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終章 ギサキ
第41話 透ける身体の向こうに見える荒野
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オレの名はギサキ、亡国中を飛び回る改造人間の女の子だ。
自分は今、教会で休んでいる…流石に今日は色々起こり過ぎだ…なにせ今日だけでも3つの場所を回り、3つの暗示を回収した…体力的にも限界が来ている。
今日はもう遅いので明日から頑張ろう…いや、明日も頑張ろう。
「シスター、ミサキをどうするんですか?」
「こちら側に勧誘するわよ。ダメだったら…制御装置を取り付けるわ。」
「……そうですか。」
ギサキはおそらく…いや確実にオレ達の方へ来ないだろう…性格で分かる。
シスターは制御装置を付けると言っている…実際に見たことは無いが、アレを付けると自我が喪失して只々命令に従う生物兵器と化してしまう…それは嫌だなぁ…
「シスター…どうしてもミサキが居ないとダメなんですか?オレではダメですか?」
「ギサキ、確かに貴女は強いわ…けど所詮はミサキの模造品に過ぎないの…兵器は強く、そして旧式の物を使うのが戦争と言うものよ。」
「けど…だからって制御装置を付けるなんて…あんまりですよ…」
「やけに肩を持つわね?じゃあアンタがミサキに掛け合ってみる?どうせ破壊されるのが落ちでしょうけど。」
そこまで言われてしまうともう返す言葉が見つからない…
そうだ…オレは偽咲…コピーで偽物、下位互換に過ぎない…けどミサキは…大事な家族だ、昔は嫌いだったけど今は尊敬できる…奴だ。
オレも薄情な奴だな…
「そうですか……オレは先に休みます…」
「そうしなさい。明日も忙しいでしょう。」
自分は研究室を後にするとベッドがある部屋へ戻った…こんな事を思うのは失礼だが…最近シスターの事を以前より尊敬できなくなってきている気がする。
もうじき完成するである「イサキ」と「リサキ」にもシスターは制御装置を付けるだろう…生まれ方は違えど、正真正銘オレの妹になるんだ。
彼女達に情が沸いてしまう…普通に生まれて欲しかった…
【ギサキ……どうしてあの人に従うの?自分で行動しないの?】
「オレは兵器だ…使用者に逆らうのは許されない…それに母親なんだ…」
【貴方に必要なのは独立して自分で考える脳よ。自分のしたい事をしなさい。そしてしたくない事はしなければ良いわ。】
自分のしたい事…オレはミサキと和解したい…したくない事…6か国への復讐、妹の自我の崩壊……ダメだ、逆らってはいけない、親の言う事は絶対だ。
何があっても歯向かうのは許されないんだ、自分の事を思ってくれている。
そんな事を考えながら自分はベッドへ顔をめり込ませ…
・・・
「………んが!(いつの間に寝てたんだ…?)」
【すぅ…すぅ…】
いつの間にか寝ていたのか…しまったなぁ、仮面を着けたまま寝てしまった…痕が付いてないと良いけど…
「シスター……居ないや…また研究室で寝た…のか。」
とりあえず寝ぼけ頭を正すために外へ行き、秋の冷たい風を浴びながら外の蛇口から冷たい水を出し、歯を磨き、顔を洗うとシャッキリ目覚めた。
はぁ…さて、シスターはどうせ研究室で寝ているだろうし、1人で朝食でも食べよう。
「……しまった、米が無い…」
米櫃の中は空っぽだ…しまったなぁ…そういや米が無いってシスターが言っていたのを思い出したぞ…だとしたら朝食は抜きか?…ダメだ、朝を抜くと力が出ない。
今日も死闘になる(と思う)ので割とマジで生死に関わる問題だ。
だが無いとなれば…他の物で代用するしか無い、朝はパンと言う歌があるし、パンにしよう。
「食パン…が一斤だけかぁ…カロリーは低いけど無いよりかはマシかな。」
この際、贅沢は言ってられないのでこの食パンを頂くことにした。
ジャムとか塗ればカロリー高くなると思うし、良いかもね。
菜箸を食パンにズブッ!と刺すと、コンロを点けて直接炙る…こうした方が早い。
「~♪あ、やべ…ちょっと焦げちゃった。」
少し焦げたが…まぁ良いでしょう、別にこのくらい食べても癌にはならない。
食パンは直で食べるのが良い、一々切るのは面倒くさいし、変に切ると食べにくい。
ちょっとガスの味がするけどジャムを塗ればイケる…牛乳もある。
そう言えばミサキは海外のチョコを塗って食べてたなぁ…
「ふぅ…満足、チャージも出来たし…行くか。」
【ふがッ…ギサキ?】
「おはよ、オレはもう行くから。」
【はいはい。いってらっしゃい。】
行く前にシスターにも挨拶をしておこう、次の目的地調べも兼ねて。
研究室に入ると机に伏せて寝ているシスターを揺さぶって起こす…
「んう……なによ…」
「次の所へ行ってきます。紙を見せてください。」
「ん…はい。」
「ありがとうございます。」
受け取った紙には3つの角が黒に染まった六芒星…染まっているのは左足、右足、胴体の暗示…そして残っているのは右腕、左腕、頭部…今回は左腕で行こう。
左腕の暗示を持つ者の名は「チムシ」、種族は幽霊で場所はブレドキャニオンだ。
ブレドキャニオンは広い荒野で幽霊が出ると聞いた…確かにあそこじゃ相手が幽霊でもおかしいことは無いな…行くか…
「行ってきます。ちゃんとベッドで寝てくださいね。」
「分かってるわよ…いってらっしゃい…ふぁぁ~」
置いてあった携帯食料を持って行くと外へ出て、ブレドキャニオンの方角を目指して最高速でカッ飛ぶ!!場所は遠いが…今日中には着くだろう。
・・・
「~♪……おっと、持ち歌が尽きた…もっといい曲を探さないと…」
だが丁度いいと言うもの…遠目の方に荒野が見えて来た…あれがブレドキャニオンか…めっちゃ閑散として時代遅れな部族が住んでいて、何処かに大きい油田が有るらしい。
きっと油田を掘り当てた奴は一生遊んで暮らせるのだろう…だ、だけど…シスターの方がお金持ってるし…国ぐらい余裕で買えるし…
何を張り合っているんだオレは…早く行こう。
「さて…手頃な町に到着っと…」
「(また変な人が来たなぁ…)」
荒野の中でまぁまぁ賑やかな町を見つけると、そこへと降り立った。
まだ昼過ぎなので…意外と早く着いたな、それに幽霊は夜に活発になるので丁度いい。
ところでさっきからヘンな女の子がジーっと見て来ている…何か用か?
