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第4章 ブレドキャニオンを漂う十字架篇
第22話 最強の廃れ
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私の名はミサキ、世界第2位の力を持つ女の子。
負けた…私は負けてしまったのだ、ザスタリアン・ムナポトスと言うキョンシーと戦ったが…最初は押していたものの、邪魔が入り…敗北。
見事に私は岩に潰されてしまった。
「この……重いわ!!」
上に塞がる様に置かれた岩を明後日の方向へ蹴り飛ばすと、強い日差しが肌と目を貫く!しまった…少しだけ気を失っていたと思ったが…もう朝とは…
くそったれーっ!!結局、逃げられたじゃないの……ハッ!?
こんな無駄な事を考えている場合では無い!!リンヤ達の元へ戻らないと!!
私は集落の方へ急いで戻った。
「はぁ…はぁ…リンヤ!リンヤ!どこ!?」
「こ、ここだよ…」
リンヤは集落の端っこでうつ伏せに倒れていた…全身噛み痕まみれで。
どうやら野犬の霊に噛まれまくったらしい…心配したが…そんなにダメージは深くない模様、直ぐに立ち上がった。
「ふぅ…ミサキ、まさか…負けちゃった?」
「うっ…うん…途中で邪魔が入って…」
「ダサいね。世界最強の名が廃れちゃったじゃん。」
「うぅぅぅそんな事言わないでよぉ…しょうがなかったんだよぉ…」
「ダッサーい!ダメダメ!本当にダメ!負け犬!!」
リンヤの雪崩のような罵声に私は耐え切れず、ぽろぽろと涙が零れてしまう…
敵にいくらダサいと言われようが…リンヤに言われる一言の方が身に刺さる。
「けど…そんなダメダメでダサいミサキも好きだから!」
「う、うぅう…嬉しくないぃ…」
「ペロペロ!ミサキの涙って真水の味がするね!」
しばらくして…涙も収まり、落ち着いた私と元から冷静なリンヤは集落を見渡した…少しボロくなっているが、今回は誰も被害に遭わなかった様だ。
族長のテントにはコッドローとツナヨズと言う奴も居た。
ツルツル頭のスキンヘッド…
「(ハゲにハゲって言うのは可哀想よね…)アンタがツナヨズね。」
「ああ、いかにも。昨晩は感謝する、君がキョンシーを相手してくれたおかげでこちらは苦戦せずに済んだ。そこの子にも感謝をしよう。」
「気にすんなよ、ハゲ。」
「い、言った!私が遠慮していた禁句を平然と…!!」
「……別にハゲじゃないが…ミサキ君…だっけ?そう言うこと、言わない方が傷つかないと思うよ。」
ツナヨズは飽くまでも剃っていると言った…可哀想に。
そこまで言わないといけないんだね…ハゲは…ハゲは!しょうがないから…私は何とも思わないよ。
いつか全世界のハゲが笑顔になれる日を私は待ち侘びたい。
「お前等も無事だったか…さて、族長…今回も生き残れましたね…」
「ああ。2人には感謝する。出来ればこのまま居てもらいたいが…」
「元凶を叩かないと何も解決しないわよ。」
「うむ…ミサキ、頼めるか?お主の力があれば…奴らを冥界へ送り返すことが出来るだろう。」
部族が外人に頼るなんてよっぽどの事態だ。
しかも族長と来た…こんなに愉快な事があるだろうか?私が負けたと言う事実よりも愉快……いや、笑えない。
「私に頼るなんて…高いわよ?」
「貴様!族長に向かって…」
「黙れコッドロー、これは仕方の無い事だ。」
「ですが…」
ウダウダと文句を垂れるコッドローへボシメウは再度「黙れ!」と渇を入れて黙らせる。
もうこれはこの部族だけの問題では無い、このまま放っておけば…いずれこの荒野の外へも被害は及ぶだろう。
そうなれば…大変な事になる、詳しくは分からないが大変な事になる。
「もしミサキよ…引き受けるのなら…聖域と油田をお主に渡そう。」
「聖域は分かるわ…にしても油田?」
「油田ってアレ?油を掘って取るあの油田?」
「そうだ。油田の権利を全てやろう。聖域もお主にやる。」
聖域はともかく…油田かぁ…それは魅力的だ、なんたって石油は莫大な資産を生み出す。
もし手に入れば、今後一切働かなくて済むかもしれない。
私は仕事を引き受け、ヒーローになる事を選択した…これも一種の救済活動。
なんたって将来出るかもしれない不特定多数の犠牲者を救うのだから。
「次の満月は3日後ね。その時までは安全か…」
「ミサキ、どうするの?街に戻る?」
「ええ。そうするわ。」
私は仕事を引き受けるとリンヤを連れ、集落を飛び立ち、町へ戻った。
集落が襲撃されたので町は大丈夫だろうと思ったのだが…少し荒れている…と言うか、死体がある…そんな、ここも襲われていたなんて…
「ミ、ミサキ…これって…死んでるのかな…」
「ばっちいから触っちゃダメよ、枝を使いなさい。」
「うん。…おう、死後硬直してない。」
「まだ死んどらんわ!!……ってミサキじゃん。」
「ウソでしょ…アンタなんで此処に居るの…」
「え?ミサキ、この人と知り合いなの?」
やけに既視感のある死体だと思ったが…マジコであった。
なんで此処に?父親の所へ帰ったんじゃなくて?
