100均で始まる恋もある

三森のらん

文字の大きさ
上 下
79 / 108
8.クリスマスツリー

78

しおりを挟む
 昼から働いてた僕は、今日は19時でバイトは終わり。休憩時間の時には山本さんからのメールは来ていなかった。僕はスマホをチェックしながら、いつものように駅ビルの中の本屋に向かう。

「あ……やっぱり」

 山本さんからのメールは、ほんの30分前に来ていた。

『部署の飲み会に顔を出してくる。1時間くらいしたら、またメールする』

 たぶん、小島さんが言ってたクリスマスパーティだ。
 僕は、すぐに彼女のミニスカサンタのイメージが頭をよぎった。でも、きっと、大丈夫。山本さんなら、きっとすぐにメールくれる。そう思ったから、僕は、そのまましばらく本屋で本を見ながら時間を潰していた。

 だけど、1時間経ったのにメールは来ない。飲み会が盛り上がってるのかもしれない。そうは思っても、小島さんと遠藤さん、この二人のことを思い出すと、不安で仕方がなかった。だからといって、僕に何ができるわけでもない。ただ、待つしかない。
 だけど、僕もいい加減、お腹が空いていた。休憩時間に食べたのは、コンビニで買ったサンドイッチだけだったから。どうせ、山本さんも、何かしら食べてくるのだろう。仕方がないから、どこかで食べて時間を潰すしかない。返事のこないスマホを握りしめると、コートのポケットにしまい、本屋を出た。
 山本さんの会社のあるほうに向かうと、下手をするとあの人たちと会いかねない。だから、反対側の僕のアパートのあるほうの駅前で探してみた。こちら側は古い商店街もあるせいか、あまり遅い時間までやっている店は多くない。迷った挙句、以前、山本さんに連れてきてもらった中華料理の店に入った。

「イラッシャイマセー」

 不自然な発音の日本語で迎えられながら、僕は空席がないか、店の中を覗き込み、目についた出口そばの席に座った。

「塩野菜ラーメンください」

 壁に貼ってあったメニューをそのまま伝えると、すぐにスマホの画面を確認する。メールはまだ来ない。

「早く、終わらないかな……」

 天井近くに置かれたテレビの画面を見ながらも、僕の頭の中は山本さんのことでいっぱい。今日は……今日こそは、少しは、その……もうちょっと…先に進みたい。
 チラリと、僕は自分のバッグのほうに視線を向けた。中には、もし、泊りとかになったら、とか思って、着替え用の下着と、ネット通販で買ったローションとコンドームが入ってる。こんなの生まれて初めて買ったから、アパートに届いた時は、ドキドキした。それに、ネットでも、どうやればいいのか、ちゃんと予習もした。……うん。

「ハイ、オマタセシマシター」
 
 変な妄想してたら目の前にラーメンがトンっと置かれて、ビックリした。まるで妄想してたことを見透かされたような気がして、恥ずかしくなる。

「あ、ありがとうございます」

 僕は顔を俯いたまま、箸をとるとラーメンを食べ始めた。一人でも、ここのラーメンは旨い。温かいものを食べたせいもあるかもしれないが、フッと笑みがこぼれた。

 ブルルルル、ブルルル

 マナーモードにしていたスマホ。テーブルの上で揺れだしたのを、慌てて持って確認すると、ようやく山本さんからのメール。

『遅くなってごめん。今、どこ?』

 ちゃんと連絡をくれたことに、安心する。

『駅前の中華料理の店にいます』
『〇〇飯店?』
『はい』
『待ってて』

 僕は、その言葉にジワリと喜びが湧き上がってくるのを感じた。
 山本さんが来てくれる。
 さっさとラーメンを食べきってしまわなくては。まだ半分以上残っているラーメンを、急いで食べるべく、僕は箸を握りなおした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

年上の恋人は優しい上司

木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。 仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。 基本は受け視点(一人称)です。 一日一花BL企画 参加作品も含まれています。 表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!! 完結済みにいたしました。 6月13日、同人誌を発売しました。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

処理中です...