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第5章 十三番街は聖杯の手中篇
第27話 華麗なる煙は五木の煙幕
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十三番街へ着いたのでマジコのプロフィールでも書くことにする。
あだ名:火廼禽、身長:197㎝(悪魔状態)218㎝(灰徒状態)、体重:知らん
趣味:文化の観察、誕生日:487光年の5月84日、髪の色:青から真っ赤に
本人からのコメント『鉛筆は書くより燃やした方が楽しいよ?』
私の名はミサキ、世界最強の名を手にしているイカした女の子。
現在、自分はリンケルのオフィスにて殺害同意を求めるために彼女の上司へアポイントを取ってもらっている。
電話で伝えているのだが…
【はい…はい……後でやっておきます…はい…分かっています。は、いえ…】
「(暇ね…)」
ずっとこの状態なのだ…かれこれ10分以上…上司に頭が上がらないタイプか。
時々「あーその件は!」や「承知しております」とも混ぜている。
【はい…それで…会いたいという人が居るんですけど…】
『(雑音)』
【いえ、国の人間では無く……はい。あ、分かりました。】
そう言ってリンケルは電話を切った、どうやら上手く行ったようだ。
「上司の部屋は此処を出て右のエレベーターに乗って12階に行けば良い」と教えてもらった私は1人で行くことに…リンケリは手書きとキーボードで種類の処理を始めた。
忙しいのだろう。
「(はぁ…防毒マスクは着けておくかぁ…)」
マスクを装着してボシュ―…とすると、シュコーという呼吸音が響く。
気分は空軍のエースパイロットか暗黒卿である、さながら撃墜した敵機の数を将軍に伝えに行く…そんな感じだ。
【上ですけど。】
「12階をお願い。」
【はい。】
エレベーターに乗ろうとすると、人が居て軽くビビった。
しかし、12階のボタンを押してもらうと特にその後は何もなく…一緒に乗った。
ゴウゴウ…とエレベーターに揺られながら上へ昇って行く…
10階で先に乗っていた悪魔は降り、中には私だけが取り残される…1人でマスクを着けた女が待ち構えているなんて何も知らない人が乗って来たら驚くだろう。
だがそんな事も無く、エレベーターは12階で止まった…目的地だ。
【おや…ミサキ様ですね。院長がお待ちです。】
「言われなくても入らせてもらうわよ。」
受付を経由して高そうな扉の奥へ入ると…
【ミサキだな、待っていたぞ。】
「やっほーミサキ!また会ったね!」
「うげマジコ…やっぱり此処に…」
院長室には院長とマジコが居た…マジコはサイダーを飲んでいる。
私は偉そうに座っている院長を無視してマジコの向かい側へ座ると勧められたチョコケーキを食べながら話をした。
【無視か……まぁいい。此処へ来た理由は奴らだな?】
「その通りよ。この街を荒らしてる奴を倒すついでに標的をね。」
【こちらにも悪い話では無い…是非そうしてくれ。】
「殺人の許可を頂いたからにはしょうがないわよね。」
「そうだよ、好きなようにやっちゃえば。」
斯くして私はこの街でかなり偉い人から殺人の許可を頂いた。
ここまでやられりゃ…手を抜く事なんて許されない、存分に力を尽くそう。
私はケーキを半分以上残して院長室を後にすると…リンケルのオフィスへと戻った。
彼女はこの街に詳しいので宿の場所とかを教えてくれるだろう。
・・・
【宿の場所?それってホテルとか?】
「そうよ。あるでしょ?」
【そんなもの…この街には無いよ。】
「は?無いの?民宿もホテルも?」
【だって観光地じゃないもん。】
そりゃそうだ…宿泊施設は外部の客が使うもの…この街にあるわけがない。
元々はあったのだろうが、今では病室代わりだ、なのでこの街に泊まれる施設は無いと…
一応言っておくが…野宿なんて嫌だ。
【あっしの部屋を使ってください。自分は此処で充分ですんで。】
