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第5章 十三番街は聖杯の手中篇
第29話 また来たキョンシー、再度再来
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私の名はミサキ、今回はプロフィール無しで行くわよ。
もう書く奴も居ないのよ、しょうがないでしょう。
「ミサキの実家って何処なの?」
「何よ急に?」
現在、自分は借りている部屋でマジコと配給食を食べていた。
此処の食事はすっごく…質素だ…自分は飛べるので何処かへ食いに行けば良いが、職員はそうは出来ないだろう。
リンケル以外はね。
そんな質素な食事を摂っていると、マジコが急に私へ質問を投げかけた。
普通の人ならどうってことない質問だろうが…私は違う…
「知らないわ。15年前に気が付いたら亡国に居たの。」
「中々ヘビーな人生を送ってるね…寂しくなったり気になったりしない?」
「寂しくなんか無いし、気にもしないわ。今が大事よ。」
「ミサキはアッサリしてるなぁ…」
自分の出生か…ああは言ったが、少し気になってしまう。
私のような最強生物を生んだ者が居るのだ、一度会ってみたいものだな。
だが…きっとロクな奴では無いのだろう…それだけは分かる。
………さて、食事も済んだし…今日も1日、殺伐と行きましょう。
情報収集も兼ねて今日も患者のお世話…チャリティーなのが辛い…
「はい、あーんしなさい。」
【ソレ、不味いから嫌いなんだ。下げてくれ。】
「食えッ!さもねぇとテメェの眼窩にねじ込むぞ!!」
「ひぇぇ、荒れてるわね。」
「みんな疲れてるんだよ。」
皆、一連の行動を私の事だと思っただろうが…違う。
あれは普通の職員が行っている事だ…何と言うか、強気って感じがする。
ちなみに眼窩とは頭蓋骨の目のくぼみの事である。(恐ろしい…)
「ミサキ、そこのシーツをカゴに入れて。」
「へい。うげぇ…膿でベチョベチョね…」
「皮膚病の類かもね。……ねぇキミさ、宗教に興味ない?」
【え…無いですけど…】
マジコは隙を見つけては患者を信者にしようとしている。
私は私で課せられた労働、ベッドのシーツ云々の交換…を行う。
ベトベトのシーツと枕のカバー、毛布をキャスター付きの大きなカゴに入れ、ガラガラ押して、カゴが満杯になるまで回収して回る…そして満杯になったらエレベーターに乗り、地下のラウンドリールームまで押して行く。
そこで新しいカゴと交換、また繰り返しだ。
「(初日の割には慣れて来たわ…)」
『あ、そこの人!』
「はい?私?」
『はい!昨日の人ですよね?これ、鑑識の結果です。』
カゴを押す自分へ声を掛けて来たのは昨日の袋を渡した隊員であった。
彼女が渡して来たクリップボードに挟まれている紙にはズラッと名前が並んでいる。
その中にはフザンルとミッスルの名もある…そうか、駄目だったか…
(ちなみに隊員はゲロっていた方だ)
「ありがとう、もう良いわ。」
『そうですか…ではこれで。』
「(化けて出ないと良いけど…私に恨みは無いわよね?)」
私はその場を後にして、その後も課せられた業務を真面目にこなした。
そりゃもう…普段のいい加減な感じでは無く、キッチリと。
何をそんなに熱くなっているんだ…と何度も思ったが…その度にこれは単なる気まぐれだと誤魔化した…私の心の中に善意など無い、有ってはならない。
「もう夕方かぁ…うん?雨ね…」
「夕立じゃない?きっと直ぐに晴れるよ。」
「この時期に夕立…?」
こんな時期に夕立なんておかしな事もあるのね…と思ったが。
此処は亡国、起こり得ることは全てあり得る国、何があっても不思議では無い。
まぁ直ぐに止むかな、と思って中へ入ろうとした…その時…
【ちょっと、そこの貴女。】
「あぁ?何よ?変な格好して……」
私は自分の言っている事が言い終わる前に目の前の奴を殴り飛ばした!!
