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憂鬱な帰り道
しおりを挟む仕事が終わり、今日も帰って寝るかと思うと空にはあざ笑うような(疲れによる勘違い)太陽が私を照らしていた。
ふざけんな、昨日あんなに曇っておいて今日はどうしてこんなピーカンなのよ!!なんて思うと頭の端がガンガンしてきた。二日酔いではない、徹夜明けだ。目も鏡で見なくても分かるぐらい充血しているだろうし、最近気になる皺も化粧をする気も起きないから丸見えだろう。ハハハ、もうどうにでもなれ。
そんな感じで徹夜明けで自暴自棄になっている私は疲れた頭で一つのことを思いついた。
そうだ、東京まで歩こう
そんなキャッチコピーのようなことをどうして思いつき、実行してしまったのか本当に分からない。疲れのメーターが吹っ切れて一種の毒を生み出したのだろう。そう思いたい。
さて、そう思うや否や私は鞄の中に手を突っ込んだ。鞄と言ってもいつものビジネスに使うものではない、徹夜をすることが目に見えていたので徹夜用のリュックサックを背負っていた。その中からオシャレとはいいがたいそれなりに履きならしたランニングシューズを取り出す。要は徹夜になっても終電を逃すタイミング終わるなんていう悲惨な事態に備えて走って帰ることを考えた鞄だ。当然着替えも入っている、世間体なんぞ知るか。
会社の中に入るとこれで帰宅している姿を記録として残されることが嫌だったので、少し離れたところにあるM字のファーストフード店に入って適当に500円以内で購入。トイレを客として使用して中でせかせかと着替える。
ああ、綺麗だ。前にコンビニとか公園で着替えたことがあるが、コンビニの場合は土方の人間も使うこともあって汚いことが多い。公園、特に管理が届いているか不安になる小さい所なんてもう見れたものではない。一度寝ぼけて男性用に入ったがあまりの汚さに目を疑って目が覚めた。あそこの公園には二度と行かないだろう。
気持ちよーく着替えて気持ちよーく朝食を済ませても頭は回転しないし体の奥底に跋扈している疲れが寝ろ!寝ろ!と叫んでくる。煩わしいことこの上ないが一時の至福は大事にしたい。なぜかって?気持ちいい気分で動いた後にちょっと熱めのシャワーを浴びて布団にダイブすることがどれほど気持ちいいことか。
まあそれはそれとして、東京を目指す。もう目も覚めたから何やってんだろうなぁと思いつつも寝る為の一つの運動と思えば悪くはない。よし、行くぞ!と思ってファーストフード店から出ると目の前に太陽があって目が合った。自分でもびっくりするほど怪獣みたいな叫び声をあげた。
太陽の襲撃により目がやられた私は地下に潜ることにした。私は土竜なのだ………と思い地下鉄の中に入ったのは良かったのだが、入ってビックリここはどこだ?都会に住んで片手が埋まるぐらいの時間は経っているはずなのにどうしてたまに方向音痴になるのか、甚だ自分の感覚の鈍さを疑いたくなる。
しかしながら東京駅近隣の利点はそんな地下にある。新宿には劣るもののこちらも血管かと言わんばかりの道が無数に存在している。特に有楽町~大手町まではほとんど一直線と言っても差し支えない。地図で確認しても面白いぐらい綺麗な一直線だ。初心者土竜にはありがたいこと、嬉しか嬉しか。
そんなこんなで歩き始める。地上だとビルやら車やらがあって非常に息がつまりそうになるがこちらは逆にそういうものがなく、店が閉まっていることや静けさから怖さを感じる。閉所が好きな人にとってはいいかもしれない、でも私はもう少し広いぐらいの方が安心する。
歩き始めて気付いたのが途中で道が切れていて、それを繋げたと思えるような跡があった。恐らくだが昔の地下道か何かをこうして駅の一部に今も利用していると考えられる。私はしがない一般市民なので鉄道関連のことは分からないが、こうした昔の物を利用した構造は少しワクワクする。潔癖症な人や完璧主義な人はなんか嫌いそうだけど。
『丸の内線』の看板が見えたことで東京駅が徐々に近づいてくることに気が付いた。おお、あと少しで東京か!そう考えると段々と重くなってきた足も軽くなる。スキップでもしたい気分だがまだ床が湿っていたので下手をすれば転びそうだったからやめておこう。
そんな時、ふと、耳に聞きなれない音が来た。ガッガッガッ、長靴の音ではない。非常に重たい音だ。ヒールだともっと軽いし、私の履いているような運動靴系とも違う。そうなると考えられるのは今現在ではありえないような音でこの場所に似つかわしくないような靴。そう、確か、長靴、いや半長靴か。軍隊とかで履かれる、あれ。
それがこの地下道にコダマしている。でも『響く』とは言わない、それほどの量なら断続的に乱れなく聞こえなければいけないだろう。けれど何だろうか、この足音はおかしい、逐一間があるのだ。音にすると、ガッガッガッガッ!………ガッガッガッ!………ガッガッ!…………ガッガッガッガッ……
不思議と怖くはなかった。そんなものよりも疲れが勝っていたから、と言いたいけど、この場合は東京駅が近いからだった。丸ノ内線の看板も周りにポンポンと出るようになってきたし、奥の方には綺麗なタイルが床に敷き詰められている。もう東京駅の地下に来たのだろうか。
気が付くと音は既に消えていて、もう繋ぎ目みたいな部分も見えなくなっていた。足の速さには自信があるわけではないがこれだったらオリンピックを狙う事も夢ではないのかな?と変なことまで考えている。深夜テンションというものは恐ろしいものだ。
そんなこんなで東京駅の地下道に着いた。朝も6時になるのに誰一人として歩いていないのは不自然だったが、今日はよく寝れるだろうと思う。地下道は真ん中に大きな道があるからそこに行って右に曲がればよく見たレンガの建物の駅の改札が出てくる、はず。いかん、そろそろ限界だ。栄養ドリンクでも買って帰ろう。
地下の階段を上がりながらふと足元に目が向いた。靴の先に泥と草が見えた。
「ああ、今日もまた朝を迎える」
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