「そこの女児、オレになんか用か?」
「いや…自分、最近空を飛べる人間に会うなぁって。」
「そうなのか?そりゃ良かったな。」
「もしかしてお兄さんも幽霊探し?それともキョンシー探し?」
「キョンシー…?」
この女児の名はリジナ、前に変な格好をした女が此処に来て幽霊とキョンシーを探していたらしい…まったく、いい歳してキョンシー探しなんて…親の顔が見たいよ。
それに比べミサキはちゃんとして、真面目な人間だよまったく…
「キョンシーは知らんが幽霊は探してるんだ。何か知らないかい?」
「残念だけど…この前から幽霊は出なくなったよ。」
「えぇ?」
どうやら前に来た女が幽霊共を粗方ぶっ殺したせいで全員成仏してしまったらしい…いや、紙に名前が書かれているので居るのは間違いないだろう。
きっと残り者だな…案外大したことないヤツかも。
前まで幽霊が出たところを聞いたが…
「幽霊は此処から少し遠くに行った聖域に居る…けど…」
「けど?」
「最近、私有地になったから勝手に入っちゃダメだよ。」
「そんな事、誰が決めたんだ?私有地って。」
「偉い人…だと思うけど。」
「あのな、地球が決めたわけじゃ無いんだ。土地は誰のものでも無い。」
偉い奴が土地と言っているのは積み重なった石と泥に過ぎない…ケーキみたいに切り売りされる最高額の土だな…それに地球が決めたわけでは無い。
誰のものでも無いだろう、広い宇宙に比べたら…土地なんてミジンコだね!
やっぱり真の金持ちは宇宙を買わないと、流れ星とかね。
「それに黙ってくれてたら何の罪にも問われないよ。」
「ダメ、ウチがみんなに言う。」
「んもう…じゃあ黙っててくれるかな?」
「タダじゃ嫌。」
くっそぅ…このクソガキめ…商売がうまいなぁ…だがオレはキャッシュレス派の人間だ、カード以外に払えるものを持ち合わせていない。
それとも…最近の子供はお小遣いもキャッシュレスなのか?
「お金ないよ…カードしか持って無いんだ。コレはあげられない。」
「じゃあ…一緒に遊んで。おままごとしたい。」
「ままごとだと?良いだろう。」
ふん、所詮はガキ…ままごととはかわいい所があるじゃないか。
オレは二つ返事で遊びに付き合ってやることにした…今日は友達も居るみたいで3人で遊ぼうという事になった。
「やっほー!こんちわ!」
「…?なぁもしかして何処かで会ったか?既視感があるんだが…?」
「いや気のせいじゃない?私は貴方の事知らないな。」
「この人、リンヤ。最近できた友達。」
「そうか…オレの名はギサキだ。よろしく。」
このリンヤと言う女…気のせいか?何処かで見た気がする…思い出せん。
もしかしたら他人の空似かもしれないし…そんなに気にしなくても良いかな?