「それがさ!!聞いてよ!お姉ちゃんがさぁ…」
「えぇ…アンタって姉さん居たの…」
「居るよ。南方守護神幻鳥獣って言うんだけど…簾漸駆…だったかな?地球だと。」
「すざく…?ミサキ、この人って頭の病気?」
彼女の反応も無理はない…急に神やらなんやらと話されたら、そう思うのが普通である。
私はリンヤへこの人はグレイトフェニックスと言うお方で血を飲めば不老不死になれると…そして私も多分なっているとも。
「……ミサキ…良い病院、知ってるよ?」
「もう分かってよ…」
「冗談だってば、まぁ大体は分かったよ。」
「なんだ話の分かる奴じゃないか、名を何と言う。」
「リンヤ。」
リンヤの名を聞いたマジコは「うーん…」と唸り、彼女の顔を掴んでマジマジと見た。
「もしかして…君の家族…王族や貴族かい?」
「うん、なんで知ってんの?エスパー使えるの?」
「キミのお母さん…じゃないな、おばあちゃん?それとも曾祖母かな…とにかく!君の先祖に出会ったことがある。出会うなり首を狩られそうになったのでよく覚えてるぞ。」
「あぁ間違いないね、私の一族って敷地に入った人は絶対に斬るから。」
世界は本当に狭いらしい…リンヤとその家族は顔が広いのだな。
私達は近くの活気がないレストランへ入ると、食事を摂りながらマジコの話を聞くことにした…どうやらお腹が空いていた様だ…神も腹が空くのか…
「神様もお腹空くんだね。」
「当り前さかい、だって生きてるんだよ?」
「アンタは神なんだからさ、こう…生み出せないの?」
「そりゃ無理難題ってものだね、中国人が全員、武術を使えるわけじゃ無いでしょ?」
「え!?そうなの!?」
無駄な話はさておき、本題に入ろう。
マジコ…と言うか火廼禽だっけ…の姉、棲漸駆の話だ。
「姉ちゃんがさ、アンタは未熟のヒヨコだから信仰を得て来なさいって…」
「そう言えば神は信仰が無いと存在できないんだったわね…あるの?」
「まぁね、カルトみたいなものだけど、一応は…けど如何せん少ないの。」
「じゃあどうするの?神様、みんなにありがたい言葉聞かせるの?」
リンヤの問いに対してスパゲッティを啜りながらマジコは「そう言う事を無暗にすると大変な事になる」と答えた。
神は他の生物に対して、必要以上に関与してはいけないのだ。
飽くまでも信じられる対象、心の拠り所として存在しなければならない。
もちろん、仕事もするが。
「ふぅ…食べた食べた…あんがとねミサキ。ゴチになったよ。」
「良いけど…この後、予定でも?」
「そうさね…十三番街にでも行こうかな。」
「うげ、万病山じゃない…マラリアになっても知らないわよ…」
「ははは!病気が怖くて神様できるかっての!じゃあね!」
「バイバイ神様、死んだら天国に連れてってねー。」
そう言ってマジコはバシュン!!と飛んで行ってしまった。
まったく…人騒がせな奴だ…次に会うのは何百年後かと思ったが…こりゃ近いうちにまた会う事になるかもしれない。
「さてと、食事も済んだし…私達は休みましょうか。」
「そうだね…ふぁ~…眠いや。」
「じゃあ夜になったら落ち合いましょ。」
「いやいや!そこは…ウチに来なよ……でしょ!普通!」
「え?宿取って無いの?」
リンヤは驚くことに、此処へ着いてからずっと野宿で済ませて来たらしい。
なんと逞しい少女だろうか………リンヤっていくつだっけかな…
とにかく、それならと私と同じ部屋で寝泊まりする事にした、主人も別に良いと言ったが…少し気色悪いモノを見る目で見られた気がする。
「いやー…ベッドに寝るの久しぶりかも…」
「もうちょっと詰めてってば……ふぅ。」
「そう言えば…ミサキって何で此処に居るの?仕事は?」
「ああ…これが仕事なのよ。」
私はリンヤと同じベッドで寝ている…だってソファも無い…他にどうすればと?
