100均で始まる恋もある

三森のらん

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1.酒のつまみ

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 今日も金曜日の夜がやってきた。
 久々に列ができるほどの混雑で、なかなか釣り銭の準備をする暇がない。

「濱田くん、大丈夫?」

 主任の尾賀さんが受け取りに来たけれど、そんな余裕なんかない。

「すみません、途中までしかできてなくて」

 そう言ってお客さんをなんとか捌いていく。レジのドロワーが開いたタイミングを見て、尾賀さんが釣り銭用のお金をとっていく。
 そんな時、あのおじさんがやってきた。
 目の前に出されたおつまみを袋につめて、渡す時、珍しく目があった。
 なんだか目元に少しクマができているように見える。

「お疲れ様です」

 ポツリと声をかけた僕に、おじさんは少しだけ驚いた顔をした。
 だって、本当に疲れた顔をしてたから、なんとなく、声をかけてあげたくなってしまったのだ。
 チラリと尾賀さんも僕の顔を見たけれど、彼女は釣り銭のほうを優先していた。

「ちょうど頂戴いたします」

 レシートを渡すと、おじさんは今日もズボンのポケットに突っ込むのかと思ったら、今日は長財布の中にレシートを仕舞ってからレジから離れていった。
 いつもと違う行動に、あれ? と思ったけれど、じっくりと観察する時間なんてないほど、列ができてしまっていたので、おじさんのことをちゃんと見ることができなかった。

 閉店の音楽が鳴りだしたころには、お客さんの列も途切れたので、レジ閉めを他の人に任せて、僕は商品の補充と掃除を始める。
 今日も一日、けっこう大変だったなぁ、と思いながら、ふと、あの酒のつまみを買っていくおじさんのことを思い出す。

 あの人、ひどく疲れてるみたいだったなぁ。
 顔色もあまりよくはなかったし。

 他人事なんだけど、なぜかあの人のことが気になって仕方がなかった。
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