ぬるいミルクに、熱いハチミツ

三森のらん

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 俺のため息に気が付いたのか、ホワイトさんは一瞬、『おや?』という顔をした。だけど、そこは接客業、すぐに『ナミちゃん』たちへ営業スマイルを浮かべてる。

「そうでしたか。上原くん、今日はどうして?」

 彼女たちに向けるものとは明らかに違う、優しい笑顔で、俺の手元のトレーに目を向けた。ああっ、ホットミルク飲んでたのが、バレちゃう?

「え、あ、ちょっと用事で」

 俺は慌ててトレーを持って返却口のほうへと歩いていくと、俺の後をホワイトさんがついてくる。『ナミちゃん』が何やら言ってるようだけど、俺は完全に無視だ。

「そうなんだ。もう帰るのかい?」

 ちょっと砕けた感じの話し方になってるホワイトさん。残念そうな声に、ちょっとだけ嬉しく感じる俺。子供みたいだな、と内心で苦笑い。

「そうですね。もう用は済んだんで」

 余計な出会いはあったものの、目的のホットミルクは飲めたし、いつまでもここにいると『ナミちゃん』たちにもっと絡まれそうだし。本当は、もう少し、話をしていたい気もしたけれど、ホワイトさんは明らかに仕事中だ。
 返却口にトレーを置くと、ふと、どうしてホワイトさんがここにいるのか、疑問に思った。もしかして、こっちに異動にでもなったんだろうか。

「実は、ここの店長が入院しちゃってね。一週間だけ、こっちの面倒をみることになったんだ」

 思ったことを素直に聞いてみると、ホワイトさんは困ったような顔で、そう答えた。自分の店とは若干勝手が違うのか、色々とスタッフへ注意しなくちゃいけないことが多くて大変なんだ、と、少しだけ愚痴っぽいことを言う姿に、いつもは大人でカッコいいホワイトさんなのに、なんだか可愛いとか思ってしまった。

「よく朝にいた女の子は?」

 名前覚えてないのを申し訳なく思いつつ聞いてみると、彼女は彼女で本店に研修に行っているらしい。

「次期店長候補なんでね」

 そう言って、バチンという音がしそうなウィンクをしてみせた。ということは、ホワイトさんの代わりにあの店の店長になるんだろうか。凄いなって、思う半面、ホワイトさんがいなくなっちゃうのか、と寂しくなる。

「ああ、でもあの店のじゃないよ。新店が別に出来るんだ。そこに彼女が行く予定。まだ、少し先だけどね」

 俺の気持ちが伝わったのか、ホワイトさんが笑いながら教えてくれた。俺って、そんなにわかりやすいんだろうか? なんだか少し恥ずかしい。

「店長!」

 カウンターの方からホワイトさんを呼ぶ声が聞こえた。見るとレジ前のカウンターにけっこう長い列ができている。その様子に、ホワイトさんの顔が引き締まる。

「ごめんね。もう少し話したいけど。来週には、またあっちに戻るから、その時にね」
「あ、え、はい」
「じゃぁね」

 去り際に片手を上げると、小走りにカウンターの中に入っていくホワイトさん。やっぱりイケメンは何をやってもカッコいいなぁ、とつくづく思った瞬間だった。
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