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北緯78度の巫女
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【タイトルコール】北緯78度の巫女(みこ)
風に戦(そよ)ぐ草原(そうげん)で寝そべる。
青空が私の視界を満たす。
身体(からだ)の表面を温かい陽(ひ)の光が照らす。
ソマリ:「何十時間ぐらい寝ていたのかな?」
ソマリ:「ん?めずらしい」
誰かからのメッセージが届いたようだ。
私が意見を求められるのは、久しぶりだった。
ソマリ:「起きようかな」
向かい合おう━━自分の役割と。
思い出そう━━人類の現状を。
【間】
青空の光を再現した電灯を消した。
立体ホログラムが崩れる。
静寂(せいじゃく)と真っ暗な世界。
風も草も青空も、全てが偽善(ぎぜん)で偽物(にせもの)だ。
ソマリ:「まだ寝ぼけているみたい」
【間】
Message(メッセージ)の送信相手を確認する。
ソマリ:「女の子から?」
ソマリ:「10秒だけ、待っててね」
私は1ヶ月に1度の仕事を10秒で終わらせるべく、集中する。
長い金髪の毛先を弄(もてあそ)びながら、まぶたを下ろす。
少し休み過ぎたからかな。寝起きのせいか……、12秒もかかってしまった。
私は一仕事(ひとしごと)を終えた。
地下へと続く階段をゆっくり下(お)りながらメッセージを理解する。
本当に私へ届くとは、送り主も思っていなかっただろう。
想像以上に可愛らしい文面(ぶんめん)だった。誰かを想い、それが恋心なのかを迷っている。
ソマリ:「今は、彼を支えたい……か」
ソマリ:「それはきっと……恋だよ」
かつて直面(ちょくめん)していた事象(じしょう)と比較してしまうと、あまりにもスケールが小さい『個人の問題』。
ソマリ:【優しく笑いながら】「でも……乙女(おとめ)にとっては、世界の滅亡と同じくらいの悩みだよね」
ソマリ:「うーーん。言葉を送りたいけど……まだ情報が足りないよ」
久しぶりの同性からのメッセージが素直に嬉しい。
厳重(げんじゅう)なセキュリティを掻(か)い潜(くぐ)って、私に届いた理由も知っておかなければならない。
ソマリ:「浜辺に流れ着いたメッセージボトルみたいな、奇跡ってワケじゃないだろうし……」
彼女にメッセージの返信をして、私はルーティンワークに戻った。
【間】
施設の増築(ぞうちく)がノンストップで進んでいく。
私が開発した、愛(あい)らしい建設ロボット達。
ソマリ:「予定よりも随分進んだね」
ナウマンゾウに似せた自律(じりつ)型の白いロボットが何十頭も、右往左往している。
ソマリ:【ひと息】「ふーーーー」
私は無機質なベンチに座って、ひと息をつくフリをした。
ソマリ:「2008年から稼働(かどう)を始めたスヴァールバル世界種子貯蔵庫に冷却保存された約200万個の種子と貴重なデータの保存状況の点検……」
それが私の仕事。
お節介(せっかい)で、施設の改修工事とパフォーマンスを上げるための増築を行なっていた。
北極圏でたった1人。陽が沈まない白夜(びゃくや)と陽が昇(のぼ)らない極夜(きょくや)が3分の2以上を占めるこの土地で、施設の外には殆(ほとん)ど出ない。
私はこの要塞(ようさい)で、かつて栄(さか)えた人類の形見(かたみ)と過ごしている。
2650年。
急速に減り続けた人類の末路(まつろ)。世界各地に散らばった私の目を用いて、数千万人の生き残りを見守っている。
『Message(メッセージ)受信中』という表示がマルチモニタに表示された。
ソマリ:「ん?この子、もしかして……?」
確証はない。
ソマリ:「でも、彼女はきっと……■■だ」
ソマリ:「……この子とは、これからも良きメル友になれる気がする。君の恋路(こいじ)と命を私━━科学の抑止力で、最後の巫女(みこ)が応援するよ」
お節介(せっかい)かもしれない。
自己満足かもしれない。
それでも、数100年ぶりの隣人(りんじん)が此処(ここ)に辿(たど)り着くまで、私は少しだけ手助けをしてあげたくなってしまった。
【間】
無責任に託(たく)された希望の種(コード)を1つずつ護(まも)り続けながら。
機械の模倣(もほう)を続けよう。
END
風に戦(そよ)ぐ草原(そうげん)で寝そべる。
青空が私の視界を満たす。
身体(からだ)の表面を温かい陽(ひ)の光が照らす。
ソマリ:「何十時間ぐらい寝ていたのかな?」
ソマリ:「ん?めずらしい」
誰かからのメッセージが届いたようだ。
私が意見を求められるのは、久しぶりだった。
ソマリ:「起きようかな」
向かい合おう━━自分の役割と。
思い出そう━━人類の現状を。
【間】
青空の光を再現した電灯を消した。
立体ホログラムが崩れる。
静寂(せいじゃく)と真っ暗な世界。
風も草も青空も、全てが偽善(ぎぜん)で偽物(にせもの)だ。
ソマリ:「まだ寝ぼけているみたい」
【間】
Message(メッセージ)の送信相手を確認する。
ソマリ:「女の子から?」
ソマリ:「10秒だけ、待っててね」
私は1ヶ月に1度の仕事を10秒で終わらせるべく、集中する。
長い金髪の毛先を弄(もてあそ)びながら、まぶたを下ろす。
少し休み過ぎたからかな。寝起きのせいか……、12秒もかかってしまった。
私は一仕事(ひとしごと)を終えた。
地下へと続く階段をゆっくり下(お)りながらメッセージを理解する。
本当に私へ届くとは、送り主も思っていなかっただろう。
想像以上に可愛らしい文面(ぶんめん)だった。誰かを想い、それが恋心なのかを迷っている。
ソマリ:「今は、彼を支えたい……か」
ソマリ:「それはきっと……恋だよ」
かつて直面(ちょくめん)していた事象(じしょう)と比較してしまうと、あまりにもスケールが小さい『個人の問題』。
ソマリ:【優しく笑いながら】「でも……乙女(おとめ)にとっては、世界の滅亡と同じくらいの悩みだよね」
ソマリ:「うーーん。言葉を送りたいけど……まだ情報が足りないよ」
久しぶりの同性からのメッセージが素直に嬉しい。
厳重(げんじゅう)なセキュリティを掻(か)い潜(くぐ)って、私に届いた理由も知っておかなければならない。
ソマリ:「浜辺に流れ着いたメッセージボトルみたいな、奇跡ってワケじゃないだろうし……」
彼女にメッセージの返信をして、私はルーティンワークに戻った。
【間】
施設の増築(ぞうちく)がノンストップで進んでいく。
私が開発した、愛(あい)らしい建設ロボット達。
ソマリ:「予定よりも随分進んだね」
ナウマンゾウに似せた自律(じりつ)型の白いロボットが何十頭も、右往左往している。
ソマリ:【ひと息】「ふーーーー」
私は無機質なベンチに座って、ひと息をつくフリをした。
ソマリ:「2008年から稼働(かどう)を始めたスヴァールバル世界種子貯蔵庫に冷却保存された約200万個の種子と貴重なデータの保存状況の点検……」
それが私の仕事。
お節介(せっかい)で、施設の改修工事とパフォーマンスを上げるための増築を行なっていた。
北極圏でたった1人。陽が沈まない白夜(びゃくや)と陽が昇(のぼ)らない極夜(きょくや)が3分の2以上を占めるこの土地で、施設の外には殆(ほとん)ど出ない。
私はこの要塞(ようさい)で、かつて栄(さか)えた人類の形見(かたみ)と過ごしている。
2650年。
急速に減り続けた人類の末路(まつろ)。世界各地に散らばった私の目を用いて、数千万人の生き残りを見守っている。
『Message(メッセージ)受信中』という表示がマルチモニタに表示された。
ソマリ:「ん?この子、もしかして……?」
確証はない。
ソマリ:「でも、彼女はきっと……■■だ」
ソマリ:「……この子とは、これからも良きメル友になれる気がする。君の恋路(こいじ)と命を私━━科学の抑止力で、最後の巫女(みこ)が応援するよ」
お節介(せっかい)かもしれない。
自己満足かもしれない。
それでも、数100年ぶりの隣人(りんじん)が此処(ここ)に辿(たど)り着くまで、私は少しだけ手助けをしてあげたくなってしまった。
【間】
無責任に託(たく)された希望の種(コード)を1つずつ護(まも)り続けながら。
機械の模倣(もほう)を続けよう。
END
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