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第1章
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成世我聞は今年の6月で刑事を退職する。
本当はもっと前に孫の為にやめようと思っていたのだが、なにせ長く勤めていたから残った事件の資料がそこそこあり、それを引き継げるようにまとめてあれよあれよと6月に伸びてしまった次第である。
「なんか我聞さんらしいと思います」
「らしいとはなんだ、らしいとは」
現在当の我聞はその引継ぎ先である後輩の沢渡徹に教授している。
「いえね、我聞さんって事件のこととなるとずっと真面目にやってるじゃないですか。例え軽いひったくりでさえ資料に残してスラスラとまとめて・・・いやぁこうして仕事が出来るのは本当に憧れますよ」
「そんなこと言っても何も出やしないぞ」
それに、と我聞は続ける。
「事件に軽いや重いはない。事件は全部事件だ、そこに酌量を与えちまったら公平さが無くなるだろうが」
我聞はそれだけで刑事という仕事を続けてきた。盗みがあれば徹底的に現場を調査し、殺人に関与する人物が浮上して来たらその身辺調査もしっかりする。当たり前だが他の人がやりたがらない仕事、我聞の考える最もやりがいのある仕事はこういうものだ。
(だがまあ)
我聞はあまりにも真面目過ぎた。おかげで今のスマホは分からないし、サブスクやSNSも分からないから最近のサイバー犯罪についていけない。今の若者に言わせてしまえば時代遅れの老人なのだ。
(それを考えるとやっぱり自信を無くしちまうんだよなぁ・・・)
自分が働いてきた理由、初めはこれから元気に生きてくれる若者の為に出来るだけいい社会を作るというものだった。けれど時代が流れるにつれてそれが正しいのかと箱の中のソクラテスが問答してきた。不景気に汚職、それに加速するストリートチルドレン・・・こんな結果が出てている中でいくらやりがいのある仕事であっても根っこが折れかけてしまえば容易に揺れるというもの。
(どうすればいいのかね・・・)
そしてまたこの結論に至る。正直まだ続けていたいのだが、先の時代遅れと年による体力低下は本当に辛い。
決め手となったのは、ここにボケが加わったからだ。自分なら大丈夫、そう思っていた。けれども時間の流れは残酷だった。昨日の話である。手に持っていたテレビのリモコンの存在を忘れて、妻にそのことを聞いてしまった。手に持っているじゃない、妻にそう言われてハッとなった。
(潮時は自分の身体が教えてくれるのか)
戦国最強を誇った本多忠勝は自身の蜻蛉切で指を切った後、あっけなく亡くなったそうだ。かの御仁は自身の衰えが終わりになると判断できるほどには切れ者であり、そして潔いとも思える逸話だ。すごく失礼な言い方だが、それを瞬時に判断できるのは並大抵のことではない。見習わなければ、そう思った。別に最近の大河で家康がやっていたとかではない。
「ま、その公平さを貫けるだけの時間がもうないってだけの話さ」
我聞は苦々しくぼやく。それを察してか、沢渡は我聞の肩をポンと叩き自身を指さす。
「安心してください!俺が残った事件をパパパッ!と解決してみせますよ!」
「・・・・・・・・・・・そうか」
沢渡徹には自信過剰になるきらいがあることを我聞は知っている。
「あ痛ッ!?」
とりあえず溜息を洩らしながら拳骨を一発お見舞いしてやった。これも最後ですかね、と小さく沢渡が漏らしたのを聞いたが、我聞は聞こえてないフリをしてもう一度溜息を洩らした。まだ資料は山のように積みあがっていた。
「当分は大丈夫だろ」
「ははは、ソウデスネ」
気を取り直して次の資料を手に取るとそこには忌々しい事件、初めて受け持った事件が出てきた。
「お、なんですか、それ!」
おもむろに隠そうとしたが、この男は一瞬の隙をつくのが上手い。あっという間に手に持っていたファイルを取り上げられてしまった。
