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第陸章 兎ヤ露ツ異の堕ショ李ウ都タ棲イ无は…人形篇
第三十三話 アナをヌ袈詫サキ廼祁位御腑靈簾(穴を抜けた先のケイオプレイス)
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私の名はミサキ…気が付くと見覚えのない場所に居た女の子だ。
確か…トロイダに穴へ落とされたのだが…此処がケイオプレイスか…?だとしたらまんまと奴の思惑通りになってしまったワケか…悔しいなぁ…
それにしても此処はカオス極まりない…周りは酷く高いビルに囲まれ、ギラギラ輝くネオン、空を飛ぶ謎の生命体に…変な住人達…変じゃ無いのは私なのだが。
「うぅ…まったく…此処は街か何かか?」
よくテレビなどで見る摩天楼…と言う奴だろうか?とにかく大都会だ。
外を出歩いている奴は少ないが、建物の高さ、店の多さ、ネオンの派手さを見ればわかる…それに、そらも真っ暗だ…都会の空は暗いと聞いた事がある。
起き上がり、街をしばらく歩くと…とんでもない事に気が付いた。
「アレは…トロイダ?」
街の電子看板にはトロイダの顔が写し出されている…もちろん指名手配などでは無い…看板には『今日も1日死ぬほど働いてね☆』と書いてある。
もしかして此処は…奴の街か?そうなると…あのような奴だ、やりかねないな。
「(言葉が通じるか分からないけど…)ねぇちょっと、良いかしら?」
『ババババ!ババババババ!!ババババ!』
「ご、ごめんなさい…気を害したなら謝るわ…」
私はそうやって通じるか分からない言葉で謝りながら逃げた…何だアレは…
言葉ですら無かったぞ…電子音みたいな声だったが…恐ろしい。
しかし、あの看板の文字が読めるなら言葉も通じるかと思ったのだが…変なのはアイツだけだったのだろうか…違う奴に話しかけようかな。
「すいません、ちょっと良いですか…?」
「はい?何ですか?」
「(良かった…まともそうだし話も通じる)此処は何処なの?」
「え?なんだって!…それは本当に残念だよ…本当に面白いな!!」
私は何も言わずにその場から逃げた…ダメだ、人間っぽい奴に話しかけてはいけない!悪魔っぽい奴や獣人、妖怪などに話をしてみよう…彼らの方がまともそうだ。
だがその時…
『やっほー!!皆さん!!』
「うん?あれは…大型テレビ?」
テレビの中のトロイダが何やらニュースみたいなものを始めやがった。
何だと思って見ていると………私の顔がテレビに映し出された。
「な!」
『コイツはミサキって言うとーっても悪いヤツ!見つけ次第捕まえてね!』
「つ、捕まえ…」
『捕まえて来た人には…賞金として2兆憶万円あげちゃいまーす!!』
テレビに映し出された私のリアルな似顔絵の下には罪状も書かれていた。
罪状は公然わいせつ罪、トロイダ侮辱罪、ミとサとキが連続で付く名前罪である。
最後に関しては一体何なんだ…私と同名の奴だけじゃないか…
しかし…ヤバイ、背後から大量の視線を感じる…早く逃げなくては!!
『あと最後にミサキ…』
「………」
『もし帰りたかったら…ワタシの元へ来なさい。もちろん…自分でね。』
テレビの中のトロイダはそう言い残すとプツンと切れて消えた…
【居たぞ!ミサキだ!!】
「クッソ!!しょうがないわ!逃げるしか無いわね…!」
此処の住人は何をどうやって戦うかが分からない!下手に相手するより逃げた方が良い!!
私は必死にその場から逃げた!!とにかく逃げた!!戦略的撤退だ!