そして…私は彼女に仕事の事を話した、ギサキに頼まれ暗示を持つ生首を探して破壊していると…今回は4つ目、折り返し地点だ。
「ギサキって人さ…なんかカッコつけてない?」
「そうね…そう言えば会ってるんだっけ…確かにカッコつけてるわね。(仮面とか)」
「だよね、秋にサングラスなんてちょっとアレだよね。」
「サ、サングラス?仮面じゃなくて?」
「仮面?」
何かおかしい…リンヤと話が&噛み合わない…
私達はお互いにギサキの見た目を言うことにした…まずは私から、青いローブに時計盤の仮面、一人称はオレ。
次にリンヤ、赤黒いコートに金のフレームのサングラス、一人称はあっし。
また見た目も女性そのものだったと言う…
「なんか…おかしいわね…それ本当にギサキ?」
「ギサキかどうかなんて覚えて無いよ…でもミサキみたいな名前だったよ。」
「「………寝ようか…」」
私達は深く考えずに、夜まで眠ることにした。
・・・
「サ…キ!ミサ……ミ…」
「う~ん…」
「ミサキ!!早く起きて!!」
「いったぁ!?」
ぐっすりスヤスヤと眠っていた自分は、文字通りに叩き起こされた。
頬を叩かれた衝撃と痛みで起き上がれば、リンヤが目に入る。
窓の外からは月明かりが部屋を照らし…電気を点ければいつもより眩しく感じられた。
「いつまで寝てる気なの?もう夜の8時だよ?」
「昼に寝ると長く眠るタイプなのよ…ふぁぁあ~…」
「早く顔を洗って外に行こうよ。」
「ええ…ふぁ~…まったくね…」
私だけかもしれないが、寝起きの簡単な作業は目を瞑りながら行う。
歯を磨いたり、顔を洗ったり…そして刃を磨いたり、銃を拭いたりするとき…
目を瞑りながら作業する事により、眠気を抑えることが出来るのだ。
寝起きが弱いのでよくする…が!知らない場所だと…
「んがッ!?」
「だ、大丈夫…?」
「平気…平気…あぁ…」
頭をぶつけたり、足を打ったりするので皆はやらないようにしよう。
それはさておき!上着を着てボロボロの手甲と足甲を装着、ベルトを締めてポーチをぶら下げ、拳銃と白鞘を持てば、フルアーマーミサキの完成!
