不死身の遺言書

未旅kay

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三章.

1話.あしながおじさん

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 日和に私が初めて贈った贈り物プレゼントは米国生まれの女性作家。ジーン・ウェブスターの『あしながおじさん』だった。
 主人公の少女が孤児であったこと。そして、彼女・・が好きな小説であったからだ。日和はそれをとても大切にして、ずっと読みふけった。

 その小説を、日和は高校二年生の今でも大事に持っている。
 私はそこまで大事にしなくても、特に気にしたりはしなかったのだが。その話を清香が日和から聞いたとき、随分と私は茶化された。作中の『あしながおじさん』になりたかったわけではないと弁明するのも、手間だったから放っておいた。

***

 私と染毬は、無限坂 玲衣の捜索から帰ってきた━━夕刻。

 「ただいま」

 「照望さん、おかえりなさい!」 

 私が予想していたよりも、日和は元気そうで何よりだった。

 「清香さんとお買い物に行ってきたんですよ!」

 「あぁ、そう言えば清香は?」

 「一階の、ご自分のお部屋にいると思います」

 「じゃあ、一応。お礼の一つは言っておくとするよ」

 私は二階までの階段をゆっくり下り、一度外に出てから清香の部屋へとおもむいた。

 「清香━━日和を任せっきりにしてしまい申し訳なかった」

 私は一階の引き戸を開け、入って直ぐにある膝あたりまでの段差に上がって、清香を探す。すると、フィットネスマットの上で音楽を聴きながら足を固定せずに、己の腹筋だけで上体起こしシットアップをする頼れる監視者がいた。

 ダークグレーで上下一式のスポブラとレギンス付きのパンツという、上級者感の漂う服装に私は見ないことにしようと回れ右をした。感謝の意は、また今度。清香の身体は、さすが特殊部隊の所属なだけはあった。引き締まった腹筋に、無駄のない太もも。収まりきれていない谷間の中心を雫が流れている。アッパレとしか言いようがなかった。

 ━━ぐおっ。

 今のは何だ。背後から迫り来る何者かの足音か。それとも、私の空耳か。

 「涼川さん!今、あたしのことイヤラシイ目で見てたでしょう!そして、眺めるだけ眺めて満足したんですか?黙って入ってきて、黙ってご帰宅ですか?」

 「いやいや、声はかけた。しかし、君がトレーニング中だったから邪魔してはならないと……ぐおーー!」

 私に背後から裸絞バックチョークを仕掛けた清香は、ご機嫌斜めのようだった。確かに、彼女を一目したのは事実だが、私は無罪である。

 「生きて帰れると思わないで下さい!」

 「その台詞セリフは悪党の使う言葉であって、君のような美しい警察官が使う言葉では……」

 「ただちに謝ったら、許してあげますよ!」

 「黙って、日和を預けて留守にしてしまい……申し訳ない」

 一層に清香からの私の首にかかる圧が増す。

 「違いますよね?そうじゃないですよね?それも確かにそうですけど、丁度、今の罪に対する謝罪は……現行犯で逮捕しましょうか?」

 「すまなかった!あまりにも美しい身体をしていたものだから、見惚れてしまったんだ」

 私が清香に熱烈な歓迎を受けていると、私たちの背後から数時間前まで行動を共にしていた元人間の天才が現れた。

 「何百歳でも、やはり照望は男性としての欲求が抑えられないのですわね……良いデータが取れましたわ」

 清香は私を絞める腕を緩め、少女に向かって明るく微笑んだ。

 「あっ、染毬ちゃん!こんばんは」

 「堂川 清香さん、こんばんはですわ」

 染毬も深々とお辞儀をして応える。初めて、此処に訪れた時と似た服装であった。以前とは異なり上部にも衣類を着ている。所謂、白と黒の配色を基調としたゴスロリファッションである。しかし、それよりも。

 「とりあえず、この腕を何とかして欲しい」

 「清香さん、照望は若い女性に身体を密着されて喜んでいますわよ」

 染毬の指摘に清香は、突如私に対して過剰な反応を表し、私の頭を床に叩きつけて距離を置いた。

 「清香……元気が良いのは結構だが、反応が活き活きとし過ぎているんじゃないかい?」

 清香はフンっと、顔をそっぽに向けた。

 「そうそう、照望。わたくし明日から少しの間、この建物の三階で『お泊まり会』とやらに招待されましたの」

 「日和ちゃんの部屋、少しの間、男禁制だから涼川さんは特に・・入って来ないで下さい」

 「染毬、お泊まり会って何か知っていて参加するんだろうな?」

 「ええ、各々の研究成果を発表する場に備えて、研究室に寝泊まりすることですわ」

 「「知らなかった!」」

 こうして、次の日から染毬が三階の日和の部屋に、数日間泊まることになったのである。
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