だが追手はしつこく、いくら逃げようとも新たな奴が現れ、追いかけて来る…
どうする、飛ぶか…?だが空には変な生物が居る…喰われるかもしれない。
「ちょっとそこの人!こっち!!」
「え?わ、私?」
「良いから早く!」
「んむぐ!!」
私は路地裏から伸びて来た手に口を塞がれ、引き込まれてしまった…
レンガの壁の中をズルリ…と何故か透け通ると私の口を覆っていた人物と対面する事に…ソイツは…
「こ、こんにちは…ミサキ…さんですよね?」
「ト、トロイダ!何故ここに!!ぶっ殺してやる!!」
「わぁああああ!!待ってください!!違います!ウチはトロイダではありません!」
私は膝蹴りの構えを解くと…相手の話を聞いた。
コイツの名はチゥワナ…トロイダそっくりだが…背が低く、顔も情けないし…モジモジしているので…なんか違う。
「ウチは…何と言うか…正確に言えばトロイダですけど…違うんです。」
「はぁ?あんまり意味わかんないこと言わないでくれる?」
「すみません…その…ウチはトロイダの…善と言うか…抑止力みたいなものです。」
「抑止力?」
チゥワナが言うには人間は誰しも抑止力があり、それはトロイダも例外ではない。
言わば罪悪感の様なものだが…奴は自分の抑止力を己から引き離すことにより、なんでも出来る変な性格になったと…そして、私を助けた理由は手伝ってほしいからだと。
「ウチが…アイツと合体すれば…抑止力が生まれます…だから…」
「まぁトロイダに会うのを手伝ってほしいってワケね。何となく分かったわ。」
「そうです。あの…頼んでも…良いですか?」
「………まぁ良いわ。アンタは私を匿った、それに情けない奴を見ると情が沸くのよ。」
彼女はパァァ…と晴れた顔になると「ありがとうございます!」とお礼をした。
礼を言うのは上手く行った後である…問題は奴と、どう出会うかだが…
「本体はケイオスタワーに住んでいると思います…」
「ケイオスタワー?」
「此処で一番高い建物です…黄金と翡翠の塔で、そこに奴が住んでます…」
「ふぅん…なるほどね、そりゃ成金な塔ね。」
計画はこうだ。
まずケイオスタワーに登り、トロイダと対峙…そしてその隙にチゥワナが奴と同化、抑止力が生まれ、チゥワナが奴を乗っ取り、共に元の世界へ戻る…そして私が殺す。
これが計画…もっとも良い計画だ。
それにしても…まさかこの仕事がここまで大規模になるとはなぁ…
ギサキとシスターから大金をふんだくってやる!油田があるのでお金には困らないと思うがね。
「ところで…此処は何処なの?アンタの家?」
「はい。ミサキさん…何か身を隠せそうな物、持ってませんか?」
「鉢巻きはどうかしら、顔は変わると思うわ。あと、呼び捨てで結構よ。」
鉢巻きは顔の見た目も少し変わる…なので身を隠せるかもしれない。
所持品はそのままだ…ポーチの中から鉢巻きを取り出すと、頭へ巻いた。
背と髪の毛は伸び、鏡を見れば顔つきも少し大人びている…
(アジア系の顔に生まれた事を悔やむよ…)
「此処の住人なら騙せると思います…」
「案外バカなのね。ケイオプレイスの奴等って。」
私はその後、チゥワナから此処の事も教えてもらった。
ケイオプレイスでは自分の常識で振舞えば生きて行けない、此処の住人も人間なんて居らず大体が魑魅魍魎の類である、通貨や紙幣の概念が無い。
「じゃあお金はどうするの?無いんだったら?」
「くれって言えばくれます…断られたらそれまでですけど…」
「本当に変な所ね此処…」
また、ケイオプレイスは色々な文化がごちゃ混ぜになっており、服を着ていると公然わいせつで逮捕されるエリアがあったり、呼吸をすると罰金、瞬きをすると死刑の場所もある。
警察の概念も無く、自警団も無い…何かあっても本人達で何とかしないといけない。
ちなみにトロイダはケイオプレイスの最高権力者らしい。
「アイツが3を2と言えばそうなりますし…5を1にしてもそうなるんです。」
「まぁ何となく分かったわ。私が此処に馴染んで来てる気もするし…」
「外の人が長居し過ぎると大変な事になります…早く行動に移さなければ…」
「じゃあぼちぼち、ケイオスタワーを目指しましょうか。」
私のような人間がのんびりケイオプレイスに長居し過ぎた場合、バグ人という穢れた存在へ変わってしまうらしい…もしそうなってしまったら…二度と元に戻る事は不可能。
最強の自分がそうなるとは思えないが、怖いので早く行くことにした。
トロイダは暗示を持っているので丁度いい…うん。
「………大丈夫そうですね。」
外に出てみれば…先ほどの激しさとは違い、私の正体がバレることは無かった。
このまま行けば楽にケイオスタワーまで行けそうだ!だが…遠いな…飛行は危険なので止めた方が良いと言われたので飛ばないが…徒歩の場合、かなりの時間が掛かるだろう。
道が舗装されているのが救いである、街なので当たり前っちゃ当たり前なのだが…
「……あ!し、白鞘!」
「白鞘?この刀の事ですか…?」
ふと横のフリーマーケットへ視線を移すと…なんと新品の白鞘が売られていた!これは私が使っていたものと同じだ!キジハラの印が押してあるし、青い光を放っている!
