの!」
苅安:「屋敷での紫って、いつもの雰囲気より柔らかいね」
紫:「私、冷たかった?」
苅安:「そういう意味じゃ無いんだけど。僕にも紫がもっと気を抜いて話せる存在になりたいなと思ったよ」
紫:(少し優しく)「…………何それ」
式護:「苅安くん、今日は泊まって行きなよ~」
苅安:「え」
式護:「部屋なら沢山あるしね」
紫:「苅安くんなら大丈夫よ」
苅安(M):「僕なら……」
苅安:「林でめちゃ歩いて疲れたし……、お願いしてもいい?」
紫:(少し意外そうに肯定の意味で)「……ええ」
【戸張のスマホが鳴る】
戸張:「お!苅安、紫と無事に会えたってさ!」
凪:「んで?」
戸張:「へ?」
凪:「そ・れ・だ・け?」
戸張:「今日は泊まるってさ」
凪:「…………ん?」
戸張:「だから俺たちは、先に」
凪:「泊まり……」
戸張:「凪?」
凪:「苅安、不純だよ!!!!」
戸張:「!!」
凪:「久しぶりの再会に、火照ったカラダを重ねるのか!!一夜のあやま……!」
戸張:「凪!落ち着け!」
凪:「落ち着いてられるかーーッ!今から、紫ちゃんの家にカチコミじゃー!」
戸張:「店の中だから!凪ァ!ステイ!!ステイ!!!」
凪:「戸張ッ!止めないで!今からでもッ!」
戸張:「ほら!水だ!深呼吸!!」
凪:(深呼吸)スーーッ!ハァーー!
(少しの間)
凪:「やっぱ許せるかー!苅安ぅ!無知な紫ちゃんの柔肌を貪らせるかー!」
戸張:「マジでステイ!周りのお客さん見てるから!!」
(少しの間)
凪:「マカロン……おいちい」
戸張:「……そ…そうすか」
戸張:「苅安にそんな度胸ねーよ!それに使用人だっているんだろ?」
凪:「うむむむ~~!」
【バス停までの道】
戸張:「バスの本数も多くないから、ほら帰るぞ」
凪:「あーあ、夕日が眩しい……ほぼ沈みそうだけど」
戸張:「何だそれ」
凪:(N)カチカチと音を鳴らして、道路沿いの街燈が点き始める。
(少しの間)
戸張:「紫……か」
凪:「私も早く会いたいなー」
戸張:「紫……」
凪:「戸張……?」
戸張:「繭島……紫」
凪:「戸張……?」
凪:「戸張!?どうしたの!?」
凪:「戸張?……きゃあ!」
凪:(M)戸張が私を抱きしめた!?
凪:(M)強く…。強く。強く…。
凪:(M)戸張の大きなカラダが私を包み込む。
凪:(M)息がくすぐったいよ。
凪:「急に、戸張ッ……。ダメだよぉ……こんなぁ……」
凪:(M)強く…。強く抱きしめられる。
凪:(M)強ぃ……。痛い……。くる…し…ぃ。苦しいょお。
凪:「……ぇ。と……ばり……(息が抜ける)」
戸張:「ムシ……」
戸張:「蟲……の」
戸張:「蟲ノ……」
戸張:「蟲ノ姫…………。そうか」
戸張(妖虫):「この娘、生気を吸い、犯し、喰らっても良いが。時代は変わった。蟲ノ姫を誘き出す擬似餌にしようか」
【同刻 式護たちは感じとった】
式護:「…………ッ!?」
式護(A):「……またです」
式護(B):「外で魔による、揺らぎを感じました……」
式護(C):「……少し、出かけて来ますわ」
【菫の間】
苅安:「あんまり、旅行とかしたこと無いけど……旅館みたいだ」
紫:「そうなのかしら」
苅安:「凪だったら、ずっと騒ぎまわってそうだよな」
紫:「……そうね」
苅安:「ご飯、めっちゃ美味しい!」
紫:「式護にも伝えるわ。とても喜ぶと思う」
苅安:「…………」
紫:「…………」
苅安:(N)畳と襖に囲まれた部屋で見る紫は、教室で話していた彼女とは全くの別人に感じた。
苅安:(N)1枚の完成された絵のように。この広い日本家屋のどこにいても、紫はとても馴染んでいた。
苅安:(N)この場において、自分は浮いている。
苅安:「着物でも着たら、僕も……」
紫:「似合うと思う」
苅安:「え?」
紫:「苅安くん、着物似合うと思うわ」
苅安:「そうかな?」
式護(A):「男性用の着物もあるのですよ!!!」
苅安:「うおッ!」
紫:「式護……?」
式護(A):「さあさあ!さあさあさあ!!」
苅安:「え!?別室に誘われる!」
式護(A):「脱いじゃいましょ!さあさあ!」
苅安:「自分で脱げるんで!」
苅安:(M)僕も……君の隣が似合う男になれるのかな。
(少しの間)
式護:(小声)「紫様、紫様……」
紫:「どうかしたの?」
式護:「今晩は、絶対に苅安くんを屋外に出さないでください。危険です」
紫:「外にナニかいた?」
式護:「結界の外ではありますが、厄介な妖がいるかもしれませんので」
紫:「……そう」
式護:「現在、私が様子を確認しています」
紫:「わかった。無理はしないでね」
式護:「はぃ」
(少しの間)
苅安:「どうかな?」
式護(A):「とーーっても素敵だと思いますぅ!」
紫:「サイズも合ってるし、大人っぽくてカッコイイわ」
苅安:「そ…そうかな?こんな立派な着物初めて着たよ」
式護(A):「他にもあるので、別のも試着しましょう!!」
苅安:「それは次の機会で……」
紫:「そうね。苅安くん、今日はゆっくり休んだ方がいいわ」
(少しの間)
式護:「苅安くん、お風呂はどうでしたか?」
苅安:「すごく良かったです!」
式護:「お布団も敷いておきましたので」
苅安:「何から何まで、ありがとうございます!」
式護:「私たちの役目なので」
苅安:「紫をずっと支えてるんですね。1年足らずの僕なんか……」
式護:「紫様は」
苅安:「……」
式護:「紫様は、高校3年生の春から登校中の表情が明るくなりました」
苅安:「…………」
式護:「江ノ様が真剣に紫様を想ってくださっているのなら、私達は応援しますよ」
式護(A):「苅安くん、ファイトー!」
式護(B):「紫様に素敵な思い出を、これからも作ってあげてください」
紫:「式護、苅安くんに変なこと言ってないでしょうね?」
式護(A):「ワタチ、子供だから、変な事ってナーニ」
式護(B):「ワタチも、おかっぱドージョだからワカラニャイ」
苅安:「おかっぱ童女って言ってすいませんでした……」
苅安:「……紫、僕ってここで寝るの?隣の部屋の布団って紫のだよな?」
式護:「障子1枚で隣の部屋じゃないと、起きた時に迷子になられても困ります」
紫:「…………」
苅安:(M)さすがに、紫だって怒るんじゃ……。
紫:「…………確かに。迷子になっちゃうかも……」
苅安:「そこ納得するんだ……」
(少しの間)
苅安:(M)「寝られない!寝られるわけがない!!薄い障子の向こうに紫が……寝てるんだぞ!」
苅安:(M)「お風呂上がりの紫、可愛かったな……。寝れない!!」
苅安:(M)「ペラッペラのうッッッすい障子の……ッ!!寝れない!!!」
苅安:(M)「障子が開いた?あ、廊下側の方か。紫と式護さんが話してる……」
【障子の向こう】
式護(C):「紫様、苅安くんに先ほど見せてもらったんですが、写真に映っていた女の子がバス停近くで襲われていました」