斯くして、おままごとは始まった…設定は母子家庭にやって来た女教師が母親を誘惑して息子諸共手込めにするというもの…懐かしいなぁ。
「ギサキ…?気のせいかな…聞いた事あるような…無いような…」
「え?そうなのか?」
「けど…親友に名前が似てるだけかも。気にせず始めようよ。」
「そうだよ…早く始めよう。」
ちなみに役はオレが息子役、リジナが教師役、リンヤが母親役だ。
ブルーシートを敷けば家の出来上がり、屋内でやるのとは違い、壁も無い。
(せっかくなら女の子役が良かった…)
「ギサキ、今日は家庭訪問でしょ?ちゃんとして。」
「面倒くさいなぁ…あの教師、変な目でオレを見るし…」
「ダメよ、そんな事言っちゃ…あ、来たかな。」
「こんにちわ!私が教師の…」
その時、大通りの奥の方から馬に乗った男がやってきた。
成りからして部族だろう…そうだとしたら聖域の事を知っているかもしれない。
オレは直ぐに聞きに行きたいのだが…
「奥さん、溜まってんでしょ?」
「いやぁ…やめてつかぁさい!女同士でなんて…」
「(行っても大丈夫そうだな…)」
あの2人は行為に夢中なのでオレは適当に演技してその場を後にしてその男の後を追った…彼は物資を買いに商店に来たらしい…部族も買い物するんだな。
「あの、ちょっと良いかい?」
「何か用か都会者?日が暮れる前に戻らくなくてはならないのだが。」
「すまない。それで…聖域の幽霊の事なんだけど…まだ居るよね?」
「な!何故それを………あぁ、居るとも。」
この男の名はコッドロー、やはり部族の人間でコーヒーを買いに来たらしい。
コーヒーを飲むんだ…という話はさておき、店の隅でコソコソ話すと…本当に聖域には幽霊が残っているらしい…前に7体居たうちの1体で強力な奴…
名は知らないが、悪さもしないし良いかな…と放っておいているとのこと。
「聖域は立ち入り禁止のハズだ、何故知っている?」
「知り合いに聞いたんだ。ちゃんとソイツからも許可を貰ってる。(嘘だけど)」
「(知り合い…ミサキか?だとしたら…)まぁ良い、好きにしろ。」
「あざっす。」
「その代わり、自己責任だ。」
よし、咄嗟についたウソで何とか乗り切ったぞ…これで不法侵入云々も解決だ。
もう店を出ようとした時、店の入り口には不満そうな顔のリジナとこれと言って何も考えてなさそうなリンヤが立っていた。
リンヤの顔を見てコッドローの顔が強張った気がする。
「もう…なんで行くの?」
「悪いね。急いでるんだよ、好きなモン買ってやるから勘弁してくれ。」
「なら良い。許す…アレ買ってくれたら。」
「はいはい……って!サファイアのブローチだと…」
こんな高額な宝石類を子供がねだるとは…いや…まさか!?しまった!!
此処はリジナの親の店か!クッソぅ…商店だと思ったがこんな物が売ってるとは…迂闊だった……しかし!漢に二言はない…男じゃないけど。
「カード…使えますか?」
「大丈夫ですよ。いやー…50年前の物なんですけど売れるとは思いませんでした!」
「オレも買う事になるとは思わなかったよ。」
「お買い上げあんがとね!ギサキは今日からウチのVIP客にしてあげる。」
限度額無しのブラックカードで支払った金額…驚異の368万円。
ハッキリ言って痛くも痒くも無いが、なんか癪だ…要らん純金とサファイアのブローチを手に入れた自分は…懐にサッと仕舞いこんだ。
こんな物は必要ないと思うが…捨てたりあげるのも嫌だ。
「ギサキ、チョコ買ってよ。」
「お前もか…」
リンヤに78円の板チョコをついでに買ってあげると、外に出た。
何やら店の中でコッドローが敬語でリンヤに話しかけていたが…まぁ気にする事でも無いだろう、今のうちに聖域へ行こうじゃないか、もうすぐ夕方だ。
・・・
「さてと…だいぶ日が暮れたな…もうそろそろ良いだろう。」
聖域へ着いた自分はしばらく昼寝して時間を潰し、辺りが暗くなったのを確認してから聖域を飛び回った…おや、今日は満月じゃないか。
まんまるお月様が眩しい…荒野も月明かりで照らされている。
こんなに良い満月の日には………徹夜でゲームがしたくなっちゃう。
「(一週間前も満月だった気がするけど…気のせいかな…そうに違いない)」
ヘンに沸いた疑問を抑えつつ、聖域をビュンビュン飛び回って幽霊を探す…
しかし幽霊どころか鳥一匹も飛んでいない…とても静かな時だけ流れるだけだった。
静かなのは好きだが…こう、風の音も聞こえないくらいじゃ不気味と言うものだ。
「おかしいなぁ…幽霊が居るハズなんだけどなぁ…」
【それってどんな奴だい?】
「幽霊だよ、ちょうどお前みたいな…お前かい。」
【はっはぁ!来たね?居るよ?】
いつの間にか自分の後ろに居たのは幽霊だ…こういう奴は悪霊と言うのかもしれないが自分にはよく違い分からない。
【俺はチムシ、此処に残ったロンリーゴースト、お前等やったか?ホロコースト?】
「残念だけどオレはナチス軍じゃない。そう言う事気軽に言ってんじゃねぇよ。」
【言葉を話すだけなら簡単だ、なんたって音を出すだけだからね。】
このよく掴めない性格は幽霊だからなのだろうか…いや、幽霊は確かに実体が無いから掴めないけど…うん?待てよ…?もしかしたら効くのか?
オレの攻撃方法…ちょっとテストしてみるか。
「……ハァッ!!」
【!?…な、何しやがった?ちょっとびっくりしたぞ、死んで無いけど寿命が縮むかと思ったぞ…】
なにぃぃいいい!!エネルギー波を喰らったのにコイツ、ピンピンしてやがる!
しまった…チクショウ!コイツはやはり幽霊だから光線の様な物理攻撃が効かないのか!!どうする…オレはまじないなんて使えないぞ…
クッソゥ…こんな時シスターが居たら…良い考えを思いつくんだろうな…
いや…考えてみろ!相手は幽霊!こちらが攻撃できないならあちらも攻撃できないのでは…?
