100均で始まる恋もある

三森のらん

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5.ネクタイ

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 店の狭い事務所の中のロッカーの前。僕はジャケットを脱ぐと、ハンガーにかけてあったエプロンと入れ替える。ネクタイをしたまま、このエプロンを着ると、まるで店長の矢島さんみたいに社員っぽく見える気がするけど、僕では、そこまで大人っぽくは見えない。

「あ、濱田くん、それって、昨日買ったネクタイ?」

 後から事務所にに入ってきた長谷川さんが、僕のしているネクタイに目をやった。

「……そうです」
「百均のだってわかってると微妙な気分だけど、言わなきゃ、そこそこのに見えるわね」

 長谷川さんは、クスクス笑いながらエプロンをつけはじめる。僕は苦笑いしながらも、それに答えずに、先に事務所の中から出て行った。
 結局、昼間の小島さんの仕事は、やはり全部を終えることはできなかった。昼食から帰ってきてから、気になって見返してしまった分のタイムロスが痛い。調べてみれば僕の考えすぎで、指示された通りにちゃんと出来てた。
 この確認の時間がなければ、今日中に全部終わらせられたのにな、と、少しだけ悔しく思ってる。完璧な状態のものを山本さんに見せたかったな、と。

 僕が会社を出る時には、山本さんの姿は見つけることは出来なかった。どこかで打ち合わせでもしていたのかもしれない。小島さんは「お疲れ様」と声をかけてくれたものの、どこか素っ気なく、なんだか後味の悪い感じだったから、例え山本さんがいたとしても、もう、ここでのバイトはやりたくないな、と思った。

 僕の入るレジのほうは、まだ新人の谷敷さんがお客さんの対応をしていた。小さく会釈をして、彼女の隣に立つ。そろそろ慣れてきたのか、最初のころよりも谷敷さんの対応のスピードが早くなった気がする。僕は無言でレジの中のお金をチェックし始めた。

「就活かなんか?」

 ちょうどお客さんが切れたタイミングで、隣のレジに入った長谷川さんが中村さんと引き継ぎをしながら、声をかけてきた。

「いえ、ちょっとバイトの代打を頼まれて…」
「何? そのあとに、ここ来たの? どんだけ稼ぐつもりよ」
「若いっていいわねぇ」

 そう言いながら笑う長谷川さんと中村さん。別に、僕としては、そんなに稼ぐつもりはないんだけど。

「急だったんで……もともと今日はシフト入れてたし」
「そうなの? まぁ、確かに急に休まれたら困るけどね」

 ギリギリの人数でまわしているだけに、誰かが休むと、一人当たりの負担は増える。自分にも降りかかることを思うと、そうそう無責任なことはできないと思う。
 
「特に金曜日は忙しいしねぇ。ここで濱田くん休んだら、谷敷ちゃん、通しだったかもね」
「えっ! む、無理ですっ」

 楽し気に言う長谷川さんに、谷敷さんが真っ青な顔で答える。
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