「おい沢渡!お前に見せるようなもんじゃないぞ!」
「いや、でも我聞さんがそんな苦い顔するってことは結構嫌な案件だったんじゃ・・・?」
確かに我聞が思い出したくない事件である。なぜならそこに書かれている事件は我聞の記念すべき初事件であり、初の誤認逮捕をした事件でもあるのだ。
「あらー・・・我聞さんでもこんなことあったんですね・・・」
我聞は顔を片手で隠し、年甲斐もなく鳴る心臓に嫌気がさす。自分の後輩に自分のオリジンを見られるのがここまで恥ずかしいとは。
「・・・・若気の至りってやつだ」
「ああ、だから最初の事件を担当した時にめちゃくちゃ面倒見てくれたんですね」
「・・・・・・・・・・・・・・」
我聞は口を閉じて立ち上がった。なんだか背中がムズムズしてきて、どうしても外の空気を吸いたくなった。
「我聞さん」
沢渡から声がかかる。その声色からはいつもの軽い感じがなかった。
「ありがとうございます。俺、頑張りますから」
「・・・・ふん」
そう思うんだったら一人で事件を解決してみろ、といつものように口にしたかった。けれど我聞の口は別の言葉を紡いだ。
「あとは、出来るな」
言ってハッとなる。自分は何を言っているのかと。
「はい!任せてください!」
自問自答をする前に沢渡が元気よく答えた。我聞は自分の口と目が歪むのを覚えて、早く帰れよと言って扉を音がなるくらい強く閉めた。
(帰ろう)
とりあえず我聞はポケットにあるハンカチで鼻をかんだ。
―――――――――――――――――――――――――――――――
「ただいま」
我聞が家に帰るとリビングから音が聞こえた。妻の美奈子がテレビを見ているのだろう。時間としては午後6時、これから食事を作るようだった。
「ただいまー」
「あら貴方。お帰りさない」
やはり美奈子はテレビを見ていた。しかし見ているのは録画で、昨日の朝ドラの話を見ている。
「何を見てるんだ?」
「あらやだ、もうそこまでボケが進んじゃったわけ?今日の朝ドラに決まってるじゃない」
「あ?」
思わず首を傾げる。今、なんて言った?『今日の』と言ったのか?そのはずはない、今朝見た朝ドラで主演の子が司法試験に落ちて退学するかもしれないという内容だった。今妻が見ているのは確実に司法試験の結果待ちでソワソワしている昨日の回だ。
「再放送か?」
「いいえ、今日のですよ。録画したのは確かなんですから!」
そう言って美奈子は再生されている画面を止めて録画リストを開く。なるほど、確かに見ているのは今日の分だ。だが見ているのは昼にやるダイジェストの録画だ、いつも妻が録画している朝の方ではない。
「貸して見ろ」
いくらスマホを操るのが苦手でもVHSから発展したブルーレイレコーダーならば我聞でも扱える。操作にかなり難儀したからこそ今はスラスラと録画したり録画を確認出来たりするのだ。だが、携帯から格段に進化してしまったスマホを見ると我聞はふらりと来てしまうのだ。故にスマホは絶対に覚えられないと我聞の無意識がそう判断してしまっている。
(あるじゃないか)
ポチポチと録画を確認していくと今日の分の朝ドラがしっかりと録画されていた。試しに再生をしてみると、やはり我聞の覚えていた通り司法試験に落ちて退学しそうになる話だった。
「ほれ見ろ。昨日のじゃないか」
鼻を鳴らして妻を見ると何故か驚いた顔をしている。
「どうした」
「あ、あなた・・・」
驚き震える美奈子が言った次の言葉に我聞は腰から崩れそうになった。
「あ、明日の録画がなんで家に・・・・」
思わずガックリとなった。ついに妻までもがボケという大敵に負けてしまったのか。
「何を言っているんだ・・・まさかお前までボケが始まったんじゃないだろうな」
冗談半分で言ってみるものの、妻の驚きの表情は変わらない。
「はぁ」
ここまで来ると先に妻を病院で検査した方がよくなったかもしれない。我聞は髪をかきながら、自分の携帯の画面を開く。ちゃんと今日の日付がしっかりと表示されている。
「美奈子、今日は5月の7日だ。時間に正確な俺が間違えるわけないだろう」
我聞はチラリとカレンダーを見る。そこには美奈子が好きで書いている夕飯のメニューが記載されていた。昨日がシチューで、今日はハンバーグ。ならば今日台所にあるのは解凍中のひき肉だ。立ち上がり台所を見ると、氷の霜が一つも乗っていない解凍が済んだタッパーのひき肉が置かれている。他にも油や皮だけ向かれた玉ねぎがあったが、我聞は顔を美奈子に向ける。
「ここにあるのはどう見てもハンバーグの材料だ。シチューなら野菜とルーがあるはずだし、その、ほら、コショウとかハーブ?も置くだろう?美奈子なら」
我聞は料理に疎い。事件現場で作りかけの場面を何度も見ているが、自分で作るものは大概インスタントなので材料があっても何を作るのか分からない程度には縁遠い。それでもハンバーグ程度なら我聞でも何となく分かる。
そんな説明としては50点程度に満たない説明を聞いて美奈子はハッとなって我に返った。
「ああ!そうでした、そうでした!何か忘れてるな~と思ってテレビを見ていたんでした!」
「ほら、言ったとおりだろ」
「嫌だわ私。まだ自分は大丈夫だろうと思っていたのだけれど、まさか貴方みたいに物忘れがひどくなるなんて・・・」
自分の悪口を言われた気がしたが、我聞は妻の言葉に頷く。お互い60に近いが妻は元気溌剌で最近では8×8のクロスワードを辞書やスマホを使わずに解いたほど記憶力があるのだ。
(やはりボケとは恐ろしい・・・)
我聞がそんなことを考えていると、腹の虫が叫び始めた。
「はいはい、分かりましたよ。さっさと支度しますねー」
「お、俺は何も言ってないぞ!」
「身体は正直ですもんね、昔から」
フフフと笑ういつもの妻を見て、溜息を吐く我聞。そういえば帰ってきて手を洗っていなかったことを思い出し、我聞はそそくさと洗面所に向かった。
そろそろ田舎暮らしを検討した方がいいかもな、と静かに思う我聞だった。
本当はもっと前に孫の為にやめようと思っていたのだが、なにせ長く勤めていたから残った事件の資料がそこそこあり、それを引き継げるようにまとめてあれよあれよと6月に伸びてしまった次第である。
「なんか我聞さんらしいと思います」
「らしいとはなんだ、らしいとは」
現在当の我聞はその引継ぎ先である後輩の沢渡徹に教授している。
「いえね、我聞さんって事件のこととなるとずっと真面目にやってるじゃないですか。例え軽いひったくりでさえ資料に残してスラスラとまとめて・・・いやぁこうして仕事が出来るのは本当に憧れますよ」
「そんなこと言っても何も出やしないぞ」
それに、と我聞は続ける。
「事件に軽いや重いはない。事件は全部事件だ、そこに酌量を与えちまったら公平さが無くなるだろうが」
我聞はそれだけで刑事という仕事を続けてきた。盗みがあれば徹底的に現場を調査し、殺人に関与する人物が浮上して来たらその身辺調査もしっかりする。当たり前だが他の人がやりたがらない仕事、我聞の考える最もやりがいのある仕事はこういうものだ。
(だがまあ)
我聞はあまりにも真面目過ぎた。おかげで今のスマホは分からないし、サブスクやSNSも分からないから最近のサイバー犯罪についていけない。今の若者に言わせてしまえば時代遅れの老人なのだ。
(それを考えるとやっぱり自信を無くしちまうんだよなぁ・・・)
自分が働いてきた理由、初めはこれから元気に生きてくれる若者の為に出来るだけいい社会を作るというものだった。けれど時代が流れるにつれてそれが正しいのかと箱の中のソクラテスが問答してきた。不景気に汚職、それに加速するストリートチルドレン・・・こんな結果が出てている中でいくらやりがいのある仕事であっても根っこが折れかけてしまえば容易に揺れるというもの。
(どうすればいいのかね・・・)
