とある闇医者の冒涜

始動甘言

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ある昼下がり

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 「あ?急患?」
 昼下がりの一時、そんな気持ちいい時間帯に意味不明な電話がきた。
 「あのさぁ・・・前にもあんたが轢いたヤツを治したことはあったけど轢いたならさっさと逃げて捕まるか、自首して捕まるかしてくんない?こっちにまで警察の目が向いたら面倒なんだけど」
 本当に腹立たしい。考えてみて欲しい、ただでさえこの時間は何もしたくないのに轢いたから治してくれーなんて電話がかかってくれば悩む頭が怒り心頭になるだろう。そうだろう?
 「あ?面白い死体だから見てくれだって?正気かアンタ?トラックで轢きすぎて脳髄が死者に轢き釣りだれたんじゃない?いっぺん墓場に入って詫びと懺悔の念に押しつぶされてきな」
 そう言って電話を切る。あー腹立たしい、もう寝る気すら起きないわ。今夜別の患者が入るかもしれないってのに。
 「はぁ・・・どうするかなー。もういっそ開き直ってゲーセンでゾンビゲーでもやって来ようかなー」
 私の仕事場には娯楽が一切ない。あっても精々近くにあるペンをヒュンヒュン回すだけ。授業中の学生かよ。
 「よし、決めた。近くのボーリング場でパーフェクトゲームしてこよう、そうしよう」
 今のところ、最後の三球まではストライクを出せるようになった。あと少しで完璧に出来るはずだ。そうすればアイツにも勝てる。というかなんでアイツプロでもないのになんで毎回パーフェクトゲーム決めてくんだよ、おかしいだろ。
 そんなことでまたイライラが再燃する中、ピンポーンとチャイムが鳴った。
 「・・・・・・・・・・・・・」
 昼間に来るチャイムなんてたかが知れている。何かを注文するか、カチコミだ。通販サイトで注文した覚えがないから、恐らく後者。引き出しの中からサイレンサー付きのM9を取り出す。弾倉を入れて、スライドをずらす。
 「おーい先生、いるかー」
 と何処かで聞いた声が扉の外から聞こえてきた。先程電話をかけてきた轢き逃げ常習犯だ。
 「チッ」
 アイツ、近場に私の仕事場ここがあったから電話してきたのか。ふざけやがって。
 玄関前まで駆けて扉の横の壁に張り付く。もちろん銃は構える、いざとなったらこの轢き逃げ野郎のド頭ぶち抜いてやる。
 キーチェーンをかけて、扉を少し開ける。ガンッと音がしてキーチェーンがジャラッと伸びた。この野郎、マジで死体押し付ける気でいやがったな。
 「おう、先生!さっきぶり!」
 「F〇ck youくそくらえ
 見たくもない間抜け面に吐き気を覚える。しかもすごい笑顔だ、殴りたい。
 「おいおい、そんな物騒な目をしないでくれ。近隣の住民に嫌な顔されるぜ」
 「うるさいな、お前が抱えてる荷物よりもまだ私の目つきの方がマシだと思うがな」
 「ちぇっ、バレたか」
 なんでさっき電話しといてバレないと思っているんだ、このアンポンタンは。
 「まあとりあえずあげてーーー」
 扉をコンコンと銃の先で軽くノックする。
 「ま、まあとりあえず見てくれよ」
 男はズタ袋をドサッと置いて、口を開ける。
 「折れてるじゃないか、これじゃあ私も助けられんぞ」
 中に入っている死体は首、腕、足が完全に折れていて、そのおかげで無理矢理ズタ袋に入れられていた。しかも子供だから犯罪臭全開だ、このまま警察に突き出せばコイツ捕まえられるんじゃないか。
 「ああ、問題ない。今回は助けて欲しいんじゃない、コイツをどうにかして
 「はぁ?」
 何を言っているんだ、コイツは。元から頭がおかしいと思っていたが、おかしくなりすぎて一周まわって人として倫理観が還ってきたようだ。これで懺悔する念さえ生まれれば完璧なんだけどな。
 「違う違う。コイツの腹を見てくれ、腹を」
 「なに?腹だって?」
 何を言っているのか意味が分からんがズタ袋の奥を凝視してそこでハッとなる。
 この子供は確かに轢かれて死亡した。だが問題はそこじゃない、この子はのだ。腕と足が棒のように細くて、なんだったら方に浮かび上がる鎖骨に指が入りそうなほどに痩せこけている。
 「前回みたいに大通りで轢いたとかじゃない。コイツが勝手に飛び出して来たんだ、人が全く通らない路地からな」
 「そのまま直進したんだろ?」
 「いんや完全にブレーキが効いてたから制動距離内だ。しかも狙いすましたかのように上から落ちてきやがった。多分飛び出すタイミングを計ってたんだろう、よっと」
 男はズタ袋の口を閉めて持ち上げる。
 「さて、どうする?先生はこういう不思議なもんに興味を持つと思ったんだけどな。もし興味をもたないんだったら・・・どこかに埋葬しようと思ってるんだけど」
 「・・・・・ふむ」
 確かに気になる。そして私にはそれを調べるツテもある。だが、この男はそういうことを考慮の末に私の所に持ってきたんだろう。
 「・・・・よし、分かった」
 「お、流石先生!受けてくれますか!」
 「ほら」
 私は手を伸ばす。
 「この手は?」
 「この死体の事件を解決するための依頼料」
 「は?」
 「死体回収に火葬、それと死体を調べるのに解剖したりするからしめて3000万かな」
 「はぁ?それ、ボッタクリだろ!なんで俺がそんな金額を支払わなきゃーーーー」
 「一応私の手元には前回のファイルが残っているんだけどなー」
 ギクッと男が動揺するのが見える。あの事件もこの男がかなりのやらかしをして色々処理に手間取った挙句、この男の一人勝ちみたいになったので正直思い出しただけでもかなりむかつく。だからいつでも脅せるように記録は取ってある。もちろん他の客のものもだが。
 「これを警察に突き出せばど~なるかな~?」
 「い、いや、でも。3000万なんて持ってないし・・・」
 「マリガンオワタ―」
 ギクッと男は驚いた表情になる。マリガンオワタ―は競走馬でデビュー戦以降全く勝てなかったが、菊花賞の最終盤、先頭馬の転倒からズルズルと人気の馬が倒れ、倍率101倍となっていたマリガンオワタ―が1位に輝く快挙を成し遂げた。そしてこの男、あろうことかそのマリガンオワタ―に全財産をぶち込んでいたのだ。とっくに調べは付いている。
 「あのレースは運が良かったなぁ・・・買って嬉しかった、よなぁ~?」
 「すみません、分かりました!払います、払いますから!」
 「おし、さっさと持ってこいアホンダラ。今日中に持ってこなかったらサツにチクってテメェの会社ごとご破算にしてやる」
 「は、はい~!!」
 そういって男はズタ袋を置いてそのまま何処かに走り去った。野郎、逃げる間が出来たから置いてったな~!?怒りの感情が沸き上がってきたがこれで契約は成立。あとで戻ってこなければマジでシバく。
 「じゃあこっちも仕事しますかー」
 キーチェーンを開けて、ズタ袋を中に入れる。
 (あら?)
 思っていたよりもその袋は人としては軽く、石としては重かった。



