ぬるいミルクに、熱いハチミツ

三森のらん

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 夜勤明け、大きく伸びをすると、自然と漏れる声。そしてあくびが一つ。
 今日も問題なく、仕事が終わり、ホッとする。そろそろ、昼の勤務の人たちや、早くから仕事の始まる従業員たちがやってくる時間だ。

「お疲れ~」

 西山さんが小さな缶コーヒーを差し出しながら、声をかけてくれた。缶の柄をよく見ると、最近よくテレビのCMで見るやつだ。

「お疲れ様ですっ」

 缶コーヒーを受け取り、両手で包み込む。

 ――あったけぇ。

 なんともいえない温もりに、つい顔が緩む。

「あー、上原くんじゃーん」

 受付のところから頭をのぞかせ声をかけてきたのは、私服姿の木村さんだった。

「あ、おはようございますっ」
「おはよう~」

 俺が慌てて挨拶すると、ひらひらと手を振って去っていく。

「木村に気に入られたみたいだな」

 缶コーヒーの蓋を開けて、口をつけている木村さん。う、コーヒーのいい匂いが俺のところまで届く。俺もすんごい飲みたくなったけれど、久しぶりにカフェ・ボニータのカフェオレがすごく飲みたい。俺は受け取った缶コーヒーを、制服のポケットに突っ込む。

「そうっすか?」
「ああ、あいつ、気にいったヤツにしか、挨拶しないし」
「え? でも、普通に先輩とかには挨拶してましたよ?」

 昼勤務の時を思い出す。うん、普通だったぞ?

「そりゃ、仕事だからな。でも、自分より下のヤツとかには、あからさまに態度変わらるから」
「……そうなんですか?」

 そういうのが想像できなくて、首を傾げる。館内を回っている間は、いつも女性たちに笑顔を振りまいてたような。

「ほれ、お前ら、そろそろ上がる時間だろ」

 高田さんはまだなのか、受付のほうに立っている。昼勤務の人たちの姿もちらほら見えてきた。

「じゃあ、お先に失礼します」
「お先に失礼しまーす」

 俺たちは挨拶をすると、二人だけ先にロッカーのあるほうへと向かった。すると、入れ違いのように制服を着た木村さんが出てきた。

「あ、西山さん、お疲れ様です」
「おお、お疲れ」

 キリッとした顔で挨拶をする木村さん。さすがに大学の先輩の西山さんに対しては、俺に向けるような軽い挨拶にはならないようだ。
 柔道の重量級でいかつい感じの西山さんと並ぶと、木村さんはイケメンの際立つ細マッチョ系。ある意味、真逆な感じだけど、二人の話をしている様子を見ると、けっこう、仲が良さそうに見える。

「お、お疲れ様ですっ」

 制帽をとって挨拶する俺。同じくらいの身長の二人に挟まれると、まるで捕まった宇宙人感が半端ない。

「おう、お疲れ様。久しぶりに夜勤で疲れたんじゃない?」

 そんな俺の頭をわしゃわしゃする木村さん。なんか、ペット扱い? 西山さんのさっきの言葉を思い出すけど、全然、ピンとこない。

「大丈夫ですっ。じゃ、お先に失礼しますっ」

 二人はまだ話を続けそうな感じだったので、早くカフェオレが飲みたい俺は、急いでロッカーのある部屋に向かった。
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