10 / 108
3.エアプランツ
10
しおりを挟む
「お疲れ様です……」
僕は小さい声で挨拶をすると、もう一台のレジに入ってた中村さんと交代しようとした。
「あ、濱田くんさ」
尾賀さんが声をかけてきた。もしかして、お盆の話か、と思って、一瞬身体が強張る。矢島さんには、ちゃんと断れるけれど、尾賀さんはちょっと怖い。外見からしてイケイケ系っていうせいもある。僕は、ビビりながら尾賀さんのほうにチラリと目をやった。
「今週の金曜日の夜って空いてる?」
素早くレジの小銭をとった尾賀さんは、コインケースの中に並べていきながら僕のほうを見た。新しいバイトの女の子は、尾賀さんを真似ながら別のコインケースに詰め込んでる。
「き、金曜日ですか?」
急にそんなことを聞かれて戸惑いながらも、いつもバイト先か大学とアパートとの往復くらいしかない僕に、夜の予定などありはしない。
「別に予定はないですけど」
中村さんはニコニコしながら、僕と尾賀さんの会話を聞いている。いつもなら交代したら、さっさと事務所に戻って行くのに、どうしたんだろう。
「よかった、金曜日、暑気払いやるから」
「暑気払い?」
僕は、ぽかんとしながら、尾賀さんのほうを見ていると、「お願いします」とお客さんが商品を持って現れた。
「あ、い、いらっしゃいませ」
尾賀さんの言葉をちゃんと確認する暇もなく、僕はお客さんの商品を受け取った。
隣はまだ新人だから、手早くできないのがわかってる。尾賀さんがついてても、ワタワタしてるのが想像できてしまう。気が付けばすでに中村さんの姿はなく、僕はすぐにレジ業務を始めた。
暑気払いと言われた金曜日はすぐに来た。
夏休みが始まったから、昼間からの勤務を希望していたので、そのつもりで出勤した。しかし、直前に入った新人の女の子も昼間の希望だったというので、僕の方が折れてもらえないか、と店長からの伝言があった。
あまり遅い時間に若い女の子を帰らせるのもいけない、という店長の判断は、理解はできる。僕でもそう言うと思うから構わないといえば、構わないんだけれど。
「それ、出勤した今、言います?」
そう。その彼女の昼勤務が、今日からだったのだ。
僕は壁に貼られたシフト表を見ながら、夕方の勤務までの待ち時間がだいぶあることに、ため息をつく。
「今って、店長、濱田くんにLINEしなかった?」
そう言われてスマホを確認してみるけれど、店長からのLINEはなくてグループLINEのほうが未読の山だった。
「何、それ。濱田くん、グループLINE、ちゃんと見なきゃだめじゃない」
僕のスマホをのぞきこんだ尾賀さん。確かに、ほとんど読んでなかったのは認めよう。でも、店長から個別にLINEのメッセージはもらってない。
「あら、店長の濱田くんへのメッセージ、グループLINEのほうで見たわよ?」
ちょうど午前中のシフトを終えた久保さんが事務所に入ってきて、タイムカードを押しながら僕に言った。
「え」
僕は慌てて未読の山の中を、店長のメッセージを探す。
「何それ、そういうのは個別にやれって、自分で言ったくせに」
「アハハハ、あの人、そういうところあるよねぇ」
「わ、笑いごとじゃないんですけどっ……って、グループLINE、ほとんど仕事と関係ないことばっかじゃないですか……」
げんなりしながら僕がつぶやくと、「コミュニケーションの一環よ」とカラカラと笑いながら尾賀さんは事務所から出て行った。
「久保さんは暑気払い行くんですか?」
エプロンをハンガーラックにかけていた久保さんに声をかけた。
「私? 行きたいけど、無理。うち、小さい子がいるし、旦那帰り遅いからさ」
「あ、そうなんですね」
「何々、濱田くん、私に来てほしい?」
「え、あ、えーと」
どう答えればいいのか困っていると。
「やだもー、濱田くんカワイイ反応するから、おねーさんは堪らないわっ」
――『おばさん』とは自ら言わないんだなぁ。
なんて思ったことは顔に出さないようにしつつ、へらりと笑って誤魔化した。
僕は小さい声で挨拶をすると、もう一台のレジに入ってた中村さんと交代しようとした。
「あ、濱田くんさ」
尾賀さんが声をかけてきた。もしかして、お盆の話か、と思って、一瞬身体が強張る。矢島さんには、ちゃんと断れるけれど、尾賀さんはちょっと怖い。外見からしてイケイケ系っていうせいもある。僕は、ビビりながら尾賀さんのほうにチラリと目をやった。
