100均で始まる恋もある

三森のらん

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8.クリスマスツリー

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 遠藤さんの刺すような視線に耐えられなくて、僕は、箸をおくと、小さく「ごちそうさまでした」と呟くと、その場を立った。

「何、帰っちゃうの?」

 そう言いながらも、嬉しそうな声でに言う遠藤さん。僕はもう振り向けなくて、自分のコートと荷物を持つと、ペコリと頭を下げて、その場から離れようとした。それなのに、遠藤さんは、僕の手首をつかんで、強引に自分の顔のほうに僕を引き寄せた。

「寂しいんだったら、俺が相手してやろうか」

 遠藤さんの息が僕の耳をかすめた。その言葉の意図に気づいて、僕は嫌悪感でいっぱいになる。捕まれた腕が気持ち悪い。

「は、放してくださいっ」

 思い切り遠藤さんの腕を振り払った。その時の僕の声は、少し大きかったみたいで、2階の他のお客さんたちの視線が、一斉にこちらに向いた。僕は恥ずかしくて、悔しくて、その場から逃げるように階段を駆け下りた。

「気を付けてねぇ~」

 呑気な遠藤さんの声を背中に聞きながら、僕はなんとか泣くまいと、唇をかみしめ、店を飛び出した。

 ノンケ。ストレート。男に興味がない。
 奥さんとお子さんがいた時点で、そんなのわかってた。それでも、山本さんが、僕のことを嫌がりもしないで、優しく相手をしてくれて、僕はそれで満足してたはずだった。
 だけど、実際には、もっと先の関係も欲しくなってる僕がいて。山本さんは、本当は、そこまでは考えてないんじゃないかって、今更ながらに、思えてきて。

「ふぅ……く、うううぅ……」

 トボトボと涙を流しながら駅に向かって歩く僕。遠藤さんに「山本さんとは、付き合ってるんですっ」と、強く言い返せない自分が情けない。そもそも、知り合いの息子扱いされてる時点で、言い返すも何もないけど。
 駅の階段が見えてきた時、急に左の肩をガシッとつかまれた。

「うぇっ!?」

 泣きながらの僕は、変な声をあげて振り向いた。そこには、息をきらせた心配そうな顔をした山本さんが立っていた。

「や、山本さん!?」
「は、濱田くんが先に帰ったっていうから」

 ハァハァと、背中を丸めながら息を整えようとしてる山本さん。

「も、もう……1日に……2回も走らされるとは……」
「え、えと……す、すみません?」

 なかなか息が整わない山本さんが、背を伸ばした。

「まったく……こんな、ところで……運動不足を実感させられるとはな……」

 そう言って、ニカッと笑う。その笑顔に、また僕は心を持っていかれるんだ。

「濱田くん……泣いてたのか」

 心配そうに僕を見下ろす山本さん。

「な、泣いてませんっ」

 そう言葉にしても、目から涙が溢れるのを止められない。山本さんに呆れたような顔をされてしまった。

「遠藤に何か言われた?」
「……」

 僕はそれに答えられなくて、俯いてしまう。すると、優しい山本さんは、いつものように、僕の頭をポンポンと軽くたたいてくれる。その優しさが、僕をまた泣かすとは思わずに。
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