紫:「え……凪ちゃん?」
式護(C):「低位の雑魚妖怪と思われたので偵察していたら。……隣にいた少年が憑かれていました」
紫:「式護は1人残して、3人私と一緒に来て」
式護:「承知しました」
苅安:(M)「どういう事だよッ!凪が襲われた?雑魚妖怪?」
苅安:(N)紫と3人の式護さんが出て行った。
【勢いよく障子を開ける】
苅安:「式護さんッ!取り憑かれていた少年って……コイツじゃないですか?」
式護(C):「あわわ!苅安くん!起きていたんですか!顔までは見えていなくて……!!」
苅安:「式護さんッ!!」
式護(C):「…………そのブレスレット、腕にありました」
苅安:「…………大事な大会の前に僕が贈ったモノなんです」
式護(C):「……!」
苅安:「間違いないんですか?」
式護(C):「……はい」
苅安:「取り憑かれてるって……何だよ……。凪を襲う?意味が分からない!」
式護(C):「……」
苅安:「行ってきます」
式護(C):「ダメです」
苅安:「行かせてください!ちゃんと確かめないと!」
式護(C):「苅安くんが行ったところで、どうしようもないですよね?」
苅安:「妖の存在なんて信じられないですけど、親友が危ないのに……」
式護(C):「私は苅安くんを外に一歩たりとも出すわけにはいきませんッ!!」
苅安:「紫の指示だからですか?」
式護(C):「それもあります」
苅安:「それだけじゃないんですか?」
式護(C):「苅安くん。……いいえ、江ノ苅安様」
苅安:「…………」
式護(C):「貴方がヒトだからです」
苅安:「…………ッ!」
式護(C):「気づいていたんですよね?紫様や私たちが、苅安くんやお友達さんとは違う存在だって」
(間)
【工場跡地】
凪:(意識を失い浅くなる呼吸)「…………」
戸張(妖虫):「蟲ノ姫。退治令も我関せずと生き残り、最優の呪い師の消息を絶たせた……」
戸張(妖虫):「蟲を冠する妖の姫!!」
戸張(妖虫):「私……いや、俺が。お前を滅ぼし、この時代の蟲ノ王となる」
戸張(妖虫):「あははははははははは」
戸張(妖虫):「ヒトの娘1人で、お前を滅ぼし喰らい。その美しい顔を歪めさせられる」
戸張(妖虫):「ああ、最高だな」
戸張(妖虫):「この娘、お前の眼前で腑を引き摺り出して、液という液を啜ってしまおうか」
【工場跡地の大きく廃れた天井に影が覆った】
戸張(妖虫):「…………!!」
紫:「………………」
戸張(妖虫):「姿を現したか蟲ノ姫!!」
(間)
【林中】
苅安:「紫が人間じゃないことは知っていました。それでも、僕にとって紫は大事な存在だから」
式護(C):「それでも行っちゃダメです!」
式護(C):「今向かおうとしている先は、貴方達にとっての神秘であり、ヒトである苅安くんが踏み入れても良い領域を超えてしまう。一度でも超えてしまったら、後戻りは出来ない。紫様は望んでいません」
苅安:「式護さんは妖なんですか?」
式護(C):「いいえ。私たちは式神と蟲の『混ざり物』」
苅安:「…………」
式護(C):「そして……紫様を独りにしないために生み出された家族です」
苅安:「……家族。大事な……家族」
式護(C):「だから!引き返してください!!」
苅安:「僕だけが1人安全な場所にいるわけにはいかないじゃないですか!」
式護(C):「苅安くんが行って何になるんですか!」
苅安:「もしかしたら、僕の呼びかけなら取り憑かれた戸張が元に戻るかもしれない」
式護(C):「危険です!」
苅安:「紫だって危険だ!」
(少しの間)
式護(C):(M)苅安くん。妖は……そんなに優しくないですよ。
(間)
【工場跡地】
紫:「…………」
戸張(妖虫):「来たか!来るよなああ!」
紫:(M)少しでも早く、凪ちゃんを助けないと。
戸張(妖虫):「どんな美辞麗句で表することもできない美しさ。やはり!やはりやはり!蟲ノ姫!!」
戸張(妖虫):「女を喰わずにいて正解だった!これから蟲ノ姫の髄を啜れるのだから」
戸張(妖虫):「……ん?ナンダ……?」
紫:(N)私の姿を凝視した瞬間、妖虫の表情が激昂へと豹変した。
戸張(妖虫):「蟲ノ姫……じゃない?混ざっている……不純物が混ざっている!!」
紫:「…………」
戸張(妖虫):「俺を愚弄するのか!!……蟲ノ姫!!」
紫:「低位の雑魚妖怪。……妖虫。なるほどね。ちょっと、五月蝿いわ」
戸張(妖虫):「五月蝿い……?」
戸張(妖虫):「俺を蝿如きと形容するか!混血!」
紫:「ヒトに憑かないとチカラを誇示することもできないのでしょ?」
紫:「そのうえ人質だなんてね」
戸張(妖虫):「混血風情が妖を語るな……!」
紫:「もういいわ。私も友達を傷つけられて、腹が立っているの。さっさと終わらせましょうか」
戸張(妖虫):「…………ッ!!!!」
紫:「もう遅いわ。既に結界の中よ」
式護:「紫様、配置に着きました」
式護(A):「陽」
式護(B):「陰」
式護:「土」
紫:「万象結界━━━━森羅」
戸張(妖虫):「ぐあああああああ」
紫:「妖虫……、狡猾だったわ」
式護(B):「…………きゃあ!!」
式護(B):(M)「牙の生えた虫!?妖虫の……操虫!!結界が……!」
【操虫は式護の腕を斬り、泥となって消失した】
戸張(妖虫):「忌々しい結界は消えた!!」
戸張(妖虫):「…………擬似餌でも」
紫:「…………!?」
戸張(妖虫):「さっさと喰ってしまえば!!」
凪:「…………ぅ」
紫:「凪ちゃんッ!!」
戸張(妖虫):「ニンゲンの娘は、どんな味だったかなァ!!!!」
紫:「!!」
(間)
【林中】
式護(C):(呟くように)「結界が……破壊された」
(少しの間)
苅安:「日本刀?」
苅安:(N)木の幹に1本の刀が刺さっていた。
苅安:「ムラマサ贋作?」
苅安:(N)刀に触れた瞬間に声が聞こえた。
苅安:(N)聞こえた気がした。
(間)
『━━━━娘を、頼む』
(間)
苅安:「声が……聞こえた」
苅安:「とても温かい。男性の声……」
式護(C):「…………苅安くん?」
(間)
戸張(妖虫):「妖が!蟲ノ姫が!!……たった1人の小娘を護るために、その翅を広げたか!!」
戸張(妖虫):「ムラサキ色ォ!!美しい!!混ざっていても、蟲ノ姫か!欲しい!!その妖力を!啜り犯したい!」
紫:「間に合ったよ……凪ちゃん」
凪:(N)目を開くと━━優しい笑顔で私を見つめる紫ちゃんがいた。
【凪、再び意識を失う】
凪:「久しぶり。会いたかったよ…………」
(少しの間)
式護:「紫様!……紫様!!」
式護:(M)お友達を庇って……背中から妖虫の斬撃を!!
戸張(妖虫):「あはははは!混血も赤い血が流れているか」
紫:「鬱陶しいわ」
戸張(妖虫)「ぐふッ!!」
式護:(N)紫様が妖虫の体を遠くの壁まで蹴り飛ばしました!
紫:(M)「背中を斬られたせいで、カラダに力がうまく入らない……」
戸張(妖虫):「蟲ノ姫も呆気ない!」
(間)
戸張(妖虫):「トドメを刺させてもらおうか」
紫:「…………苅安……くん」
(少年の視界が反転した)
苅安:「…………紫!!」
紫:「…………苅安くん!?」
苅安:「そのハネ?似合ってるな」
紫:「どうして苅安くんが……」
戸張(妖虫):「何もない空間から……ニンゲンのガキ?」
苅安:「あの気持ち悪いのが戸張か?」
紫:「…………ぐッ」
苅安:「紫、血が!」
式護(A):「苅安くん、紫様はお友達を守って……」
苅安:「紫は無理しないで!」
苅安:「おい!戸張!聞こえてるか!」
戸張(妖虫):「……」
苅安:「無理か……」
苅安:(M)人間なんて眼中にないってか。
苅安:(M):でも……それでいい。
苅安:「戸張、すぐ助ける。僕らの中で1番友人想いなのに、こんなの嫌だよな」
苅安:(M)一瞬でいい。僕が人間であるからこそ生まれる隙。
戸張(妖虫):「耳障りだガキ」
【虫でも払うように、近づいてきた苅安に対して妖虫が片手を振り下ろした】
紫:「苅安くん……!!」
苅安:「…………ッ!!」
戸張(妖虫):「ぐはッ!」
紫(N):苅安くんと妖虫の間に閃光が煌めいた。
苅安:「クッソ!相打ちかよ……カハッ。……血なんて、初めて吐いた。どうして素手なのに、僕の腹が少し抉れてるんだよ」
紫:「苅安くん!!!!」
戸張(妖虫):「見誤った!見誤ったぞ!!ガキなんぞに!!」
戸張:『ガキじゃねえよ。苅安……俺の親友だ』
紫:「苅安くんの振った刀は……ほんの数センチしか妖虫を斬っていなかった……それでも致命傷になった?」
戸張(妖虫):「肩が……アツイ!腕がわずかに前に出なかった……」
戸張(妖虫):「まだだ!!!今すぐにでも、擬似餌の娘の足1本でも!!」
戸張(妖虫):「どこだ!どこにいる!!」
式護(B):「擬似餌じゃないです!凪ちゃんです!もう安全な場所に運びました!」
戸張(妖虫):「小癪な!」
紫:「よくも!私の友達に!そんなに妖力が欲しいなら、くれてやるわ!!」
苅安:(M)……紫が……僕の斬った傷口に刀を突き刺した?
紫:「妖力暴発!!」
戸張(妖虫):「ぐあああああああああああ」
苅安:「戸張が!!紫、やめろ!!それ以上したら戸張が!!!」
戸張(妖虫):「流れてくる!!尋常ない妖力が!!!溢れるッ!!」
苅安:「戸張ぃい!」
式護:「苅安くん、大丈夫です」
苅安:「……え?」
【妖虫は内側から妖力が溢れ出していく】
戸張(妖虫):「これ以上はッ!!」
戸張(妖虫):「俺が!!俺だけが!俺の存在だけが|消滅する!!おのれ!蟲ノ姫えぇ!謀ったなッ!」
【妖虫、消滅】
(間)
苅安:「戸張!!」
戸張:「ごほッごほッ!苅安…………ごめんな」
苅安:「何言ってんだよ!戸張は何も悪くないだろ!」
【戸張、ゆっくり意識を失う】
戸張:「……お前の声。聞こえたから…………かりや……す」
【苅安も意識を失う】
苅安:「と……ばり……良かった」
(少しの間)
紫:「式護。戸張くんと凪ちゃんは病院へ。苅安くんは屋敷に運んで」
式護:(可愛く)「イエッサーー!」
(間)
【桔梗の間】
苅安:(目を覚ます)「……ぐッ。」
紫:「おはよう、苅安くん」
苅安:「刀に触れて、気がついたら紫の前にいたんだ」
紫:「式護の静止を振り切って外に出たのは反省してね」
苅安:「……あ、その……すいません」
紫:「でも、ありがとう」
苅安:「……!」
紫:「苅安くんが妖虫に刀で傷つけた時、妖虫の妖力が傷に集中したから」
式護(A):「妖虫は傷口を塞ぐために、妖力のパスを集中させたのですよ」
紫:「そこへ刀を通して妖力を過剰に注いだの」
紫:「その刀は……ムラマサ 贋作」
紫:「刀自体の持つ妖力も上乗せ出来たのは運が良かったけれどね」
苅安:「贋作じゃなくて贋作って読むんだな」
紫:(肯定)「私の父の刀よ」
苅安:「そっか。紫のお父さんの……」
苅安:(M)あの声は本当に紫のお父さんの声だったんだな。
紫:「どうしたの?」
苅安:「いや、何でもない」
(間)
【凪の家】
戸張:「うわ、既にめちゃいい匂いするじゃん」
苅安:「おじゃましまーす」
凪:「コートはそこに置いといて、天気予報ハズレて良かったね」
苅安:(M)「2人にあの夜の記憶はない……そして」
凪:「貧血で倒れるなんて、初めてだったよ~」
戸張:「俺なんて、階段落ちだぜ?時代劇かよって」
苅安:「2人とも、すぐ退院できて良かったじゃん」
凪:「3人に凪ちゃん特製手料理を振る舞っちゃうぞ!」
戸張:「3人?……3人じゃなくて、2人だろ。俺と苅安」
凪:「あ、そっか。そうだよね」
戸張:「それとも、もう彼氏でもできたのか?」
凪:「はあ?彼氏がいたら、せっかくの休日に2人なんかと会ったりしません~!」
戸張:「なんかとは何だよ!」
苅安:「まぁまぁ、凪も戸張も病み上がりなんだからさ。退院祝いも兼ねているんだ」
凪:「むむむ!」
苅安:「混ぜるの手伝うよ」
凪:「苅安『は』優しいね」
戸張:「俺だって!」
凪:「戸張は皿洗いね」
戸張:「最初は皿洗いからだよな。……俺!成り上がって見せる!目指せ……料理長!」
凪:「このお玉も洗って」
戸張:「おう!」
凪:「この皿も。フライパンも!お箸も!!ついでにコレも!」
戸張:「おう!おう!……お!……お?……って、うおおおお」
(少しの間)
凪:「もう少しでできるよ。苅安、盛り付けるの手伝って!」
苅安:「うん!」
(少しの間)
苅安:(N)2人の高校1年間の紫に関する記憶はない。
苅安:(N)紫と式護さん達の術によるもので。
苅安:「どうしても、消さないとダメだったんですか?」
式護:「凪さんは妖虫によって精神的にも身体的にも傷つきました。記憶から消さないと、彼女を一生苦しめることになるでしょう。件の記憶によって彼女の心に残った傷であり魔は、いつか大きな歪みとなります」
苅安:「戸張は……聞くまでもないか……」
紫:「戸張くんは妖という神秘に触れすぎた。妖虫に取り憑かれた事象を記憶ごと消すぐらいじゃ本来はダメなのよ。式護の浄化術を重ねがけして、やっと普通の生活を送れているのだから」
苅安:「だったら、僕の記憶も消すの?」
紫:「そうしないといけなかったのだけれど」
苅安:「え?」
紫:(小さい声で)「私が……イヤだったの」
苅安:「紫?」
紫:「私が嫌だったの。苅安くんに忘れて欲しくなかった」
苅安:「僕だって、紫のことを忘れたくない」
紫:「本当は凪ちゃんと戸張くんにも!……忘れて欲しく……なかった」
苅安:「うん」
紫:「……苅安くん」
苅安:「うん。わかってる」
紫:「…………苅安くん」
苅安:「無くならないから。僕らの過ごした1年間は消えないから」
(少しの間)
