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8.クリスマスツリー

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 自宅に濱田くんを入れたのは初めてはないが、彼が俺と一緒に玄関に立っていると思ったら、抑えていた感情が溢れでてくる。
 濱田くんには、できるだけ大人として振舞いたい、大事にしたい、そういう思いもあるけれど、目の前の彼の華奢な背中を見たら、抱きしめたくなり、勝手に身体は動いていた。
 強く抱きしめる、たったそれだけのことなのに、濱田くんの首筋から耳にかけてが真っ赤に色づく。その様が愛しくて、赤く染まった小さな耳に、つい唇を寄せてしまう。
 課でのクリスマスパーティでも、中華料理店でも、そんなに酒を飲んだわけではないし、けして弱いほうでもない。
 しかし、目の前の濱田くんの匂いや表情に、つい箍が外れそうになった。
 俺の腕の中から、恥ずかしそうに逃げようとする濱田くんに、ゾクッとするような色気を感じる。無意識なのだろうが、こんな彼を他の誰かが知っていたら、と、少しだけ怖くなる。
 耳を軽く食んで嬲っただけで上がる甘い喘ぎ声に、一瞬で冷静さなど消え去り、少し強引に唇を奪ってしまう。俺との口づけに必死になってしがみつく様に、このまま、ここで、なんて大人げないことを考えてしまいそうになった。

「ふんっ……んはぁ、んんんっ」
「んっ……、んん、はぁっ……」


 蕩けたような表情の濱田くんに、思わず、ごくりと喉をならしそうになる。俺は、それを取り繕うように濱田くんに軽くキスをした。

「寒いだろ。早く、あがって」
「は、はい……」

 リビングに向かいながら、後をついてくる濱田くんを意識してしまう。俺はネクタイを緩めながら振り返り、まだ少し顔が赤い濱田くんをジッと見つめる。

「濱田くん……今日は……帰らなくていいんだよね?」

 その言葉で、微かな赤みから見事に真っ赤に変わる。その変化に俺の方が少し驚くくらいだ。小さく頷いた濱田くんに、俺は内心、ホッとした。俺はジャケットをソファに放り投げると、部屋の中がかなり冷えていたことに、今更、気が付いて、エアコンをつけた。

「じゃあ、風呂、沸かしてくるから、その辺、座ってて」

 ワイシャツの袖を腕まくりして、浴室へと向かおうとした時。

「あ、あのっ……お線香、あげてもいいですか」

 濱田くんの声に振り向くと、なんとか笑顔を浮かべようとして、失敗したような顔で俺を見つめていた。
 どうしてこの子は、こんなに律義なんだろう。彼の、どこか必死な感じに愛しさを覚える。
 そして同時に、彼の言葉でさおりと静流の笑顔が頭の中をよぎる。
 もう二人は、この家にはいない。それを再認識させ、胸の奥に小さな痛みを感じさせる。彼は、そんなこととは思いもしないのだろうが。

「……かまわないよ」

 俺はそう返事だけをして、浴室へと向かった。
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