不死身の遺言書

未旅kay

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二章.

1話.天才少女と不死身

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 『何だよぉ、天才の嬢ちゃんも一緒にいたのかぁ』

 電話の相手は、三階で伏している監視役の直属の上司である━━宮下 総一郎。忙しく鳴り続ける電話の呼び出し音の中で年相応に、渋い声を唸らせていた。何か事件でも起こったのだろうか。多くの捜査員の声が反響して聞こえる。

 「窓ガラスの件は、早急に頼む。この暑さじゃあ、命に関わる」

 「死なない照望あなたが、云う言葉としては筋違いですわ」

 私の隣で茶茶を入れるのは、元人間にして天才科学者の王色 染毬だ。そんな私たちに、窓ガラスの修復の代わりに依頼が舞い込んできた。

 『嬢ちゃんにとっては、試験動物かもしれない。照望、お前にとっては同類に当たるだろうと思う』

 「同類……」

 『○○を探し、捕捉して欲しいんだ』

 名前を聞いても私は、○○の容姿も声すらも知らない。

 「画像か、何か見た目を知る為のモノはあるのか?」

 『うーーん……すまねぇ。残念ながら、資料もデータも何者かに消されちまったみたいなんだ』

 「それについては問題ないワーー。私が○○の資料は全て持っているのダカラ」

 『さすが嬢ちゃん、天才はちげえなぁ』

 総一郎は染毬をおだて始めた。それにまんまと、乗ってしまうのが、しばらく誰からも褒められたり賞賛されていない染毬にとっては、喜びへと変容されてしまうのだ。言い換えて仕舞えば、チョロい。

 「わたくしなら、失踪した子供の一人や二人見つけるコトぐらい造作もないですわ!」

 『それじゃあ、宜しく頼むぞ。警察おれたちが探しても見つからなかったんだが、期待してるぞ。勿論、照望も一緒に二人で探してくれや』

 「まぁ、私も探すのに協力することが窓ガラス修復の代償ってコトになるのなら……しょうがない」

 こうして、私は早朝からワイパーを左右に動かし、車を走らせていた。助手席には、日和のおさがりを着こなした、染毬が寝ている。深くキャップを被り、薄めの革ジャンの裾を折り曲げたまま、ピクリとも動かない。本人いわく、スリープモードだそうだ。どこまで人間の部分が残っているのだろうかと、私は信号待ちの間、染毬に一瞬、視線を移す。

 私たちは、京都へと向かっていた。歴史が刻まれ、過去の遺物がいつくしまれる地へ。

 「残りどのくらいで、到着するのかしら?」

 スリープモードによって、揺れる車内を物ともせずにしていた染毬が何の前触れもなく、声をあげた。

 「あと五時間で、到着すれば良いくらいだろう」

 渋滞なしだと京都まで、だいたい七時間かかる。しかし、出発してすぐに渋滞に巻き込まれてしまったのだ。

 「疲労が溜まっているのかもしれないけれど、寝るんじゃないですわ」

 俺の隣で爆睡していたくせに、よく云うものだ。

 「わたくしは寝てなどいないわ。スリーープモーーーードですわ」

 「それを、和訳すると日本じゃあ、お昼寝って言うんだと思うが」

 「うるさいですわ。どうでもいいけど、そのまま道のりで進むと五キロメートル先、渋滞ですわよ」

 初めて、助手席に座っているモノが文字通りに、手助けをしている場面に遭遇した。

 「今、カーナビみたいだと思ったんじゃないかしら?」

 不機嫌そうに頬を膨らませる。

 「まさか」

 これ以上、機嫌を損なわせるのも、正直、長時間の運転で疲れつつあるため避けたい。ついでに、渋滞も避けるために右折した。

 「私はそこらのカーナビの何億倍も、有能ですわ!カーナビよりも万能な道案内が可能ですとも!」

 「そっちかよ」

 こちらを見て、得意げな表情を見せてきた。何だか目が冴えてきた。

 「お後がよろしいようですわ!」

 「この天才」

 「私に天才なんて言っても。当たり前のことを言ってるだけじゃないかしら?」

 雨は勢いを増した。フロントガラスを、逆流する滝の如く、ルーフへと雨粒が慌ただしく流れていく。

 「今日中に、京都へ行くコトは難しいのではないかしら?」

 「そうだな。適当に宿泊場所でも探すか」

 本当は、遠出の仕事は日和に心配をかけないためにも、早く片付けてしまいたかった。本来、総一郎からの依頼が私の本業ではない。
 私は、数種の職業を日々こなして収入を得ている。その内の一つが、とある事件に関する警察のお手伝いというわけだが、世間一般で言うところの探偵とは似て日なるものかもしれない。その他にも仕事はあるが、それら全て数百年間、生きている内、否応いやおうなしに油絵の様に私の身へ塗り重ねられた事柄だった。

 
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