【ちょっとカチンとカムだな…お前、その体から解放してやるよ。】
「はは…良いだろう!掛かって来い!(オレに攻撃が通じるはずが無い…)」
【威勢だけは良いな!お前は今日から…やる気断然伊勢海老だ!!】
「…ッ!!ぐぉお!!?」
幽霊はオレに向かってタックルをかます!!強い衝撃と鈍い痛みが走る!
何故だ!?何故アイツはオレに攻撃が出来る!?
「ぐっはぁ!!ど、どうして…」
【どうして攻撃が出来るのか…だろ?幽霊ってのは人間のスケアリー…つまり恐怖心から生まれる…お前の中に恐怖心がある限り、同じ恐怖心である俺はお前に干渉できるのさ!】
「長ったらしい事を言ってんじゃねぇ!!」
【無駄だ!!】
「クソッタレェ!!」
オレは何回も奴へ向かってエネルギーを溜め、放つを繰り返す!!
しかし透けるのみで一向に喰らわない…チキショウ……!?そうだ!昨日拾った針があるじゃないか!アレは悪魔の硬い皮膚をいとも簡単に突き刺した武器だ!
悪魔と幽霊は違うかもしれないけど…信じれば何とかなる!
「ぶっ刺してやる!」
【な、なんだそれは…そんな物…刺しても……ッ!!?ファガッ!?】
「さ、刺さった!やった!!…ひぃ!?」
【うぐぁあああああ!ごがぁぁあああ!!アギャァァァァア!!イ、命ガ…ス、吸ワレル!!】
針はブスッ…と簡単に幽霊へ刺さる…「やった!」と思ったのも束の間…次の瞬間、幽霊に刺さった針はズゴォォン!!という爆音を立てて光り出す!
そして幽霊は吸われると言っていた様にドンドン針へ吸われて行き…
遂に全身が吸い込まれてその場には針が残った…こ、怖い!何だよコレ!
「さ、触っても…良いのかな…」
つま先で落ちた針をチョンチョンと突っつくと、何も起きなかったので拾うとまじまじと針を観察した…もしかして新型兵器か何かか…?
こんな物を持っていて良いのだろうか…しかし、悪用されるのは困る。
この針は教会に持って帰って大事に隠そう。
シスターに見つかったら「解析する!」と言って止まらないだろう…そんな事になったら困る、もし取り返しのつかない事態になってからでは遅い。
「さて…もう行くか…」
「おっと、そうは行かないからな?」
「!?誰だッ!?」
もう此処から去ろうとしたその時、後ろからの呼び声を感じて振り返ると…
「…!?チ、チサキ!?どうして生きているんだ!?」
「勝手に殺すんじゃねぇよ。お前よりかは丈夫なんだからな?」
「そんな…アレを喰らって生きているなんて…」
「ったくよぉ、マジで殺しに来やがって…私でもヤバイと思ったぜ…」
そこに居たのはチサキだった…服はボロボロだが、それ以外ではピンピンしている。
チサキは懐のシガレットケースから煙草を取り出すと火を点けて吸う…
生きていた……良かった………いや、今はそんな事を考えている場合では無い。
何しに来たんだ…まさかお礼参りにか?
「な、何しに来た…オレを殺しに来たのか…?」
「ンな事するかよ。話は簡単だ、ギサキィお前トロイダの部下になれ。」
「は?舐めてんのかよ?なんであんなきちがいの部下になんか…」
「お前、良いのか?このままくだらない復讐に手を貸し、兵器に成り下がるなんて。」
兵器…成り下がる…オレはもうこれ以上下がるワケでは無い。
それにどう生きようがオレの勝手だ、自分のしたい事をしてしたくない事をしない…
「復讐なんてしたくないよ…」
「だろ?お前だって私と同じタイプだ、嫌に決まってる。」
「だけど……だからってトロイダの下に着くくらいならシスターにオレは下る。」
それが答えだ、どっちも嫌ならどちらもしなければ良い…と言うようにこの世は上手く行かない…簡単な事だ、右か左にしか曲がらないレバーがあるとする…だったら左右のどちらかに傾けるだろう。
だったら自分は嫌過ぎない方に傾ける。
「はぁ~あ…ったく…お前って昔からそうだよな…もう良いよ。」
「な、なんだ…やけに諦めが良いじゃないか…」
「お前は決めると堅いからな…母ちゃんが言わねぇ限り思想を変えない…一番使われて捨てられるタイプの人間だ。」
使われて捨てられるタイプの人間…所謂「捨て駒」ってことか…
確かに自分は捨て駒は嫌だ、どちらかと言うとずっと置いておかれたい…つまり飼いならされる方が身の丈に合っていると思うタイプだ…
だがシスターは使い捨てなんてしない…ケチだからね。
紅茶のパックを6回も使った挙句、肥料にする様な人間だ…一体作るのに何百億も掛かるオレを素直に捨てるなんて考えられない。
「……アンリ、捨てられるって…物理的にじゃねぇぞ?」
「物理的に?」
「あの性悪女の事だ、どうせ生意気になって来たら制御装置でも付けて言いなりにするだろうよ。それもある意味お前を捨てるって言えるだろ。」
「そ、そんな事…ならないよ…」
「安心しろ。私がさせない。」
「え?」
「何でもねぇよ、バーカ。じゃあな。」
そう言うとチサキは煙玉を地面に投げつけ…普通に歩いて帰って行った…追いたい気もするが……止めておこう、トロイダと鉢合わせたら嫌な事になりそうだ。
オレは仕方なしに見逃すことにすると…教会へ戻ることにした。
つづく
自分は今、教会で休んでいる…流石に今日は色々起こり過ぎだ…なにせ今日だけでも3つの場所を回り、3つの暗示を回収した…体力的にも限界が来ている。
今日はもう遅いので明日から頑張ろう…いや、明日も頑張ろう。
「シスター、ミサキをどうするんですか?」
「こちら側に勧誘するわよ。ダメだったら…制御装置を取り付けるわ。」
「……そうですか。」