「え、遠慮しておくわ…」
オフィスでこの有様…リンケルの自室なんてほぼ魔窟だろう。
私は丁寧に断り、何処か別の街から通おうかと思ったが…
【言っておきますけど…部屋は綺麗ですよ?散らかって無いですし。】
「………本当に?」
【あぁ!その本当には!疑っているタイプですね!こう見えても部屋は綺麗にするんですよあっしは!その証拠に見せてあげますよ!】
リンケルに強引に連れられ、私は彼女の部屋へ連行された。
職員達の部屋は地下にあるようだ…地下1階が駐車場で地下2階が院長や看護師長などの部屋、地下3階が一般的な職員の部屋だ…いざとなったら地下3階の出入り口を…埋めるらしい。
なんともブラックな理由だ…だが面白い。
(ちなみにリンケルの部屋は地下2階だ)
【ほらどうぞ!たーんと見てください!】
「わー…何も無いー…」
【でしょう?散らかって無いでしょう。】
リンケルの自室には…ほとんど何も無かった…白くて四角い空のゴミ箱とビニールに包まれた布団が一式だけが…フローリングの部屋にあるのみ。
散らかると言うかそういう次元の問題では無い、散らかる物が無いのだ。
台所も厠も無い。
【まぁ使ってないだけですけどね。】
「だったら散らからないわけね…まぁ良いわ、使わせてもらうわ。」
【ではこの鍵を…】
彼女は鍵を普通に私へ差し出した…どうやら寝泊まりは普段からオフィスで済ませているらしく、たまに掃除で来る以外で寄ったりはしないらしい。
部屋という空間で寝るのが嫌いで部屋じゃない場所じゃないと寝れないと…
複雑な病気ね。
「じゃあアタシも使わせてもらうね。」
「マジコ…アンタ、まだ居たの?てか終わったなら帰りなさいよ。」
【なにこの悪魔、知り合い?】
「どうもリンケルさん、アタシはミサキのボス、マジコです!お見知りおきを。」
うん…まぁ…間違ってはない…私はファミリーを抜けていないのでまだマジコの手下と言うか…部下だ。
だが私自身は誰かに顎で使われることを望まない、精々捨て駒になるのを好む。
使って終わり、そんな感じ…それが良い。
「上司命令だぞ、アタシを此処に泊めて。」
「なんでよ…別にアンタ、此処に居なくて良いじゃない。」
「信者を増やさないとダメなんだよ!ね?ね?」
「タダは嫌よ。」
「じゃぁ…寂しい時は抱きしめてあげる…」
速攻で「キモイ!」と返し…別に部屋を汚さないなら良いという条件で部屋に同居させることにした。
神は病気を貰わないので安心らしい…便利だなぁ。
ちなみにリンケルも病気に罹らないと…魔族?も強い。
【んじゃあっしはオフィスに戻りやす。】
「じゃ私も奴らを探しに行くわ。」
「アタシは留守番ね。」
さて…ようやく本題に入れる、万病山の化け物4人組を探しに行こう。
外へ出れば…マスクを取って空気を吸う…嫌な空気だ…何か目撃者などを探しに…行かなくても良いわね、ボロボロの悪魔が居る。
「ねぇちょっと、大丈夫?」
【うぐぁ…は、腹が痛てぇ…よ…】
「何をされたの?」
【ガスマスクの男に…変な物を…ごっは!!】
悪魔の男は血が混じったゲロを吐いて倒れた…まだ死んではいない。
ガスマスクの男と言う情報を貰ったからには見殺しと言うのもアレだ…近くの診療所まで運んであげた。
あの男(リキセイ)は病院から攫われた患者の1人だった様だ…攫われた患者は他にも居るらしい…死んでなかったら他にも運んであげよう。
「ガスマスクね…」
まず1人目はガスマスクと言う情報を得た…最初にリンケルから話を聞いておけば良かった。
奴等の特徴などを知っておかなくてはならない。
「戻ったら聞いておくか…さて聞き込みを続けましょうかね。」
十三番街の外には出歩いている者など居らず、外を歩いているのは防護服を着た医者だけである。
なんか何もしていない自分が凄く情けない気持ちになる。
いや…自分は!今!仕事をしている!暗示を持つ者の始末と言う仕事を!
しかも此処に居る奴よりかは金を持っている!油田も!
「(ふふふ…やっぱり私って…勝ち組ね……何してんだろ…)」
もう先へ進もう、そうしたかったが…
『うわぁあああ!!来たぞぉおお!!』
「仕事……来たか…」
よっしゃーああ!!来たぁぁ!仕事が来たからには負けないわよ!
私は叫びが響いた方へ急いで向かって行った!
【ほっほう…今日はコイツを頂いちゃおうか…】
「ゲッホォ!ゴッフォ!や、止めてくれ…がっふ!」
【あぁ?拒否権あると思ってんのか?テメェみたいな病人のクズによぉ!!病気は嫌か?だったら…俺が治療してやんよ!】
行ってみれば、ガスマスクの男が怪しい注射器を患者の男にぶっ刺そうとしていた。
透かさずに全力ダッシュで近寄り、ドロップキックをぶち込むとガスマスクは奥の店のショーウィンドウへぶっ飛ばされ、ガッシャァァン!!と突っ込んだ。
どうせ営業してなかったんだ、別に良いだろう。
「早く逃げな、さもないと死ぬわよ?」
「は、はい!」
患者が逃げたのを確認した瞬間、暗い店の奥から光る2本の針が飛んで来る!!
右手で両方ともキャッチすれば…それは銀に光るメスであった。
メスをキャッチした直後に奴は店から出て来た。
【痛てぇじゃねぇかぁ!!何しやがるぁ!テメェ!!】
「ドロップキックよ。」
【ンな事はぁ聞いてねぇ!!邪魔しやがって…】
「かかってらっしゃい。今回は素手で相手してあげる。」
白鞘も無いので丁度いい…やはり素手の方が戦いやすいかもね。
相手の恰好は黒いコートにガスマスク…武器はコートの懐からメスや注射器を取り出すのだろう…そして、種族は悪魔…間違いない、コイツが4人組の1人だ。
【ぶっ殺してテメェをホルマリン漬けにしてやるぁ!!】
「面白い!やってみな!!」
【死ねやァ!!】
こちらが持っていた2本のメスを投げ返すと、奴は身体を逸らして躱す!そしてそのまま再度メスを投げて来たが、それを躱すと回し蹴りを放ったが、躱され…奴は私の後ろに…
そして後ろを振り返って…向かい合う形で構えた。
【中々出来る様だな……お前、さてはミサキだな?】
「私もだいぶ名が売れて来たわね。暗殺というPRをしといて良かったわ。」
【トロイダの言ってた奴だな…丁度いい!喰らいやがれ!!】
「何を…!?」
相手はコートをバサッと広げる…コートの裏にはビッシリとゴキブリのような虫がワラワラと蠢いており、とても気持ちが悪い光景であった。
何だコイツは…と思ったのも束の間、コート裏のゴキブリは日光を浴びるとボンッ!と破裂し、隣同士も連鎖反応のように爆発し、辺りを謎の煙で満たす…
なんとなく吸いたくなかった私は防毒マスクを着用して直ぐに上へ避難した。
「ッチ…見えないわね…煙幕と言う事かしら…」
【あぁそうだぜ…こうやってあぶり出せるしな!!】
「上に!?ぐっはぁ!!」
上へ飛んで逃げたは良いが、既に奴はさらにその上へ回っており、踵落としを頭に喰らい、下まで突き落とされる!
なんとか地面と激突する直前で立て直し、着地したが…奴は何処から来る!?
煙の外から中は見えないが、中から外も見えないのだ!
クソッタレ!!…いや……イケる!忘れていた!私には生気探知が可能!
だとすれば………
【(捉えた!!死ねぇッ!!)】
「そこかぁッ!!」
【ぐぶぇ!?な、なんだと…しまった!マスクが!】
生気探知を行い、奴の生気を感じ取り…右後ろから突っ込んでくる相手目掛け…回し蹴りをぶち込む!!バッギィ!!と音を立て、奴のガスマスクの左眼部分は大破した!