そしてまたこの結論に至る。正直まだ続けていたいのだが、先の時代遅れと年による体力低下は本当に辛い。
決め手となったのは、ここにボケが加わったからだ。自分なら大丈夫、そう思っていた。けれども時間の流れは残酷だった。昨日の話である。手に持っていたテレビのリモコンの存在を忘れて、妻にそのことを聞いてしまった。手に持っているじゃない、妻にそう言われてハッとなった。
(潮時は自分の身体が教えてくれるのか)
戦国最強を誇った本多忠勝は自身の蜻蛉切で指を切った後、あっけなく亡くなったそうだ。かの御仁は自身の衰えが終わりになると判断できるほどには切れ者であり、そして潔いとも思える逸話だ。すごく失礼な言い方だが、それを瞬時に判断できるのは並大抵のことではない。見習わなければ、そう思った。別に最近の大河で家康がやっていたとかではない。
「ま、その公平さを貫けるだけの時間がもうないってだけの話さ」
我聞は苦々しくぼやく。それを察してか、沢渡は我聞の肩をポンと叩き自身を指さす。
「安心してください!俺が残った事件をパパパッ!と解決してみせますよ!」
「・・・・・・・・・・・そうか」
沢渡徹には自信過剰になるきらいがあることを我聞は知っている。
「あ痛ッ!?」
とりあえず溜息を洩らしながら拳骨を一発お見舞いしてやった。これも最後ですかね、と小さく沢渡が漏らしたのを聞いたが、我聞は聞こえてないフリをしてもう一度溜息を洩らした。まだ資料は山のように積みあがっていた。
「当分は大丈夫だろ」
「ははは、ソウデスネ」
気を取り直して次の資料を手に取るとそこには忌々しい事件、初めて受け持った事件が出てきた。
「お、なんですか、それ!」
おもむろに隠そうとしたが、この男は一瞬の隙をつくのが上手い。あっという間に手に持っていたファイルを取り上げられてしまった。
「おい沢渡!お前に見せるようなもんじゃないぞ!」
「いや、でも我聞さんがそんな苦い顔するってことは結構嫌な案件だったんじゃ・・・?」
確かに我聞が思い出したくない事件である。なぜならそこに書かれている事件は我聞の記念すべき初事件であり、初の誤認逮捕をした事件でもあるのだ。
「あらー・・・我聞さんでもこんなことあったんですね・・・」
我聞は顔を片手で隠し、年甲斐もなく鳴る心臓に嫌気がさす。自分の後輩に自分のオリジンを見られるのがここまで恥ずかしいとは。
「・・・・若気の至りってやつだ」
「ああ、だから最初の事件を担当した時にめちゃくちゃ面倒見てくれたんですね」
「・・・・・・・・・・・・・・」
我聞は口を閉じて立ち上がった。なんだか背中がムズムズしてきて、どうしても外の空気を吸いたくなった。
「我聞さん」
沢渡から声がかかる。その声色からはいつもの軽い感じがなかった。
「ありがとうございます。俺、頑張りますから」
「・・・・ふん」
そう思うんだったら一人で事件を解決してみろ、といつものように口にしたかった。けれど我聞の口は別の言葉を紡いだ。
「あとは、出来るな」
言ってハッとなる。自分は何を言っているのかと。
「はい!任せてください!」
自問自答をする前に沢渡が元気よく答えた。我聞は自分の口と目が歪むのを覚えて、早く帰れよと言って扉を音がなるくらい強く閉めた。
(帰ろう)
とりあえず我聞はポケットにあるハンカチで鼻をかんだ。
―――――――――――――――――――――――――――――――
「ただいま」
我聞が家に帰るとリビングから音が聞こえた。妻の美奈子がテレビを見ているのだろう。時間としては午後6時、これから食事を作るようだった。
「ただいまー」
「あら貴方。お帰りさない」
やはり美奈子はテレビを見ていた。しかし見ているのは録画で、昨日の朝ドラの話を見ている。
「何を見てるんだ?」
「あらやだ、もうそこまでボケが進んじゃったわけ?今日の朝ドラに決まってるじゃない」
「あ?」