目の前の奴の恰好は…緑の雨合羽に灰色の長靴…そして頭にはゴーグル付きの麻袋!!コイツは奴等4人組の1人!マスリットスだ!!
【がぶぁッ!?な、なにを…】
「私が知らないとでも思ったわけ?学習済みよ、アンタ等はね。」
【知ってるんだ…ぐぅう!だったら…話は早いよね!!】
「遅いわそんなパンチ、ナメクジよりも情けないわね。」
奴は殴り飛ばされたが、直ぐにこちらへ殴りかかって来た!!がしかし…
マスリットスのパンチは素人同然のへなちょこパンチ…受け止めるのは実に容易かった。
拳を受け止めた私はそのまま腕を右方向に捩じる!!
ゴキボキバギィ!!と凄まじい音を立てて、奴の右腕は変な方向に捻じれた。
【うげぇえ!!いってぇ!!何しやがる!!】
「反撃よ。」
【この…クソアマがあ!!】
「………う、嘘でしょ…?アンタの全力…これだけ…?」
マスリットスは全力のパンチを私へお見舞いする!!だが!弱い!!
ボッ…と情けない音を立てて、私の顔は少し皮膚が動いただけで…何とも無い。
相手はキョンシーと意気込んでいたが…こんなにもザコとは…えぇ…
「もう良いわ。さよならね。」
【ぐぅう!!がぁッ!!ごがぁ!?ギィッ!!】
私は奴の頭部を両手で持つと、逆方向へ強引に捻じ曲げた!!
今日はよく捩じる日だ!!バッギャギィィッ!!と首は捩じるどころか千切れてしまった…さて、どうせなら顔だけでも見ておこう。
うむ……結構普通ね、これは普通の人間……あれ?普通の人間?
待て、マスリットスの特徴をおさらいをしよう…確かキョンシーで職員を食べる、口調と精神状態共に不安定…
おかしい!コイツは普通に喋っていた!!
「これは…偽物!」
【ピヨピヨ、気付いたね?気付いたよ?】
「誰だ!お、お前が…」
【コケコッコー!チキンでございます!いや、マスリットスだ!!】
私の後ろには…豪雨に打たれながら四つん這いでこちらを睨む奴が1人…
泥まみれでボロボロの白シャツとサスペンダー付きのズボン…右目はズレて斜視の様になっており…なにより顔面には大量の傷が付いている!
コイツは一目見て分かる!コイツはきちがいだ!!
(血色が悪いのでキョンシーで間違いないと思う)
「偽物を使うとは…」
【頭が悪い?いや、良い?デコイは基本!基本!……ン、基本!!】
「来た…この!!」
マスリットスはぎこちない四足歩行で素早く駆けて来ると、私の右腕へ噛り付いて来た!!
鋭い刃が肌を貫くことは無かったが…力が強い!押しつぶされている様だ!
何度も殴って引き離そうとしたがダメだ!!
「ええい!!離れろ!!このクソッタレゾンビが!!」
【がぁッ!?音!音!?雷!?】
拳銃を奴の目玉目掛けて発砲すると、相手はビクビクと怯えて後ずさる…
顔に傷が付いていないので、音に反応している様だ…コイツは大きい音が苦手なのか?
試しに地面へ向かい、数発発砲してみた…が、最初の3発ほどは怯えていたものの、直ぐに慣れたのか、怯まずに再度こちらへ寄って来る!!
だが!マスリットスは吹っ飛ぶ!!蹴り飛ばされたのだ!!
【がうはぁッ!!誰だ!誰だよ、何したの?】
「マ、マジコ…」
「大変そうだな。手を貸してやる。」
「ヘッ…よく言うわね。良いわ!早く!」
蹴り飛ばした者の正体はマジコであった…加勢してくれる様だ。
ありがたい…コイツにサシで挑むなんて疲れる!丁度いいタイミングだ!