そして…奴は蹴りの反動で仰向けに倒れ込んだ。
【やりやがったな…覚えてやがれよ!!】
「逃がすか!!」
【あばよ!次来るまで生きてやがれ!】
「くそう…逃がしたか…」
惜しくも…奴を取り逃がしてしまった…一瞬で生気が消えたのだ、どうしようもない。
煙が晴れる前に私はその場から移動し、リンケルのオフィスへと向かった。
・・・
「お邪魔するわよ。」
【んがッ…はい!ってミサキさんか…】
「なによ?文句でもあるわけ?」
【いえ…それで、先ほど外でひと悶着あったと思いますが…】
「ええ。奴等が来たわ。今回は…逃がしたけど。」
私はリンケルに奴等4人組の詳細を聞くことにした。
彼女は「ああ、そうでしたね…」と言って事細かく話し始める。
1人目はシィシィ、ガスマスクを被った悪魔で改造昆虫を使ったバイオテロを多発させる…この街で患者を攫ったり、変な病気にするのは主にコイツらしい。
2人目はマスリットス、ゴーグル付きの麻袋を被ったキョンシーで主な悪行は職員の殺害と捕食、喋り方も安定しないし精神状態も不安定。
3人目はフォッス、全身の筋肉を改造された馬頭…たまにしか来ないが、非常に乱暴で知能も低いが力だけは強く、装甲車を殴り飛ばした事もあると。
4人目はウーラン、左腕が2本ある化け狐、直接街へ姿を現すことは無いが、此処へ来る途中の物資輸送車等を化かし、物資を横取りしている。
以上の4名を含め、さらにその上に元締めが居るのではないか…と皆は思っているらしい…
確かに…気になる…その元締めが居るとしたらソイツが暗示の持ち主である可能性は非常に高い。
しかし、トロイダとも繋がりがあるだろう。
「その4人をぶっ殺せば良いのね。」
【え、ええ…けど…まぁ現状はマシになると言ったところですがね。】
確かに…この街が病気だらけなのは元からだ、奴等が去ったところで何も変わらない。
私は未だにキョンシーが喉に引っかかる感じがするが…部屋へ戻る事に。
もしかしたらトロイダが係わっているかもしれない…アイツは何者なんだ?
そう言えば不老不死と言っていた…不老不死と言えばマジコだ、何か聞いてみよう。
私は足を急がせた。
つづく
あだ名:火廼禽、身長:197㎝(悪魔状態)218㎝(灰徒状態)、体重:知らん
趣味:文化の観察、誕生日:487光年の5月84日、髪の色:青から真っ赤に
本人からのコメント『鉛筆は書くより燃やした方が楽しいよ?』
私の名はミサキ、世界最強の名を手にしているイカした女の子。
現在、自分はリンケルのオフィスにて殺害同意を求めるために彼女の上司へアポイントを取ってもらっている。
電話で伝えているのだが…
【はい…はい……後でやっておきます…はい…分かっています。は、いえ…】
「(暇ね…)」
ずっとこの状態なのだ…かれこれ10分以上…上司に頭が上がらないタイプか。
時々「あーその件は!」や「承知しております」とも混ぜている。
【はい…それで…会いたいという人が居るんですけど…】
『(雑音)』
【いえ、国の人間では無く……はい。あ、分かりました。】
そう言ってリンケルは電話を切った、どうやら上手く行ったようだ。
「上司の部屋は此処を出て右のエレベーターに乗って12階に行けば良い」と教えてもらった私は1人で行くことに…リンケリは手書きとキーボードで種類の処理を始めた。
忙しいのだろう。
「(はぁ…防毒マスクは着けておくかぁ…)」
マスクを装着してボシュ―…とすると、シュコーという呼吸音が響く。
気分は空軍のエースパイロットか暗黒卿である、さながら撃墜した敵機の数を将軍に伝えに行く…そんな感じだ。
