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8.クリスマスツリー

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 今、目の前では濱田くんが必死に焼き魚と格闘している。そして隣にはのんびりと茶をすすっている遠藤。まったく、なんだって遠藤がついてくるんだ、と苛立ちを覚えながらも、濱田くんの手前、文句の言いようもない。

「すみません、食べるの遅くて」

 濱田くんが申し訳なさそうに言う姿に、密かに胸の奥がキュンとなる。自分でも「キュン」とか、恥ずかしいだろ、と思っている。でも、そう感じるのだから仕方がない。なんとか、にやけそうになるのを、遠藤に隠すためにも、俺は一旦、手洗いへと席をはずした。
 狭い手洗いのガラスに映る俺の顔は、案の定、だらしない顔になっている。

「まったく、なんで、あんなに可愛いんだろうな」

 遠藤には、知り合いの息子と紹介したものの、一瞬、濱田くんが不安そうな顔をしたのが忘れられない。さっさと遠藤とは別れて、少しでも濱田くんを安心させてあげたい。

「よしっ」

 気合を入れなおして席に戻ってみると、そこには遠藤しか残っていなかった。

「あれ? 濱田くんは」
「先に帰りましたよ」
「は?」

 俺は思わず、のんびりと茶をすする遠藤をガン見した。あの濱田くんが、一言もなく帰るなんて、遠藤に何か言われたのか?
 俺は慌ててコートと荷物を手にした。

「え? 山本課長」

 驚いたような声をあげた遠藤を残し、俺は慌てて店を飛び出した。濱田くんの後ろ姿が、もうすぐ駅の階段というところをトボトボと歩いているのに気が付いた。背を丸めて歩く姿に、俺の手は真っすぐ伸びた。

「や、山本さん!?」

 肩を掴んで振り向かせると、涙で目を真っ赤にして驚いた顔の濱田くん。鼻の頭も赤くなっている。

「は、濱田くんが先に帰ったっていうから」

 必死に追いかけるなんて、いつぶりだ?と思うくらいで、荒い息を必死に落ち着かせようとする。こんなに走ったのなんて、静流と追いかけっこした時以来じゃないだろうか。

「も、もう……1日に……2回も走らされるとは……」
「え、えと……す、すみません?」

 困ったような顔で謝る濱田くん。

「まったく……こんな、ところで……運動不足を実感させられるとはな……」

 思い切り背を伸ばし、大きく息を吐くと、もう一度濱田くんの顔を覗き込む。

「濱田くん……泣いてたのか」
「な、泣いてませんっ」

 そう答えながらも、涙は次々に溢れてくる。

「遠藤に何か言われた?」
「……」

 今度は俺の問いに答えずに、俯いてしまう。何を言われたのか、酷く気になった。しかし、口をつぐんでいる濱田くんから、無理やり聞き出すわけにもいかず、俺は彼の頭を優しくポンポンとたたいた。
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