なんでこんな所に!?いや…此処では常識は通用しない…買うか…
「これいくら?」
【アンさん目腐ってんのか?こりゃイクラじゃないよ。たらこだよ。】
「たらこはタラの子です…ミサキ、では数の子は?」
「カズの子。(本当はニシンだけど勢いのまま言っちゃった…)」
【お客さん目が良いね、賞品にこれあげちゃう。】
私は白鞘を手に入れた……うん、考えてはダメね…とりあえずチゥワナのフォローのおかげで白鞘が手に入ったのでコイツは信用しておこう。
白鞘を腰のベルトに携えると…うーん…イイ感じ、やっぱこうでなくちゃね。
長さも重さも…全部が間違いない、私が使っていた物だ…しかし、刃は直されている…
「あんな感じです、この先も何か欲しい時はあんな感じにしてください。」
「…バカになれって事でしょ、得意分野よ得意分野。」
「なら良かったです…いや良くないですよね…すみません…」
相変わらずウジウジしたままのチゥワナを引き連れ…
私達は「捏造シャトル通り」へやって来た…此処にはバグ人が多い…目が虚ろだったり、半身が透明だったり…彼らは別の世界から連れて来られた者達だとチゥワナは言う。
ゆっくりし過ぎると私もああなってしまう…それだけは絶対に嫌だ!
何としてでも元の世界へ帰らなくては。
【おい!テメェ!!ミサキだな…】
「早速バレたわね…チゥワナ、アンタは戦える?」
「一応はトロイダですので…戦え無いことは無いです…」
「だったら引っ込んでなさい。私が1人で戦うわ。」
白鞘を抜けば…うん、この感触!やはりこの刀は馴染む!!
【やる気だな、相手してやる。俺の名はキカだ、冥途の土産に覚えておけ。】
「ザコに名乗る名は無いけど、アンタは知ってるみたいね。」
相手はキカ…バグ人と呼ばれる元人間…刀に対してドスとは中々の根性だ。
辺りの群集達は特に私達の事を気にしていないみたいだ…流石はケイオプレイス…
【四肢をぶった斬ってやるぜぇ!!】
「……ハァ!!」
【ッ!?】
キカはドスの先をこちらへ向けて走って来る!!しかし、構えはゴロツキかただのチンピラ程度…狙いを澄まし、一気に断ち切れば!!
ズバンッ!と真っ二つに斬り裂かれる!!
