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7.オーナメント
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レジのほうは長蛇の列になっていた。どうもレジの女の子が一人、外国人相手に手間取っているようで、しばらくかかりそうだ。濱田くんのほうは、フロアに姿が見えないところを見ると、倉庫にでも籠っているのだろう。
俺を避けてなのか、と思うと、ちょっと悔しい。長期戦か、と思った俺は、ムッとしながらカゴの中にポンポンとお菓子やつまみを入れていく。気が付くと、カゴがいっぱいになってしまった。
再びベルが鳴った。振り向くと、さっきよりも列が長くなっている。外国人がかなり手ごわいのだろうか。すると、その列の脇を「すみません、すみません」と何度も頭を下げながら、濱田くんが通り抜けていく姿が見えた。
「やっと出てきた」
思わず、ポツリと呟く。
彼が手伝いに入ったからか、どんどん列が短くなっていく。気が付けば、女の子から濱田くんにレジが変わっていた。合間合間に、隣のレジの女性とにこやかに話している姿に、イラっとしてしまう。ほとんど並ぶ人がいなくなった頃、俺はお菓子で山盛りのカゴを持って、彼の目の前に立った。
「いらっしゃいま……せ」
俺の顔を見て一瞬固まり、手元のカゴを見て顔を引きつらせた。確かに、今までにないくらいボリュームではある。
「あ、えーと」
キョトキョトと隣のレジの女性を見ているが、彼女のほうも接客中で、濱田くんも諦めざるを得ない。仕方なくなのだろう、俺のカゴに顔を向けると、なぜか少し口元を緩めていた。その表情を見て、俺も内心ホッとした。しかし、濱田くんは俺の方を見ることをなく、商品のバーコードを読んでいく。
「1点、2点、3点……こちは同じものが3点ですね……」
ジッと彼を見つめていると、耳が赤くなっているのに気が付く。声のトーンは変わらないけれど、俺のことを意識してるがわかる。
「合計3240円です」
それでも俺のほうを見ることはなく、お金を入れる青い受け皿を差し出してきた。財布から4000円を出して載せる。
「760円のお返しです」
レシートと一緒につり銭を俺の掌の上に渡してきたが、やっぱり視線は重ならない。だけど、俺の方はこのまま、何も話さずに終わらせるつもりはなかった。
「何か書くものありますか」
俺が濱田くんにそう声をかけると、慌てたようにボールペンを差し出した。
それを受け取ると、俺はレシートの裏に自分の携帯番号を書くと、彼に渡した。濱田くんはポカンとした顔で受け取ってくれたが、俺は後ろに小学生くらいの子が待っているのに気が付いたので、ビニール袋を受け取ると、さっさとその場を離れた。
彼が電話をしてくれればいいけれど、散々逃げていた彼が素直にかけてくるとは思えない。俺は、彼がバイトが終わるまで、そばにある喫茶スペースで時間を潰すことにした。昼間のこの時間帯は、やたらと若い女の子たちが多くて、完全に俺の存在はアウェーな状態だったが、濱田くんの様子を把握するには、ここから見るしかない。
俺がこんなところで見ているなんて気付いていない濱田くんは、レジに入ったり、フロアを動きまわったりと忙しそうにしている。こんな風に、働いている彼を見つめることはなかったから、少し、新鮮な気持ちになる。
「まるでストーカーみたいだな」
そう呟きながら、苦笑いを浮かべる。俺はブレンドコーヒーを飲みつつ、百均の店のほうを見つめ続けた。
俺を避けてなのか、と思うと、ちょっと悔しい。長期戦か、と思った俺は、ムッとしながらカゴの中にポンポンとお菓子やつまみを入れていく。気が付くと、カゴがいっぱいになってしまった。
再びベルが鳴った。振り向くと、さっきよりも列が長くなっている。外国人がかなり手ごわいのだろうか。すると、その列の脇を「すみません、すみません」と何度も頭を下げながら、濱田くんが通り抜けていく姿が見えた。
「やっと出てきた」
思わず、ポツリと呟く。
彼が手伝いに入ったからか、どんどん列が短くなっていく。気が付けば、女の子から濱田くんにレジが変わっていた。合間合間に、隣のレジの女性とにこやかに話している姿に、イラっとしてしまう。ほとんど並ぶ人がいなくなった頃、俺はお菓子で山盛りのカゴを持って、彼の目の前に立った。
「いらっしゃいま……せ」
俺の顔を見て一瞬固まり、手元のカゴを見て顔を引きつらせた。確かに、今までにないくらいボリュームではある。
「あ、えーと」
キョトキョトと隣のレジの女性を見ているが、彼女のほうも接客中で、濱田くんも諦めざるを得ない。仕方なくなのだろう、俺のカゴに顔を向けると、なぜか少し口元を緩めていた。その表情を見て、俺も内心ホッとした。しかし、濱田くんは俺の方を見ることをなく、商品のバーコードを読んでいく。
「1点、2点、3点……こちは同じものが3点ですね……」
ジッと彼を見つめていると、耳が赤くなっているのに気が付く。声のトーンは変わらないけれど、俺のことを意識してるがわかる。
「合計3240円です」
それでも俺のほうを見ることはなく、お金を入れる青い受け皿を差し出してきた。財布から4000円を出して載せる。
「760円のお返しです」
レシートと一緒につり銭を俺の掌の上に渡してきたが、やっぱり視線は重ならない。だけど、俺の方はこのまま、何も話さずに終わらせるつもりはなかった。
「何か書くものありますか」
俺が濱田くんにそう声をかけると、慌てたようにボールペンを差し出した。
それを受け取ると、俺はレシートの裏に自分の携帯番号を書くと、彼に渡した。濱田くんはポカンとした顔で受け取ってくれたが、俺は後ろに小学生くらいの子が待っているのに気が付いたので、ビニール袋を受け取ると、さっさとその場を離れた。
彼が電話をしてくれればいいけれど、散々逃げていた彼が素直にかけてくるとは思えない。俺は、彼がバイトが終わるまで、そばにある喫茶スペースで時間を潰すことにした。昼間のこの時間帯は、やたらと若い女の子たちが多くて、完全に俺の存在はアウェーな状態だったが、濱田くんの様子を把握するには、ここから見るしかない。
俺がこんなところで見ているなんて気付いていない濱田くんは、レジに入ったり、フロアを動きまわったりと忙しそうにしている。こんな風に、働いている彼を見つめることはなかったから、少し、新鮮な気持ちになる。
「まるでストーカーみたいだな」
そう呟きながら、苦笑いを浮かべる。俺はブレンドコーヒーを飲みつつ、百均の店のほうを見つめ続けた。
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