【2対1なんて、卑怯じゃん?ずるいじゃん?なんでそんな事をするの?】
「なんでだろうな?考えてみなよ、少なそうな頭で。」
【お前は生意気だな!!死ね!!バーカ!!】
「遅いんだよこのドマヌケ!!」
「は、速い!もう奴の後ろに回った!!」
マジコはこの悪魔状態でも強い!マスリットスの後ろへ回ると、羽交い絞めにした!
ガッチリ掴んでいるので身動きが出来ない様だ!!今がチャンス!!
私は直ぐに羽交い絞めにされた奴へ近付き、腹部目掛けて膝蹴りをぶち込む!!
【がッハァ!?何しやがるてめぇ!!クソ野郎!痛いよぉ…】
「ミサキ!早くして!!今のうちにありったけの攻撃を!!」
「分かってるわよ!!この…死にぞこない共が!!」
「(えっ…アタシも入ってるの…?)」
マスリットスが拘束されている間に自分はありったけの攻撃を行った!!
左右の頬にフックを叩き込み!両足の脛を蹴り!!顎も蹴り上げる!!とにかく!出来るだけ!加虐を行うんだ!!
ベギッ!ボゴッ!バッギャッ!!と生々しい音が響いた…そして…
「も、もうダメだ!…ふぅ……あ。…がっふぁ!?」
「あ…ごめん!!」
最後にドギツイ一撃をぶち込んでやろうかと思ったが、私の拳が着弾する直前に奴は拘束を振り解き…結果として私の拳はマジコの腹部にクリーンヒット!!
彼女は吹っ飛ばされて奥のトラックの荷台へめり込む!
「い、痛い……神でも…痛いもんは…痛いんだよ……ぐふ…」
「やった!!じゃなくて…マジコ!クッソ…アイツのせいで…」
「正確に言えばミサキのせいだけど…」
「ッチ…」
「えっ!?今、舌打ちしたよね!?ねぇ何で!?」
バカやってないで、奴をどうにかしないといけない!!マジコはダウンだ。
マスリットスは変な立ち方をしてグラグラしている…奴も限界が近い!!
雨も益々強くなって行き、奥では稲妻がドガァン!!と鳴り、外に居る全員がびしょ濡れ…
どうする…今は奴と向かい合っているが…先に仕掛けるか…?
【ぐぅぅ……逃げるしかねぇ!!逃げなきゃよ!!バイバイねー!】
「あ!!逃げやがった!!バッキャロー!!逃がすか!!」
先に仕掛けるか、それとも奴の攻撃を待つか…と考えていると、奴は一目散に背を向けて逃げ出した!!
慌ててその後を追いかけたが…地面が滑ってしょうがない!!
「くっそ!!待て!!」
激しい雷雨が吹き荒れる中、私は奴を追いかけて雑木林へ突入した!
道はぬかるみ、何度も転びそうになり、実際に転んだが…何度も立ち上がり、奴を執拗に追いかける!服が泥で汚れようと!口内に砂利粒が入ろうと!!
【しつこいなお前!!粘着気味か!!よく来るね?】
「へへへ…体力としつこさには自信があるのよ…さぁ追い詰めたわよ!!」
やがて私は崖下へ奴を追い詰めた…横に逃げようとも、もう体力は無いだろう。
この崖を豪雨の中で登る事も不可能!!つまり私に殺されるしかない!!
さぁ…どうやってぶっ殺してやろうか…
「観念しなさい、大人しくするなら即死にしてあげる。」
【こ、こうなりゃ…やるしかない!するしかない!しても良いかな!!】
「何を…!離しなさい!!離せ!!」
【一緒に死んでやる…お前も一緒にあの世行きだ!!一緒に行こうね。】
マスリットスは私へ飛び掛かると、ガッチリこちらを抱きしめ、崖の方へ寄ると、片手で思いっきり崖をぶん殴る!
崖にはビシィ!!と亀裂が入り、バギバギと崩れ始める!!
マズい!早く振り解かないと…いや…このまま行けば…良いのでは?