【グァッ…】
「斬り甲斐の無い奴ね…さぁ、行きましょ。」
「はい。」
真っ二つで横たわる奴を放置して私達はその場を後にした。
別にあのくらいの怪我ではバグ人は死なないらしい、だが怪我が治る事も無い…一生あのまま死ぬまで苦痛を味わう…トドメを刺しておけば良かったかも。
しばらく歩くと…強い空腹感が脳に響いた…グルグルと胃が物を求めている。
「…お腹が空きましたよね…何処かで食事を手に入れましょう…」
「買うんじゃなくて手に入れるのね。」
チゥワナは辺りを見渡すと…地面の隅に転がっている白い石を手に取った。
これはロー石と言うもので、子供が地面に絵を描く際に遊ぶものらしい…あくまでそれは普通の世界の話だが…この世界では便利なモノになると。
「こうやって…円を描いて…何が食べたい…ですか?」
「じゃ、チョコレート稲荷寿司。」
「なんですかそれは…出来ますけど…」
チゥワナは地面に描いた円の中に「チョコ稲荷」と書くと、その円を押す…そうすると地面に描かれているハズなのに書かれた円はボタンのように押し込まれ、手を離すとバネのようにせり上がって来た。
せり上がった円柱の断面は棚の様になっており、その中からチゥワナは…
「どうぞ…注文通りかと。」
「チョコ稲荷だ…まさかここで食べられるなんて…」
皿に盛られたチョコ稲荷…うん、まごうこと無きチョコ稲荷だ。
ご丁寧な事に私好みの濃い目の緑茶もセット…よく分かっている、甘い物には苦い茶が必要。
2人で地面に座り、食べてみた……味は…美味しい!チョコ稲荷!
これこそ究極の味だ!最高に美味しい!感涙物である…
(当然だが食器類もちゃんと揃っている)
「こんなに美味しいチョコ稲荷があるなんて…」
「はっぐぁ!?にゃ、にゃんですか…この恐ろしい食い物は…」
「え?不味い?」
「こんなに酷い食べ物…食べたこと無いです…お茶お茶…ブッフォォオ!!」
稲荷寿司が口に合わなかったのか、口直しに茶を飲んだチゥワナは苦みのあまり、勢いよく噴き出した…
不味いかな…美味しいと思うんだけどなぁ。
「しゅいません…ウチはちょっと違うものを食べましゅ…」
「そうした方が良いわ。残した奴は私が食べるから。」
チゥワナは先ほどと同じ様に円を描き、今度は「クリームケーキ」と書き、同じように押し込む。
そうして彼女は取り出したのはクリームだけの真っ白なケーキであった。
抑止力だけにホワイトな気分なのだろう。
「ちゃんと帰れるかしら…」
「帰れると思います。ウチも困りますし。」
まだケイオプレイスでの旅は始まったばかりである…果たしてこの先、どんな奴らが待ち受けているのだろうか…出来れば待ち受けていない方が良い…
つづく
確か…トロイダに穴へ落とされたのだが…此処がケイオプレイスか…?だとしたらまんまと奴の思惑通りになってしまったワケか…悔しいなぁ…
それにしても此処はカオス極まりない…周りは酷く高いビルに囲まれ、ギラギラ輝くネオン、空を飛ぶ謎の生命体に…変な住人達…変じゃ無いのは私なのだが。
「うぅ…まったく…此処は街か何かか?」
よくテレビなどで見る摩天楼…と言う奴だろうか?とにかく大都会だ。
外を出歩いている奴は少ないが、建物の高さ、店の多さ、ネオンの派手さを見ればわかる…それに、そらも真っ暗だ…都会の空は暗いと聞いた事がある。
起き上がり、街をしばらく歩くと…とんでもない事に気が付いた。
「アレは…トロイダ?」
街の電子看板にはトロイダの顔が写し出されている…もちろん指名手配などでは無い…看板には『今日も1日死ぬほど働いてね☆』と書いてある。
もしかして此処は…奴の街か?そうなると…あのような奴だ、やりかねないな。
「(言葉が通じるか分からないけど…)ねぇちょっと、良いかしら?」
『ババババ!ババババババ!!ババババ!』
「ご、ごめんなさい…気を害したなら謝るわ…」
私はそうやって通じるか分からない言葉で謝りながら逃げた…何だアレは…
言葉ですら無かったぞ…電子音みたいな声だったが…恐ろしい。
しかし、あの看板の文字が読めるなら言葉も通じるかと思ったのだが…変なのはアイツだけだったのだろうか…違う奴に話しかけようかな。
「すいません、ちょっと良いですか…?」
「はい?何ですか?」
「(良かった…まともそうだし話も通じる)此処は何処なの?」
「え?なんだって!…それは本当に残念だよ…本当に面白いな!!」
私は何も言わずにその場から逃げた…ダメだ、人間っぽい奴に話しかけてはいけない!悪魔っぽい奴や獣人、妖怪などに話をしてみよう…彼らの方がまともそうだ。
だがその時…
『やっほー!!皆さん!!』
「うん?あれは…大型テレビ?」
テレビの中のトロイダが何やらニュースみたいなものを始めやがった。
何だと思って見ていると………私の顔がテレビに映し出された。
「な!」
『コイツはミサキって言うとーっても悪いヤツ!見つけ次第捕まえてね!』
「つ、捕まえ…」
『捕まえて来た人には…賞金として2兆憶万円あげちゃいまーす!!』
テレビに映し出された私のリアルな似顔絵の下には罪状も書かれていた。
罪状は公然わいせつ罪、トロイダ侮辱罪、ミとサとキが連続で付く名前罪である。
最後に関しては一体何なんだ…私と同名の奴だけじゃないか…
しかし…ヤバイ、背後から大量の視線を感じる…早く逃げなくては!!
