100均で始まる恋もある

三森のらん

文字の大きさ
上 下
91 / 108
8.クリスマスツリー

90

しおりを挟む
 食器を片づけ終える頃には、テーブルの上のコーヒーカップに濃褐色の液体がたっぷり入っている。
 
「あ、悪い。砂糖はあるけど、ミルクはないんだ。」

 コーヒーカップを手にしながら、申し訳なさそうに言う崇さん。

「あ、いえ、ブラックで大丈夫です」

 僕は差し出されたコーヒーカップから湧きたつ香りを、思い切り吸い込む。家で飲む安いインスタントのコーヒーとは、やっぱり違う。まだ熱そうだから、何度もフーフーと冷ましながら、コーヒーカップに口をつけた。

「……うわ、やっぱり、インスタントとは違う……」
「ハハハ、そうだねぇ。これに慣れてしまうと、家では、なかなかインスタントを飲めなくなるかな」

 そう言いながらコーヒーカップを口もとに持っていく崇さんの姿に、見惚れていると、リビングのほうで、スマホの振動する音が聞こえた。ローテーブルに置かれていたのは、僕のではなく崇さんのスマホ。振動自体は、それほど長いものではなかったので、メールだったのかもしれない。

「あの、メール、確認しなくていいんですか?」
「ん? ああ、ちょっと見ておこうか」

 週末とはいえ、きっと、仕事絡みの連絡とかもあるのかもしれない。僕はリビングに向かう崇さんの背中を見送る。
 真っすぐに立っている崇さんを見て、ふと気が付いた。そういえば、猫背気味じゃない……。いつも仕事帰りに疲れ果ててる姿が印象に残っていたけれど、今日みたいにお休みの日とかだと、そうでもないのかな。カジュアルな格好の崇さんの後ろ姿に、改めてドキドキし始めてる僕は、無理やりに視線をはずして、コーヒーに集中しようとしたけど、やっぱり気になって、チラチラと見てしまった。
 崇さんはしばらくリビングで立ちながらスマホをいじっていたけれど、再びローテーブルに置くと、僕のいるテーブルの席に戻ってきた。

「大丈夫なんですか?」
「ああ、大丈夫。なんか、明日、クリスマスパーティがあるから来ないか、っていう誘いのメール。」
「え?」
「小島くん、覚えているかな? 彼女が、友人たちと店を借り切ってパーティをするらしい。それに誘ってくれたんだが。まぁ、俺みたいなおじさんが行くようなものでもないだろうから、断った。まったく、彼女も物好きだよな」

 パーティとか言いながら、きっと小島さんは崇さんと、クリスマスイブを過ごしたかったんじゃないかって、すぐに僕でも想像できた。
 時々みかけていた彼女の言動からも、崇さんのこと好きなんだろうなってわかってたから。だけど、崇さんは、そうは思っていないみたいだ。そのことに気づいて、ホッとしてしまう僕は、狡いかもしれない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

くまさんのマッサージ♡

はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。 2024.03.06 閲覧、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。 2024.03.10 完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m 今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。 2024.03.19 https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy イベントページになります。 25日0時より開始です! ※補足 サークルスペースが確定いたしました。 一次創作2: え5 にて出展させていただいてます! 2024.10.28 11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。 2024.11.01 https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2 本日22時より、イベントが開催されます。 よろしければ遊びに来てください。

【完結・BL】DT騎士団員は、騎士団長様に告白したい!【騎士団員×騎士団長】

彩華
BL
とある平和な国。「ある日」を境に、この国を守る騎士団へ入団することを夢見ていたトーマは、無事にその夢を叶えた。それもこれも、あの日の初恋。騎士団長・アランに一目惚れしたため。年若いトーマの恋心は、日々募っていくばかり。自身の気持ちを、アランに伝えるべきか? そんな悶々とする騎士団員の話。 「好きだって言えるなら、言いたい。いや、でもやっぱ、言わなくても良いな……。ああ゛―!でも、アラン様が好きだって言いてぇよー!!」

僕のために、忘れていて

ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

母の再婚で魔王が義父になりまして~淫魔なお兄ちゃんに執着溺愛されてます~

トモモト ヨシユキ
BL
母が魔王と再婚したルルシアは、義兄であるアーキライトが大の苦手。しかもどうやら義兄には、嫌われている。 しかし、ある事件をきっかけに義兄から溺愛されるようになり…エブリスタとフジョッシーにも掲載しています。

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。 その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。 その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。 早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。 乃木(18)普通の高校三年生。 波田野(17)早坂の友人。 蓑島(17)早坂の友人。 石井(18)乃木の友人。

僕の部下がかわいくて仕方ない

まつも☆きらら
BL
ある日悠太は上司のPCに自分の画像が大量に保存されているのを見つける。上司の田代は悪びれることなく悠太のことが好きだと告白。突然のことに戸惑う悠太だったが、田代以外にも悠太に想いを寄せる男たちが現れ始め、さらに悠太を戸惑わせることに。悠太が選ぶのは果たして誰なのか?

処理中です...