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閑話:オッサンが落ちるのは、恋か、罠か

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 関係ないと思っていたのは俺だけだったようだ。
 それを知らしめたのが、まさかの先代だとは予想外だった。


「藤崎、久しぶりだなぁ」

 喜寿とは言えないほど、若々しい様子で現れた先代は、パーティ会場で多くの祝い客に囲まれていた。俺は組長の後に従い、その様子を見ていたが、先代のほうから声をかけてきた。

「ご無沙汰しています」
「おお、相変わらず、男前やな」

 そのまま組長と和やかに話を始める先代。その後ろには現組長、池中鉄哉が先代の若い頃そっくりな顔で穏やかそうに立っている。年齢的には、組長と俺の間だろうか。スーツ姿は、一般人に見えなくもない。しかし、こう見えてヤリ手で気の抜けない相手であるのは、周知の事実。

「武原さん、ちょっと藤崎を借りてもいいかな」
「? ええ、かまいませんが」

 先代がニコニコと笑いながら断りをいれる。組長は訝し気に返事をしたが、相手が相手だけに断るわけもない。
 俺は、どんな話があるのだろうかと思いながら、先代の後をついていく。
 着いたのはパーティ会場のあるホテル内の一室。そこで元妻と中学生くらいの少女がソファに座って待っていた。俺たちが入って来たのに気づくと、二人は慌てて立ち上がり、頭を下げる。

「先代……これはどういう……?」

 元妻は四十代近いはずだが、相変わらず若々しい。おとなしめな服を着てはいるが、ずいぶんと金をかけているのがわかる。そして、隣に座っているのが娘なのかもしれない。こっちは学校の制服を着ている。

「まぁ、そこに座れ」
「……」

 そして先ほどの場面になる。
 L字のソファに、先代と、元妻、娘が神妙な顔で座っている。その向かい側に一人、俺は腰かけながら、三人に順繰りと目を向ける。先代の隣に大人しく座る二人に目を向ける。元妻は視線が合っただけで、ビクッと身体を震わし、視線を逸らす。娘にいたっては顔すら上げようとしない。

「藤崎はまだ独身だったはずだよな」
「はぁ……」

 ニコニコ笑っている先代。元妻と娘、二人を目の前にしてされる話の流れに、嫌なことしか頭に浮かばない。

「こいつと、よりを戻す気はないかい」
「……どういう意味ですか」

 あまりにも急な話な上に現実的でなさすぎることに、先代が言っていることが理解できなかった。

「なに、こいつの旦那が下手をうってな。しばらくムショに世話になることになってな」
「……そんなことは、よくある話でしょう」

 この仕事をしていれば、いくらでもある話だ。離婚でもなんでも勝手にすればいい。ヤクザの妻になるってこと自体、それを込みで覚悟するものだろう。俺は、呆れたように答える。
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