 「なんじゃこりゃあ」
 開いて分かったことはこの死体が子供の死体であるということ。もちろん子供ぐらいの身長の大人という考慮も出来たが、そういう場合は骨格の大きさや皴が出来ているなどで説明が付けられる。しかしこの死体は第2次成長期に差し掛かる前のモノだった。
 「あちゃあ、これは事故じゃなくて別の問題が見えてきたな」
 考えられたのは育児放棄ネグレクトだ。しかもここまで深刻だと相当の毒親に違いない。腕の細さや筋肉の付き方を見るに『家に放置してそのままにしていた』というところか。
 (そして大体その手の親は「私たちはしっかり親の責任を果たしてました」なんて戯言を並べるんだよな)
 もし過去の執刀データを統計化するのだったら、6割が政治家とヤーさん、3割が名前が出せない連中、あと1割ちょいがこういった身元が分からんものだ。その1割ちょいに育児放棄の子供の死体がある。裁判の傍聴は私でも出来るから行ったが責任感もクソもない親の発言を聞いて心底ムカついたね。二度と行きたくない。
 「まあ、それはそれとして」
 問題はまだあった。いやそっちの方が些細なものに見えるぐらいにこっちの問題はヤバかった。
 「赤ずきんじゃないんだよ、まったく」
 その子供の腹には大量の石が入っていたのだ。
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