【上ですけど。】
「12階をお願い。」
【はい。】
エレベーターに乗ろうとすると、人が居て軽くビビった。
しかし、12階のボタンを押してもらうと特にその後は何もなく…一緒に乗った。
ゴウゴウ…とエレベーターに揺られながら上へ昇って行く…
10階で先に乗っていた悪魔は降り、中には私だけが取り残される…1人でマスクを着けた女が待ち構えているなんて何も知らない人が乗って来たら驚くだろう。
だがそんな事も無く、エレベーターは12階で止まった…目的地だ。
【おや…ミサキ様ですね。院長がお待ちです。】
「言われなくても入らせてもらうわよ。」
受付を経由して高そうな扉の奥へ入ると…
【ミサキだな、待っていたぞ。】
「やっほーミサキ!また会ったね!」
「うげマジコ…やっぱり此処に…」
院長室には院長とマジコが居た…マジコはサイダーを飲んでいる。
私は偉そうに座っている院長を無視してマジコの向かい側へ座ると勧められたチョコケーキを食べながら話をした。
【無視か……まぁいい。此処へ来た理由は奴らだな?】
「その通りよ。この街を荒らしてる奴を倒すついでに標的をね。」
【こちらにも悪い話では無い…是非そうしてくれ。】
「殺人の許可を頂いたからにはしょうがないわよね。」
「そうだよ、好きなようにやっちゃえば。」
斯くして私はこの街でかなり偉い人から殺人の許可を頂いた。
ここまでやられりゃ…手を抜く事なんて許されない、存分に力を尽くそう。
私はケーキを半分以上残して院長室を後にすると…リンケルのオフィスへと戻った。
彼女はこの街に詳しいので宿の場所とかを教えてくれるだろう。
・・・
【宿の場所?それってホテルとか?】
「そうよ。あるでしょ?」
【そんなもの…この街には無いよ。】
「は?無いの?民宿もホテルも?」
【だって観光地じゃないもん。】
そりゃそうだ…宿泊施設は外部の客が使うもの…この街にあるわけがない。
元々はあったのだろうが、今では病室代わりだ、なのでこの街に泊まれる施設は無いと…
一応言っておくが…野宿なんて嫌だ。
【あっしの部屋を使ってください。自分は此処で充分ですんで。】
「え、遠慮しておくわ…」
オフィスでこの有様…リンケルの自室なんてほぼ魔窟だろう。
私は丁寧に断り、何処か別の街から通おうかと思ったが…
【言っておきますけど…部屋は綺麗ですよ?散らかって無いですし。】
「………本当に?」
【あぁ!その本当には!疑っているタイプですね!こう見えても部屋は綺麗にするんですよあっしは!その証拠に見せてあげますよ!】
リンケルに強引に連れられ、私は彼女の部屋へ連行された。
職員達の部屋は地下にあるようだ…地下1階が駐車場で地下2階が院長や看護師長などの部屋、地下3階が一般的な職員の部屋だ…いざとなったら地下3階の出入り口を…埋めるらしい。
なんともブラックな理由だ…だが面白い。
(ちなみにリンケルの部屋は地下2階だ)
【ほらどうぞ!たーんと見てください!】
「わー…何も無いー…」
【でしょう?散らかって無いでしょう。】
リンケルの自室には…ほとんど何も無かった…白くて四角い空のゴミ箱とビニールに包まれた布団が一式だけが…フローリングの部屋にあるのみ。
散らかると言うかそういう次元の問題では無い、散らかる物が無いのだ。
台所も厠も無い。
【まぁ使ってないだけですけどね。】
「だったら散らからないわけね…まぁ良いわ、使わせてもらうわ。」
【ではこの鍵を…】
彼女は鍵を普通に私へ差し出した…どうやら寝泊まりは普段からオフィスで済ませているらしく、たまに掃除で来る以外で寄ったりはしないらしい。
