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後悔の慟哭は静かにやむ

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 「私はこの男の存在を残しておかなければいけない」
 暗い部屋の中、録画用のビデオカメラを回す。決して雰囲気を出そうとか暗い場所が好きとかではない。私はハメられて、この部屋と心中するしかなくなったのだ。
 ミシミシと部屋が凹んでいる音がする。あと数時間もしないうちに私は落ちてくる天井に潰されて全身の血をぶちまけてミンチになるだろう。
 これは、もしかすると誰かに伝えるものではなく、ただの自己満足かもしれない。けれども、これは残しておかないといけない。そんな気がするからだ。
 「私が誰なのかは置いておこう。おそらく調べればすべての行動がバレてしまう」
 あの男がこれを見た誰かに襲い掛かるとしたら、私と同様にことだろう。名無しの権兵衛になり果てるがそれでも構わない。
 「だからこそ直接伝えるという方法を取る。申し訳ないが信じてくれ、私の遺言でもあるからだ」
 最後に口から出てくる謝罪は誠意なのか、それとも情けなのか。そんなことすらも知ったことではないと諦めている。
 ミシミシッとまた凹む音が聞こえた。これはなかなか精神に来るものだと思わず微笑んでしまう。同僚の、誰よりも強かったアイツが折れてしまうのも納得がいく。
 私はカメラの目と目を合わせ、一度大きく深呼吸をしてから、懺悔するように、言葉を並べ始める。
 「これから始めるのはある男と遭遇した際の対処法だ。奴は殺しても死なない。そうだな、私だったらアレをこう呼称しよう」


  【ここで音声と映像が一部途切れる】


 「■■■■■、と呼称する」
 「奴―――――――間を操る■■■だ。―――――――――――Oのすべてを武――――――――――める」
 「―――――――が直に下す。そして―――――――――――――――に操られて、特定の行動を行う」
 「それに従ったも――――――――――――――――――――――限られる」
 「特定の人間は無差別だ。子供、大人、老人。フリーター、アイドル、政治家。どれも全て奴のコマになる可能性を持っている」
 「そして現――――――――――――――になる」
 「ターゲ―――――――――――――――――――――――て、殺される」
 「ただし――――――――――――――――――――――が出来る。奴は――――――――――――愛しているからだ」




 「まあ、理由が何であれ奴は人を操って殺すことを楽しんでいる」
 すべての事象を鑑みて出せる結論がこの一言である。そうでなければアイツがあんな行動が出来るわけがないのだ。そう、今の私が置かれているこの現状のように。
 「・・・ああ、そうだ。アイツは人間だ。血を流してけがをするし、くしゃみをしていたから風邪もひく。よくあるだろう、人間じゃないという法螺の記録が残っていたら本当に人間じゃないっていうご都合展開。そういうのは一切ないから安心してくれ、実際に傷をつけたから保証できる」
 言って急に虚しさが胸の奥から上がってきた。なんてことはない、ただの後悔だ。それが嗚咽として体の奥底から上がっているに過ぎない。
 「あと一歩、あと一歩だったんだ・・・!!俺が、俺を操られる対象の候補として見ていなかったのがダメだった・・・・!!クソッ、クソッ、クソォ!!!!」
 思い出せば思い出すほど情けなさが怒りを帯びて湧き上がる。ああしていれば、こうしていれば。そんなもはやどうしようもないことをひたすら反芻して、目から悔し涙がこぼれた。
 「クソッ・・・・・・・・」
 ひとしきり悔しがってみると、先程とは別の虚しさだけが襲い掛かってくる。天井を見上げると未だにメシメシと音を立てながらのしかかってくる重さと戦っている。
 「そうだな、こんな子供じみたマネをする意味がないな」
 結果は見えていた。でも戦って、こちらが甘かった。いや、あちらの手の内を崩せていなかったのだ、甘いどころかガバガバだ。身の程を知れ、身の程を。
 「・・・・・・・・・・・・ふぅ」
 バカバカしくなって急に頭が冴えてきた。ああ、忘れるところだった。今、カメラを回して記録を残しているんだった。
 「カズ、寛子、父さんがお前たちのために買ったカメラでこんなこと言いたくなかったよ」
 撮る前に確認した家族との思い出。もうなくしていたと思っていたメモリーカードがスーツの内ポケットの中にあった。今、手元にあるのはそれを映せるカメラとデータだけだ。
 でもそれだけあれば十分だった。六文銭も何も持ってはいないが、思い出だけが輝いた宝石以上にキラキラと鮮明に映る。やるだけのことはやった、だから俺は大人しくここで散ろう。
 「今までありがとうな、最後に思い出させてくれて」
 カメラのレンズを自分に向けて、ニッと笑った。そして電源を落とし近くにある(奇跡的に)まだ流れている下水に向かってカメラを投げた。
 「願わくばカメラがいい証拠になってく―――――――――――」
 ボチャンという音と共に俺は押しつぶされた。真っ直ぐ立ちすぎた、首、背骨、腰が順に折れてスゴイ痛みが全身に流れて、ブツリと目の前の光景が消えた。
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