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8.クリスマスツリー

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 気が付けば、パソコンの時間の表示がすでに20時を過ぎていた。この時間になっても残っているのは、うちの課では俺と遠藤だけ。隣を見れば、小笠原と葛木が残っている。
 葛木といえば、八巻さんとのことはどうなったのか。なかなかタイミングがなくて聞けないでいる。しかし以前に比べれば、八巻さんのアプローチも、目に見えてだいぶ落ち着いたようではあった。
 仕事のキリが良かったので、ちょっと息抜きに、と濱田くんにメールを送るためにスマホを取り出した。メールの履歴を見ると、濱田くんの名前ばかりが並んでいる。
 確か、濱田くんは今日もバイトのはずだった。大学が冬休みに入った途端、シフトを詰め込まれてしまったと、嘆いていたのを思い出し、笑みを浮かべる。今頃はレジにでも入っている頃だろう。もう少し早くに仕事が切り上げられれば、今日も飯にでも誘いたいところだが、彼を待たせることになるのが目に見えていた。
 
『お疲れ様。今日もバイトだね。気を付けて帰るように』

 送信を確認して、スマホをパソコンの脇に置く。小一時間もあれば、自分の分は今日中にまとめておきたいところまでできるだろう。その上で、遠藤の資料と統合して……と、手順を考える。肝心の遠藤の方は、ずいぶん集中しているようで、眉間に皺をよせている。

「よしっ」

 小さい声で気合を入れると、手元の書類をチェックし始めた。すると、いきなりマナーモードに設定しているスマホが震えた。スマホを見てみると、メールの着信のランプが点滅している。もしかして、と思って確認してみると、案の定、濱田くんからのメールだった。

『お疲れ様です。今、帰りですか? もし、よかったら、ご飯食べませんか』


 彼から食事を誘ってくれたのは、これが初めてだった。
 いつもは、俺がバイトの後に濱田くんを捕まえて一緒に飯を食いに行っていた。こんな風に彼から誘ってくれたことを単純に嬉しく思う反面、濱田くんにしては珍しい行動に、逆に心配になった。彼に何かあったのだろうか。
 気になりだしたら、居ても立っても居られなくなる。このままじゃ、仕事も集中できない。

「ちょっと出てくるわ」

 パソコンに向かっていた遠藤にそう声をかけると、コートも着ずにフロアを飛び出していた。背後で何か声をかけられたような気もしたが、その返事も出来なかった。
 うちの会社から、百均の店まではのんびり歩くと15分くらいかかる。当然、そんな心の余裕があるわけもない。俺は年甲斐もなく、駅に向かって帰宅する人たちの間の道を縫うように走った。
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