部屋という空間で寝るのが嫌いで部屋じゃない場所じゃないと寝れないと…
複雑な病気ね。
「じゃあアタシも使わせてもらうね。」
「マジコ…アンタ、まだ居たの?てか終わったなら帰りなさいよ。」
【なにこの悪魔、知り合い?】
「どうもリンケルさん、アタシはミサキのボス、マジコです!お見知りおきを。」
うん…まぁ…間違ってはない…私はファミリーを抜けていないのでまだマジコの手下と言うか…部下だ。
だが私自身は誰かに顎で使われることを望まない、精々捨て駒になるのを好む。
使って終わり、そんな感じ…それが良い。
「上司命令だぞ、アタシを此処に泊めて。」
「なんでよ…別にアンタ、此処に居なくて良いじゃない。」
「信者を増やさないとダメなんだよ!ね?ね?」
「タダは嫌よ。」
「じゃぁ…寂しい時は抱きしめてあげる…」
速攻で「キモイ!」と返し…別に部屋を汚さないなら良いという条件で部屋に同居させることにした。
神は病気を貰わないので安心らしい…便利だなぁ。
ちなみにリンケルも病気に罹らないと…魔族?も強い。
【んじゃあっしはオフィスに戻りやす。】
「じゃ私も奴らを探しに行くわ。」
「アタシは留守番ね。」
さて…ようやく本題に入れる、万病山の化け物4人組を探しに行こう。
外へ出れば…マスクを取って空気を吸う…嫌な空気だ…何か目撃者などを探しに…行かなくても良いわね、ボロボロの悪魔が居る。
「ねぇちょっと、大丈夫?」
【うぐぁ…は、腹が痛てぇ…よ…】
「何をされたの?」
【ガスマスクの男に…変な物を…ごっは!!】
悪魔の男は血が混じったゲロを吐いて倒れた…まだ死んではいない。
ガスマスクの男と言う情報を貰ったからには見殺しと言うのもアレだ…近くの診療所まで運んであげた。
あの男(リキセイ)は病院から攫われた患者の1人だった様だ…攫われた患者は他にも居るらしい…死んでなかったら他にも運んであげよう。
「ガスマスクね…」
まず1人目はガスマスクと言う情報を得た…最初にリンケルから話を聞いておけば良かった。
奴等の特徴などを知っておかなくてはならない。
「戻ったら聞いておくか…さて聞き込みを続けましょうかね。」
十三番街の外には出歩いている者など居らず、外を歩いているのは防護服を着た医者だけである。
なんか何もしていない自分が凄く情けない気持ちになる。
いや…自分は!今!仕事をしている!暗示を持つ者の始末と言う仕事を!
しかも此処に居る奴よりかは金を持っている!油田も!
「(ふふふ…やっぱり私って…勝ち組ね……何してんだろ…)」
もう先へ進もう、そうしたかったが…
『うわぁあああ!!来たぞぉおお!!』
「仕事……来たか…」
よっしゃーああ!!来たぁぁ!仕事が来たからには負けないわよ!
私は叫びが響いた方へ急いで向かって行った!
【ほっほう…今日はコイツを頂いちゃおうか…】
「ゲッホォ!ゴッフォ!や、止めてくれ…がっふ!」
【あぁ?拒否権あると思ってんのか?テメェみたいな病人のクズによぉ!!病気は嫌か?だったら…俺が治療してやんよ!】
行ってみれば、ガスマスクの男が怪しい注射器を患者の男にぶっ刺そうとしていた。
透かさずに全力ダッシュで近寄り、ドロップキックをぶち込むとガスマスクは奥の店のショーウィンドウへぶっ飛ばされ、ガッシャァァン!!と突っ込んだ。
どうせ営業してなかったんだ、別に良いだろう。
「早く逃げな、さもないと死ぬわよ?」
「は、はい!」
患者が逃げたのを確認した瞬間、暗い店の奥から光る2本の針が飛んで来る!!
