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8.クリスマスツリー
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食器を片づけ終える頃には、テーブルの上のコーヒーカップに濃褐色の液体がたっぷり入っている。
「あ、悪い。砂糖はあるけど、ミルクはないんだ。」
コーヒーカップを手にしながら、申し訳なさそうに言う崇さん。
「あ、いえ、ブラックで大丈夫です」
僕は差し出されたコーヒーカップから湧きたつ香りを、思い切り吸い込む。家で飲む安いインスタントのコーヒーとは、やっぱり違う。まだ熱そうだから、何度もフーフーと冷ましながら、コーヒーカップに口をつけた。
「……うわ、やっぱり、インスタントとは違う……」
「ハハハ、そうだねぇ。これに慣れてしまうと、家では、なかなかインスタントを飲めなくなるかな」
そう言いながらコーヒーカップを口もとに持っていく崇さんの姿に、見惚れていると、リビングのほうで、スマホの振動する音が聞こえた。ローテーブルに置かれていたのは、僕のではなく崇さんのスマホ。振動自体は、それほど長いものではなかったので、メールだったのかもしれない。
「あの、メール、確認しなくていいんですか?」
「ん? ああ、ちょっと見ておこうか」
週末とはいえ、きっと、仕事絡みの連絡とかもあるのかもしれない。僕はリビングに向かう崇さんの背中を見送る。
真っすぐに立っている崇さんを見て、ふと気が付いた。そういえば、猫背気味じゃない……。いつも仕事帰りに疲れ果ててる姿が印象に残っていたけれど、今日みたいにお休みの日とかだと、そうでもないのかな。カジュアルな格好の崇さんの後ろ姿に、改めてドキドキし始めてる僕は、無理やりに視線をはずして、コーヒーに集中しようとしたけど、やっぱり気になって、チラチラと見てしまった。
崇さんはしばらくリビングで立ちながらスマホをいじっていたけれど、再びローテーブルに置くと、僕のいるテーブルの席に戻ってきた。
「大丈夫なんですか?」
「ああ、大丈夫。なんか、明日、クリスマスパーティがあるから来ないか、っていう誘いのメール。」
「え?」
「小島くん、覚えているかな? 彼女が、友人たちと店を借り切ってパーティをするらしい。それに誘ってくれたんだが。まぁ、俺みたいなおじさんが行くようなものでもないだろうから、断った。まったく、彼女も物好きだよな」
パーティとか言いながら、きっと小島さんは崇さんと、クリスマスイブを過ごしたかったんじゃないかって、すぐに僕でも想像できた。
時々みかけていた彼女の言動からも、崇さんのこと好きなんだろうなってわかってたから。だけど、崇さんは、そうは思っていないみたいだ。そのことに気づいて、ホッとしてしまう僕は、狡いかもしれない。
「あ、悪い。砂糖はあるけど、ミルクはないんだ。」
コーヒーカップを手にしながら、申し訳なさそうに言う崇さん。
「あ、いえ、ブラックで大丈夫です」
僕は差し出されたコーヒーカップから湧きたつ香りを、思い切り吸い込む。家で飲む安いインスタントのコーヒーとは、やっぱり違う。まだ熱そうだから、何度もフーフーと冷ましながら、コーヒーカップに口をつけた。
「……うわ、やっぱり、インスタントとは違う……」
「ハハハ、そうだねぇ。これに慣れてしまうと、家では、なかなかインスタントを飲めなくなるかな」
そう言いながらコーヒーカップを口もとに持っていく崇さんの姿に、見惚れていると、リビングのほうで、スマホの振動する音が聞こえた。ローテーブルに置かれていたのは、僕のではなく崇さんのスマホ。振動自体は、それほど長いものではなかったので、メールだったのかもしれない。
「あの、メール、確認しなくていいんですか?」
「ん? ああ、ちょっと見ておこうか」
週末とはいえ、きっと、仕事絡みの連絡とかもあるのかもしれない。僕はリビングに向かう崇さんの背中を見送る。
真っすぐに立っている崇さんを見て、ふと気が付いた。そういえば、猫背気味じゃない……。いつも仕事帰りに疲れ果ててる姿が印象に残っていたけれど、今日みたいにお休みの日とかだと、そうでもないのかな。カジュアルな格好の崇さんの後ろ姿に、改めてドキドキし始めてる僕は、無理やりに視線をはずして、コーヒーに集中しようとしたけど、やっぱり気になって、チラチラと見てしまった。
崇さんはしばらくリビングで立ちながらスマホをいじっていたけれど、再びローテーブルに置くと、僕のいるテーブルの席に戻ってきた。
「大丈夫なんですか?」
「ああ、大丈夫。なんか、明日、クリスマスパーティがあるから来ないか、っていう誘いのメール。」
「え?」
「小島くん、覚えているかな? 彼女が、友人たちと店を借り切ってパーティをするらしい。それに誘ってくれたんだが。まぁ、俺みたいなおじさんが行くようなものでもないだろうから、断った。まったく、彼女も物好きだよな」
パーティとか言いながら、きっと小島さんは崇さんと、クリスマスイブを過ごしたかったんじゃないかって、すぐに僕でも想像できた。
時々みかけていた彼女の言動からも、崇さんのこと好きなんだろうなってわかってたから。だけど、崇さんは、そうは思っていないみたいだ。そのことに気づいて、ホッとしてしまう僕は、狡いかもしれない。
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