「ミサキ、私が出会った幽霊は聖域の入り口に居たよ。」
「分かったわ…じゃあそこまで行くけど…来る?」
「当たり前だよ!」
「愚問だったわね。」
外へ出て、リンヤを抱きかかえながら慎重に飛んで行く…荒野の昼は熱いが、夜は冷える…乾いている分、空気中の水分が少ないからだ…多分…確か…いや、確証が無いから止めておこう。
しばらく飛んでいると…
【おいコラ!止まりやがれ!】
「悪霊のお出ましね。」「ミサキ、落とさないでよ…?」
聖域に入る直前に幽霊と出会った…コイツは前のと違う、別の個体だ。
前のより覇気は感じないが、悪霊の気は大きい…
【これから先は俺達の聖域、部外者はお断り!けぇれ!!】
「まぁ待ちなさいって……リンヤ、はい。」
「おっと…じゃあ私は見てるから。コレは持ってって。」
リンヤを下へ降ろすと、幽霊と向かい合った…私はコイツに従う気などない。
一応、リンヤから聖水を受け取ったので、白鞘を抜き、ビシャビシャと掛けた…これで刃は悪霊退散の神器と化す。
一連の私の行動を見た幽霊は…よーく分かったようだ、話は無駄だと。
【後悔するなよ…俺の力は…強い。】
「なによ、額に指を当てて……もしかしてエメ○ウム光線でも撃つの?」
「アレは太○拳の構えじゃ無いかな。」
【違ぇ!!これは…念力だァァ!!】
その時、近くの岩山がひび割れ、突如として大きな岩が宙を浮き始めた。
なるほど…幽霊のくせに念力を使うとは…ポルターガイストに近いタイプだな。
だとしたら…結構厄介だ…ああいう類はかなりの手慣れだろう。
用心して行かないとな。
【ビビったか?まだ終わりじゃねぇぞ?こうやって鋭くも出来る!】
宙に浮いた岩は削られ、鋭くなった…刺さりはしないだろうが、アレは痛い。
強いて言うなら先の丸っこい鉛筆みたいなものだ。
「わー!!すっげぇ!!カメラ持って来れば良かった…」
「流石に細かく砕くなんて無理よね?」
【出来るぞ!こうやってな!!しかも…人間の形にもできる!】
岩はバラバラに散り、無数の石人形とかした…これは…かなりすごい!
ただでさえ念力は使うだけでも非常に難しい!だがここまで出来るとは…
かなりの強者だ!!
【さぁ観念しな……新しい岩を…尖らせて…】
「隙ありッ!!」
【うぎゃぁ!?ひ、酷ひぃ…】
「ミサキもやるなぁ…」
幽霊は石人形を地面へ綺麗に並べ、新しい岩を尖らせる…
その瞬間を狙い、素早く一刀両断にした!!幽霊は上下に真っ二つだ!!
【貴様に…け、剣士の…心得は……ぐは!無いのか…】
「残念ながらサムライ魂は無いわ。だって巫女だもの。」
【おのレェ………】
斬られた幽霊は霧のように散り散りになってしまった…悪霊退散っと…
さぁこれで邪魔者は居なくなった、これで遺憾なくキョンシーを探しに行ける。
悪霊はヤツ1匹では無いだろう…そこら中から悪の気を感じる…全てが幽霊かどうかは分からないが、肉体のある者では無いだろう…
果たして、何が待ち受けているのだろうか…
つづく
負けた…私は負けてしまったのだ、ザスタリアン・ムナポトスと言うキョンシーと戦ったが…最初は押していたものの、邪魔が入り…敗北。
見事に私は岩に潰されてしまった。
「この……重いわ!!」
上に塞がる様に置かれた岩を明後日の方向へ蹴り飛ばすと、強い日差しが肌と目を貫く!しまった…少しだけ気を失っていたと思ったが…もう朝とは…
くそったれーっ!!結局、逃げられたじゃないの……ハッ!?
こんな無駄な事を考えている場合では無い!!リンヤ達の元へ戻らないと!!
私は集落の方へ急いで戻った。
「はぁ…はぁ…リンヤ!リンヤ!どこ!?」
「こ、ここだよ…」
リンヤは集落の端っこでうつ伏せに倒れていた…全身噛み痕まみれで。
どうやら野犬の霊に噛まれまくったらしい…心配したが…そんなにダメージは深くない模様、直ぐに立ち上がった。