ギサキはおそらく…いや確実にオレ達の方へ来ないだろう…性格で分かる。
シスターは制御装置を付けると言っている…実際に見たことは無いが、アレを付けると自我が喪失して只々命令に従う生物兵器と化してしまう…それは嫌だなぁ…
「シスター…どうしてもミサキが居ないとダメなんですか?オレではダメですか?」
「ギサキ、確かに貴女は強いわ…けど所詮はミサキの模造品に過ぎないの…兵器は強く、そして旧式の物を使うのが戦争と言うものよ。」
「けど…だからって制御装置を付けるなんて…あんまりですよ…」
「やけに肩を持つわね?じゃあアンタがミサキに掛け合ってみる?どうせ破壊されるのが落ちでしょうけど。」
そこまで言われてしまうともう返す言葉が見つからない…
そうだ…オレは偽咲…コピーで偽物、下位互換に過ぎない…けどミサキは…大事な家族だ、昔は嫌いだったけど今は尊敬できる…奴だ。
オレも薄情な奴だな…
「そうですか……オレは先に休みます…」
「そうしなさい。明日も忙しいでしょう。」
自分は研究室を後にするとベッドがある部屋へ戻った…こんな事を思うのは失礼だが…最近シスターの事を以前より尊敬できなくなってきている気がする。
もうじき完成するである「イサキ」と「リサキ」にもシスターは制御装置を付けるだろう…生まれ方は違えど、正真正銘オレの妹になるんだ。
彼女達に情が沸いてしまう…普通に生まれて欲しかった…
【ギサキ……どうしてあの人に従うの?自分で行動しないの?】
「オレは兵器だ…使用者に逆らうのは許されない…それに母親なんだ…」
【貴方に必要なのは独立して自分で考える脳よ。自分のしたい事をしなさい。そしてしたくない事はしなければ良いわ。】
自分のしたい事…オレはミサキと和解したい…したくない事…6か国への復讐、妹の自我の崩壊……ダメだ、逆らってはいけない、親の言う事は絶対だ。
何があっても歯向かうのは許されないんだ、自分の事を思ってくれている。
そんな事を考えながら自分はベッドへ顔をめり込ませ…
・・・
「………んが!(いつの間に寝てたんだ…?)」
【すぅ…すぅ…】
いつの間にか寝ていたのか…しまったなぁ、仮面を着けたまま寝てしまった…痕が付いてないと良いけど…
「シスター……居ないや…また研究室で寝た…のか。」
とりあえず寝ぼけ頭を正すために外へ行き、秋の冷たい風を浴びながら外の蛇口から冷たい水を出し、歯を磨き、顔を洗うとシャッキリ目覚めた。
はぁ…さて、シスターはどうせ研究室で寝ているだろうし、1人で朝食でも食べよう。
「……しまった、米が無い…」
米櫃の中は空っぽだ…しまったなぁ…そういや米が無いってシスターが言っていたのを思い出したぞ…だとしたら朝食は抜きか?…ダメだ、朝を抜くと力が出ない。
今日も死闘になる(と思う)ので割とマジで生死に関わる問題だ。
だが無いとなれば…他の物で代用するしか無い、朝はパンと言う歌があるし、パンにしよう。
「食パン…が一斤だけかぁ…カロリーは低いけど無いよりかはマシかな。」
この際、贅沢は言ってられないのでこの食パンを頂くことにした。
ジャムとか塗ればカロリー高くなると思うし、良いかもね。
菜箸を食パンにズブッ!と刺すと、コンロを点けて直接炙る…こうした方が早い。
「~♪あ、やべ…ちょっと焦げちゃった。」
少し焦げたが…まぁ良いでしょう、別にこのくらい食べても癌にはならない。
食パンは直で食べるのが良い、一々切るのは面倒くさいし、変に切ると食べにくい。
ちょっとガスの味がするけどジャムを塗ればイケる…牛乳もある。
そう言えばミサキは海外のチョコを塗って食べてたなぁ…
「ふぅ…満足、チャージも出来たし…行くか。」
【ふがッ…ギサキ?】
「おはよ、オレはもう行くから。」
【はいはい。いってらっしゃい。】
行く前にシスターにも挨拶をしておこう、次の目的地調べも兼ねて。
研究室に入ると机に伏せて寝ているシスターを揺さぶって起こす…
「んう……なによ…」
「次の所へ行ってきます。紙を見せてください。」
「ん…はい。」
「ありがとうございます。」
受け取った紙には3つの角が黒に染まった六芒星…染まっているのは左足、右足、胴体の暗示…そして残っているのは右腕、左腕、頭部…今回は左腕で行こう。
左腕の暗示を持つ者の名は「チムシ」、種族は幽霊で場所はブレドキャニオンだ。
ブレドキャニオンは広い荒野で幽霊が出ると聞いた…確かにあそこじゃ相手が幽霊でもおかしいことは無いな…行くか…
「行ってきます。ちゃんとベッドで寝てくださいね。」
「分かってるわよ…いってらっしゃい…ふぁぁ~」
置いてあった携帯食料を持って行くと外へ出て、ブレドキャニオンの方角を目指して最高速でカッ飛ぶ!!場所は遠いが…今日中には着くだろう。
・・・
「~♪……おっと、持ち歌が尽きた…もっといい曲を探さないと…」
だが丁度いいと言うもの…遠目の方に荒野が見えて来た…あれがブレドキャニオンか…めっちゃ閑散として時代遅れな部族が住んでいて、何処かに大きい油田が有るらしい。
きっと油田を掘り当てた奴は一生遊んで暮らせるのだろう…だ、だけど…シスターの方がお金持ってるし…国ぐらい余裕で買えるし…
何を張り合っているんだオレは…早く行こう。
「さて…手頃な町に到着っと…」
「(また変な人が来たなぁ…)」
荒野の中でまぁまぁ賑やかな町を見つけると、そこへと降り立った。
まだ昼過ぎなので…意外と早く着いたな、それに幽霊は夜に活発になるので丁度いい。
ところでさっきからヘンな女の子がジーっと見て来ている…何か用か?
