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プロローグ
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温かなオレンジの光を描く間接照明も、壁際の本棚にぎっしり詰められた背表紙の厚い本も、大きな窓枠にはめこまれた新宿の夜景も、すべて見慣れたものだった。
五百蔵要は、薄く平たい胸板を大きく上下させて呼吸する。自室のベッドの上だというのに、喉の奥がキュッとすぼまったように息がしづらい。
蛇に睨まれた蛙のような、はたまたまな板の上にのせられ終わりの時を待つ魚のような。息をするのさえ憚られる空間で身じろぎすれば、ネクタイで縛られた手に布が食いこむだけだった。めまいがする。
抱かれるのだ、今からきっと。
「……泉……」
薄い唇から零れでた己の声の弱弱しさに、下唇を噛みしめる。それを咎めるように落ちてきた唇が、要の震える吐息を飲みこんだ。蹂躙されるような口付けに心が軋む。
どうして、いやだという嘆きを飲みこむキスが、要の胸を抉った。
見慣れた光景の中、ただ一つ違うもの。それは眼前を埋め尽くす、金糸のようなペールブロンドだ。彫刻のように精巧な容貌をした二十歳の男が、同じ男の要を組み敷いている。ひどく焦燥に駆られた表情で。
男のひそめられた眉の下、翡翠の瞳が照明の光を弾いて妖しく光る。切れ長の瞳に射抜かれた要は、逃げ場を探すようにシーツの海を泳いで抵抗した。
引き裂かれたシャツが辛うじて引っかかっていた腕、そこにテレビのリモコンがぶつかる。そのはずみでついた、壁に取りつけられたテレビからは場違いなほど爽やかな声が轟いた。
『渇いた俺を満たして』
テレビに映る俳優が、明るい碧眼をこちらに向けて微笑みかける。万人を虜にしてしまうような蕩ける笑みだ。
「要……要は俺のものだ」
テレビに映る男が、まさか年上の要を組み敷いて薄暗く訴える男――――一泉と同一人物とは到底思えず、要は長い睫毛を伏せた。
五百蔵要は、薄く平たい胸板を大きく上下させて呼吸する。自室のベッドの上だというのに、喉の奥がキュッとすぼまったように息がしづらい。
蛇に睨まれた蛙のような、はたまたまな板の上にのせられ終わりの時を待つ魚のような。息をするのさえ憚られる空間で身じろぎすれば、ネクタイで縛られた手に布が食いこむだけだった。めまいがする。
抱かれるのだ、今からきっと。
「……泉……」
薄い唇から零れでた己の声の弱弱しさに、下唇を噛みしめる。それを咎めるように落ちてきた唇が、要の震える吐息を飲みこんだ。蹂躙されるような口付けに心が軋む。
どうして、いやだという嘆きを飲みこむキスが、要の胸を抉った。
見慣れた光景の中、ただ一つ違うもの。それは眼前を埋め尽くす、金糸のようなペールブロンドだ。彫刻のように精巧な容貌をした二十歳の男が、同じ男の要を組み敷いている。ひどく焦燥に駆られた表情で。
男のひそめられた眉の下、翡翠の瞳が照明の光を弾いて妖しく光る。切れ長の瞳に射抜かれた要は、逃げ場を探すようにシーツの海を泳いで抵抗した。
引き裂かれたシャツが辛うじて引っかかっていた腕、そこにテレビのリモコンがぶつかる。そのはずみでついた、壁に取りつけられたテレビからは場違いなほど爽やかな声が轟いた。
『渇いた俺を満たして』
テレビに映る俳優が、明るい碧眼をこちらに向けて微笑みかける。万人を虜にしてしまうような蕩ける笑みだ。
「要……要は俺のものだ」
テレビに映る男が、まさか年上の要を組み敷いて薄暗く訴える男――――一泉と同一人物とは到底思えず、要は長い睫毛を伏せた。
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