「ふぅ…ミサキ、まさか…負けちゃった?」
「うっ…うん…途中で邪魔が入って…」
「ダサいね。世界最強の名が廃れちゃったじゃん。」
「うぅぅぅそんな事言わないでよぉ…しょうがなかったんだよぉ…」
「ダッサーい!ダメダメ!本当にダメ!負け犬!!」
リンヤの雪崩のような罵声に私は耐え切れず、ぽろぽろと涙が零れてしまう…
敵にいくらダサいと言われようが…リンヤに言われる一言の方が身に刺さる。
「けど…そんなダメダメでダサいミサキも好きだから!」
「う、うぅう…嬉しくないぃ…」
「ペロペロ!ミサキの涙って真水の味がするね!」
しばらくして…涙も収まり、落ち着いた私と元から冷静なリンヤは集落を見渡した…少しボロくなっているが、今回は誰も被害に遭わなかった様だ。
族長のテントにはコッドローとツナヨズと言う奴も居た。
ツルツル頭のスキンヘッド…
「(ハゲにハゲって言うのは可哀想よね…)アンタがツナヨズね。」
「ああ、いかにも。昨晩は感謝する、君がキョンシーを相手してくれたおかげでこちらは苦戦せずに済んだ。そこの子にも感謝をしよう。」
「気にすんなよ、ハゲ。」
「い、言った!私が遠慮していた禁句を平然と…!!」
「……別にハゲじゃないが…ミサキ君…だっけ?そう言うこと、言わない方が傷つかないと思うよ。」
ツナヨズは飽くまでも剃っていると言った…可哀想に。
そこまで言わないといけないんだね…ハゲは…ハゲは!しょうがないから…私は何とも思わないよ。
いつか全世界のハゲが笑顔になれる日を私は待ち侘びたい。
「お前等も無事だったか…さて、族長…今回も生き残れましたね…」
「ああ。2人には感謝する。出来ればこのまま居てもらいたいが…」
「元凶を叩かないと何も解決しないわよ。」
「うむ…ミサキ、頼めるか?お主の力があれば…奴らを冥界へ送り返すことが出来るだろう。」
部族が外人に頼るなんてよっぽどの事態だ。
しかも族長と来た…こんなに愉快な事があるだろうか?私が負けたと言う事実よりも愉快……いや、笑えない。
「私に頼るなんて…高いわよ?」
「貴様!族長に向かって…」
「黙れコッドロー、これは仕方の無い事だ。」
「ですが…」
ウダウダと文句を垂れるコッドローへボシメウは再度「黙れ!」と渇を入れて黙らせる。
もうこれはこの部族だけの問題では無い、このまま放っておけば…いずれこの荒野の外へも被害は及ぶだろう。
そうなれば…大変な事になる、詳しくは分からないが大変な事になる。
「もしミサキよ…引き受けるのなら…聖域と油田をお主に渡そう。」
「聖域は分かるわ…にしても油田?」
「油田ってアレ?油を掘って取るあの油田?」
「そうだ。油田の権利を全てやろう。聖域もお主にやる。」
聖域はともかく…油田かぁ…それは魅力的だ、なんたって石油は莫大な資産を生み出す。
もし手に入れば、今後一切働かなくて済むかもしれない。
私は仕事を引き受け、ヒーローになる事を選択した…これも一種の救済活動。
なんたって将来出るかもしれない不特定多数の犠牲者を救うのだから。
「次の満月は3日後ね。その時までは安全か…」
「ミサキ、どうするの?街に戻る?」
「ええ。そうするわ。」
私は仕事を引き受けるとリンヤを連れ、集落を飛び立ち、町へ戻った。
集落が襲撃されたので町は大丈夫だろうと思ったのだが…少し荒れている…と言うか、死体がある…そんな、ここも襲われていたなんて…
「ミ、ミサキ…これって…死んでるのかな…」
「ばっちいから触っちゃダメよ、枝を使いなさい。」
「うん。…おう、死後硬直してない。」
「まだ死んどらんわ!!……ってミサキじゃん。」
「ウソでしょ…アンタなんで此処に居るの…」
「え?ミサキ、この人と知り合いなの?」
やけに既視感のある死体だと思ったが…マジコであった。
なんで此処に?父親の所へ帰ったんじゃなくて?
「それがさ!!聞いてよ!お姉ちゃんがさぁ…」
「えぇ…アンタって姉さん居たの…」
「居るよ。南方守護神幻鳥獣って言うんだけど…簾漸駆…だったかな?地球だと。」
「すざく…?ミサキ、この人って頭の病気?」
彼女の反応も無理はない…急に神やらなんやらと話されたら、そう思うのが普通である。
私はリンヤへこの人はグレイトフェニックスと言うお方で血を飲めば不老不死になれると…そして私も多分なっているとも。
「……ミサキ…良い病院、知ってるよ?」
「もう分かってよ…」
「冗談だってば、まぁ大体は分かったよ。」
「なんだ話の分かる奴じゃないか、名を何と言う。」
「リンヤ。」
リンヤの名を聞いたマジコは「うーん…」と唸り、彼女の顔を掴んでマジマジと見た。
「もしかして…君の家族…王族や貴族かい?」
「うん、なんで知ってんの?エスパー使えるの?」
「キミのお母さん…じゃないな、おばあちゃん?それとも曾祖母かな…とにかく!君の先祖に出会ったことがある。出会うなり首を狩られそうになったのでよく覚えてるぞ。」
「あぁ間違いないね、私の一族って敷地に入った人は絶対に斬るから。」
世界は本当に狭いらしい…リンヤとその家族は顔が広いのだな。
私達は近くの活気がないレストランへ入ると、食事を摂りながらマジコの話を聞くことにした…どうやらお腹が空いていた様だ…神も腹が空くのか…
「神様もお腹空くんだね。」
「当り前さかい、だって生きてるんだよ?」
「アンタは神なんだからさ、こう…生み出せないの?」
「そりゃ無理難題ってものだね、中国人が全員、武術を使えるわけじゃ無いでしょ?」
「え!?そうなの!?」
無駄な話はさておき、本題に入ろう。
マジコ…と言うか火廼禽だっけ…の姉、棲漸駆の話だ。
「姉ちゃんがさ、アンタは未熟のヒヨコだから信仰を得て来なさいって…」
「そう言えば神は信仰が無いと存在できないんだったわね…あるの?」
「まぁね、カルトみたいなものだけど、一応は…けど如何せん少ないの。」
「じゃあどうするの?神様、みんなにありがたい言葉聞かせるの?」
リンヤの問いに対してスパゲッティを啜りながらマジコは「そう言う事を無暗にすると大変な事になる」と答えた。
神は他の生物に対して、必要以上に関与してはいけないのだ。
飽くまでも信じられる対象、心の拠り所として存在しなければならない。
もちろん、仕事もするが。
「ふぅ…食べた食べた…あんがとねミサキ。ゴチになったよ。」
「良いけど…この後、予定でも?」
「そうさね…十三番街にでも行こうかな。」
「うげ、万病山じゃない…マラリアになっても知らないわよ…」
「ははは!病気が怖くて神様できるかっての!じゃあね!」
「バイバイ神様、死んだら天国に連れてってねー。」
そう言ってマジコはバシュン!!と飛んで行ってしまった。
まったく…人騒がせな奴だ…次に会うのは何百年後かと思ったが…こりゃ近いうちにまた会う事になるかもしれない。
「さてと、食事も済んだし…私達は休みましょうか。」
「そうだね…ふぁ~…眠いや。」
「じゃあ夜になったら落ち合いましょ。」
「いやいや!そこは…ウチに来なよ……でしょ!普通!」
「え?宿取って無いの?」
リンヤは驚くことに、此処へ着いてからずっと野宿で済ませて来たらしい。
なんと逞しい少女だろうか………リンヤっていくつだっけかな…
とにかく、それならと私と同じ部屋で寝泊まりする事にした、主人も別に良いと言ったが…少し気色悪いモノを見る目で見られた気がする。
「いやー…ベッドに寝るの久しぶりかも…」
「もうちょっと詰めてってば……ふぅ。」
「そう言えば…ミサキって何で此処に居るの?仕事は?」
「ああ…これが仕事なのよ。」
私はリンヤと同じベッドで寝ている…だってソファも無い…他にどうすればと?
そして…私は彼女に仕事の事を話した、ギサキに頼まれ暗示を持つ生首を探して破壊していると…今回は4つ目、折り返し地点だ。
「ギサキって人さ…なんかカッコつけてない?」
「そうね…そう言えば会ってるんだっけ…確かにカッコつけてるわね。(仮面とか)」
「だよね、秋にサングラスなんてちょっとアレだよね。」
「サ、サングラス?仮面じゃなくて?」
「仮面?」
何かおかしい…リンヤと話が&噛み合わない…
私達はお互いにギサキの見た目を言うことにした…まずは私から、青いローブに時計盤の仮面、一人称はオレ。
次にリンヤ、赤黒いコートに金のフレームのサングラス、一人称はあっし。
また見た目も女性そのものだったと言う…
「なんか…おかしいわね…それ本当にギサキ?」
「ギサキかどうかなんて覚えて無いよ…でもミサキみたいな名前だったよ。」
「「………寝ようか…」」
私達は深く考えずに、夜まで眠ることにした。
・・・
「サ…キ!ミサ……ミ…」
「う~ん…」
「ミサキ!!早く起きて!!」
「いったぁ!?」
ぐっすりスヤスヤと眠っていた自分は、文字通りに叩き起こされた。
頬を叩かれた衝撃と痛みで起き上がれば、リンヤが目に入る。
窓の外からは月明かりが部屋を照らし…電気を点ければいつもより眩しく感じられた。
「いつまで寝てる気なの?もう夜の8時だよ?」
「昼に寝ると長く眠るタイプなのよ…ふぁぁあ~…」
「早く顔を洗って外に行こうよ。」
「ええ…ふぁ~…まったくね…」
私だけかもしれないが、寝起きの簡単な作業は目を瞑りながら行う。
歯を磨いたり、顔を洗ったり…そして刃を磨いたり、銃を拭いたりするとき…
目を瞑りながら作業する事により、眠気を抑えることが出来るのだ。
寝起きが弱いのでよくする…が!知らない場所だと…
「んがッ!?」
「だ、大丈夫…?」
「平気…平気…あぁ…」
頭をぶつけたり、足を打ったりするので皆はやらないようにしよう。
それはさておき!上着を着てボロボロの手甲と足甲を装着、ベルトを締めてポーチをぶら下げ、拳銃と白鞘を持てば、フルアーマーミサキの完成!
「ミサキ、私が出会った幽霊は聖域の入り口に居たよ。」
「分かったわ…じゃあそこまで行くけど…来る?」
「当たり前だよ!」
「愚問だったわね。」
外へ出て、リンヤを抱きかかえながら慎重に飛んで行く…荒野の昼は熱いが、夜は冷える…乾いている分、空気中の水分が少ないからだ…多分…確か…いや、確証が無いから止めておこう。
しばらく飛んでいると…
【おいコラ!止まりやがれ!】
「悪霊のお出ましね。」「ミサキ、落とさないでよ…?」
聖域に入る直前に幽霊と出会った…コイツは前のと違う、別の個体だ。
前のより覇気は感じないが、悪霊の気は大きい…
【これから先は俺達の聖域、部外者はお断り!けぇれ!!】
「まぁ待ちなさいって……リンヤ、はい。」
「おっと…じゃあ私は見てるから。コレは持ってって。」
リンヤを下へ降ろすと、幽霊と向かい合った…私はコイツに従う気などない。
一応、リンヤから聖水を受け取ったので、白鞘を抜き、ビシャビシャと掛けた…これで刃は悪霊退散の神器と化す。
一連の私の行動を見た幽霊は…よーく分かったようだ、話は無駄だと。
【後悔するなよ…俺の力は…強い。】
「なによ、額に指を当てて……もしかしてエメ○ウム光線でも撃つの?」
「アレは太○拳の構えじゃ無いかな。」
【違ぇ!!これは…念力だァァ!!】
その時、近くの岩山がひび割れ、突如として大きな岩が宙を浮き始めた。
なるほど…幽霊のくせに念力を使うとは…ポルターガイストに近いタイプだな。
だとしたら…結構厄介だ…ああいう類はかなりの手慣れだろう。
用心して行かないとな。
【ビビったか?まだ終わりじゃねぇぞ?こうやって鋭くも出来る!】
宙に浮いた岩は削られ、鋭くなった…刺さりはしないだろうが、アレは痛い。
強いて言うなら先の丸っこい鉛筆みたいなものだ。
「わー!!すっげぇ!!カメラ持って来れば良かった…」
「流石に細かく砕くなんて無理よね?」
【出来るぞ!こうやってな!!しかも…人間の形にもできる!】
岩はバラバラに散り、無数の石人形とかした…これは…かなりすごい!
ただでさえ念力は使うだけでも非常に難しい!だがここまで出来るとは…
かなりの強者だ!!
【さぁ観念しな……新しい岩を…尖らせて…】
「隙ありッ!!」
【うぎゃぁ!?ひ、酷ひぃ…】
「ミサキもやるなぁ…」
幽霊は石人形を地面へ綺麗に並べ、新しい岩を尖らせる…
その瞬間を狙い、素早く一刀両断にした!!幽霊は上下に真っ二つだ!!
【貴様に…け、剣士の…心得は……ぐは!無いのか…】
「残念ながらサムライ魂は無いわ。だって巫女だもの。」
【おのレェ………】
斬られた幽霊は霧のように散り散りになってしまった…悪霊退散っと…
さぁこれで邪魔者は居なくなった、これで遺憾なくキョンシーを探しに行ける。
悪霊はヤツ1匹では無いだろう…そこら中から悪の気を感じる…全てが幽霊かどうかは分からないが、肉体のある者では無いだろう…
果たして、何が待ち受けているのだろうか…
つづく
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