83 / 108
8.クリスマスツリー
82★
しおりを挟む
思わず小さく口元が緩んだ瞬間、山本さんがパチリと目を開けて、僕の顔を見た。そして、ニヤリと笑う。
「何、嬉しそうな顔してるんだ?」
「え? あれ? 酔ってないんですか?」
「いや、酔ってる……濱田くんに匂いに酔ってる……」
そう言うと、今度は前から僕を抱きしめると、僕の首筋に顔を寄せて、スンスンと匂いを嗅いでくる。少し冷たい鼻先が首筋に触れるたび、ゾクッと快感が背中を走る。
「な、何してるんですっ……僕、何もつけてないないですよ……」
むしろ、僕のほうが山本さんの匂いにクラクラしてきていた。何も言わず、匂いを嗅ぎ続ける山本さん。僕は彼の背中に回した手をゆっくりと撫ではじめたら。
「……んあっ!?」
急に、山本さんの熱い舌先が僕の首筋を撫で上げて、僕の耳を食んだ。たったそれだけのことなのに、中途半端に形をかえつつあった下半身は完全に勃ちあがってしまう。
ヤバイ。こんな玄関先でなんて。
「こら、逃げるな」
「で、でも、山本さっ……んっ、ふんん!」
慌てて、彼の腕の中から逃れようとしたら、顎を捕まれ、強引に唇を奪われた。また、あの腰が抜けるようなキスに、僕は翻弄されてしまう。
暗くて静かな玄関に、僕と山本さんの唇で奏でられる淫らな水音と、無意識に漏れる甘いため息が響く。熱くて甘美で蕩けるようなキスは、僕の意識を完全に飛ばし、山本さんの腕を必死につかむのだけで精一杯。
「ふんっ……んはぁ、んんんっ」
「んっ……、んん、はぁっ……」
ゆっくりと、離れていく唇は、暗がりの中でもわかるくらいに艶やかで、銀色に光る細い唾液の糸がプツリと途中で切れた。
僕はそのまま、玄関先でエッチなことになるのかなって、陶然とした頭の中で思ってたけど、山本さんは意外に冷静だったみたい。
濃厚なキスで蕩けかけてた僕に、もう一度軽くキスをすると、家にあがるように促した。
コートを脱ぐと、やはり玄関先はかなり冷え込んでいる。そのせいか、一気に冷静な気分になって恥ずかしくなった。山本さんは無言で僕のコートを受け取ると、コートハンガーにかけてくれた。そして真っ暗な廊下を先に歩いていく山本さんを、僕はゆっくりと追いかけた。
リビングの明かりが灯る。久しぶりに見たその場所は、前に見た時とあまり変わりはなかった。違いと言えば、出窓に置かれていたエアプランツ。玄関先に見当たらなかったから、枯れてしまったのかと少しだけ心配だったから、ホッとした。
そして再び、亡くなられた奥さんと娘さんを思い出してしまう。
「濱田くん……今日は……帰らなくていいんだよね?」
ネクタイを緩めながら、確かめるように問いかける山本さん。その仕草ですら、カッコいいって見惚れてしまう。
僕は、もう、そのつもりで来てたから、顔を真っ赤にしながら頷いた。
「じゃあ、風呂、沸かしてくるから、その辺、座ってて」
スーツのジャケットをソファに放り投げて、エアコンをつけると、リビングを出ていこうとする山本さん。僕は慌てて声をかけた。
「あ、あのっ」
ワイシャツの袖を捲りながら、振り向く山本さん。
「……お線香、あげてもいいですか」
僕の口からついて出たのは、そんな言葉だった。
これからしようとしていることを考えたら、奥さんと娘さんに、謝らないといけないような気がしたのだ。だって、この家は、山本さん家族の家なのだから。
「……かまわないよ」
そんな僕の気持ちがわかったのか、山本さんは困ったような複雑そうな顔をしてそう言うとバスルームのドアを開けて入っていった。
玄関そばの和室に入る。普段から、閉めきっているのか、ふわりと線香の残り香を感じる。部屋の明かりをつけると、仏壇の前に座り、線香をあげた。
仏壇に飾られた二人の笑顔を見て、両手を合わせながら僕は「ごめんなさい」と小さく呟く。
「でも、僕……山本さんが好きなんです」
その時、僕の目の錯覚かもしれないけれど、二人がちょっと笑ったように見えた。
自分勝手な解釈かもしれない。だけど、そう思えただけで、許されたような気がしたのだ。
