41 / 108
5.ネクタイ
41
しおりを挟む
「いや、谷敷ちゃん、若いから大丈夫」
「そ、そういう問題じゃないですっ」
「そういう問題だって」
おばさんとおねえさん、二人に揶揄われてワタワタしている彼女が、少し可哀そうになってくる。
「はい、大丈夫です。谷敷さん、お疲れ様。もういいですよ」
僕の声にホッとしたのか、これ以上揶揄われないように「お先に失礼しますっ」と、小さく挨拶をすると、そそくさとレジから離れていった。
「あんまり揶揄うと、いじけちゃいますよ」
僕がこそっと注意すると、長谷川さんはペロリと舌を出し、中村さんは「えへっ」と笑って誤魔化した。
「これで辞められちゃったら、僕が休むとかいうレベルじゃなく困るんですからね」
あまり強く言ったつもりはないけれど、僕がいつになく真面目に注意したせいなのか、二人ともが、ごめんね、と言ってきた。
「なんかネクタイしてるせいか、いつもより大人びて見えるからかなぁ。濱田くんの言うこと、ちゃんと聞かなきゃって思っちゃった」
「なんですか、それ」
「そうですよ。なんですか、それ。ちゃんと僕の注意も聞いてくださいね」
突如として、珍しくスーツ姿の店長の矢島さんが現れた。さすがに、この時間じゃパリッとした感じには見えないけど、一応は社員っぽくは見える。
「あら、今日、こっち来る日ですっけ? 確か今日は本社で店長会議じゃ?」
引き継ぎの終わった中村さんが、レジのカウンターの中から出てきながら、矢島さんに話しかけた。
「僕、夕方から寄りますって、LINEで連絡しましたけど」
「あー、ごめん、見てなかったわ」
「いいですけど、別にぃ」
少しばかり拗ねながらも、矢島さんは中村さんと話しながら事務所のほうに向かってく。
「……あの人もさぁ、なんか残念だよねぇ。貫禄不足っていうか」
「はぁ……」
「濱田くんは、あんな風になっちゃダメよ」
恰幅のいい二人の後ろ姿を目で追いながら、僕は苦笑いをした。
やっぱり、続けて仕事をするというのは、少しばかり疲れるようだ。
やっている仕事のタイプは全然違うのだけど。どちらかといえば、こっちの仕事のほうが肉体労働。それに、少しばかり気を遣う。
「いらっしゃいませ」
山盛りのカゴを受け取って、ため息をつきそうになるのを、なんとか抑え込む。一つ一つをスキャンして、袋に詰め込む。今日は、なんだか、たくさん買うお客さんが多くないか?
「ありがとうございました」
自分でも声に力がないのがわかる。ついレジに表示されている時間に目をやってしまう。閉店までは、まだ1時間くらいある。げんなりした気分でいると、また新しいお客さんが目の前にカゴを置いた。
「いらっしゃいませ」
僕は無意識に声を出しながら、次のお客さんに目を向けた。
「お疲れ様」
そこに立っていたのは、僕同様に疲れ果てた山本さんだった。
「そ、そういう問題じゃないですっ」
「そういう問題だって」
おばさんとおねえさん、二人に揶揄われてワタワタしている彼女が、少し可哀そうになってくる。
「はい、大丈夫です。谷敷さん、お疲れ様。もういいですよ」
僕の声にホッとしたのか、これ以上揶揄われないように「お先に失礼しますっ」と、小さく挨拶をすると、そそくさとレジから離れていった。
「あんまり揶揄うと、いじけちゃいますよ」
僕がこそっと注意すると、長谷川さんはペロリと舌を出し、中村さんは「えへっ」と笑って誤魔化した。
「これで辞められちゃったら、僕が休むとかいうレベルじゃなく困るんですからね」
あまり強く言ったつもりはないけれど、僕がいつになく真面目に注意したせいなのか、二人ともが、ごめんね、と言ってきた。
「なんかネクタイしてるせいか、いつもより大人びて見えるからかなぁ。濱田くんの言うこと、ちゃんと聞かなきゃって思っちゃった」
「なんですか、それ」
「そうですよ。なんですか、それ。ちゃんと僕の注意も聞いてくださいね」
突如として、珍しくスーツ姿の店長の矢島さんが現れた。さすがに、この時間じゃパリッとした感じには見えないけど、一応は社員っぽくは見える。
「あら、今日、こっち来る日ですっけ? 確か今日は本社で店長会議じゃ?」
引き継ぎの終わった中村さんが、レジのカウンターの中から出てきながら、矢島さんに話しかけた。
「僕、夕方から寄りますって、LINEで連絡しましたけど」
「あー、ごめん、見てなかったわ」
「いいですけど、別にぃ」
少しばかり拗ねながらも、矢島さんは中村さんと話しながら事務所のほうに向かってく。
「……あの人もさぁ、なんか残念だよねぇ。貫禄不足っていうか」
「はぁ……」
「濱田くんは、あんな風になっちゃダメよ」
恰幅のいい二人の後ろ姿を目で追いながら、僕は苦笑いをした。
やっぱり、続けて仕事をするというのは、少しばかり疲れるようだ。
やっている仕事のタイプは全然違うのだけど。どちらかといえば、こっちの仕事のほうが肉体労働。それに、少しばかり気を遣う。
「いらっしゃいませ」
山盛りのカゴを受け取って、ため息をつきそうになるのを、なんとか抑え込む。一つ一つをスキャンして、袋に詰め込む。今日は、なんだか、たくさん買うお客さんが多くないか?
「ありがとうございました」
自分でも声に力がないのがわかる。ついレジに表示されている時間に目をやってしまう。閉店までは、まだ1時間くらいある。げんなりした気分でいると、また新しいお客さんが目の前にカゴを置いた。
「いらっしゃいませ」
僕は無意識に声を出しながら、次のお客さんに目を向けた。
「お疲れ様」
そこに立っていたのは、僕同様に疲れ果てた山本さんだった。
1
お気に入りに追加
73
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
年上の恋人は優しい上司
木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。
仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。
基本は受け視点(一人称)です。
一日一花BL企画 参加作品も含まれています。
表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!!
完結済みにいたしました。
6月13日、同人誌を発売しました。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる