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3杯目

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 スマホを片手に、俺はカフェオレと餡バタートーストを待っている。
 今日も母さんと弟の征史郎からの『いってきます』というメッセージを確認して、ホッとする。ここのところ、同じような時間に出勤していたこともあって、慌ただしくてまともに話をしてなかった。俺が夜勤のほうが、よっぽども話ができる。

「えーと、今日の夕飯は……」

 母さんの続きのメッセージを見ると、どうも今日はカレーがいいらしい。冷蔵庫に野菜の在庫があったか微妙だが、面倒だから一気にまとめて買えばいいだろう。すぐに痛むようなものでもない。朝食をとったら、そのまま食品売り場に直行してしまえば、二度手間も省ける。そう思ってスマホの画面を消した時。

「お待たせしました」

 背後からホワイトさんが声をかけてきた。驚いて振り向くと、ホワイトさんがカフェオレと餡バタートーストが載ったトレーを持って立っていた。いつから、そこに立ってたのか、全然気が付かなかった。

「あ、ありがとうございます」

 俺はなんとか笑みを浮かべながらトレーを受け取る。そこには頼んだ物の他に、ゆで卵と……小さなサラダが載っていた。

「え、あの、俺、頼んでないです」

 焦ってホワイトさんの顔とサラダを何度も往復する。だって、本当に頼んでいないのだ。

「ん、それはオマケ」

 うわ、なんかキラキラがバージョンアップしたような笑顔。

「いや、でも、それは」
「ほら、早く食べないと、トースト、冷めちゃうよ」
「ホワイトさん」
「男の子だったら、もっと食べないと大きくなれないぞ」

 ニッコリ笑いながら、さりげに酷いことを言うホワイトさん。最後の言葉が何気に傷つくというか。思い切り『ガーン』という音が、俺の頭の上に浮かんだ気がする。そんな俺をよそに、ホワイトさんはカウンターの方へと戻っていく。俺はその背中を見送ると、渡されたトレーをテーブルに置いた。
 小さなサラダは、セットメニューについてくるヤツで、俺はほとんど食べたことはない。本当に食べていいんだろうか、と、チラリとカウンターのほうに目を向けると、裏から出てきてた女の子のスタッフの子と目があった。
 するとなぜだか、彼女は親指を立てて満面の笑みを浮かべてる。なんでだ?と、思いつつも、俺はへらっと笑顔を浮かべて、再びトレーに目を向ける。せっかく頂いたのだし、これを残す方が失礼だろう。俺はポツリと「いただきます」と呟いて、フォークを手にするとサラダの中のレタスに突き刺した。
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