100均で始まる恋もある

三森のらん

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1.酒のつまみ

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 それは、僕がようやくレジに慣れ、ちゃんとお客さんを見る余裕ができるようになった頃。今日と同じように、あと1時間もすれば閉店時間という時のことだった。
 レジに入っている僕の目の前に無言でポンと、かわはぎといわしせんべいとカシューナッツ。明らかに酒のつまみだろうな、と思う物が置かれた。

 時間的にも、仕事帰りに酒のつまみを買って帰ろうとしてるんだろう、と思いながら、チラリと見た。その人は、かなり疲れているのか、無表情で、僕が金額を伝えても、ポイっと小銭をカルトン(釣り銭のトレー)に投げ入れるだけだった。
 少し猫背のおじさんは、僕より少し上から見下ろしてくる。
 いや、僕を見ているわけではないんだろうけど。

「ちょうど頂戴します」

 そう言ってレシートを渡しても、そのままの表情で僕が渡したレシートを握りしめてズボンのポケットに突っ込んだ。そして無言で袋を受け取りレジから離れていく。

 毎週金曜日の夜、おじさんは、それを繰り返す。
 だから、僕も覚えてしまった。

 ――金曜日に酒のつまみを買いに来るおじさん。

 金曜日の夜なんて、みんな飲みにいったりするものなんじゃないか、と思ったけれど、この人は家飲み派なのかもしれない、と思った。
 かく言う僕は、そんなに酒に強いわけでもなく、そして一緒に飲みに行く友人がいるわけでもない。だからバイトの帰りは、まっすぐに家に帰るだけだ。

 今日も、あの『金曜日に酒のつまみを買いに来るおじさん』が、つまみの棚の前で立っている。見慣れた猫背と、少し乱れた感じの髪で、すぐにあのおじさんだと気づいた。だから、レジから出ずに、おじさんが来るのを待ってみた。

「……」

 無言でおじさんは今日も、僕の目の前に酒のつまみを置いていく。
 カゴに入れずに手に持ってくるのも、いつものこと。今日は、さきいかフライと、いわしせんべいと……缶詰だ。大和煮の缶詰。

 そういえば、この人は、これと何を合わせて飲むんだろう、と、ふと思った。
 ビール? 日本酒? さすがに、ワインはないだろうな。
 おじさんはいつも、ちょうどの金額を出していく。

「ちょうど頂戴いたします」

 今日もレシートを受け取ると、くしゃりとズボンのポケットに突っ込んだ。

「ありがとうございます」

 いつも通りに、どこか疲れた表情をしながら、何も言わずに猫背のまま離れていく。

「お疲れ様です」

 僕は彼の背中に向かってぽつりと呟いた。
 なんとなく、あの人に言ってあげたくなったから。だけど僕の言葉は、あの人には届かなかったと思う。
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