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9.酒のつまみ、再び

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 朝、会社に向かう俺の両手は、黒の羊革の手袋に包まれている。中のモコモコとした感触が柔らかく温かい。今までは、あまり手袋をすることもなかったので、ほとんど気にもしていなかったが、こうして付けてみると、温かいことこの上ない。自然と口元が緩む。

 これはクリスマスの朝、テルくんがクリスマスプレゼントに、と俺にくれたものだった。若者が使うには、少しばかり渋い感じのもので、本人はそんなことはない、とは言っていたものの、ちょっと高かったんじゃないか、と心配した。きっと買った時には、父親にプレゼントするような物に思われたかもしれない。それでも、テルくんがプレゼントするために行動してくれたことが、俺にはとても嬉しかった。
 一方で、俺の方はテルくんへのプレゼントを買えていなかった。クリスマスイブに買い物に出かけた時に、結局、これ、というのに出会えなかったからだ。もっと早くに気が付けばよかった、と思っても、後の祭り。本人に聞いても、これといって欲しい物が思い浮かばない、というので、今度、一緒に買い物に行こう、と約束をした。でもそれは、年明けになってしまうだろう、と思うと、少し残念でもある。

「おはようございますっ」

 会社のビルの入口で背後から声をかけてきたのは、顔を半分ほどもマフラーに埋めたような遠藤だった。

「おう、おはよう」
「今日も、寒いっすね」
「だな」

 白い息を吐きながら、ビルの中に入っていく。俺たち以外の社員たちも、ぞろぞろと入ってくる流れに身を任せる。

「……それ」
「ん?」

 エレベーターを待つ俺の隣に立った遠藤が、チラリと視線を下に向ける。何を見ているのかと、俺もその視線の先を追う。

「プレゼントっすか」
「あっ?」
「その手袋」

 遠藤の指が俺の手を指す。クリスマス当日から付けてはいたが、朝のこの時間に遠藤と会うのは久しぶりだった。人に指摘されると、なんとも照れ臭い気分になる。しかし、それを顔に出すことなく、俺はただニヤッと笑いを返す。

「うわ、なんか、ムカつくんですけど」
「何がムカつくんですか」

 どこか呆れたような顔をした遠藤の後ろから現れたのは、興味津々な顔で少し鼻を赤くしている小島だった。遠藤のほうは、小島の登場に、一層、顔を顰めている。

「なんでもない。ほら、エレベーター来たぞ」

 俺たちはすでに満杯になりかけているエレベーターに乗り込む。蒸し蒸ししたエレベーターの中、俺の背後に立った小島が「ねぇ、何がムカつくんですか」と小さな声で遠藤に絡み続けている。しかし、遠藤は完全に無視。そりゃそうだ。他の社員もいる中で、おしゃべりをしているのは小島だけ。俺が小さなため息をつくと同時に、エレベーターのドアが開いた。
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