式護:「苅安くんの記憶を消さなくていいのは、ムラマサ贋作が身体に蓄積された魔を吸い取ったからなんですけどね~。苅安くんはムラマサに愛されているのかな」
紫:「……え?」
式護(A):「あ」
式護(B):「言っちゃった」
紫:「そんな大事なこと、今聞いたんだけど?」
式護(C):「紫様が想いをしっかり伝えてから……お伝えしようかなって」
紫:「式護ぃーー!」
(少しの間)
【1ヶ月後】
式護:「友達とは仲良く!素敵なことです!」
式護(A):「友達以上の関係に見えますけどね!」
式護(B):「それってもしかして……」
式護(C):「もしかしなくても」
式護:「恋人!!」
苅安:「ちょっと静かにしてくれます?」
式護:「いいじゃないですか!」
苅安:(M)「僕は今日もモンブランの土産を片手に、彼女の家を訪ねるのだ」
(少しの間)
紫:「いらっしゃい、苅安くん」
おわり
苅安:(N)彼女は繭島紫。
苅安:(M)華に舞い降りる━━蝶に似ている。
苅安:(N)私服登校で、着物を着た彼女に対して僕が抱いた最初の感情だった。
(間)
紫:「何かしら」
苅安:「素敵な着物……ですね?」
紫:「 …………」
戸張:「どーして疑問形なんだよ!……あ、どーも!コイツのダチやってます。戸張浩司っス」
苅安:「江ノ……苅安です。残り1年ですけど、よろしく」
紫:「そう」
(間)
凪:「もぉ!二人とも、紫ちゃん困ってるじゃないッ!」
紫:「紫ちゃん……?」
凪:「紫ちゃん、私、青山 凪!体育の授業で何回か一緒になったよね!!」
紫:「…………誰?」
凪:「えええええ!……まぁ、いいや!」
苅安:「……切り替えた」
戸張:「切り替えたな」
凪:「もしかして、紫ちゃんって茶道部だったりするの?」
戸張:「いや、無限坂に茶道部ねーじゃんかァ」
凪:「え?そうだっけ!」
凪:「戸張に聞いてないし!」
戸張:「紫と先に話してたの、俺たちだぞ!」
苅安:「……紫」
紫:「苅安くん、別に紫でいいわ。名前なんかにさして価値なんて無いのだから」
苅安:「…………」
苅安:(N)吸い込まれるような青空の下、僕らは出会ったんだ。
(間)
苅安:(N)僕たち4人はそれなりに、卒業までの1年間を毎日一緒に過ごしていた。
苅安:(N)たわい無い話をしたり。休みの日に遊んだり。
苅安:(N)隣に居て当たり前だった彼女。
苅安:「…………紫」
苅安:(N)高校卒業後、紫は忽然と姿を消した。
(間)
【某大学内にて】
戸張:「でもよー、俺や凪なら兎も角だ。苅安まで紫の居場所を知らないなんて、そんなことあるかよ」
苅安:「知らないものは知らないよ」
【ビデオ通話にて凪が話す】
凪:「紫ちゃんに会いたい!」
凪:「ねぇ、苅安!一度くらい紫ちゃんの住所、見聞きする機会とかなかったの?」
苅安:「うぅーーーーん」
凪:「無いよねぇ。電子の海を漂って生きてるような、SNSでしか繋がりのない現代っ子だもんね~」
苅安:「あ」
戸張:「お?」
苅安:「もしかしたら……分かるかも」
凪:「嘘ぉおお!」
戸張:「俺らは3限までだから、凪の専門近くの駅まで行けるぞ」
凪:「じゃあ、4時に駅前近くの『ペルノン』に集合ね!」
【『喫茶 ペルノン』角席】
凪:「じゃあ、聞かせてもらおうじゃない(ふんす)」
戸張:「どうして凪が斜に構えてるんだよ」
凪:「だって!私が知らないのに!」
凪:(かわいい声で)「あ。私、ココアラテ1つ」
戸張:「まぁ、落ち着けって」
戸張:(イケボで)「俺はコーラでお願いします」
苅安:「そんな意味深な理由なんて無い!」
苅安:「あ、アイスコーヒーを……」
苅安:「紫が通販でしか手に入らないスイーツがどうしても欲しいって言うから、代わりに注文したんだ」
凪:「紫ちゃんって、ネットとかに疎かったもんね……」
凪:「タイムスリップして江戸時代からやって来ましたって、言われても納得しちゃいそう」
戸張:「それで?」
苅安:「家の前……庭?……林?の入り口まで、持って行ったんだよ」
【回想】
式護:「江ノ様ですね。わざわざ、お手数おかけしました」
苅安:(M)「おかっぱ童女ッ!!」
式護:「どうかいたしましたか?」
苅安:「紫……繭島さんとは、どのような関係で?」
式護:「繭島……ああ、私は紫様の使用人ですよ」
苅安:「あ、そうなんですねぇ」
式護:「江ノ様は、紫様のご友人!なんですか?」
苅安:「ご友人を……ヤラセテイタダイテマス」
式護:「まだ男女の仲ではないのでしょうか?」
苅安:「まッ!まだ……!!いえ!とても健全な友人の1人を!」
式護:「番いでは無いのですね」
苅安:「ツガーイ……?」
(少しの間)
式護:「もう宜しいでしょうか」
苅安:「はい!すいません。お忙しそうなのに……」
式護:「こちらこそ。お茶の一杯も出せずに……」
【回想終了】
凪:「家に使用人って、どんだけお嬢様なの……紫ちゃん」
戸張:「使用人って本当に存在するんだな」
戸張:「凪も紫と家の話とかしたことは無かったのな」
凪:「戸張、言い方が意地悪……感じ悪いよ!」
戸張:「へいへい」
戸張:「突然、3人で押し掛けるのも迷惑なんじゃねーの?」
苅安:「まぁ、確かに。訪問者とか多そう……」
戸張:「苅安。1人で行って来いよ」
凪:「うーーん。じゃあ、私達の分までしっかり想いを伝えて来てね……。本当は私も行きたいけど」
苅安:「分かった。そうするよ。明日にでも訪ねてみる」
凪:「私も行きたいけどッ!!」
(間)
(次の日)
戸張:(凪っぽく)「じゃあ、私達の分までしっかり想いを伝えて来てね…………」
戸張:「で、どうして俺と苅安のことを尾行してるんだよッ!!」
凪:「戸張ッ!うるさい!声でかい!距離近い!」
戸張:(小声)「お前が『一緒に来い』って、深夜3時に電話かけてきたんだろが」
凪:「レディーにお前って言ったら、印象悪いよ。あと顔がウザい」
戸張:「レディーって誰のこと言ってるんだ?」
凪:「…………」
戸張:「……ハァ」
凪:「だってぇえ、紫ちゃんに会いたいんだもん!」
戸張:「その為にも、苅安1人に行かせるってことになったろ」
凪:「私だって……、紫ちゃんと……仲良しさんだもん」
戸張:「苅安と紫の間には2人だけの世界ッつーか、空間みたいのがあったじゃん」
凪:「……うん」
戸張:「俺も凪でも……入れねー空間」
(少しの間)
戸張:「……イテ!」
凪:「どうしたの?」
戸張:「蚊かな?虫に刺されたっぽい」
凪:「ここら辺、虫多そうだもんね」
戸張:「虫にも、女にもモテるのかな……俺ってば」
凪:「…………感じ悪~~い」
戸張:「事実だろ」
凪:「私の友達からの告白を秒で断って、めちゃ教室の空気悪くなったの忘れてないからね」
戸張:「しゃーなしだろ」
戸張:「好きでもない女の告白、オーケーしたってなぁ」
凪:「はいはい。モテ男モテ男」