「そこの女児、オレになんか用か?」
「いや…自分、最近空を飛べる人間に会うなぁって。」
「そうなのか?そりゃ良かったな。」
「もしかしてお兄さんも幽霊探し?それともキョンシー探し?」
「キョンシー…?」
この女児の名はリジナ、前に変な格好をした女が此処に来て幽霊とキョンシーを探していたらしい…まったく、いい歳してキョンシー探しなんて…親の顔が見たいよ。
それに比べミサキはちゃんとして、真面目な人間だよまったく…
「キョンシーは知らんが幽霊は探してるんだ。何か知らないかい?」
「残念だけど…この前から幽霊は出なくなったよ。」
「えぇ?」
どうやら前に来た女が幽霊共を粗方ぶっ殺したせいで全員成仏してしまったらしい…いや、紙に名前が書かれているので居るのは間違いないだろう。
きっと残り者だな…案外大したことないヤツかも。
前まで幽霊が出たところを聞いたが…
「幽霊は此処から少し遠くに行った聖域に居る…けど…」
「けど?」
「最近、私有地になったから勝手に入っちゃダメだよ。」
「そんな事、誰が決めたんだ?私有地って。」
「偉い人…だと思うけど。」
「あのな、地球が決めたわけじゃ無いんだ。土地は誰のものでも無い。」
偉い奴が土地と言っているのは積み重なった石と泥に過ぎない…ケーキみたいに切り売りされる最高額の土だな…それに地球が決めたわけでは無い。
誰のものでも無いだろう、広い宇宙に比べたら…土地なんてミジンコだね!
やっぱり真の金持ちは宇宙を買わないと、流れ星とかね。
「それに黙ってくれてたら何の罪にも問われないよ。」
「ダメ、ウチがみんなに言う。」
「んもう…じゃあ黙っててくれるかな?」
「タダじゃ嫌。」
くっそぅ…このクソガキめ…商売がうまいなぁ…だがオレはキャッシュレス派の人間だ、カード以外に払えるものを持ち合わせていない。
それとも…最近の子供はお小遣いもキャッシュレスなのか?
「お金ないよ…カードしか持って無いんだ。コレはあげられない。」
「じゃあ…一緒に遊んで。おままごとしたい。」
「ままごとだと?良いだろう。」
ふん、所詮はガキ…ままごととはかわいい所があるじゃないか。
オレは二つ返事で遊びに付き合ってやることにした…今日は友達も居るみたいで3人で遊ぼうという事になった。
「やっほー!こんちわ!」
「…?なぁもしかして何処かで会ったか?既視感があるんだが…?」
「いや気のせいじゃない?私は貴方の事知らないな。」
「この人、リンヤ。最近できた友達。」
「そうか…オレの名はギサキだ。よろしく。」
このリンヤと言う女…気のせいか?何処かで見た気がする…思い出せん。
もしかしたら他人の空似かもしれないし…そんなに気にしなくても良いかな?
斯くして、おままごとは始まった…設定は母子家庭にやって来た女教師が母親を誘惑して息子諸共手込めにするというもの…懐かしいなぁ。
「ギサキ…?気のせいかな…聞いた事あるような…無いような…」
「え?そうなのか?」
「けど…親友に名前が似てるだけかも。気にせず始めようよ。」
「そうだよ…早く始めよう。」
ちなみに役はオレが息子役、リジナが教師役、リンヤが母親役だ。
ブルーシートを敷けば家の出来上がり、屋内でやるのとは違い、壁も無い。
(せっかくなら女の子役が良かった…)
「ギサキ、今日は家庭訪問でしょ?ちゃんとして。」
「面倒くさいなぁ…あの教師、変な目でオレを見るし…」
「ダメよ、そんな事言っちゃ…あ、来たかな。」
「こんにちわ!私が教師の…」
その時、大通りの奥の方から馬に乗った男がやってきた。
成りからして部族だろう…そうだとしたら聖域の事を知っているかもしれない。
オレは直ぐに聞きに行きたいのだが…
「奥さん、溜まってんでしょ?」
「いやぁ…やめてつかぁさい!女同士でなんて…」
「(行っても大丈夫そうだな…)」
あの2人は行為に夢中なのでオレは適当に演技してその場を後にしてその男の後を追った…彼は物資を買いに商店に来たらしい…部族も買い物するんだな。
「あの、ちょっと良いかい?」
「何か用か都会者?日が暮れる前に戻らくなくてはならないのだが。」
「すまない。それで…聖域の幽霊の事なんだけど…まだ居るよね?」
「な!何故それを………あぁ、居るとも。」
この男の名はコッドロー、やはり部族の人間でコーヒーを買いに来たらしい。
コーヒーを飲むんだ…という話はさておき、店の隅でコソコソ話すと…本当に聖域には幽霊が残っているらしい…前に7体居たうちの1体で強力な奴…
名は知らないが、悪さもしないし良いかな…と放っておいているとのこと。
「聖域は立ち入り禁止のハズだ、何故知っている?」
「知り合いに聞いたんだ。ちゃんとソイツからも許可を貰ってる。(嘘だけど)」
「(知り合い…ミサキか?だとしたら…)まぁ良い、好きにしろ。」
「あざっす。」
「その代わり、自己責任だ。」
よし、咄嗟についたウソで何とか乗り切ったぞ…これで不法侵入云々も解決だ。
もう店を出ようとした時、店の入り口には不満そうな顔のリジナとこれと言って何も考えてなさそうなリンヤが立っていた。
リンヤの顔を見てコッドローの顔が強張った気がする。
「もう…なんで行くの?」
「悪いね。急いでるんだよ、好きなモン買ってやるから勘弁してくれ。」
「なら良い。許す…アレ買ってくれたら。」
「はいはい……って!サファイアのブローチだと…」
こんな高額な宝石類を子供がねだるとは…いや…まさか!?しまった!!
此処はリジナの親の店か!クッソぅ…商店だと思ったがこんな物が売ってるとは…迂闊だった……しかし!漢に二言はない…男じゃないけど。
「カード…使えますか?」
「大丈夫ですよ。いやー…50年前の物なんですけど売れるとは思いませんでした!」
「オレも買う事になるとは思わなかったよ。」
「お買い上げあんがとね!ギサキは今日からウチのVIP客にしてあげる。」
限度額無しのブラックカードで支払った金額…驚異の368万円。
ハッキリ言って痛くも痒くも無いが、なんか癪だ…要らん純金とサファイアのブローチを手に入れた自分は…懐にサッと仕舞いこんだ。
こんな物は必要ないと思うが…捨てたりあげるのも嫌だ。
「ギサキ、チョコ買ってよ。」
「お前もか…」
リンヤに78円の板チョコをついでに買ってあげると、外に出た。
何やら店の中でコッドローが敬語でリンヤに話しかけていたが…まぁ気にする事でも無いだろう、今のうちに聖域へ行こうじゃないか、もうすぐ夕方だ。
・・・
「さてと…だいぶ日が暮れたな…もうそろそろ良いだろう。」
聖域へ着いた自分はしばらく昼寝して時間を潰し、辺りが暗くなったのを確認してから聖域を飛び回った…おや、今日は満月じゃないか。
まんまるお月様が眩しい…荒野も月明かりで照らされている。
こんなに良い満月の日には………徹夜でゲームがしたくなっちゃう。
「(一週間前も満月だった気がするけど…気のせいかな…そうに違いない)」
ヘンに沸いた疑問を抑えつつ、聖域をビュンビュン飛び回って幽霊を探す…
しかし幽霊どころか鳥一匹も飛んでいない…とても静かな時だけ流れるだけだった。
静かなのは好きだが…こう、風の音も聞こえないくらいじゃ不気味と言うものだ。
「おかしいなぁ…幽霊が居るハズなんだけどなぁ…」
【それってどんな奴だい?】
「幽霊だよ、ちょうどお前みたいな…お前かい。」
【はっはぁ!来たね?居るよ?】
いつの間にか自分の後ろに居たのは幽霊だ…こういう奴は悪霊と言うのかもしれないが自分にはよく違い分からない。
【俺はチムシ、此処に残ったロンリーゴースト、お前等やったか?ホロコースト?】
「残念だけどオレはナチス軍じゃない。そう言う事気軽に言ってんじゃねぇよ。」
【言葉を話すだけなら簡単だ、なんたって音を出すだけだからね。】
このよく掴めない性格は幽霊だからなのだろうか…いや、幽霊は確かに実体が無いから掴めないけど…うん?待てよ…?もしかしたら効くのか?
オレの攻撃方法…ちょっとテストしてみるか。
「……ハァッ!!」
【!?…な、何しやがった?ちょっとびっくりしたぞ、死んで無いけど寿命が縮むかと思ったぞ…】
なにぃぃいいい!!エネルギー波を喰らったのにコイツ、ピンピンしてやがる!
しまった…チクショウ!コイツはやはり幽霊だから光線の様な物理攻撃が効かないのか!!どうする…オレはまじないなんて使えないぞ…
クッソゥ…こんな時シスターが居たら…良い考えを思いつくんだろうな…
いや…考えてみろ!相手は幽霊!こちらが攻撃できないならあちらも攻撃できないのでは…?
【ちょっとカチンとカムだな…お前、その体から解放してやるよ。】
「はは…良いだろう!掛かって来い!(オレに攻撃が通じるはずが無い…)」
【威勢だけは良いな!お前は今日から…やる気断然伊勢海老だ!!】
「…ッ!!ぐぉお!!?」
幽霊はオレに向かってタックルをかます!!強い衝撃と鈍い痛みが走る!
何故だ!?何故アイツはオレに攻撃が出来る!?
「ぐっはぁ!!ど、どうして…」
【どうして攻撃が出来るのか…だろ?幽霊ってのは人間のスケアリー…つまり恐怖心から生まれる…お前の中に恐怖心がある限り、同じ恐怖心である俺はお前に干渉できるのさ!】
「長ったらしい事を言ってんじゃねぇ!!」
【無駄だ!!】
「クソッタレェ!!」
オレは何回も奴へ向かってエネルギーを溜め、放つを繰り返す!!
しかし透けるのみで一向に喰らわない…チキショウ……!?そうだ!昨日拾った針があるじゃないか!アレは悪魔の硬い皮膚をいとも簡単に突き刺した武器だ!
悪魔と幽霊は違うかもしれないけど…信じれば何とかなる!
「ぶっ刺してやる!」
【な、なんだそれは…そんな物…刺しても……ッ!!?ファガッ!?】
「さ、刺さった!やった!!…ひぃ!?」
【うぐぁあああああ!ごがぁぁあああ!!アギャァァァァア!!イ、命ガ…ス、吸ワレル!!】
針はブスッ…と簡単に幽霊へ刺さる…「やった!」と思ったのも束の間…次の瞬間、幽霊に刺さった針はズゴォォン!!という爆音を立てて光り出す!
そして幽霊は吸われると言っていた様にドンドン針へ吸われて行き…
遂に全身が吸い込まれてその場には針が残った…こ、怖い!何だよコレ!
「さ、触っても…良いのかな…」
つま先で落ちた針をチョンチョンと突っつくと、何も起きなかったので拾うとまじまじと針を観察した…もしかして新型兵器か何かか…?
こんな物を持っていて良いのだろうか…しかし、悪用されるのは困る。
この針は教会に持って帰って大事に隠そう。
シスターに見つかったら「解析する!」と言って止まらないだろう…そんな事になったら困る、もし取り返しのつかない事態になってからでは遅い。
「さて…もう行くか…」
「おっと、そうは行かないからな?」
「!?誰だッ!?」
もう此処から去ろうとしたその時、後ろからの呼び声を感じて振り返ると…
「…!?チ、チサキ!?どうして生きているんだ!?」
「勝手に殺すんじゃねぇよ。お前よりかは丈夫なんだからな?」
「そんな…アレを喰らって生きているなんて…」
「ったくよぉ、マジで殺しに来やがって…私でもヤバイと思ったぜ…」
そこに居たのはチサキだった…服はボロボロだが、それ以外ではピンピンしている。
チサキは懐のシガレットケースから煙草を取り出すと火を点けて吸う…
生きていた……良かった………いや、今はそんな事を考えている場合では無い。
何しに来たんだ…まさかお礼参りにか?
「な、何しに来た…オレを殺しに来たのか…?」
「ンな事するかよ。話は簡単だ、ギサキィお前トロイダの部下になれ。」
「は?舐めてんのかよ?なんであんなきちがいの部下になんか…」
「お前、良いのか?このままくだらない復讐に手を貸し、兵器に成り下がるなんて。」
兵器…成り下がる…オレはもうこれ以上下がるワケでは無い。
それにどう生きようがオレの勝手だ、自分のしたい事をしてしたくない事をしない…
「復讐なんてしたくないよ…」
「だろ?お前だって私と同じタイプだ、嫌に決まってる。」
「だけど……だからってトロイダの下に着くくらいならシスターにオレは下る。」
それが答えだ、どっちも嫌ならどちらもしなければ良い…と言うようにこの世は上手く行かない…簡単な事だ、右か左にしか曲がらないレバーがあるとする…だったら左右のどちらかに傾けるだろう。
だったら自分は嫌過ぎない方に傾ける。
「はぁ~あ…ったく…お前って昔からそうだよな…もう良いよ。」
「な、なんだ…やけに諦めが良いじゃないか…」
「お前は決めると堅いからな…母ちゃんが言わねぇ限り思想を変えない…一番使われて捨てられるタイプの人間だ。」
使われて捨てられるタイプの人間…所謂「捨て駒」ってことか…
確かに自分は捨て駒は嫌だ、どちらかと言うとずっと置いておかれたい…つまり飼いならされる方が身の丈に合っていると思うタイプだ…
だがシスターは使い捨てなんてしない…ケチだからね。
紅茶のパックを6回も使った挙句、肥料にする様な人間だ…一体作るのに何百億も掛かるオレを素直に捨てるなんて考えられない。
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「物理的に?」
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「そ、そんな事…ならないよ…」
「安心しろ。私がさせない。」
「え?」
「何でもねぇよ、バーカ。じゃあな。」
そう言うとチサキは煙玉を地面に投げつけ…普通に歩いて帰って行った…追いたい気もするが……止めておこう、トロイダと鉢合わせたら嫌な事になりそうだ。
オレは仕方なしに見逃すことにすると…教会へ戻ることにした。
つづく
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