『あと最後にミサキ…』
「………」
『もし帰りたかったら…ワタシの元へ来なさい。もちろん…自分でね。』
テレビの中のトロイダはそう言い残すとプツンと切れて消えた…
【居たぞ!ミサキだ!!】
「クッソ!!しょうがないわ!逃げるしか無いわね…!」
此処の住人は何をどうやって戦うかが分からない!下手に相手するより逃げた方が良い!!
私は必死にその場から逃げた!!とにかく逃げた!!戦略的撤退だ!
だが追手はしつこく、いくら逃げようとも新たな奴が現れ、追いかけて来る…
どうする、飛ぶか…?だが空には変な生物が居る…喰われるかもしれない。
「ちょっとそこの人!こっち!!」
「え?わ、私?」
「良いから早く!」
「んむぐ!!」
私は路地裏から伸びて来た手に口を塞がれ、引き込まれてしまった…
レンガの壁の中をズルリ…と何故か透け通ると私の口を覆っていた人物と対面する事に…ソイツは…
「こ、こんにちは…ミサキ…さんですよね?」
「ト、トロイダ!何故ここに!!ぶっ殺してやる!!」
「わぁああああ!!待ってください!!違います!ウチはトロイダではありません!」
私は膝蹴りの構えを解くと…相手の話を聞いた。
コイツの名はチゥワナ…トロイダそっくりだが…背が低く、顔も情けないし…モジモジしているので…なんか違う。
「ウチは…何と言うか…正確に言えばトロイダですけど…違うんです。」
「はぁ?あんまり意味わかんないこと言わないでくれる?」
「すみません…その…ウチはトロイダの…善と言うか…抑止力みたいなものです。」
「抑止力?」
チゥワナが言うには人間は誰しも抑止力があり、それはトロイダも例外ではない。
言わば罪悪感の様なものだが…奴は自分の抑止力を己から引き離すことにより、なんでも出来る変な性格になったと…そして、私を助けた理由は手伝ってほしいからだと。
「ウチが…アイツと合体すれば…抑止力が生まれます…だから…」
「まぁトロイダに会うのを手伝ってほしいってワケね。何となく分かったわ。」
「そうです。あの…頼んでも…良いですか?」
「………まぁ良いわ。アンタは私を匿った、それに情けない奴を見ると情が沸くのよ。」
彼女はパァァ…と晴れた顔になると「ありがとうございます!」とお礼をした。
礼を言うのは上手く行った後である…問題は奴と、どう出会うかだが…
「本体はケイオスタワーに住んでいると思います…」
「ケイオスタワー?」
「此処で一番高い建物です…黄金と翡翠の塔で、そこに奴が住んでます…」
「ふぅん…なるほどね、そりゃ成金な塔ね。」
計画はこうだ。
まずケイオスタワーに登り、トロイダと対峙…そしてその隙にチゥワナが奴と同化、抑止力が生まれ、チゥワナが奴を乗っ取り、共に元の世界へ戻る…そして私が殺す。
これが計画…もっとも良い計画だ。
それにしても…まさかこの仕事がここまで大規模になるとはなぁ…
ギサキとシスターから大金をふんだくってやる!油田があるのでお金には困らないと思うがね。
「ところで…此処は何処なの?アンタの家?」
「はい。ミサキさん…何か身を隠せそうな物、持ってませんか?」
「鉢巻きはどうかしら、顔は変わると思うわ。あと、呼び捨てで結構よ。」
鉢巻きは顔の見た目も少し変わる…なので身を隠せるかもしれない。
所持品はそのままだ…ポーチの中から鉢巻きを取り出すと、頭へ巻いた。
背と髪の毛は伸び、鏡を見れば顔つきも少し大人びている…
