100均で始まる恋もある

三森のらん

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6.ジャック・オー・ランタン

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 いよいよ大学では学園祭一色になってきていた。それはそうだ。今週末の学園祭まで、あと三日。本格的に構内のあちこちでは、飾り付けやらリハーサルやらで、講義ではたまにしかみかけないような奴らまで歩き回っている。
 こうしてどこか浮かれた雰囲気になるのは毎年のこと。校門に派手派手しく看板が掲げられているのを見上げながら、僕はいつものようにバイト先に向かう。
 店のほうは学園祭の備品を買出しにくるやつらもいるけれど、メインはむしろ、ハロウィングッズだ。

「濱田くん、はい、今日これ、よろしく」

 尾賀さんに渡されたのは……頭につける……これは、斧か?

「これ……ですか」
「うん、これ。ちょっと、動きが悪くてね」

 そういう尾賀さんは、オレンジ色をした魔女の帽子をかぶってる。本当に驚くほど、いろんなものを売ってるよなぁ、と、自分が仕事をしている場所ながら、感心してしまう。

「……かぼちゃも売ってるんですか」

 レジに向かう途中気が付いた。棚の下に積み上げられている黄色や、オレンジ、緑のかぼちゃ。こんなの何に使うんだろう?と思いながらも、ハロウィン関連のグッズの多さに、驚いてしまう。

「ねぇ? 何に使うんだか。まぁ、基本、ディスプレイ用だろうけど。私んちじゃやらないわ」
「……こういうの使いこなす人って、女子力高いんでしょうね」
「それって、私が女子力ないって言ってる?」

 尾賀さんの冷たい視線から逃れるように、僕は慌ててレジに向かった。

「いらっしゃいませ」

 並んでいる人たちのカゴを見ると、ハロウィンの人と、学園祭の人が半々みたいにみえる。カゴの中身をスキャンしながら、ハロウィングッズの多さに目を見張る。特に女性たちが山ほど買っていくのが、ハロウィンのメイクグッズ。つけまつげや、ネイルのシールみたいのだったり、中には傷痕みたいなのを肌に直接貼るようなのまである。

「ちょっと、今度はあれ濱田くんつけてよ」

 ニヤニヤ笑いながら尾賀さんは、レジ脇に置かれてた傷跡のシールを指さした。

「尾賀さんが買ってくれるんですか」

 お客さんの波がいったんひいたので、僕はしゃがみこみながらレジの袋の補充をし始める。なんだか、頭の上の斧のバランスが悪いみたいで、ずるずると前に落ちてきた。少しばかり、イラつきながら直していると、尾賀さんがしゃがみこんで僕の目の前に手を差し出した。

「ほれ」
「……はい?」

 傷跡シール。見るからに作り物だってわかっていても、なんともグロテスクに見える。こんなんで100円に消費税で買えるって、すごいよな、と思いながら受け取る。

「濱田くんの顔に、それつけてよ」
「はいぃぃ?」

 立ち上がりながらニヤリとする尾賀さんを、思わず見上げた。

「濱田くんの、そのカワイイお顔に付いてると、やっぱ迫力あるじゃない?」
「カ、カワイイ!?」
「そ、カワイイ……っと、いらっしゃいませ」

 僕との会話を中途半端にしたまま、尾賀さんはお客さんの対応を始めてしまった。僕の方は、尾賀さんの「カワイイ」に引っ掛かりを感じながらも、そのグロテスクなシールをエプロンのポケットに仕舞い込んで、ため息をつきつつ立ち上がった。
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