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9.酒のつまみ、再び
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去年も一昨年も、年末年始は大晦日の夕方の実家に帰って、元旦の夕方には戻ってくる、というのが恒例のパターンだった。帰ったら帰ったで、甥っ子の相手をさせられて、休みらしい休みにならないからだ。
今年もそのつもりで実家に戻ったのに、家族で年越しの初詣に行ったときに、何人かの友人たちと一緒にいた幼馴染の笠川 敦(カサガワ アツシ)と再会した。そして、『二日の夜、中学時代の連中と集まるから、お前も来ないか』と、珍しく飲みに誘われた。
幼馴染の敦は僕とは違ってスポーツマンで、やたらと皆に好かれるヤツで、自然とリーダーになってるタイプだった。大人しい僕を、同い年だというのに、いつも弟扱いして、何かと面倒を見てくれていた。高校は別の学校になったこともあって、それ以降はあまり会う機会はなかったものの、稀に顔を合わせれば、軽く立ち話くらいはしたものだった。
「いや、僕、今日の夕方には帰るし」
日付をこえて、年始の挨拶の声がちらほら聞こえている中、僕を見下ろしている敦にそう言った。高校時代からがっしりと大柄で大人びて見えてたけれど、今の敦のほうが、前髪をあげて髪をまとめているせいか、もっと大人っぽくなっていた。
「何、向こうで彼女でも待ってるのか?」
「え? なに? 輝樹、彼女できたの?」
『彼女』という部分にだけ敏感に反応したのは、母に甥っ子を任せっきりでスマホを握りしめていた姉。
「な、何、言ってるの、彼女じゃないし、し、知り合いと会う約束が」
「なんだ、そんなの戻ればいつでも会えるんじゃねーか。俺たちのほうが、滅多に会えないだろうが」
「敦、行くぞ~」
敦は友人たちに呼ばれると「おー」と返事をすると、再び僕を見下ろして、スマホを取り出した。
「とにかく、店とか時間とかLINEするから、アカウント、教えろよ」
「いや、行かないから」
「却下」
さっさとしろ、と怖い顔で言われて、渋々、アカウントを交換する。
「じゃ、またなぁ~」
僕の返事など聞かず、敦は少し離れたところにいた友人たちの方に走っていった。
せっかく、早くに帰って崇さんの家に行きたいと思ってたのに。僕は大きくため息をつく。崇さんは、すでにご両親を亡くしているらしく、実家に戻ることもないと聞いていた。今頃、一人であの家にいるのかと思うと、胸の中に切なさが膨れ上がる。
会社員の崇さんの正月休みは、学生の僕からしたら、けして長くはない。せっかくの休みだからこそ、早く戻って崇さんと一緒に過ごしたかった。だから、わざわざ、稼ぎ時の三が日にも関わらず、休みをもらったのに。
だったら、敦に何も言わずに帰ってしまえばいいのだろうけれど、僕の性格的にそれは無理で。
「崇さん、ごめんなさい」
元旦の朝、家族がのんびり朝寝坊を決め込んでいる中、僕は自分の部屋から崇さんのスマホに電話をかけた。新年のあいさつの言葉を交わしてすぐ、僕は、謝罪の言葉が口をついて出た。
『何? どうかしたの?』
「ほ、本当は、今日帰るつもりだったんですけど……」
僕は正直に、幼馴染たちとの飲み会の話をした。
『それは、せっかくだから行ってきたらいいよ』
「……崇さん」
大人な崇さんの言葉。それは、ありがたいと思うべきなのかもしれないけど、僕としては、少しだけ寂しい。きっと崇さんは言ったりしないだろうけれど。
『行くな』
『帰っておいで』
僕は、そんな言葉を、少しだけ期待していたのだ。
崇さんと一緒にいたいのに。崇さんは、それほどでもないんだろうか。
「……明後日、崇さんの家に行ってもいいですか?」
少し縋るように言葉が零れた。
『……いいよ』
クスッと崇さんが笑ったような気がした。
微かな吐息だったから、僕の勘違いかもしれない。だけど、今の僕には、そうとしか思えなくて、その笑いには、どんな意味があるのか、気が気ではなかった。
今年もそのつもりで実家に戻ったのに、家族で年越しの初詣に行ったときに、何人かの友人たちと一緒にいた幼馴染の笠川 敦(カサガワ アツシ)と再会した。そして、『二日の夜、中学時代の連中と集まるから、お前も来ないか』と、珍しく飲みに誘われた。
幼馴染の敦は僕とは違ってスポーツマンで、やたらと皆に好かれるヤツで、自然とリーダーになってるタイプだった。大人しい僕を、同い年だというのに、いつも弟扱いして、何かと面倒を見てくれていた。高校は別の学校になったこともあって、それ以降はあまり会う機会はなかったものの、稀に顔を合わせれば、軽く立ち話くらいはしたものだった。
「いや、僕、今日の夕方には帰るし」
日付をこえて、年始の挨拶の声がちらほら聞こえている中、僕を見下ろしている敦にそう言った。高校時代からがっしりと大柄で大人びて見えてたけれど、今の敦のほうが、前髪をあげて髪をまとめているせいか、もっと大人っぽくなっていた。
「何、向こうで彼女でも待ってるのか?」
「え? なに? 輝樹、彼女できたの?」
『彼女』という部分にだけ敏感に反応したのは、母に甥っ子を任せっきりでスマホを握りしめていた姉。
「な、何、言ってるの、彼女じゃないし、し、知り合いと会う約束が」
「なんだ、そんなの戻ればいつでも会えるんじゃねーか。俺たちのほうが、滅多に会えないだろうが」
「敦、行くぞ~」
敦は友人たちに呼ばれると「おー」と返事をすると、再び僕を見下ろして、スマホを取り出した。
「とにかく、店とか時間とかLINEするから、アカウント、教えろよ」
「いや、行かないから」
「却下」
さっさとしろ、と怖い顔で言われて、渋々、アカウントを交換する。
「じゃ、またなぁ~」
僕の返事など聞かず、敦は少し離れたところにいた友人たちの方に走っていった。
せっかく、早くに帰って崇さんの家に行きたいと思ってたのに。僕は大きくため息をつく。崇さんは、すでにご両親を亡くしているらしく、実家に戻ることもないと聞いていた。今頃、一人であの家にいるのかと思うと、胸の中に切なさが膨れ上がる。
会社員の崇さんの正月休みは、学生の僕からしたら、けして長くはない。せっかくの休みだからこそ、早く戻って崇さんと一緒に過ごしたかった。だから、わざわざ、稼ぎ時の三が日にも関わらず、休みをもらったのに。
だったら、敦に何も言わずに帰ってしまえばいいのだろうけれど、僕の性格的にそれは無理で。
「崇さん、ごめんなさい」
元旦の朝、家族がのんびり朝寝坊を決め込んでいる中、僕は自分の部屋から崇さんのスマホに電話をかけた。新年のあいさつの言葉を交わしてすぐ、僕は、謝罪の言葉が口をついて出た。
『何? どうかしたの?』
「ほ、本当は、今日帰るつもりだったんですけど……」
僕は正直に、幼馴染たちとの飲み会の話をした。
『それは、せっかくだから行ってきたらいいよ』
「……崇さん」
大人な崇さんの言葉。それは、ありがたいと思うべきなのかもしれないけど、僕としては、少しだけ寂しい。きっと崇さんは言ったりしないだろうけれど。
『行くな』
『帰っておいで』
僕は、そんな言葉を、少しだけ期待していたのだ。
崇さんと一緒にいたいのに。崇さんは、それほどでもないんだろうか。
「……明後日、崇さんの家に行ってもいいですか?」
少し縋るように言葉が零れた。
『……いいよ』
クスッと崇さんが笑ったような気がした。
微かな吐息だったから、僕の勘違いかもしれない。だけど、今の僕には、そうとしか思えなくて、その笑いには、どんな意味があるのか、気が気ではなかった。
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