別に私は崖が崩落したくらいでは死ぬことは無い…なので別にこのま
・・・
「がっはぁ!!はぁ…はぁ…生きてる…うん、生きてる私…」
【ごほぉ…がぁぁああ…うぅううう…】
目を覚ました私は直ぐに自分の上に重なっていた岩を退けると、今の状況を整理した。
崖の崩落に巻き込まれ、流石に意識は無くなったが…無事な様だ。
自分は特に怪我はしておらず、横を見てみれば…折れた木に下半身を持って行かれたマスリットスの姿が…これは…とっても痛そうだ…直ぐに楽にしてあげなきゃ。
「もう観念ね。最期に言い残すことは無い?」
【がは…ぜぇ…ぜぇ…ごっふ!!ごはぁ!!がっふ!!?】
「(もう喋れないのね…本当に辛そうだからトドメを刺してあげましょう。)」
私は奴の頭を両手で掴むと、物凄い力を込めて!!圧縮した!!
そしてマスリットスの頭部は遂に…ガギャゴッ!と音を立てながら…色々な物をまき散らしながら散った…
ふぅ…これにて2人目、マスリットスを撃破完了。
「おいミサキ、大丈夫か?」
「ええ。何とかね…そういうアンタは?」
「アタシも平気かな。元々強いし。」
「そう……雨も止んだ事だし、もう行くわよ。」
さっきまで激しい雷雨を降り注がせていた空はウソのように静まり返っていた。
完全に奴も死んだ…此処は道から外れているので死体は放置で充分だろう。
私とマジコは十三番街へ戻った…はぁ、疲れた…休まないと倒れてしまう…
「リンケル、マスリットスを…始末して来たわよ…」
【つ、強いんですね…けど!ありがてぇ!上に報告しときますね。】
「そうしてちょうだい…今日はもう休むわ。」
少しフラつきながらも借りた部屋に戻ると、そのまま眠ってしまった。
分かっていると思うが、起きた時にすごく後悔した…なんで寝る前にシャワーを浴びなかったのかと…起きてみれば布団と身体はベトベトであった。
いくら服が綺麗になったり、再生すると言っても…身体はそうはいかないのだ。
泥が付けば汚れるし、血を浴びれば臭くなる。
行水でもしに行くかぁ…
『本日の死亡者』
フィーバー・P(人間) 症状:高熱、倦怠感、腸内出血 死因:他殺(囮)
マスリットス(キョンシー) 症状:皮膚の爛れ、水膨れ 死因:事故死
つづく
もう書く奴も居ないのよ、しょうがないでしょう。
「ミサキの実家って何処なの?」
「何よ急に?」
現在、自分は借りている部屋でマジコと配給食を食べていた。
此処の食事はすっごく…質素だ…自分は飛べるので何処かへ食いに行けば良いが、職員はそうは出来ないだろう。
リンケル以外はね。
そんな質素な食事を摂っていると、マジコが急に私へ質問を投げかけた。
普通の人ならどうってことない質問だろうが…私は違う…
「知らないわ。15年前に気が付いたら亡国に居たの。」
「中々ヘビーな人生を送ってるね…寂しくなったり気になったりしない?」
「寂しくなんか無いし、気にもしないわ。今が大事よ。」
「ミサキはアッサリしてるなぁ…」
自分の出生か…ああは言ったが、少し気になってしまう。
私のような最強生物を生んだ者が居るのだ、一度会ってみたいものだな。
だが…きっとロクな奴では無いのだろう…それだけは分かる。
………さて、食事も済んだし…今日も1日、殺伐と行きましょう。
情報収集も兼ねて今日も患者のお世話…チャリティーなのが辛い…
「はい、あーんしなさい。」
【ソレ、不味いから嫌いなんだ。下げてくれ。】
「食えッ!さもねぇとテメェの眼窩にねじ込むぞ!!」
「ひぇぇ、荒れてるわね。」
「みんな疲れてるんだよ。」
皆、一連の行動を私の事だと思っただろうが…違う。