(少しの間)
凪:「苅安、大丈夫かなぁ」
戸張:「……がんばれよ」
凪:「本人に直接、伝えてあげたらイイのに」
戸張:「アイツなら、言葉にしなくても分かってるさ」
凪:「男の友情、おアツいことで!」
戸張:「苅安には何かあったら、すぐに連絡をよこすように言ってるからさ。近くの喫茶店にでも行って、時間潰そうや」
戸張:(M)「連絡が来ないのが、一番なんだけどさ」
凪:「戸張の奢りね」
戸張:「は?」
凪:「戸張の、奢りね!」
戸張:「今度代わりに、手料理くらい振るまえよ。調理系の専門だろ」
凪:「振る舞うのは戸張にじゃなくて、3人に!」
(間)
苅安:「本当に林の中に、家なんかあるのか?」
苅安:「木が密集して歩きずらい。……先が見えない。少し暗い。すでに距離感が、バグってんだよ」
苅安:「ヤバい。疲れてきた。足が痛い。このままじゃ、紫に会う前に……」
式護:「…………今、紫と言いましたか?」
苅安:「うわッ!おかっぱ童女!!」
式護:「おかっぱ……童女」
苅安:「すいませんッ!」
苅安:(M)「しまったーー!つい口に出してしまった!印象が!僕に対する印象が悪くなる!」
式護:「こんなところで、何をしているんですか?」
苅安:「繭島…………。紫さんにお会いしたくて」
式護:(目を細めて)「貴方は……モンブランの人!!」
苅安:「……モンブラン?」
式護:「失礼しました。紫様に会いに来てくださったのですね」
苅安:「難しいですかね?」
式護:「少々、お待ちください」
苅安:(M)急に目を閉じたな……。人形みたいな子だ。
苅安:「…………」
式護:(小声)「…………モンブランの恩義……大きい……ごにょごにょ」
式護:「江ノ様。お友達だったにも関わらず、紫様が連絡もなしに疎遠になったのでしょうか?」
苅安:「まぁ……はい。紫さんにそこまで非は無いと思うんですけど」
式護:「承知しました。お屋敷にご案内しますので、私のすぐ背後から離れずに着いて来てくださいね」
苅安:「まだお若いのに、しっかりしてますね」
式護:「若い……。ええ、紫様が幼い頃から仕えていますので」
苅安:(M)「ジョーク??」
式護:「到着しましたよ」
苅安:「……!」
式護:「どうかなさいましたか?」
苅安:「広いですね」
式護:「紫様のお母様の所有物でした」
苅安:「そっ、そうなんですね」
苅安:(M)お母さんが、お金持ちだったのかな。
苅安:「想像以上のお嬢様だって、凪ならデカい声上げそう……」
式護:「江ノ様以外にもご友人がいるのですね」
苅安:「……いますよ。はい。…………います」
式護:「……紫様ーー!」
苅安:「……!!」
紫:「式護ィ、大きな声なんて出してどうし……た…………のッ!!」
苅安:「紫、久しぶり」
紫:「苅安くん!!」
紫:「着替えてくるから、式護は挨拶しておいて」
苅安:(小声)「部屋着の動きやすそうな着物も似合ってるな……」
式護:「ご友人の来訪です」
式護(A):「ご友人!?」
式護(B):「ご友人ですか!!」
式護(C):「紫様のお友達ですってええ!」
式護:「全員静かに!!」
式護(A):「はぁーーい」
式護(B):「はい」
式護(C):「はいですわ」
苅安:「同じ顔ッ!!!!」
(少しの間)
式護:「改めまして、式護と申します」
式護(A):「お茶でーーす」
式護(B):「ティーです」
式護(C):「粗茶です」
式護(A):「全部、お茶でしょ!」
式護(B):「モンブランもあるんだよ~」
式護(C):「苅安くんがモンブランを届けて来てくれてから、皆んなモンブランにハマっちゃて~~!」
式護:「江ノ様は、紫様に用事でいらっしゃたのですよ!」
式護:(セルフSE)「サササササーーーッ!バタン!!!」
式護(C):「扉を閉めるので!扉を閉めましたので、お二人で仲睦まじくぅ~~!」
(少しの間)
紫:「ごめんなさい。騒がしくて」
苅安:「四つ子って、初めて見たよ」
紫:「大事な家族なの」
苅安:「うん。式護さん達、紫のことを大切に思ってるカンジだ」
紫:「苅安くん……」
苅安:「紫……?」
紫:「怒っていないの?」
苅安:「怒る?」
紫:「何も言わずに、あなた達の前から居なくなったから」
苅安:「いなくなった……」
紫:「……」
苅安:「凪も戸張も、怒ってない……」
紫:「……え?」
苅安:「でも少し寂しそうだった。二人とも紫に会いたがってるから」
紫:「そう」
苅安:「紫。何か思う事があるんだったら、僕でよければ……」
式護:「紫様ッ!」
紫:「式護。何かあったの?」
式護:「…………ッ!」
紫:「…………式護?」
式護:「いえ……。ごめんなさい。勘違いだったみたいです……(しょんぼり)」
紫:「……?」
苅安:「……式護さん達も、ご一緒にどうですか?」
式護(A):「いいんですか~!」
式護(B):「お茶菓子、追加で持って来ますね!」
式護(C):「四方山話~~!」
式護:「騒がしくて、すいません」
苅安:「いえ、紫が……紫さんが」
紫:「別に言い直さなくてもいいわ」
式護(C):「きゃ~~!呼び捨てぇ!キュンですわ!」
紫:「うるさい」
式護:「お友達とは仲良くするようにと、お母上の遺言にあります!」
式護(A):「それなのに、紫様はぜーんぜんお友達呼ばないんですよぉ!苅安くんッ!楽しみにしてたのにッ!」
紫:「苅安くん!?」
苅安:「距離の詰め方が凄い……。楽しみにしてたんですね……」
式護(A):「紫様とは高校でお友達になったんですよねッ!」
式護(B):「それ以上の関係に進展することはあるのでしょうか!」
式護(C):「尊いッ!」
苅安:「……えっと」
紫:「ごめんなさい……騒がしくて」
苅安:「いや、いいんだ……それ2回目だからね」
式護:「式護スリー、静粛に!!」
苅安:「紫、どうしても聞かなきゃいけないことがあるんだ……いい?」
紫:「……ええ」
苅安:「紫は今、何を」
紫:(遮るように)「……私、学校というものに高校の3年間以外は行くつもり無かったの」
苅安:「…………え?」
紫:「俗世と関わるつもりは、もう無い」
苅安:「俗世……。ってことは、社会から離れて生活する?自給自足的な?」
紫:「私はこの家で、式護たちとずっと暮らすの」
苅安:「じゃあ!」
式護:「ほよよ?」
苅安:「じゃあさ!時々でも良いから!遊びに来ちゃダメかな?」
紫:「…………」
苅安:「僕は、紫に会いたいんだ。これからも……ずっと……」
式護:「……ッは!」
式護(A):「ズッキュン」
式護(B):「バッキュン」
式護(C):「ドッキュン」
式護:(M)苅安くんのその発言に、私たちは懐かしさという名の既視感がありました。
紫:「……わかったわ。私も苅安くんと一緒にいると安心する」
苅安:「……よっしゃあ!!」
式護:(M)相思相愛じゃん!はよ、嫁げ!
