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8.クリスマスツリー
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崇さんがいるキッチンに戻ってみると、テーブルにはキーマカレーとともに、大き目なガラスボールに生野菜がこんもりと盛られていた。
「うわ、すごいですね」
一人暮らしだと、こんな大量の生野菜なんて取る機会はないし、積極的にとることもない。
「いや、悪いけど、スーパーで売ってた野菜のパックをボールに移しただけだから」
苦笑いしながら答える崇さん。そのまま椅子に座った崇さんに倣って、僕も向かい合わせの席に座った。
「い、いただきます」
「いただきます」
キーマカレーなんて、実家に住んでた時にも出たことはなかったし、時々、大学のカフェでメニューに載ってたのを見たことはあったけど、食べたことがなかった。
「……お、美味しい」
少し酸味が効いているのはトマトだろうか?具材がすべて細かくなっているから、何が入ってるのか、よくわからない。わかるのは、ひき肉を使ったカレーだってこと。
「お。よかった。キーマカレーなんて、久しぶりに作ったんだけど……うん、まぁまぁかな」
スプーンにカレーとご飯を山盛りにして口の中に放り込んで味わってる崇さんが、少しだけ幼く見える。満足そうな笑顔に、僕までつられて微笑み返していた。
僕たちはあまり会話をするでもなく、静かに食事を終えると、僕は洗い物をするために立ち上がった。
「あ、いいよ、シンクの中に置いといてくれれば。後で、俺がやるから」
「え、でも」
「テルくんも、疲れてるだろ。よければ、コーヒーでもいれるけど」
「ぼ、僕なら大丈夫ですっ」
テーブルの上の皿を集めると、さっさと皿洗いを始めてしまった僕。後ろで崇さんがクスッと笑ったのが聞こえた。
「な、なんか、おかしいですか?」
笑われるようなことをしたのだろうか、と、そう言ってから不審に思って振り返ると、崇さんは僕の背後に立っていてびっくりした。
「いや、テルくんがカワイイなぁ、と思ってね」
「えっ……!?」
両手が泡まみれになっている僕の腰に崇さんの両腕が回されると、ぎゅっと強く抱きしめてきた。そして僕の襟足のあたりに、鼻を擦りつけるようにすると、スンスンと匂いをかいでいる。
「や、山本さんっ!?」
つい、言いなれた『山本さん』が、口をついて出てしまった。すると、崇さんは腰に回された腕を思い切り締め付けてきた。
「ぐえっ」
「可愛くないな、その声は」
揶揄うように言う崇さんが、僕にはちょっぴり意地悪に見えた。
「だ、だって……」
僕の方は、つい、うっすらと目に涙が浮かんでしまった。
「崇、だろ……」
そう言うと、僕の頬に軽くキスをして離れていった。
「た、崇さん……」
「そう」
にっこりと笑うと、コーヒーメーカーにコーヒーをセットし始めた。ふんわりと部屋の中の匂いがカレーの匂いからコーヒーの匂いへと変わっていく。
「うわ、すごいですね」
一人暮らしだと、こんな大量の生野菜なんて取る機会はないし、積極的にとることもない。
「いや、悪いけど、スーパーで売ってた野菜のパックをボールに移しただけだから」
苦笑いしながら答える崇さん。そのまま椅子に座った崇さんに倣って、僕も向かい合わせの席に座った。
「い、いただきます」
「いただきます」
キーマカレーなんて、実家に住んでた時にも出たことはなかったし、時々、大学のカフェでメニューに載ってたのを見たことはあったけど、食べたことがなかった。
「……お、美味しい」
少し酸味が効いているのはトマトだろうか?具材がすべて細かくなっているから、何が入ってるのか、よくわからない。わかるのは、ひき肉を使ったカレーだってこと。
「お。よかった。キーマカレーなんて、久しぶりに作ったんだけど……うん、まぁまぁかな」
スプーンにカレーとご飯を山盛りにして口の中に放り込んで味わってる崇さんが、少しだけ幼く見える。満足そうな笑顔に、僕までつられて微笑み返していた。
僕たちはあまり会話をするでもなく、静かに食事を終えると、僕は洗い物をするために立ち上がった。
「あ、いいよ、シンクの中に置いといてくれれば。後で、俺がやるから」
「え、でも」
「テルくんも、疲れてるだろ。よければ、コーヒーでもいれるけど」
「ぼ、僕なら大丈夫ですっ」
テーブルの上の皿を集めると、さっさと皿洗いを始めてしまった僕。後ろで崇さんがクスッと笑ったのが聞こえた。
「な、なんか、おかしいですか?」
笑われるようなことをしたのだろうか、と、そう言ってから不審に思って振り返ると、崇さんは僕の背後に立っていてびっくりした。
「いや、テルくんがカワイイなぁ、と思ってね」
「えっ……!?」
両手が泡まみれになっている僕の腰に崇さんの両腕が回されると、ぎゅっと強く抱きしめてきた。そして僕の襟足のあたりに、鼻を擦りつけるようにすると、スンスンと匂いをかいでいる。
「や、山本さんっ!?」
つい、言いなれた『山本さん』が、口をついて出てしまった。すると、崇さんは腰に回された腕を思い切り締め付けてきた。
「ぐえっ」
「可愛くないな、その声は」
揶揄うように言う崇さんが、僕にはちょっぴり意地悪に見えた。
「だ、だって……」
僕の方は、つい、うっすらと目に涙が浮かんでしまった。
「崇、だろ……」
そう言うと、僕の頬に軽くキスをして離れていった。
「た、崇さん……」
「そう」
にっこりと笑うと、コーヒーメーカーにコーヒーをセットし始めた。ふんわりと部屋の中の匂いがカレーの匂いからコーヒーの匂いへと変わっていく。
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