あれは普通の職員が行っている事だ…何と言うか、強気って感じがする。
ちなみに眼窩とは頭蓋骨の目のくぼみの事である。(恐ろしい…)
「ミサキ、そこのシーツをカゴに入れて。」
「へい。うげぇ…膿でベチョベチョね…」
「皮膚病の類かもね。……ねぇキミさ、宗教に興味ない?」
【え…無いですけど…】
マジコは隙を見つけては患者を信者にしようとしている。
私は私で課せられた労働、ベッドのシーツ云々の交換…を行う。
ベトベトのシーツと枕のカバー、毛布をキャスター付きの大きなカゴに入れ、ガラガラ押して、カゴが満杯になるまで回収して回る…そして満杯になったらエレベーターに乗り、地下のラウンドリールームまで押して行く。
そこで新しいカゴと交換、また繰り返しだ。
「(初日の割には慣れて来たわ…)」
『あ、そこの人!』
「はい?私?」
『はい!昨日の人ですよね?これ、鑑識の結果です。』
カゴを押す自分へ声を掛けて来たのは昨日の袋を渡した隊員であった。
彼女が渡して来たクリップボードに挟まれている紙にはズラッと名前が並んでいる。
その中にはフザンルとミッスルの名もある…そうか、駄目だったか…
(ちなみに隊員はゲロっていた方だ)
「ありがとう、もう良いわ。」
『そうですか…ではこれで。』
「(化けて出ないと良いけど…私に恨みは無いわよね?)」
私はその場を後にして、その後も課せられた業務を真面目にこなした。
そりゃもう…普段のいい加減な感じでは無く、キッチリと。
何をそんなに熱くなっているんだ…と何度も思ったが…その度にこれは単なる気まぐれだと誤魔化した…私の心の中に善意など無い、有ってはならない。
「もう夕方かぁ…うん?雨ね…」
「夕立じゃない?きっと直ぐに晴れるよ。」
「この時期に夕立…?」
こんな時期に夕立なんておかしな事もあるのね…と思ったが。
此処は亡国、起こり得ることは全てあり得る国、何があっても不思議では無い。
まぁ直ぐに止むかな、と思って中へ入ろうとした…その時…
【ちょっと、そこの貴女。】
「あぁ?何よ?変な格好して……」
私は自分の言っている事が言い終わる前に目の前の奴を殴り飛ばした!!
目の前の奴の恰好は…緑の雨合羽に灰色の長靴…そして頭にはゴーグル付きの麻袋!!コイツは奴等4人組の1人!マスリットスだ!!
【がぶぁッ!?な、なにを…】
「私が知らないとでも思ったわけ?学習済みよ、アンタ等はね。」
【知ってるんだ…ぐぅう!だったら…話は早いよね!!】
「遅いわそんなパンチ、ナメクジよりも情けないわね。」
奴は殴り飛ばされたが、直ぐにこちらへ殴りかかって来た!!がしかし…
マスリットスのパンチは素人同然のへなちょこパンチ…受け止めるのは実に容易かった。
拳を受け止めた私はそのまま腕を右方向に捩じる!!
ゴキボキバギィ!!と凄まじい音を立てて、奴の右腕は変な方向に捻じれた。
【うげぇえ!!いってぇ!!何しやがる!!】
「反撃よ。」
【この…クソアマがあ!!】
「………う、嘘でしょ…?アンタの全力…これだけ…?」
マスリットスは全力のパンチを私へお見舞いする!!だが!弱い!!
ボッ…と情けない音を立てて、私の顔は少し皮膚が動いただけで…何とも無い。
相手はキョンシーと意気込んでいたが…こんなにもザコとは…えぇ…
「もう良いわ。さよならね。」
【ぐぅう!!がぁッ!!ごがぁ!?ギィッ!!】
私は奴の頭部を両手で持つと、逆方向へ強引に捻じ曲げた!!
今日はよく捩じる日だ!!バッギャギィィッ!!と首は捩じるどころか千切れてしまった…さて、どうせなら顔だけでも見ておこう。
うむ……結構普通ね、これは普通の人間……あれ?普通の人間?
