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3.エアプランツ
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「おらぁ! 濱田ぁぁ! 次行くぞ、次ぃ!」
こっちは飲みすぎて気持ち悪いというのに、一人雄たけびをあげているのは尾賀さんで、それをなんとか宥めようとしているのは長谷川さん。
尾賀さんが酒癖があまりいいとはいえない、という話は聞いていた。それも自分にふりかかってこなければいいか、と思ってたのに、そういう時に限って、僕に絡んでくるんだもの、参ってしまう。
僕が今、こんなに気持ち悪いのは、完全に尾賀さんに強引に飲まされたせい。
「濱田くん、無理しないでいいからね」
そう言って僕の背中を撫でているのは、僕と同じバイトの大学4年の海老原さん。平川先輩とも知り合いで同じ時期にバイトを始めた人らしい。彼のほうは大学院に進むらしく、そのままうちでバイトを続けているらしい。
「すみません」
途中までは皆の行く方向まではついていけたんだけれど、どうにも気持ち悪くてしゃがみこんでしまった。
「大丈夫かい?」
心配そうに声をかけてくれる海老原さん。ひょろっと背の高い彼が、腰を屈めながらのぞき込んでくる。背中を何度も撫でてくれる海老原さんに申し訳なく思いつつ、吐くに吐けない状況にも泣けてくる。でも、このままじゃ、海老原さんが置いて行かれちゃう。
「と、とりあえず、もう少しここで休んでから帰るんで、海老原さんは行ってください」
「で、でも」
「大丈夫です、大丈夫です」
なんとか微笑みを浮かべると、海老原さんも少しばかり安心したのか「じゃあ、気を付けてね」と言って、みんなの後を追いかけていった。
「あー、やっぱ、気持ち悪いぃぃ」
血の気がひいてく感覚がして、しゃがんだまま、建物の壁に背中をもたれさせた。
上を向くとケバケバしい電飾をつけた建物と建物の間の真っ暗な空だけが、僕を見下ろしている気がする。ゆっくりと瞼を閉じて、大きくため息をついた。
それから、どれくらいたったのか。
目の前をいくつかの酔っ払いの集団が流れていった気がする。でも、こんな風にしゃがみこんだ僕に声をかけるような人は。
「……おい」
いないと思ったのに。
「おーい、大丈夫かぁ?」
誰かが僕に声をかけてくれている。
ゆっくりと瞼をあげようとするのだけれど、誰かが下から引っ張ってでもいるかのように、上がってくれない。
「あー、濱田くん?」
僕の名前を呼ぶ声に、聞き覚えがあるような気がするんだけれど、それが誰なのか思い浮かばない。なんとか目を開こうと努力して、辛うじて目の前に誰かが立っているのは認識できた。完全に電飾の明かりのせいで逆光になってて相手の顔がはっきりしない。
「……はい?」
思わず、僕はコテンと首を折りながら相手のほうを見てる……つもりなんだけど、やっぱり瞼は重力の言うことしかきいていないみたいだ。
「……大丈夫じゃなさそうだなぁ」
ボソリというその人は、僕の腕を掴んで引っ張り上げた。その勢いがよすぎたせいで、僕はせっかく立たせてくれた人の胸元に倒れ込んでしまった。
「おっと……」
汗の匂いと少しの煙草の匂い。微かに残るのは柔軟剤の匂いかなぁ。なんて考えながら、なぜか安心した気分になってしまい、ホッとため息をついた。このまま、身を任せてしまいたい。そんな僕の頭の上から、僕よりももっと大きなため息が降ってきた。
「ほら、自分の足で立ちなさい」
今度は少しばかり呆れたような声。
あ。そうか。この人の声、山本さんの声に似ているような気がする。
たった一度だけしか聞いたことがないのに、すっかり僕の中には山本さんの声が記録されてる。山本さんかぁ、と思ったら無意識に顔が緩んでしまう。
山本さんの声に似たその人が、なんで僕の名前を知ってるんだろう?と、いう疑問がサラっと頭の中を流れていったけれど、それは掴み取られることなく流れていった。
こっちは飲みすぎて気持ち悪いというのに、一人雄たけびをあげているのは尾賀さんで、それをなんとか宥めようとしているのは長谷川さん。
尾賀さんが酒癖があまりいいとはいえない、という話は聞いていた。それも自分にふりかかってこなければいいか、と思ってたのに、そういう時に限って、僕に絡んでくるんだもの、参ってしまう。
僕が今、こんなに気持ち悪いのは、完全に尾賀さんに強引に飲まされたせい。
「濱田くん、無理しないでいいからね」
そう言って僕の背中を撫でているのは、僕と同じバイトの大学4年の海老原さん。平川先輩とも知り合いで同じ時期にバイトを始めた人らしい。彼のほうは大学院に進むらしく、そのままうちでバイトを続けているらしい。
「すみません」
途中までは皆の行く方向まではついていけたんだけれど、どうにも気持ち悪くてしゃがみこんでしまった。
「大丈夫かい?」
心配そうに声をかけてくれる海老原さん。ひょろっと背の高い彼が、腰を屈めながらのぞき込んでくる。背中を何度も撫でてくれる海老原さんに申し訳なく思いつつ、吐くに吐けない状況にも泣けてくる。でも、このままじゃ、海老原さんが置いて行かれちゃう。
「と、とりあえず、もう少しここで休んでから帰るんで、海老原さんは行ってください」
「で、でも」
「大丈夫です、大丈夫です」
なんとか微笑みを浮かべると、海老原さんも少しばかり安心したのか「じゃあ、気を付けてね」と言って、みんなの後を追いかけていった。
「あー、やっぱ、気持ち悪いぃぃ」
血の気がひいてく感覚がして、しゃがんだまま、建物の壁に背中をもたれさせた。
上を向くとケバケバしい電飾をつけた建物と建物の間の真っ暗な空だけが、僕を見下ろしている気がする。ゆっくりと瞼を閉じて、大きくため息をついた。
それから、どれくらいたったのか。
目の前をいくつかの酔っ払いの集団が流れていった気がする。でも、こんな風にしゃがみこんだ僕に声をかけるような人は。
「……おい」
いないと思ったのに。
「おーい、大丈夫かぁ?」
誰かが僕に声をかけてくれている。
ゆっくりと瞼をあげようとするのだけれど、誰かが下から引っ張ってでもいるかのように、上がってくれない。
「あー、濱田くん?」
僕の名前を呼ぶ声に、聞き覚えがあるような気がするんだけれど、それが誰なのか思い浮かばない。なんとか目を開こうと努力して、辛うじて目の前に誰かが立っているのは認識できた。完全に電飾の明かりのせいで逆光になってて相手の顔がはっきりしない。
「……はい?」
思わず、僕はコテンと首を折りながら相手のほうを見てる……つもりなんだけど、やっぱり瞼は重力の言うことしかきいていないみたいだ。
「……大丈夫じゃなさそうだなぁ」
ボソリというその人は、僕の腕を掴んで引っ張り上げた。その勢いがよすぎたせいで、僕はせっかく立たせてくれた人の胸元に倒れ込んでしまった。
「おっと……」
汗の匂いと少しの煙草の匂い。微かに残るのは柔軟剤の匂いかなぁ。なんて考えながら、なぜか安心した気分になってしまい、ホッとため息をついた。このまま、身を任せてしまいたい。そんな僕の頭の上から、僕よりももっと大きなため息が降ってきた。
「ほら、自分の足で立ちなさい」
今度は少しばかり呆れたような声。
あ。そうか。この人の声、山本さんの声に似ているような気がする。
たった一度だけしか聞いたことがないのに、すっかり僕の中には山本さんの声が記録されてる。山本さんかぁ、と思ったら無意識に顔が緩んでしまう。
山本さんの声に似たその人が、なんで僕の名前を知ってるんだろう?と、いう疑問がサラっと頭の中を流れていったけれど、それは掴み取られることなく流れていった。
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