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6.ジャック・オー・ランタン

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 駅に向かう道を久しぶりに走った。
 濱田くんがどこに住んでいるのかまでは知らない。とにかく、まずは駅に向かうしかない、と単純に思った。最近はすっかり運動もしていないし、彼が走って逃げていたら追いつかない可能性もあったけれど、そんなことを考える余裕などなかったし、結果として、それは杞憂でしかなかった。
 まだ駅まで半分くらいの距離があるところで、しゃがみこんでいる人影が見えた。その人がゆっくり立ち上がり、俺の方を振り向いた。街灯に照らされた顔。濱田くんだ。追いついた、と思い、そのまま駆け寄ろうとしたら、濱田くんが驚いた顔をして慌てたように駆けだそうとして……転んだ。

「いってぇぇっ……」

 濱田くんの痛みをこらえる小さな声が聞こえた。

「大丈夫かっ!?」
「えっ!?」

 駆け寄って声をかけると、目を大きく見開いて顔を真っ赤にしながら俺を見つめている。

「濱田くん」

 俺の呼びかけに反応しなくて、心配になる。

「……」
「おい、本当に大丈夫か?」


 思わず、彼の肩をつかんで身体を軽く揺さぶる。そこでようやく、ハッとしたような顔をした。


「は、はいっ」
「よかった。怪我とかしてないか?」

 ジーンズの膝頭あたりに手を伸ばし、様子をみようとすると、「大丈夫ですっ」と立ち上がり、頭を下げて駅に向かおうとする。俺は、そんな彼の腕を掴んだ。


「ちょっと、待って」
「えっ」
「濱田くん、玄関に置いてったよね?」
「……」
「置いてったよね」 

 強く確認する言葉に、濱田くんは顔を赤くしたまま、困ったような顔をした。彼の視線が徐々に足元へと落ちていく。素直に答えてくれない濱田くん。たぶん、彼なりに恥ずかしかったのだろう。
 彼の性格をちゃんと理解しているわけではないけれど、恥ずかしがり屋なのだろう、というくらい、わかる。だから、あんな風に玄関のドアに置いていったのかもしれない。
 別に俺は怒っているわけでもないけれど、彼にはそう聞こえてしまったのだろうか。俺が掴んでいた腕の力が、まるで、怒られる覚悟をしたかのように抜けていく。
 掴んでいた腕から手を離し、肩に手を置き、できるだけ優しく声をかける。

「こんな遅い時間なのに、わざわざ、ありがとう」

 感謝の気持ちをこめて、彼の頭をポンポンと軽く叩いた。すると、困惑気味な表情で俺を見上げてきた。その表情に、俺の方は申し訳なくなる。怖がらせてしまったかな、と。
 そして、思い出す。この時間じゃ、バイトが終わってすぐだろう。まだ飯を食ってないんじゃないだろうか。それなのに、わざわざ来てくれたことに、少なからず嬉しくなる。だから多少強引ながらも、彼を夕飯に誘った。
 始めは戸惑っていたものの、俺の説得に徐々に気持ちが傾いてきていた濱田くん。だから、少し冗談っぽく「お菓子をもらったから、いたずらはしないから」と言うと、「えぇっ!?」と濱田くんは驚いた顔をした。俺は濱田くんの同意を聞かずに、わが家へと足を向ける。こっそりと後ろを振り向くと、少し遅れながらも、濱田くんがちゃんと後をついてきてくれていた。
 それにホッとしている俺がいた。
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