待て、マスリットスの特徴をおさらいをしよう…確かキョンシーで職員を食べる、口調と精神状態共に不安定…
おかしい!コイツは普通に喋っていた!!
「これは…偽物!」
【ピヨピヨ、気付いたね?気付いたよ?】
「誰だ!お、お前が…」
【コケコッコー!チキンでございます!いや、マスリットスだ!!】
私の後ろには…豪雨に打たれながら四つん這いでこちらを睨む奴が1人…
泥まみれでボロボロの白シャツとサスペンダー付きのズボン…右目はズレて斜視の様になっており…なにより顔面には大量の傷が付いている!
コイツは一目見て分かる!コイツはきちがいだ!!
(血色が悪いのでキョンシーで間違いないと思う)
「偽物を使うとは…」
【頭が悪い?いや、良い?デコイは基本!基本!……ン、基本!!】
「来た…この!!」
マスリットスはぎこちない四足歩行で素早く駆けて来ると、私の右腕へ噛り付いて来た!!
鋭い刃が肌を貫くことは無かったが…力が強い!押しつぶされている様だ!
何度も殴って引き離そうとしたがダメだ!!
「ええい!!離れろ!!このクソッタレゾンビが!!」
【がぁッ!?音!音!?雷!?】
拳銃を奴の目玉目掛けて発砲すると、相手はビクビクと怯えて後ずさる…
顔に傷が付いていないので、音に反応している様だ…コイツは大きい音が苦手なのか?
試しに地面へ向かい、数発発砲してみた…が、最初の3発ほどは怯えていたものの、直ぐに慣れたのか、怯まずに再度こちらへ寄って来る!!
だが!マスリットスは吹っ飛ぶ!!蹴り飛ばされたのだ!!
【がうはぁッ!!誰だ!誰だよ、何したの?】
「マ、マジコ…」
「大変そうだな。手を貸してやる。」
「ヘッ…よく言うわね。良いわ!早く!」
蹴り飛ばした者の正体はマジコであった…加勢してくれる様だ。
ありがたい…コイツにサシで挑むなんて疲れる!丁度いいタイミングだ!
【2対1なんて、卑怯じゃん?ずるいじゃん?なんでそんな事をするの?】
「なんでだろうな?考えてみなよ、少なそうな頭で。」
【お前は生意気だな!!死ね!!バーカ!!】
「遅いんだよこのドマヌケ!!」
「は、速い!もう奴の後ろに回った!!」
マジコはこの悪魔状態でも強い!マスリットスの後ろへ回ると、羽交い絞めにした!
ガッチリ掴んでいるので身動きが出来ない様だ!!今がチャンス!!
私は直ぐに羽交い絞めにされた奴へ近付き、腹部目掛けて膝蹴りをぶち込む!!
【がッハァ!?何しやがるてめぇ!!クソ野郎!痛いよぉ…】
「ミサキ!早くして!!今のうちにありったけの攻撃を!!」
「分かってるわよ!!この…死にぞこない共が!!」
「(えっ…アタシも入ってるの…?)」
マスリットスが拘束されている間に自分はありったけの攻撃を行った!!
左右の頬にフックを叩き込み!両足の脛を蹴り!!顎も蹴り上げる!!とにかく!出来るだけ!加虐を行うんだ!!
ベギッ!ボゴッ!バッギャッ!!と生々しい音が響いた…そして…
「も、もうダメだ!…ふぅ……あ。…がっふぁ!?」
「あ…ごめん!!」
最後にドギツイ一撃をぶち込んでやろうかと思ったが、私の拳が着弾する直前に奴は拘束を振り解き…結果として私の拳はマジコの腹部にクリーンヒット!!
彼女は吹っ飛ばされて奥のトラックの荷台へめり込む!
