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5.ネクタイ
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次の日、僕は大学の校内を平川先輩に見つからないように隠れながら移動していた。はたから見たら、かなり怪しいやつに思われたかもしれない。
心の片隅では山本さんの心配をしてはいる。してはいるけど、平川先輩のことを考えると、安易に何も言えない。だから、とりあえず遭遇しなければいい、そう思っていた。
学部は同じとはいえ、学年が違えばあまり講義が被ることない。この前会ったのが、たまたまなだけで、普段は姿をみかけもしない。だけど、用心には用心を重ね……と思っている矢先。
「あ、濱田なら、あそこにいますよ」
教室の入り口で、僕の名前が言われた気がして、ギクリとする。まさか、ここまで平川先輩が探しに来たとでもいうのだろうか。
ちょうど講義と講義の間の休憩時間。人気のある講義だけに、すでに前のほうの席が埋まってしまっていたので、僕は教室の後ろのはじっこに座っていた。そんな人々の騒めきの中で、自分の名前だけは耳ざとく拾ってしまった。
見つかりたくなくて、僕はそっと机に突っ伏した。心の中で、「声をかけられませんように」と祈っていると、肩をちょんちょんと突かれた。
――ああ、やっぱり無理なのか。
僕は仕方なく、ゆっくりと顔をあげると、そこにいたのは、カバンを抱えた少し小柄で眼鏡をかけた見知らぬ女の子だった。
「濱田さん?」
自信なさげに声をかけてきている彼女に、僕はどう反応していいのか、ちょっと困惑してしまった。
「え、あ、はい……」
「よかったぁ……」
目に見えてホッとしている彼女。
「あの、僕に何か?」
「あの、平川先輩から濱田さんに伝えるように言われて……」
彼女の口から先輩の名前が出てくるとは思わずに、思わずピキンっと身体が固まってしまった。たぶん、顔もこわばっていたのだろう。彼女は、少しばかり心配そうな顔で僕を見つめる。
「えと、あのですね?」
彼女が言葉を続けようとしたとき、教室のドアが開いて教授が入ってきた。それに気づいた彼女は、慌ててカバンを抱えなおして、「あ、あとでお話がありますっ」とだけ言うと、頭をペコリと下げて、僕から離れていった。
女の子にあの話をさせようというのか。女の子が相手だったら僕が話を聞くとでも思ったのだろうか。そう考えると、彼女も可哀そうに、と同情していまう。
そして、ついつい思ってしまうのだ。話くらいは聞いてあげてもいいかな、などと。
心の片隅では山本さんの心配をしてはいる。してはいるけど、平川先輩のことを考えると、安易に何も言えない。だから、とりあえず遭遇しなければいい、そう思っていた。
学部は同じとはいえ、学年が違えばあまり講義が被ることない。この前会ったのが、たまたまなだけで、普段は姿をみかけもしない。だけど、用心には用心を重ね……と思っている矢先。
「あ、濱田なら、あそこにいますよ」
教室の入り口で、僕の名前が言われた気がして、ギクリとする。まさか、ここまで平川先輩が探しに来たとでもいうのだろうか。
ちょうど講義と講義の間の休憩時間。人気のある講義だけに、すでに前のほうの席が埋まってしまっていたので、僕は教室の後ろのはじっこに座っていた。そんな人々の騒めきの中で、自分の名前だけは耳ざとく拾ってしまった。
見つかりたくなくて、僕はそっと机に突っ伏した。心の中で、「声をかけられませんように」と祈っていると、肩をちょんちょんと突かれた。
――ああ、やっぱり無理なのか。
僕は仕方なく、ゆっくりと顔をあげると、そこにいたのは、カバンを抱えた少し小柄で眼鏡をかけた見知らぬ女の子だった。
「濱田さん?」
自信なさげに声をかけてきている彼女に、僕はどう反応していいのか、ちょっと困惑してしまった。
「え、あ、はい……」
「よかったぁ……」
目に見えてホッとしている彼女。
「あの、僕に何か?」
「あの、平川先輩から濱田さんに伝えるように言われて……」
彼女の口から先輩の名前が出てくるとは思わずに、思わずピキンっと身体が固まってしまった。たぶん、顔もこわばっていたのだろう。彼女は、少しばかり心配そうな顔で僕を見つめる。
「えと、あのですね?」
彼女が言葉を続けようとしたとき、教室のドアが開いて教授が入ってきた。それに気づいた彼女は、慌ててカバンを抱えなおして、「あ、あとでお話がありますっ」とだけ言うと、頭をペコリと下げて、僕から離れていった。
女の子にあの話をさせようというのか。女の子が相手だったら僕が話を聞くとでも思ったのだろうか。そう考えると、彼女も可哀そうに、と同情していまう。
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