10 / 93
3.エアプランツ
10
しおりを挟む
今日は小島と遠藤を残して、俺の方が先にフロアを後にした。いつもの金曜日なら、この二人は確実に退社している時間だ。しかし今日は、毎度のごとくミスした小島の面倒を、遠藤がみるはめになったのだ。
俺も何か手伝えることはないかと思ったが、遠藤が「甘やかさないでください」と、いつになく厳しい顔つきだったので、そのまま任せて会社を出てきてしまった。週明け、どうなっているのか心配ではあるが、遠藤がいるから、たぶん、大丈夫だろう。
会社を出ると、すっかり日は落ちていたが、昼間の熱気がまだ居座っている。いつの間にかに梅雨が明けてくれたのはありがたいことなのかもしれないが、外回りをする身の上としては、もう夏かと思うと、げんなりする。
半袖だと寒いくらいだった会社の中から、熱い空気に触れたせいなのか、ジワリと額に汗が滲んでくる。俺はいつも通りにつまみを買いに百均に向かった。
駅ビルの中は、会社の中と同じくらいにひんやりとしていた。建物に入った最初は気持ちいいのに、一気に冷やされるせいで、すぐに寒いと感じてしまう。さっさとつまみを買って帰ろうと、つまみの棚で適当にアーモンド小魚、さきいかを手に取った。
もう一品を何にしようかと悩んでいると、後ろで、母親とその子供なのか、親子連れが缶詰の前で言い合いとしていた。
「さば缶、飽きた」
「は? 何言ってるの。身体にいいのよ」
「えぇぇぇ」
確かに、さば缶はたまに食べると旨い。味噌煮もいいが、俺は水煮のほうが好きだ。
チラリと振り向いてみると、味噌煮と水煮と両方置いてある。久しぶりに水煮でも買って帰るか、と思ったら、その母親が棚に残っていた水煮をカゴの中に入れていく。
子供が母親の腕にしがみつく。
「そんなにいらないよー」
「みんなで食べたら、すぐなくなるんだからいいの」
結局その母親は、棚にあったさばの水煮の缶詰をありったけカゴの中におさめると、親子そろって別の商品の棚のほうに消えていった。
何人家族なんだ、と呆れながら、再び棚のほうを見ると、味噌煮だけが残っていた。しかし、なんとなくそれに手を伸ばす気は起きず、俺の目はその隣の棚にあったアンチョビの缶詰のほうに向いた。
そういえば、缶詰を火にかけて食べるっていうのを、前に何かで見た気がした。テレビだったか、雑誌だったか。たまにはスマホででも調べて、やってみるのもいいかもしれない。俺はアンチョビの缶詰を手に取ると、レジに向かった。
俺も何か手伝えることはないかと思ったが、遠藤が「甘やかさないでください」と、いつになく厳しい顔つきだったので、そのまま任せて会社を出てきてしまった。週明け、どうなっているのか心配ではあるが、遠藤がいるから、たぶん、大丈夫だろう。
会社を出ると、すっかり日は落ちていたが、昼間の熱気がまだ居座っている。いつの間にかに梅雨が明けてくれたのはありがたいことなのかもしれないが、外回りをする身の上としては、もう夏かと思うと、げんなりする。
半袖だと寒いくらいだった会社の中から、熱い空気に触れたせいなのか、ジワリと額に汗が滲んでくる。俺はいつも通りにつまみを買いに百均に向かった。
駅ビルの中は、会社の中と同じくらいにひんやりとしていた。建物に入った最初は気持ちいいのに、一気に冷やされるせいで、すぐに寒いと感じてしまう。さっさとつまみを買って帰ろうと、つまみの棚で適当にアーモンド小魚、さきいかを手に取った。
もう一品を何にしようかと悩んでいると、後ろで、母親とその子供なのか、親子連れが缶詰の前で言い合いとしていた。
「さば缶、飽きた」
「は? 何言ってるの。身体にいいのよ」
「えぇぇぇ」
確かに、さば缶はたまに食べると旨い。味噌煮もいいが、俺は水煮のほうが好きだ。
チラリと振り向いてみると、味噌煮と水煮と両方置いてある。久しぶりに水煮でも買って帰るか、と思ったら、その母親が棚に残っていた水煮をカゴの中に入れていく。
子供が母親の腕にしがみつく。
「そんなにいらないよー」
「みんなで食べたら、すぐなくなるんだからいいの」
結局その母親は、棚にあったさばの水煮の缶詰をありったけカゴの中におさめると、親子そろって別の商品の棚のほうに消えていった。
何人家族なんだ、と呆れながら、再び棚のほうを見ると、味噌煮だけが残っていた。しかし、なんとなくそれに手を伸ばす気は起きず、俺の目はその隣の棚にあったアンチョビの缶詰のほうに向いた。
そういえば、缶詰を火にかけて食べるっていうのを、前に何かで見た気がした。テレビだったか、雑誌だったか。たまにはスマホででも調べて、やってみるのもいいかもしれない。俺はアンチョビの缶詰を手に取ると、レジに向かった。
1
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説
ハイスペックED~元凶の貧乏大学生と同居生活~
みきち@書籍発売中!
BL
イケメン投資家(24)が、学生時代に初恋拗らせてEDになり、元凶の貧乏大学生(19)と同居する話。
成り行きで添い寝してたらとんでも関係になっちゃう、コメディ風+お料理要素あり♪
イケメン投資家(高見)×貧乏大学生(主人公:凛)
好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
年上の恋人は優しい上司
木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。
仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。
基本は受け視点(一人称)です。
一日一花BL企画 参加作品も含まれています。
表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!!
完結済みにいたしました。
6月13日、同人誌を発売しました。
少年ペット契約
眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。
↑上記作品を知らなくても読めます。
小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。
趣味は布団でゴロゴロする事。
ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。
文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。
文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。
文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。
三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。
文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。
※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。
※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。
イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話
タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。
瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。
笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。
潜入した僕、専属メイドとしてラブラブセックスしまくる話
ずー子
BL
敵陣にスパイ潜入した美少年がそのままボスに気に入られて女装でラブラブセックスしまくる話です。冒頭とエピローグだけ載せました。
悪のイケオジ×スパイ美少年。魔王×勇者がお好きな方は多分好きだと思います。女装シーン書くのとっても楽しかったです。可愛い男の娘、最強。
本編気になる方はPixivのページをチェックしてみてくださいませ!
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=21381209
初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる