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6.ジャック・オー・ランタン

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 なんとか閉店する少し前に間に合った。俺以外にも、まだカゴを持って歩いている人がちらほらいるにはいるが、そんなに多くはない。店の商品の色合いが黒とオレンジが多いのを見て、再びハロウィンだというのを思い出す。そういえば飲み会では、ハロウィンの話すら出てこなかった。完全に八巻さんに持ってかれたなぁ、と苦笑いを浮かべながら、いつものようにつまみの棚へと向かう。
 今日は目についたのを手に取ったら、アーモンド小魚、砂肝ジャーキーになっていた。あともう一つ、何にしようか迷った時、なぜかコンソメ味のポテトチップスに心が惹かれた。最近は、あまりポテトチップスを食べることはない。
 手に取って、そういえば、いつ以来だ? と考えていた時、レジのほうで濱田くんの「ありがとうございました」という小さな声が聞こえた。視線を向けると、レジに入っている濱田くんの姿が目に入った。相変わらず、この時間になると、疲れた顔をしているのが遠くからでもわかる。ポテトチップスをカゴに入れると、レジのほうへと向かった。

「こんばんわ」

 俺の声にびっくりした濱田くん。ふと、彼の頬に何か傷のようなものがついているようだったが、濱田くんの照れ臭そうな笑顔の方に目がいく。

「お、お疲れ様です」
「ん、ああ」

 ちょっとため息をついた俺に「飲み会ですか?」と少し微笑みながら聞いてきた。そう言われて、ふと酒臭いのかと気になった。

 「ああ、ちょっと部署のね。何、酒臭い?」

 そう問いかけると、苦笑いで「え、いえ。そんなに」と答えられてしまった。そんなに飲んだつもりはなかったのだが。

「そんなにって、やっぱり臭うのか」

 俺の呟きに返事をせず、金額を言うとつまみを袋に詰め込んでいく濱田くんの頬に、再び目がいく。やっぱり、傷のシールか何かなんだろう。これもハロウィンのグッズなんだろうか。つい、無意識にその傷のシールへと手を伸ばしてしまった。

「えっ?」

 少し触れただけだというのに、濱田くんに思い切り逃げられたしまった。それも、驚くほど真っ赤になってしまって、こっちのほうが申し訳ないくらいに。もしかして、あまり、人に触れられるのは苦手だったりするのだろうか。

「あ、ああ、ごめん。怪我をしてるわけじゃないのはわかってるんだが……つい手が」
「い、いえっ、だ、大丈夫ですっ」

 視線を外して否定する濱田くんに、俺も慌て気味に財布から五百円玉を取り出し、台の上の青いお金を置く皿に出した。濱田くんは懸命につり銭を数えて、俺の差し出した掌に小銭を置こうとした。

「あっ」

 微かに濱田くんの焦った声が聞こえた。掌にはちゃんと小銭が乗っている。何かあったか? と思ったけれど、それを問いかける暇もなく、後ろから豪快なおばさんに押しのけられてしまった。
 濱田くんの小さな「ありがとうございました」を、なんとか聞くことができただけ。チラッと見えた濱田くんは、相変わらず顔は赤いまま。何か俺の方が悪いことをしてしまった気がして、なんとなく去りがたかった。しかし、濱田くんはこちらを見ようともせずレジに向かっていて、話しかける雰囲気でもなく。俺は仕方なく、つまみの入った袋を持ち直して家へと向かった。
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