100均で始まる恋もある

三森のらん

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3.エアプランツ

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「お疲れ様です……」

 僕は小さい声で挨拶をすると、もう一台のレジに入ってた中村さんと交代しようとした。

「あ、濱田くんさ」

 尾賀さんが声をかけてきた。もしかして、お盆の話か、と思って、一瞬身体が強張る。矢島さんには、ちゃんと断れるけれど、尾賀さんはちょっと怖い。外見からしてイケイケ系っていうせいもある。僕は、ビビりながら尾賀さんのほうにチラリと目をやった。

「今週の金曜日の夜って空いてる?」

 素早くレジの小銭をとった尾賀さんは、コインケースの中に並べていきながら僕のほうを見た。新しいバイトの女の子は、尾賀さんを真似ながら別のコインケースに詰め込んでる。

「き、金曜日ですか?」

 急にそんなことを聞かれて戸惑いながらも、いつもバイト先か大学とアパートとの往復くらいしかない僕に、夜の予定などありはしない。

「別に予定はないですけど」

 中村さんはニコニコしながら、僕と尾賀さんの会話を聞いている。いつもなら交代したら、さっさと事務所に戻って行くのに、どうしたんだろう。

「よかった、金曜日、暑気払いやるから」
「暑気払い?」

 僕は、ぽかんとしながら、尾賀さんのほうを見ていると、「お願いします」とお客さんが商品を持って現れた。

「あ、い、いらっしゃいませ」

 尾賀さんの言葉をちゃんと確認する暇もなく、僕はお客さんの商品を受け取った。
 隣はまだ新人だから、手早くできないのがわかってる。尾賀さんがついてても、ワタワタしてるのが想像できてしまう。気が付けばすでに中村さんの姿はなく、僕はすぐにレジ業務を始めた。


 暑気払いと言われた金曜日はすぐに来た。
 夏休みが始まったから、昼間からの勤務を希望していたので、そのつもりで出勤した。しかし、直前に入った新人の女の子も昼間の希望だったというので、僕の方が折れてもらえないか、と店長からの伝言があった。
 あまり遅い時間に若い女の子を帰らせるのもいけない、という店長の判断は、理解はできる。僕でもそう言うと思うから構わないといえば、構わないんだけれど。

「それ、出勤した今、言います?」
 そう。その彼女の昼勤務が、今日からだったのだ。
 僕は壁に貼られたシフト表を見ながら、夕方の勤務までの待ち時間がだいぶあることに、ため息をつく。

「今って、店長、濱田くんにLINEしなかった?」

 そう言われてスマホを確認してみるけれど、店長からのLINEはなくてグループLINEのほうが未読の山だった。

「何、それ。濱田くん、グループLINE、ちゃんと見なきゃだめじゃない」

 僕のスマホをのぞきこんだ尾賀さん。確かに、ほとんど読んでなかったのは認めよう。でも、店長から個別にLINEのメッセージはもらってない。

「あら、店長の濱田くんへのメッセージ、グループLINEのほうで見たわよ?」

 ちょうど午前中のシフトを終えた久保さんが事務所に入ってきて、タイムカードを押しながら僕に言った。

「え」

 僕は慌てて未読の山の中を、店長のメッセージを探す。

「何それ、そういうのは個別にやれって、自分で言ったくせに」
「アハハハ、あの人、そういうところあるよねぇ」
「わ、笑いごとじゃないんですけどっ……って、グループLINE、ほとんど仕事と関係ないことばっかじゃないですか……」

 げんなりしながら僕がつぶやくと、「コミュニケーションの一環よ」とカラカラと笑いながら尾賀さんは事務所から出て行った。

「久保さんは暑気払い行くんですか?」

 エプロンをハンガーラックにかけていた久保さんに声をかけた。

「私? 行きたいけど、無理。うち、小さい子がいるし、旦那帰り遅いからさ」
「あ、そうなんですね」
「何々、濱田くん、私に来てほしい?」
「え、あ、えーと」

 どう答えればいいのか困っていると。

「やだもー、濱田くんカワイイ反応するから、おねーさんは堪らないわっ」

 ――『おばさん』とは自ら言わないんだなぁ。

 なんて思ったことは顔に出さないようにしつつ、へらりと笑って誤魔化した。

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