紫:「ただし。必ず林の入り口で、式護に案内してもらってくれるかしら」
苅安:「うん」
紫:「庭で遭難されたら困る」
苅安:(M)やっぱり、ここら一帯の林って紫の土地なんだ……やば。
苅安:「じゃあ、改めて。式護さんたちも、よろしくお願いします……?」
式護:「ジャーンケン」
式護(A):「ポン」
式護(B):「あーいこで」
式護(C):「ポン」
式護:「ポン!ポン!ポン!」
紫:「誰が苅安くんの案内をするかで、早々とじゃんけんしないの!」
苅安:「屋敷での紫って、いつもの雰囲気より柔らかいね」
紫:「私、冷たかった?」
苅安:「そういう意味じゃ無いんだけど。僕にも紫がもっと気を抜いて話せる存在になりたいなと思ったよ」
紫:(少し優しく)「…………何それ」
式護:「苅安くん、今日は泊まって行きなよ~」
苅安:「え」
式護:「部屋なら沢山あるしね」
紫:「苅安くんなら大丈夫よ」
苅安(M):「僕なら……」
苅安:「林でめちゃ歩いて疲れたし……、お願いしてもいい?」
紫:(少し意外そうに肯定の意味で)「……ええ」
【戸張のスマホが鳴る】
戸張:「お!苅安、紫と無事に会えたってさ!」
凪:「んで?」
戸張:「へ?」
凪:「そ・れ・だ・け?」
戸張:「今日は泊まるってさ」
凪:「…………ん?」
戸張:「だから俺たちは、先に」
凪:「泊まり……」
戸張:「凪?」
凪:「苅安、不純だよ!!!!」
戸張:「!!」
凪:「久しぶりの再会に、火照ったカラダを重ねるのか!!一夜のあやま……!」
戸張:「凪!落ち着け!」
凪:「落ち着いてられるかーーッ!今から、紫ちゃんの家にカチコミじゃー!」
戸張:「店の中だから!凪ァ!ステイ!!ステイ!!!」
凪:「戸張ッ!止めないで!今からでもッ!」
戸張:「ほら!水だ!深呼吸!!」
凪:(深呼吸)スーーッ!ハァーー!
(少しの間)
凪:「やっぱ許せるかー!苅安ぅ!無知な紫ちゃんの柔肌を貪らせるかー!」
戸張:「マジでステイ!周りのお客さん見てるから!!」
(少しの間)
凪:「マカロン……おいちい」
戸張:「……そ…そうすか」
戸張:「苅安にそんな度胸ねーよ!それに使用人だっているんだろ?」
凪:「うむむむ~~!」
【バス停までの道】
戸張:「バスの本数も多くないから、ほら帰るぞ」
凪:「あーあ、夕日が眩しい……ほぼ沈みそうだけど」
戸張:「何だそれ」
凪:(N)カチカチと音を鳴らして、道路沿いの街燈が点き始める。
(少しの間)
戸張:「紫……か」
凪:「私も早く会いたいなー」
戸張:「紫……」
凪:「戸張……?」
戸張:「繭島……紫」
凪:「戸張……?」
凪:「戸張!?どうしたの!?」
凪:「戸張?……きゃあ!」
凪:(M)戸張が私を抱きしめた!?
凪:(M)強く…。強く。強く…。
凪:(M)戸張の大きなカラダが私を包み込む。
凪:(M)息がくすぐったいよ。
凪:「急に、戸張ッ……。ダメだよぉ……こんなぁ……」
凪:(M)強く…。強く抱きしめられる。
凪:(M)強ぃ……。痛い……。くる…し…ぃ。苦しいょお。
凪:「……ぇ。と……ばり……(息が抜ける)」
戸張:「ムシ……」
戸張:「蟲……の」
戸張:「蟲ノ……」
戸張:「蟲ノ姫…………。そうか」
戸張(妖虫):「この娘、生気を吸い、犯し、喰らっても良いが。時代は変わった。蟲ノ姫を誘き出す擬似餌にしようか」
【同刻 式護たちは感じとった】
式護:「…………ッ!?」
式護(A):「……またです」
式護(B):「外で魔による、揺らぎを感じました……」
式護(C):「……少し、出かけて来ますわ」
【菫の間】
苅安:「あんまり、旅行とかしたこと無いけど……旅館みたいだ」
紫:「そうなのかしら」
苅安:「凪だったら、ずっと騒ぎまわってそうだよな」
紫:「……そうね」
苅安:「ご飯、めっちゃ美味しい!」
紫:「式護にも伝えるわ。とても喜ぶと思う」
苅安:「…………」
紫:「…………」
苅安:(N)畳と襖に囲まれた部屋で見る紫は、教室で話していた彼女とは全くの別人に感じた。
苅安:(N)1枚の完成された絵のように。この広い日本家屋のどこにいても、紫はとても馴染んでいた。
苅安:(N)この場において、自分は浮いている。
苅安:「着物でも着たら、僕も……」
紫:「似合うと思う」
苅安:「え?」
紫:「苅安くん、着物似合うと思うわ」
苅安:「そうかな?」
式護(A):「男性用の着物もあるのですよ!!!」
苅安:「うおッ!」
紫:「式護……?」
式護(A):「さあさあ!さあさあさあ!!」
苅安:「え!?別室に誘われる!」
式護(A):「脱いじゃいましょ!さあさあ!」
苅安:「自分で脱げるんで!」
苅安:(M)僕も……君の隣が似合う男になれるのかな。
(少しの間)
式護:(小声)「紫様、紫様……」
紫:「どうかしたの?」
式護:「今晩は、絶対に苅安くんを屋外に出さないでください。危険です」
紫:「外にナニかいた?」
式護:「結界の外ではありますが、厄介な妖がいるかもしれませんので」
紫:「……そう」
式護:「現在、私が様子を確認しています」
紫:「わかった。無理はしないでね」
式護:「はぃ」
(少しの間)
苅安:「どうかな?」
式護(A):「とーーっても素敵だと思いますぅ!」
紫:「サイズも合ってるし、大人っぽくてカッコイイわ」
苅安:「そ…そうかな?こんな立派な着物初めて着たよ」
式護(A):「他にもあるので、別のも試着しましょう!!」
苅安:「それは次の機会で……」
紫:「そうね。苅安くん、今日はゆっくり休んだ方がいいわ」
(少しの間)
式護:「苅安くん、お風呂はどうでしたか?」
苅安:「すごく良かったです!」
式護:「お布団も敷いておきましたので」
苅安:「何から何まで、ありがとうございます!」
式護:「私たちの役目なので」
苅安:「紫をずっと支えてるんですね。1年足らずの僕なんか……」
式護:「紫様は」
苅安:「……」
式護:「紫様は、高校3年生の春から登校中の表情が明るくなりました」
苅安:「…………」
式護:「江ノ様が真剣に紫様を想ってくださっているのなら、私達は応援しますよ」
式護(A):「苅安くん、ファイトー!」
式護(B):「紫様に素敵な思い出を、これからも作ってあげてください」
紫:「式護、苅安くんに変なこと言ってないでしょうね?」
式護(A):「ワタチ、子供だから、変な事ってナーニ」
式護(B):「ワタチも、おかっぱドージョだからワカラニャイ」
苅安:「おかっぱ童女って言ってすいませんでした……」
苅安:「……紫、僕ってここで寝るの?隣の部屋の布団って紫のだよな?」
式護:「障子1枚で隣の部屋じゃないと、起きた時に迷子になられても困ります」
紫:「…………」
苅安:(M)さすがに、紫だって怒るんじゃ……。
紫:「…………確かに。迷子になっちゃうかも……」
苅安:「そこ納得するんだ……」
(少しの間)
苅安:(M)「寝られない!寝られるわけがない!!薄い障子の向こうに紫が……寝てるんだぞ!」
苅安:(M)「お風呂上がりの紫、可愛かったな……。寝れない!!」
苅安:(M)「ペラッペラのうッッッすい障子の……ッ!!寝れない!!!」
苅安:(M)「障子が開いた?あ、廊下側の方か。紫と式護さんが話してる……」
【障子の向こう】
式護(C):「紫様、苅安くんに先ほど見せてもらったんですが、写真に映っていた女の子がバス停近くで襲われていました」
紫:「え……凪ちゃん?」
式護(C):「低位の雑魚妖怪と思われたので偵察していたら。……隣にいた少年が憑かれていました」
紫:「式護は1人残して、3人私と一緒に来て」
式護:「承知しました」
苅安:(M)「どういう事だよッ!凪が襲われた?雑魚妖怪?」
苅安:(N)紫と3人の式護さんが出て行った。
【勢いよく障子を開ける】
苅安:「式護さんッ!取り憑かれていた少年って……コイツじゃないですか?」
式護(C):「あわわ!苅安くん!起きていたんですか!顔までは見えていなくて……!!」
苅安:「式護さんッ!!」
式護(C):「…………そのブレスレット、腕にありました」
苅安:「…………大事な大会の前に僕が贈ったモノなんです」
式護(C):「……!」
苅安:「間違いないんですか?」
式護(C):「……はい」
苅安:「取り憑かれてるって……何だよ……。凪を襲う?意味が分からない!」
式護(C):「……」
苅安:「行ってきます」
式護(C):「ダメです」
苅安:「行かせてください!ちゃんと確かめないと!」
式護(C):「苅安くんが行ったところで、どうしようもないですよね?」
苅安:「妖の存在なんて信じられないですけど、親友が危ないのに……」
式護(C):「私は苅安くんを外に一歩たりとも出すわけにはいきませんッ!!」
苅安:「紫の指示だからですか?」
式護(C):「それもあります」
苅安:「それだけじゃないんですか?」
式護(C):「苅安くん。……いいえ、江ノ苅安様」
苅安:「…………」
式護(C):「貴方がヒトだからです」
苅安:「…………ッ!」
式護(C):「気づいていたんですよね?紫様や私たちが、苅安くんやお友達さんとは違う存在だって」
(間)
【工場跡地】
凪:(意識を失い浅くなる呼吸)「…………」
戸張(妖虫):「蟲ノ姫。退治令も我関せずと生き残り、最優の呪い師の消息を絶たせた……」
戸張(妖虫):「蟲を冠する妖の姫!!」
戸張(妖虫):「私……いや、俺が。お前を滅ぼし、この時代の蟲ノ王となる」
戸張(妖虫):「あははははははははは」
戸張(妖虫):「ヒトの娘1人で、お前を滅ぼし喰らい。その美しい顔を歪めさせられる」
戸張(妖虫):「ああ、最高だな」
戸張(妖虫):「この娘、お前の眼前で腑を引き摺り出して、液という液を啜ってしまおうか」
【工場跡地の大きく廃れた天井に影が覆った】
戸張(妖虫):「…………!!」
紫:「………………」
戸張(妖虫):「姿を現したか蟲ノ姫!!」
(間)
【林中】
苅安:「紫が人間じゃないことは知っていました。それでも、僕にとって紫は大事な存在だから」
式護(C):「それでも行っちゃダメです!」
式護(C):「今向かおうとしている先は、貴方達にとっての神秘であり、ヒトである苅安くんが踏み入れても良い領域を超えてしまう。一度でも超えてしまったら、後戻りは出来ない。紫様は望んでいません」
苅安:「式護さんは妖なんですか?」
式護(C):「いいえ。私たちは式神と蟲の『混ざり物』」
苅安:「…………」
式護(C):「そして……紫様を独りにしないために生み出された家族です」
苅安:「……家族。大事な……家族」
式護(C):「だから!引き返してください!!」
苅安:「僕だけが1人安全な場所にいるわけにはいかないじゃないですか!」
式護(C):「苅安くんが行って何になるんですか!」
苅安:「もしかしたら、僕の呼びかけなら取り憑かれた戸張が元に戻るかもしれない」
式護(C):「危険です!」
苅安:「紫だって危険だ!」
(少しの間)
式護(C):(M)苅安くん。妖は……そんなに優しくないですよ。
(間)
【工場跡地】
紫:「…………」
戸張(妖虫):「来たか!来るよなああ!」
紫:(M)少しでも早く、凪ちゃんを助けないと。
戸張(妖虫):「どんな美辞麗句で表することもできない美しさ。やはり!やはりやはり!蟲ノ姫!!」
戸張(妖虫):「女を喰わずにいて正解だった!これから蟲ノ姫の髄を啜れるのだから」
戸張(妖虫):「……ん?ナンダ……?」
紫:(N)私の姿を凝視した瞬間、妖虫の表情が激昂へと豹変した。
戸張(妖虫):「蟲ノ姫……じゃない?混ざっている……不純物が混ざっている!!」
紫:「…………」
戸張(妖虫):「俺を愚弄するのか!!……蟲ノ姫!!」
紫:「低位の雑魚妖怪。……妖虫。なるほどね。ちょっと、五月蝿いわ」
戸張(妖虫):「五月蝿い……?」
戸張(妖虫):「俺を蝿如きと形容するか!混血!」
紫:「ヒトに憑かないとチカラを誇示することもできないのでしょ?」
紫:「そのうえ人質だなんてね」
戸張(妖虫):「混血風情が妖を語るな……!」
紫:「もういいわ。私も友達を傷つけられて、腹が立っているの。さっさと終わらせましょうか」
戸張(妖虫):「…………ッ!!!!」
紫:「もう遅いわ。既に結界の中よ」
式護:「紫様、配置に着きました」
式護(A):「陽」
式護(B):「陰」
式護:「土」
紫:「万象結界━━━━森羅」
戸張(妖虫):「ぐあああああああ」
紫:「妖虫……、狡猾だったわ」
式護(B):「…………きゃあ!!」
式護(B):(M)「牙の生えた虫!?妖虫の……操虫!!結界が……!」
【操虫は式護の腕を斬り、泥となって消失した】
戸張(妖虫):「忌々しい結界は消えた!!」
戸張(妖虫):「…………擬似餌でも」
紫:「…………!?」
戸張(妖虫):「さっさと喰ってしまえば!!」
凪:「…………ぅ」
紫:「凪ちゃんッ!!」
戸張(妖虫):「ニンゲンの娘は、どんな味だったかなァ!!!!」
紫:「!!」
(間)
【林中】
式護(C):(呟くように)「結界が……破壊された」
(少しの間)
苅安:「日本刀?」
苅安:(N)木の幹に1本の刀が刺さっていた。
苅安:「ムラマサ贋作?」
苅安:(N)刀に触れた瞬間に声が聞こえた。
苅安:(N)聞こえた気がした。
(間)
『━━━━娘を、頼む』
(間)
苅安:「声が……聞こえた」
苅安:「とても温かい。男性の声……」
式護(C):「…………苅安くん?」
(間)
戸張(妖虫):「妖が!蟲ノ姫が!!……たった1人の小娘を護るために、その翅を広げたか!!」
戸張(妖虫):「ムラサキ色ォ!!美しい!!混ざっていても、蟲ノ姫か!欲しい!!その妖力を!啜り犯したい!」
紫:「間に合ったよ……凪ちゃん」
凪:(N)目を開くと━━優しい笑顔で私を見つめる紫ちゃんがいた。
【凪、再び意識を失う】
凪:「久しぶり。会いたかったよ…………」
(少しの間)
式護:「紫様!……紫様!!」
式護:(M)お友達を庇って……背中から妖虫の斬撃を!!
戸張(妖虫):「あはははは!混血も赤い血が流れているか」
紫:「鬱陶しいわ」
戸張(妖虫)「ぐふッ!!」
式護:(N)紫様が妖虫の体を遠くの壁まで蹴り飛ばしました!
紫:(M)「背中を斬られたせいで、カラダに力がうまく入らない……」
戸張(妖虫):「蟲ノ姫も呆気ない!」
(間)
戸張(妖虫):「トドメを刺させてもらおうか」
紫:「…………苅安……くん」
(少年の視界が反転した)
苅安:「…………紫!!」
紫:「…………苅安くん!?」
苅安:「そのハネ?似合ってるな」
紫:「どうして苅安くんが……」
戸張(妖虫):「何もない空間から……ニンゲンのガキ?」
苅安:「あの気持ち悪いのが戸張か?」
紫:「…………ぐッ」
苅安:「紫、血が!」
式護(A):「苅安くん、紫様はお友達を守って……」
苅安:「紫は無理しないで!」
苅安:「おい!戸張!聞こえてるか!」
戸張(妖虫):「……」
苅安:「無理か……」
苅安:(M)人間なんて眼中にないってか。
苅安:(M):でも……それでいい。
苅安:「戸張、すぐ助ける。僕らの中で1番友人想いなのに、こんなの嫌だよな」
苅安:(M)一瞬でいい。僕が人間であるからこそ生まれる隙。
戸張(妖虫):「耳障りだガキ」
【虫でも払うように、近づいてきた苅安に対して妖虫が片手を振り下ろした】
紫:「苅安くん……!!」
苅安:「…………ッ!!」
戸張(妖虫):「ぐはッ!」
紫(N):苅安くんと妖虫の間に閃光が煌めいた。
苅安:「クッソ!相打ちかよ……カハッ。……血なんて、初めて吐いた。どうして素手なのに、僕の腹が少し抉れてるんだよ」
紫:「苅安くん!!!!」
戸張(妖虫):「見誤った!見誤ったぞ!!ガキなんぞに!!」
戸張:『ガキじゃねえよ。苅安……俺の親友だ』
紫:「苅安くんの振った刀は……ほんの数センチしか妖虫を斬っていなかった……それでも致命傷になった?」
戸張(妖虫):「肩が……アツイ!腕がわずかに前に出なかった……」
戸張(妖虫):「まだだ!!!今すぐにでも、擬似餌の娘の足1本でも!!」
戸張(妖虫):「どこだ!どこにいる!!」
式護(B):「擬似餌じゃないです!凪ちゃんです!もう安全な場所に運びました!」
戸張(妖虫):「小癪な!」
紫:「よくも!私の友達に!そんなに妖力が欲しいなら、くれてやるわ!!」
苅安:(M)……紫が……僕の斬った傷口に刀を突き刺した?
紫:「妖力暴発!!」
戸張(妖虫):「ぐあああああああああああ」
苅安:「戸張が!!紫、やめろ!!それ以上したら戸張が!!!」
戸張(妖虫):「流れてくる!!尋常ない妖力が!!!溢れるッ!!」
苅安:「戸張ぃい!」
式護:「苅安くん、大丈夫です」
苅安:「……え?」
【妖虫は内側から妖力が溢れ出していく】
戸張(妖虫):「これ以上はッ!!」
戸張(妖虫):「俺が!!俺だけが!俺の存在だけが|消滅する!!おのれ!蟲ノ姫えぇ!謀ったなッ!」
【妖虫、消滅】
(間)
苅安:「戸張!!」
戸張:「ごほッごほッ!苅安…………ごめんな」
苅安:「何言ってんだよ!戸張は何も悪くないだろ!」
【戸張、ゆっくり意識を失う】
戸張:「……お前の声。聞こえたから…………かりや……す」
【苅安も意識を失う】
苅安:「と……ばり……良かった」
(少しの間)
紫:「式護。戸張くんと凪ちゃんは病院へ。苅安くんは屋敷に運んで」
式護:(可愛く)「イエッサーー!」
(間)
【桔梗の間】
苅安:(目を覚ます)「……ぐッ。」
紫:「おはよう、苅安くん」
苅安:「刀に触れて、気がついたら紫の前にいたんだ」
紫:「式護の静止を振り切って外に出たのは反省してね」
苅安:「……あ、その……すいません」
紫:「でも、ありがとう」
苅安:「……!」
紫:「苅安くんが妖虫に刀で傷つけた時、妖虫の妖力が傷に集中したから」
式護(A):「妖虫は傷口を塞ぐために、妖力のパスを集中させたのですよ」
紫:「そこへ刀を通して妖力を過剰に注いだの」
紫:「その刀は……ムラマサ 贋作」
紫:「刀自体の持つ妖力も上乗せ出来たのは運が良かったけれどね」
苅安:「贋作じゃなくて贋作って読むんだな」
紫:(肯定)「私の父の刀よ」
苅安:「そっか。紫のお父さんの……」
苅安:(M)あの声は本当に紫のお父さんの声だったんだな。
紫:「どうしたの?」
苅安:「いや、何でもない」
(間)
【凪の家】
戸張:「うわ、既にめちゃいい匂いするじゃん」
苅安:「おじゃましまーす」
凪:「コートはそこに置いといて、天気予報ハズレて良かったね」
苅安:(M)「2人にあの夜の記憶はない……そして」
凪:「貧血で倒れるなんて、初めてだったよ~」
戸張:「俺なんて、階段落ちだぜ?時代劇かよって」
苅安:「2人とも、すぐ退院できて良かったじゃん」
凪:「3人に凪ちゃん特製手料理を振る舞っちゃうぞ!」
戸張:「3人?……3人じゃなくて、2人だろ。俺と苅安」
凪:「あ、そっか。そうだよね」
戸張:「それとも、もう彼氏でもできたのか?」
凪:「はあ?彼氏がいたら、せっかくの休日に2人なんかと会ったりしません~!」
戸張:「なんかとは何だよ!」
苅安:「まぁまぁ、凪も戸張も病み上がりなんだからさ。退院祝いも兼ねているんだ」
凪:「むむむ!」
苅安:「混ぜるの手伝うよ」
凪:「苅安『は』優しいね」
戸張:「俺だって!」
凪:「戸張は皿洗いね」
戸張:「最初は皿洗いからだよな。……俺!成り上がって見せる!目指せ……料理長!」
凪:「このお玉も洗って」
戸張:「おう!」
凪:「この皿も。フライパンも!お箸も!!ついでにコレも!」
戸張:「おう!おう!……お!……お?……って、うおおおお」
(少しの間)
凪:「もう少しでできるよ。苅安、盛り付けるの手伝って!」
苅安:「うん!」
(少しの間)
苅安:(N)2人の高校1年間の紫に関する記憶はない。
苅安:(N)紫と式護さん達の術によるもので。
苅安:「どうしても、消さないとダメだったんですか?」
式護:「凪さんは妖虫によって精神的にも身体的にも傷つきました。記憶から消さないと、彼女を一生苦しめることになるでしょう。件の記憶によって彼女の心に残った傷であり魔は、いつか大きな歪みとなります」
苅安:「戸張は……聞くまでもないか……」
紫:「戸張くんは妖という神秘に触れすぎた。妖虫に取り憑かれた事象を記憶ごと消すぐらいじゃ本来はダメなのよ。式護の浄化術を重ねがけして、やっと普通の生活を送れているのだから」
苅安:「だったら、僕の記憶も消すの?」
紫:「そうしないといけなかったのだけれど」
苅安:「え?」
紫:(小さい声で)「私が……イヤだったの」
苅安:「紫?」
紫:「私が嫌だったの。苅安くんに忘れて欲しくなかった」
苅安:「僕だって、紫のことを忘れたくない」
紫:「本当は凪ちゃんと戸張くんにも!……忘れて欲しく……なかった」
苅安:「うん」
紫:「……苅安くん」
苅安:「うん。わかってる」
紫:「…………苅安くん」
苅安:「無くならないから。僕らの過ごした1年間は消えないから」
(少しの間)
式護:「苅安くんの記憶を消さなくていいのは、ムラマサ贋作が身体に蓄積された魔を吸い取ったからなんですけどね~。苅安くんはムラマサに愛されているのかな」
紫:「……え?」
式護(A):「あ」
式護(B):「言っちゃった」
紫:「そんな大事なこと、今聞いたんだけど?」
式護(C):「紫様が想いをしっかり伝えてから……お伝えしようかなって」
紫:「式護ぃーー!」
(少しの間)
【1ヶ月後】
式護:「友達とは仲良く!素敵なことです!」
式護(A):「友達以上の関係に見えますけどね!」
式護(B):「それってもしかして……」
式護(C):「もしかしなくても」
式護:「恋人!!」
苅安:「ちょっと静かにしてくれます?」
式護:「いいじゃないですか!」
苅安:(M)「僕は今日もモンブランの土産を片手に、彼女の家を訪ねるのだ」
(少しの間)
紫:「いらっしゃい、苅安くん」
おわり
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