(アジア系の顔に生まれた事を悔やむよ…)
「此処の住人なら騙せると思います…」
「案外バカなのね。ケイオプレイスの奴等って。」
私はその後、チゥワナから此処の事も教えてもらった。
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「じゃあお金はどうするの?無いんだったら?」
「くれって言えばくれます…断られたらそれまでですけど…」
「本当に変な所ね此処…」
また、ケイオプレイスは色々な文化がごちゃ混ぜになっており、服を着ていると公然わいせつで逮捕されるエリアがあったり、呼吸をすると罰金、瞬きをすると死刑の場所もある。
警察の概念も無く、自警団も無い…何かあっても本人達で何とかしないといけない。
ちなみにトロイダはケイオプレイスの最高権力者らしい。
「アイツが3を2と言えばそうなりますし…5を1にしてもそうなるんです。」
「まぁ何となく分かったわ。私が此処に馴染んで来てる気もするし…」
「外の人が長居し過ぎると大変な事になります…早く行動に移さなければ…」
「じゃあぼちぼち、ケイオスタワーを目指しましょうか。」
私のような人間がのんびりケイオプレイスに長居し過ぎた場合、バグ人という穢れた存在へ変わってしまうらしい…もしそうなってしまったら…二度と元に戻る事は不可能。
最強の自分がそうなるとは思えないが、怖いので早く行くことにした。
トロイダは暗示を持っているので丁度いい…うん。
「………大丈夫そうですね。」
外に出てみれば…先ほどの激しさとは違い、私の正体がバレることは無かった。
このまま行けば楽にケイオスタワーまで行けそうだ!だが…遠いな…飛行は危険なので止めた方が良いと言われたので飛ばないが…徒歩の場合、かなりの時間が掛かるだろう。
道が舗装されているのが救いである、街なので当たり前っちゃ当たり前なのだが…
「……あ!し、白鞘!」
「白鞘?この刀の事ですか…?」
ふと横のフリーマーケットへ視線を移すと…なんと新品の白鞘が売られていた!これは私が使っていたものと同じだ!キジハラの印が押してあるし、青い光を放っている!
なんでこんな所に!?いや…此処では常識は通用しない…買うか…
「これいくら?」
【アンさん目腐ってんのか?こりゃイクラじゃないよ。たらこだよ。】
「たらこはタラの子です…ミサキ、では数の子は?」
「カズの子。(本当はニシンだけど勢いのまま言っちゃった…)」
【お客さん目が良いね、賞品にこれあげちゃう。】
私は白鞘を手に入れた……うん、考えてはダメね…とりあえずチゥワナのフォローのおかげで白鞘が手に入ったのでコイツは信用しておこう。
白鞘を腰のベルトに携えると…うーん…イイ感じ、やっぱこうでなくちゃね。
長さも重さも…全部が間違いない、私が使っていた物だ…しかし、刃は直されている…
「あんな感じです、この先も何か欲しい時はあんな感じにしてください。」
「…バカになれって事でしょ、得意分野よ得意分野。」
「なら良かったです…いや良くないですよね…すみません…」
相変わらずウジウジしたままのチゥワナを引き連れ…
私達は「捏造シャトル通り」へやって来た…此処にはバグ人が多い…目が虚ろだったり、半身が透明だったり…彼らは別の世界から連れて来られた者達だとチゥワナは言う。
ゆっくりし過ぎると私もああなってしまう…それだけは絶対に嫌だ!