思わず首を傾げる。今、なんて言った?『今日の』と言ったのか?そのはずはない、今朝見た朝ドラで主演の子が司法試験に落ちて退学するかもしれないという内容だった。今妻が見ているのは確実に司法試験の結果待ちでソワソワしている昨日の回だ。
「再放送か?」
「いいえ、今日のですよ。録画したのは確かなんですから!」
そう言って美奈子は再生されている画面を止めて録画リストを開く。なるほど、確かに見ているのは今日の分だ。だが見ているのは昼にやるダイジェストの録画だ、いつも妻が録画している朝の方ではない。
「貸して見ろ」
いくらスマホを操るのが苦手でもVHSから発展したブルーレイレコーダーならば我聞でも扱える。操作にかなり難儀したからこそ今はスラスラと録画したり録画を確認出来たりするのだ。だが、携帯から格段に進化してしまったスマホを見ると我聞はふらりと来てしまうのだ。故にスマホは絶対に覚えられないと我聞の無意識がそう判断してしまっている。
(あるじゃないか)
ポチポチと録画を確認していくと今日の分の朝ドラがしっかりと録画されていた。試しに再生をしてみると、やはり我聞の覚えていた通り司法試験に落ちて退学しそうになる話だった。
「ほれ見ろ。昨日のじゃないか」
鼻を鳴らして妻を見ると何故か驚いた顔をしている。
「どうした」
「あ、あなた・・・」
驚き震える美奈子が言った次の言葉に我聞は腰から崩れそうになった。
「あ、明日の録画がなんで家に・・・・」
思わずガックリとなった。ついに妻までもがボケという大敵に負けてしまったのか。
「何を言っているんだ・・・まさかお前までボケが始まったんじゃないだろうな」
冗談半分で言ってみるものの、妻の驚きの表情は変わらない。
「はぁ」
ここまで来ると先に妻を病院で検査した方がよくなったかもしれない。我聞は髪をかきながら、自分の携帯の画面を開く。ちゃんと今日の日付がしっかりと表示されている。
「美奈子、今日は5月の7日だ。時間に正確な俺が間違えるわけないだろう」
我聞はチラリとカレンダーを見る。そこには美奈子が好きで書いている夕飯のメニューが記載されていた。昨日がシチューで、今日はハンバーグ。ならば今日台所にあるのは解凍中のひき肉だ。立ち上がり台所を見ると、氷の霜が一つも乗っていない解凍が済んだタッパーのひき肉が置かれている。他にも油や皮だけ向かれた玉ねぎがあったが、我聞は顔を美奈子に向ける。
「ここにあるのはどう見てもハンバーグの材料だ。シチューなら野菜とルーがあるはずだし、その、ほら、コショウとかハーブ?も置くだろう?美奈子なら」
我聞は料理に疎い。事件現場で作りかけの場面を何度も見ているが、自分で作るものは大概インスタントなので材料があっても何を作るのか分からない程度には縁遠い。それでもハンバーグ程度なら我聞でも何となく分かる。
そんな説明としては50点程度に満たない説明を聞いて美奈子はハッとなって我に返った。
「ああ!そうでした、そうでした!何か忘れてるな~と思ってテレビを見ていたんでした!」
「ほら、言ったとおりだろ」
「嫌だわ私。まだ自分は大丈夫だろうと思っていたのだけれど、まさか貴方みたいに物忘れがひどくなるなんて・・・」
自分の悪口を言われた気がしたが、我聞は妻の言葉に頷く。お互い60に近いが妻は元気溌剌で最近では8×8のクロスワードを辞書やスマホを使わずに解いたほど記憶力があるのだ。
(やはりボケとは恐ろしい・・・)
我聞がそんなことを考えていると、腹の虫が叫び始めた。
「はいはい、分かりましたよ。さっさと支度しますねー」
「お、俺は何も言ってないぞ!」
「身体は正直ですもんね、昔から」
フフフと笑ういつもの妻を見て、溜息を吐く我聞。そういえば帰ってきて手を洗っていなかったことを思い出し、我聞はそそくさと洗面所に向かった。
そろそろ田舎暮らしを検討した方がいいかもな、と静かに思う我聞だった。
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