「今週の金曜日の夜って空いてる?」
素早くレジの小銭をとった尾賀さんは、コインケースの中に並べていきながら僕のほうを見た。新しいバイトの女の子は、尾賀さんを真似ながら別のコインケースに詰め込んでる。
「き、金曜日ですか?」
急にそんなことを聞かれて戸惑いながらも、いつもバイト先か大学とアパートとの往復くらいしかない僕に、夜の予定などありはしない。
「別に予定はないですけど」
中村さんはニコニコしながら、僕と尾賀さんの会話を聞いている。いつもなら交代したら、さっさと事務所に戻って行くのに、どうしたんだろう。
「よかった、金曜日、暑気払いやるから」
「暑気払い?」
僕は、ぽかんとしながら、尾賀さんのほうを見ていると、「お願いします」とお客さんが商品を持って現れた。
「あ、い、いらっしゃいませ」
尾賀さんの言葉をちゃんと確認する暇もなく、僕はお客さんの商品を受け取った。
隣はまだ新人だから、手早くできないのがわかってる。尾賀さんがついてても、ワタワタしてるのが想像できてしまう。気が付けばすでに中村さんの姿はなく、僕はすぐにレジ業務を始めた。
暑気払いと言われた金曜日はすぐに来た。
夏休みが始まったから、昼間からの勤務を希望していたので、そのつもりで出勤した。しかし、直前に入った新人の女の子も昼間の希望だったというので、僕の方が折れてもらえないか、と店長からの伝言があった。
あまり遅い時間に若い女の子を帰らせるのもいけない、という店長の判断は、理解はできる。僕でもそう言うと思うから構わないといえば、構わないんだけれど。
「それ、出勤した今、言います?」
そう。その彼女の昼勤務が、今日からだったのだ。
僕は壁に貼られたシフト表を見ながら、夕方の勤務までの待ち時間がだいぶあることに、ため息をつく。
「今って、店長、濱田くんにLINEしなかった?」
そう言われてスマホを確認してみるけれど、店長からのLINEはなくてグループLINEのほうが未読の山だった。
「何、それ。濱田くん、グループLINE、ちゃんと見なきゃだめじゃない」
僕のスマホをのぞきこんだ尾賀さん。確かに、ほとんど読んでなかったのは認めよう。でも、店長から個別にLINEのメッセージはもらってない。
「あら、店長の濱田くんへのメッセージ、グループLINEのほうで見たわよ?」
ちょうど午前中のシフトを終えた久保さんが事務所に入ってきて、タイムカードを押しながら僕に言った。
「え」
僕は慌てて未読の山の中を、店長のメッセージを探す。
「何それ、そういうのは個別にやれって、自分で言ったくせに」
「アハハハ、あの人、そういうところあるよねぇ」
「わ、笑いごとじゃないんですけどっ……って、グループLINE、ほとんど仕事と関係ないことばっかじゃないですか……」
げんなりしながら僕がつぶやくと、「コミュニケーションの一環よ」とカラカラと笑いながら尾賀さんは事務所から出て行った。
「久保さんは暑気払い行くんですか?」
エプロンをハンガーラックにかけていた久保さんに声をかけた。
「私? 行きたいけど、無理。うち、小さい子がいるし、旦那帰り遅いからさ」
「あ、そうなんですね」
「何々、濱田くん、私に来てほしい?」
「え、あ、えーと」
どう答えればいいのか困っていると。
「やだもー、濱田くんカワイイ反応するから、おねーさんは堪らないわっ」
――『おばさん』とは自ら言わないんだなぁ。
なんて思ったことは顔に出さないようにしつつ、へらりと笑って誤魔化した。
1
お気に入りに追加
73
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
年上の恋人は優しい上司
木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。
仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。
基本は受け視点(一人称)です。
一日一花BL企画 参加作品も含まれています。
表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!!
完結済みにいたしました。
6月13日、同人誌を発売しました。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる