100均で始まる恋もある

三森のらん

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1.酒のつまみ

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「いらっしゃいませ」

 僕の小さい声では、僕の目の前の人くらいにしか聞こえないそれでも声を出すのは、主任の尾賀さんからそういう風に言われてるから。

 ここは駅ビルの中にある100均の店。かなり大きめなここは、様々なお客さんがくる。
 赤ちゃんを抱えたお母さん、方言まるだしのおじいさんや、おばあさん。会社のお使いにきているOLさん。外出の途中に寄ってるビジネスマン。
 そして、この広いフロアでは、僕の小さい声は通らない。
 白いポロシャツに、紺色の店名が入ったエプロンを着た僕は、黙々とレジの仕事をこなす。

「1点、2点、3点…...」

 レジで商品の数を数えながら、淡々と袋に入れていく。

「ありがとうございました……」

 一人終われば、次のお客さんが僕の目の前に商品を置いていく。その繰り返しが、閉店時間まで続く。

 僕のシフトは大学の講義の時間の関係上、水曜日と金曜日の夕方から閉店までと、週末の昼間の時間帯。レジに入っていない時は、商品の補充でフロアの中を動き回っている。

 ここのバイトを始めたのは、大学の先輩から頼まれたから……というか騙された、が正解か。
 元々は先輩がこの店でバイトをしていたんだけど、内定をもらった会社からバイトに入らないかと言われて、そっちに行くことになって、その先輩の代わりにと、僕が紹介されたのだ。

『時給いいし、お前んとこの家からも近いし、 もともと、コンビニのバイトはしたことはあるんだから大丈夫だろ 』

 そう言われて、なんとかなるのかと思ったけど、ここみたいに忙しい仕事をしたのは初めてで、最初の頃は慣れるまでがかなり大変だった。マジで騙された、と思いながらも、人手不足なのを見ると、辞めるに辞められなくて、現在にいたる。

 気が付けばここでのバイトもそろそろ半年を過ぎて、それなりにこなせるようにはなった。

「濱田くん、釣り銭の用意できてる?」

 僕より少し先輩の中村さんが、レジ脇まできた。少し先輩、といっても、30代のおばさんだけど。僕が少しばかり童顔なせいか、完全に息子扱いされてる気がする。

「はい。これでお願いします」

 レジ下に置いておいた釣り銭用の小さなバックを渡す。これを渡すと、あと1時間で閉店だ、と実感する。

 僕の他にあと二人、レジに入っている人がいるし、お客さんの流れが止まったので、僕はレジ近くの商品の整頓や補充を始めようと、レジから出ようとした。
 その時、僕の目の端に、あの人の後ろ姿が見えた。
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