何としてでも元の世界へ帰らなくては。
【おい!テメェ!!ミサキだな…】
「早速バレたわね…チゥワナ、アンタは戦える?」
「一応はトロイダですので…戦え無いことは無いです…」
「だったら引っ込んでなさい。私が1人で戦うわ。」
白鞘を抜けば…うん、この感触!やはりこの刀は馴染む!!
【やる気だな、相手してやる。俺の名はキカだ、冥途の土産に覚えておけ。】
「ザコに名乗る名は無いけど、アンタは知ってるみたいね。」
相手はキカ…バグ人と呼ばれる元人間…刀に対してドスとは中々の根性だ。
辺りの群集達は特に私達の事を気にしていないみたいだ…流石はケイオプレイス…
【四肢をぶった斬ってやるぜぇ!!】
「……ハァ!!」
【ッ!?】
キカはドスの先をこちらへ向けて走って来る!!しかし、構えはゴロツキかただのチンピラ程度…狙いを澄まし、一気に断ち切れば!!
ズバンッ!と真っ二つに斬り裂かれる!!
【グァッ…】
「斬り甲斐の無い奴ね…さぁ、行きましょ。」
「はい。」
真っ二つで横たわる奴を放置して私達はその場を後にした。
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しばらく歩くと…強い空腹感が脳に響いた…グルグルと胃が物を求めている。
「…お腹が空きましたよね…何処かで食事を手に入れましょう…」
「買うんじゃなくて手に入れるのね。」
チゥワナは辺りを見渡すと…地面の隅に転がっている白い石を手に取った。
これはロー石と言うもので、子供が地面に絵を描く際に遊ぶものらしい…あくまでそれは普通の世界の話だが…この世界では便利なモノになると。
「こうやって…円を描いて…何が食べたい…ですか?」
「じゃ、チョコレート稲荷寿司。」
「なんですかそれは…出来ますけど…」
チゥワナは地面に描いた円の中に「チョコ稲荷」と書くと、その円を押す…そうすると地面に描かれているハズなのに書かれた円はボタンのように押し込まれ、手を離すとバネのようにせり上がって来た。
せり上がった円柱の断面は棚の様になっており、その中からチゥワナは…
「どうぞ…注文通りかと。」
「チョコ稲荷だ…まさかここで食べられるなんて…」
皿に盛られたチョコ稲荷…うん、まごうこと無きチョコ稲荷だ。
ご丁寧な事に私好みの濃い目の緑茶もセット…よく分かっている、甘い物には苦い茶が必要。
2人で地面に座り、食べてみた……味は…美味しい!チョコ稲荷!
これこそ究極の味だ!最高に美味しい!感涙物である…
(当然だが食器類もちゃんと揃っている)
「こんなに美味しいチョコ稲荷があるなんて…」
「はっぐぁ!?にゃ、にゃんですか…この恐ろしい食い物は…」
「え?不味い?」
「こんなに酷い食べ物…食べたこと無いです…お茶お茶…ブッフォォオ!!」
稲荷寿司が口に合わなかったのか、口直しに茶を飲んだチゥワナは苦みのあまり、勢いよく噴き出した…
不味いかな…美味しいと思うんだけどなぁ。
「しゅいません…ウチはちょっと違うものを食べましゅ…」
「そうした方が良いわ。残した奴は私が食べるから。」
チゥワナは先ほどと同じ様に円を描き、今度は「クリームケーキ」と書き、同じように押し込む。
そうして彼女は取り出したのはクリームだけの真っ白なケーキであった。
抑止力だけにホワイトな気分なのだろう。
「ちゃんと帰れるかしら…」
「帰れると思います。ウチも困りますし。」
まだケイオプレイスでの旅は始まったばかりである…果たしてこの先、どんな奴らが待ち受けているのだろうか…出来れば待ち受けていない方が良い…
つづく
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桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
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