右手で両方ともキャッチすれば…それは銀に光るメスであった。
メスをキャッチした直後に奴は店から出て来た。
【痛てぇじゃねぇかぁ!!何しやがるぁ!テメェ!!】
「ドロップキックよ。」
【ンな事はぁ聞いてねぇ!!邪魔しやがって…】
「かかってらっしゃい。今回は素手で相手してあげる。」
白鞘も無いので丁度いい…やはり素手の方が戦いやすいかもね。
相手の恰好は黒いコートにガスマスク…武器はコートの懐からメスや注射器を取り出すのだろう…そして、種族は悪魔…間違いない、コイツが4人組の1人だ。
【ぶっ殺してテメェをホルマリン漬けにしてやるぁ!!】
「面白い!やってみな!!」
【死ねやァ!!】
こちらが持っていた2本のメスを投げ返すと、奴は身体を逸らして躱す!そしてそのまま再度メスを投げて来たが、それを躱すと回し蹴りを放ったが、躱され…奴は私の後ろに…
そして後ろを振り返って…向かい合う形で構えた。
【中々出来る様だな……お前、さてはミサキだな?】
「私もだいぶ名が売れて来たわね。暗殺というPRをしといて良かったわ。」
【トロイダの言ってた奴だな…丁度いい!喰らいやがれ!!】
「何を…!?」
相手はコートをバサッと広げる…コートの裏にはビッシリとゴキブリのような虫がワラワラと蠢いており、とても気持ちが悪い光景であった。
何だコイツは…と思ったのも束の間、コート裏のゴキブリは日光を浴びるとボンッ!と破裂し、隣同士も連鎖反応のように爆発し、辺りを謎の煙で満たす…
なんとなく吸いたくなかった私は防毒マスクを着用して直ぐに上へ避難した。
「ッチ…見えないわね…煙幕と言う事かしら…」
【あぁそうだぜ…こうやってあぶり出せるしな!!】
「上に!?ぐっはぁ!!」
上へ飛んで逃げたは良いが、既に奴はさらにその上へ回っており、踵落としを頭に喰らい、下まで突き落とされる!
なんとか地面と激突する直前で立て直し、着地したが…奴は何処から来る!?
煙の外から中は見えないが、中から外も見えないのだ!
クソッタレ!!…いや……イケる!忘れていた!私には生気探知が可能!
だとすれば………
【(捉えた!!死ねぇッ!!)】
「そこかぁッ!!」
【ぐぶぇ!?な、なんだと…しまった!マスクが!】
生気探知を行い、奴の生気を感じ取り…右後ろから突っ込んでくる相手目掛け…回し蹴りをぶち込む!!バッギィ!!と音を立て、奴のガスマスクの左眼部分は大破した!
そして…奴は蹴りの反動で仰向けに倒れ込んだ。
【やりやがったな…覚えてやがれよ!!】
「逃がすか!!」
【あばよ!次来るまで生きてやがれ!】
「くそう…逃がしたか…」
惜しくも…奴を取り逃がしてしまった…一瞬で生気が消えたのだ、どうしようもない。
煙が晴れる前に私はその場から移動し、リンケルのオフィスへと向かった。
・・・
「お邪魔するわよ。」
【んがッ…はい!ってミサキさんか…】
「なによ?文句でもあるわけ?」
【いえ…それで、先ほど外でひと悶着あったと思いますが…】
「ええ。奴等が来たわ。今回は…逃がしたけど。」
私はリンケルに奴等4人組の詳細を聞くことにした。
彼女は「ああ、そうでしたね…」と言って事細かく話し始める。
1人目はシィシィ、ガスマスクを被った悪魔で改造昆虫を使ったバイオテロを多発させる…この街で患者を攫ったり、変な病気にするのは主にコイツらしい。
2人目はマスリットス、ゴーグル付きの麻袋を被ったキョンシーで主な悪行は職員の殺害と捕食、喋り方も安定しないし精神状態も不安定。
3人目はフォッス、全身の筋肉を改造された馬頭…たまにしか来ないが、非常に乱暴で知能も低いが力だけは強く、装甲車を殴り飛ばした事もあると。
4人目はウーラン、左腕が2本ある化け狐、直接街へ姿を現すことは無いが、此処へ来る途中の物資輸送車等を化かし、物資を横取りしている。
以上の4名を含め、さらにその上に元締めが居るのではないか…と皆は思っているらしい…
確かに…気になる…その元締めが居るとしたらソイツが暗示の持ち主である可能性は非常に高い。
しかし、トロイダとも繋がりがあるだろう。
「その4人をぶっ殺せば良いのね。」
【え、ええ…けど…まぁ現状はマシになると言ったところですがね。】
確かに…この街が病気だらけなのは元からだ、奴等が去ったところで何も変わらない。
私は未だにキョンシーが喉に引っかかる感じがするが…部屋へ戻る事に。
もしかしたらトロイダが係わっているかもしれない…アイツは何者なんだ?
そう言えば不老不死と言っていた…不老不死と言えばマジコだ、何か聞いてみよう。
私は足を急がせた。
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※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
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