「い、痛い……神でも…痛いもんは…痛いんだよ……ぐふ…」
「やった!!じゃなくて…マジコ!クッソ…アイツのせいで…」
「正確に言えばミサキのせいだけど…」
「ッチ…」
「えっ!?今、舌打ちしたよね!?ねぇ何で!?」
バカやってないで、奴をどうにかしないといけない!!マジコはダウンだ。
マスリットスは変な立ち方をしてグラグラしている…奴も限界が近い!!
雨も益々強くなって行き、奥では稲妻がドガァン!!と鳴り、外に居る全員がびしょ濡れ…
どうする…今は奴と向かい合っているが…先に仕掛けるか…?
【ぐぅぅ……逃げるしかねぇ!!逃げなきゃよ!!バイバイねー!】
「あ!!逃げやがった!!バッキャロー!!逃がすか!!」
先に仕掛けるか、それとも奴の攻撃を待つか…と考えていると、奴は一目散に背を向けて逃げ出した!!
慌ててその後を追いかけたが…地面が滑ってしょうがない!!
「くっそ!!待て!!」
激しい雷雨が吹き荒れる中、私は奴を追いかけて雑木林へ突入した!
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【しつこいなお前!!粘着気味か!!よく来るね?】
「へへへ…体力としつこさには自信があるのよ…さぁ追い詰めたわよ!!」
やがて私は崖下へ奴を追い詰めた…横に逃げようとも、もう体力は無いだろう。
この崖を豪雨の中で登る事も不可能!!つまり私に殺されるしかない!!
さぁ…どうやってぶっ殺してやろうか…
「観念しなさい、大人しくするなら即死にしてあげる。」
【こ、こうなりゃ…やるしかない!するしかない!しても良いかな!!】
「何を…!離しなさい!!離せ!!」
【一緒に死んでやる…お前も一緒にあの世行きだ!!一緒に行こうね。】
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「がっはぁ!!はぁ…はぁ…生きてる…うん、生きてる私…」
【ごほぉ…がぁぁああ…うぅううう…】
目を覚ました私は直ぐに自分の上に重なっていた岩を退けると、今の状況を整理した。
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自分は特に怪我はしておらず、横を見てみれば…折れた木に下半身を持って行かれたマスリットスの姿が…これは…とっても痛そうだ…直ぐに楽にしてあげなきゃ。
「もう観念ね。最期に言い残すことは無い?」
【がは…ぜぇ…ぜぇ…ごっふ!!ごはぁ!!がっふ!!?】
「(もう喋れないのね…本当に辛そうだからトドメを刺してあげましょう。)」
私は奴の頭を両手で掴むと、物凄い力を込めて!!圧縮した!!
そしてマスリットスの頭部は遂に…ガギャゴッ!と音を立てながら…色々な物をまき散らしながら散った…
ふぅ…これにて2人目、マスリットスを撃破完了。
「おいミサキ、大丈夫か?」
「ええ。何とかね…そういうアンタは?」
「アタシも平気かな。元々強いし。」
「そう……雨も止んだ事だし、もう行くわよ。」
さっきまで激しい雷雨を降り注がせていた空はウソのように静まり返っていた。
完全に奴も死んだ…此処は道から外れているので死体は放置で充分だろう。
私とマジコは十三番街へ戻った…はぁ、疲れた…休まないと倒れてしまう…
「リンケル、マスリットスを…始末して来たわよ…」
【つ、強いんですね…けど!ありがてぇ!上に報告しときますね。】
「そうしてちょうだい…今日はもう休むわ。」
少しフラつきながらも借りた部屋に戻ると、そのまま眠ってしまった。
分かっていると思うが、起きた時にすごく後悔した…なんで寝る前にシャワーを浴びなかったのかと…起きてみれば布団と身体はベトベトであった。
いくら服が綺麗になったり、再生すると言っても…身体はそうはいかないのだ。
泥が付けば汚れるし、血を浴びれば臭くなる。
行水でもしに行くかぁ…
『本日の死亡者』
フィーバー・P(人間) 症状:高熱、倦怠感、腸内出血 死因:他殺(囮)
マスリットス(キョンシー) 症状:皮膚の爛れ、水膨れ 死因:事故死
つづく
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※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
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