僕の大好きなあの人

始動甘言

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疲れる彼女は溜息をもらす

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 「はぁ・・・」

 炊事、洗濯、掃除までは出来るようになってきた。

 「本当に介護って大変よね」

 結婚はしようと思ったけど、相手がいない。これを言い訳に30を超えて自分の中に焦りが生まれた。

 遅い?全くもってその通り。その判断の悪さはさらに悪い結果を生む。親の介護だ。

 「お父さん?大丈夫ですか?」

 「あー・・・・」

 いつからこうなったかは日々の疲れで忘れてしまった。確実に2年はやってると思うが、正確に記録してはいない。

 父が寝たきりになってから私は料亭の仕事を辞めて、父の介護を始めた。父は身体を動かせなくなり一人で立って歩くこともままならず、会話も食事も出来ない。そんな人間が社会で生活できるわけがない。もしそれで動けるのだったら人間を辞めているだろう。

 まあ流石にそれで食い扶持が手に入るわけないのだから、私は近くのカフェに務めることになるのだけれど。前の職場でも今の職場でも出会いなんてない。

 「・・・・・・・・・・・・」

 姿見に映る自分のそこそこ出ている身体を見て思う。自分でもスタイルはいいと思っているがそれだけで釣れるほど世の中は甘くない。

 「はぁ・・・・・」
 
 というか身体目当てが多すぎてどうしようもない、前の職場でもそれで告白してきたりパワハラ込みで触ろうとしてきたり。そんなに身体が好きならばいいスタイルのマネキンのトルソーかと仲良くして欲しい。私を同じように見ないでくれ。もしくは風俗にでも行ってくれ。多分似たような娘いると思うから。

 「あ」

 考えた気付いた結論がそれだ。私は私を必要としてくれる人が欲しいのだ。私以外の似た誰かではなく、私という一個人を求めてくれる誰かと一緒にいたい。でもなぁ・・・

 「はぁ・・・・」

 この溜息はそんなことを考える自分に対してしている。一応いい仲になった人はいた。でも彼は私を私として見てはくれたが、見てくれたから私と別れたのだ。

 「敷居が狭すぎるのよね、世の中」
 
 よくイイものの中からさらにイイものを選ぶことを、厳選、なんて言っているけど、人もそうだ。既に出来た良いばっかり選んで、本当に良いと思われるものから目を背ける。まるで蟲みたいだ、光る所によく集まる。それが自分をも焦がす炎であっても。

 「なんか、飲もう」

 あーだこーだ頭の中で難しく考えすぎだ。本当は介護疲れがやっぱりある。

 介護は介護で大変なのだ。さっきのことはもう慣れたからさておき排泄の世話と風呂はまだ慣れない。排泄はちゃんと食事を考えていても上手くいかないことは多々あるし、水が多いときはまあ、その、そういうことになる。風呂なんて一番注意しなきゃいけない、下手をすれば溺れてお陀仏なんてこともあるからだ。うちの父親に意識があればもう少し楽なのだけど、残念ながら反応がないから最後まで世話をしなきゃいけない。どうだ、すごいだろう

 (保障費が段々増えてきたのはいいんだけど、それにつけてもモノの値段を上げてくるのは人の心ないと思う)

 商売をしている人にとってはいいかもしれないが、ただでさえキツイ消費者からするとさらにキツイ。介護用のおむつなんて3000円を超えるものが最安値とか馬鹿げてる!安いところでも2500円を下回らない所もあるし、私が料亭で働いてなかったら食費がどんだけ大変になるのか知れたもんじゃない。

 「一芸は道に通ずるなんて言うけどまだ足りないのよねー・・・」

 この先のことを考えると憂鬱な気分になる。貯金はまだあるが、実は家計簿に火が付き始めている。バイトではどうしようもないのだ、どうしようか。

 (新しいバイト・・・いやいや、ここは様子を見よう)

 最近はこんな生活においても楽しみが出来た。今働いているカフェがとっても働きやすい。料亭はなにかと不憫なことが多かったけど、こちらはアルバイターとして気楽にやれる。まあたまに私の身体目当てで来る客もいるから、嫌になることもある。でも、ちっちゃい先輩さんが守ってくれるから最高。同性だけどちっちゃくてかわいい。うちに持って帰ってハスハスしたい・・・いけない、口元がにやけてしまった。兼業なんてしてたまるか。あんな先輩が他にいるとは思えないし。

 「それに―――――」

 店長が新しいバイトを雇うと言っていた。なんでも家出してきた大学生の青年だそうだ。個人的に出会いがどうこうではないのだけれど、人手が増えてくれるのは正直嬉しい。楽をしたいというか先輩以外にも話せる人が増えるのはスゴイ嬉しいのだ。

 「ふふふ、楽しみ」

 そうして私はおろした魚の頭を切った。
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