「何、嬉しそうな顔してるんだ?」
「え? あれ? 酔ってないんですか?」
「いや、酔ってる……濱田くんに匂いに酔ってる……」
そう言うと、今度は前から僕を抱きしめると、僕の首筋に顔を寄せて、スンスンと匂いを嗅いでくる。少し冷たい鼻先が首筋に触れるたび、ゾクッと快感が背中を走る。
「な、何してるんですっ……僕、何もつけてないないですよ……」
むしろ、僕のほうが山本さんの匂いにクラクラしてきていた。何も言わず、匂いを嗅ぎ続ける山本さん。僕は彼の背中に回した手をゆっくりと撫ではじめたら。
「……んあっ!?」
急に、山本さんの熱い舌先が僕の首筋を撫で上げて、僕の耳を食んだ。たったそれだけのことなのに、中途半端に形をかえつつあった下半身は完全に勃ちあがってしまう。
ヤバイ。こんな玄関先でなんて。
「こら、逃げるな」
「で、でも、山本さっ……んっ、ふんん!」
慌てて、彼の腕の中から逃れようとしたら、顎を捕まれ、強引に唇を奪われた。また、あの腰が抜けるようなキスに、僕は翻弄されてしまう。
暗くて静かな玄関に、僕と山本さんの唇で奏でられる淫らな水音と、無意識に漏れる甘いため息が響く。熱くて甘美で蕩けるようなキスは、僕の意識を完全に飛ばし、山本さんの腕を必死につかむのだけで精一杯。
「ふんっ……んはぁ、んんんっ」
「んっ……、んん、はぁっ……」
ゆっくりと、離れていく唇は、暗がりの中でもわかるくらいに艶やかで、銀色に光る細い唾液の糸がプツリと途中で切れた。
僕はそのまま、玄関先でエッチなことになるのかなって、陶然とした頭の中で思ってたけど、山本さんは意外に冷静だったみたい。
濃厚なキスで蕩けかけてた僕に、もう一度軽くキスをすると、家にあがるように促した。
コートを脱ぐと、やはり玄関先はかなり冷え込んでいる。そのせいか、一気に冷静な気分になって恥ずかしくなった。山本さんは無言で僕のコートを受け取ると、コートハンガーにかけてくれた。そして真っ暗な廊下を先に歩いていく山本さんを、僕はゆっくりと追いかけた。
リビングの明かりが灯る。久しぶりに見たその場所は、前に見た時とあまり変わりはなかった。違いと言えば、出窓に置かれていたエアプランツ。玄関先に見当たらなかったから、枯れてしまったのかと少しだけ心配だったから、ホッとした。
そして再び、亡くなられた奥さんと娘さんを思い出してしまう。
「濱田くん……今日は……帰らなくていいんだよね?」
ネクタイを緩めながら、確かめるように問いかける山本さん。その仕草ですら、カッコいいって見惚れてしまう。
僕は、もう、そのつもりで来てたから、顔を真っ赤にしながら頷いた。
「じゃあ、風呂、沸かしてくるから、その辺、座ってて」
スーツのジャケットをソファに放り投げて、エアコンをつけると、リビングを出ていこうとする山本さん。僕は慌てて声をかけた。
「あ、あのっ」
ワイシャツの袖を捲りながら、振り向く山本さん。
「……お線香、あげてもいいですか」
僕の口からついて出たのは、そんな言葉だった。
これからしようとしていることを考えたら、奥さんと娘さんに、謝らないといけないような気がしたのだ。だって、この家は、山本さん家族の家なのだから。
「……かまわないよ」
そんな僕の気持ちがわかったのか、山本さんは困ったような複雑そうな顔をしてそう言うとバスルームのドアを開けて入っていった。
玄関そばの和室に入る。普段から、閉めきっているのか、ふわりと線香の残り香を感じる。部屋の明かりをつけると、仏壇の前に座り、線香をあげた。
仏壇に飾られた二人の笑顔を見て、両手を合わせながら僕は「ごめんなさい」と小さく呟く。
「でも、僕……山本さんが好きなんです」
その時、僕の目の錯覚かもしれないけれど、二人がちょっと笑ったように見えた。
自分勝手な解釈かもしれない。だけど、そう思えただけで、許されたような気がしたのだ。
1
お気に入りに追加
73
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる