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第1部【明暗の大魔導師】編
第19話 最弱魔物との旅
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俺の名前はコォ、インとイワと共に山を進む登録済みの冒険者だ。
昨夜、別けあって魔物の子供…?イワと一緒に山を抜けることになった。
自分よりちょっと背が高いが、とても非力だ…インでも片手で勝てるだろう。
もちろんそんな事はさせない。
【あの…やっぱり荷物、持つよ。】
「ダメ、アンタはまだ信用できない。」
「悪いけどまだ出会ったばかりだから。」
【そうだよね…】
イワは昨夜、俺達の荷物を奪おうとした…そんな輩に荷物は任せられない。
荷物の重さと山道の足し算は非常にキツイ…だけどこの苦労が俺達を強くさせるに違いない!このまま進めば筋肉がついて…つくだろうか…
ずっと山に暮らしていたがこの歳までこの身体だった。
今更こんな所で筋肉がつくなんてあり得ないな…ははは…
「なぁイワ…君ってこの山に来てどのくらいなんだ?」
【分からない…少なくても…20回以上は雪が降った…】
「って事は…20年以上…俺達よりも年上だったのか。」
【コォ達は何歳?】
「俺達は双子で『バッキィ!!』歳だ。」
何処かで枝が折れたようだ…激しい音だったな…魔物じゃ無いよな?
流石に魔物とはもう会いたくない、何事も無く山を突破したいのだ。
しかし…この山に出て来る魔物を倒せないくらいではこの先、進むのは危ういのでは?…普通の冒険者なら倒すって聞いた事あるし…
【双子ってなに?】
「一緒に生まれたってこと。」
【どうして一緒に生まれたの?】
「アンタ、中々難しいこと考えるね。」
双子が一緒に生まれて来る理由…今思えば不思議だ…俺達はどうやって生まれたんだ?子供って言うのは母親から生まれると言うのは知っているが母親に会った事が無い。
光の大魔導師がそうだと言われているけど…どうして一緒じゃ無かったんだろう…
【子供ってどうやってできるの?】
「……分かんない…インは知ってる?」
「知らない。」
そりゃそうか…俺が知らないことを知っているワケ無いもんなぁ…
今思えば子供ってどうやって出来るんだ?いや…作るものなの?でも形あるもの、作られる時があったから存在しているんだ…という事は俺達も?
誰かに造られた…父さんに作られたのかな…それとも母親に?
世の中に謎と言うのは尽きない…
「ダメだ…どう考えても分からない…俺達が一番知っていないといけないのに…」
「生物として生物の作り方を知らないって変だよね。」
【ウチにもお父さんとお母さん…居るのかな…】
「居なかったら生まれて無いよ。何処かで暮らしてるのかも。」
【じゃあ何でウチは山の中に居るんだろう…】
「それは分からないな…」
きっとワケでもあるのだろう…両親について問題があるという面では自分達と同じだ…ちょっと親近感湧いちゃうかも。
「ところで…イワ、アンタさ…山降りたら何すんの?」
【とにかくこの山以外の場所に行きたいから…考えてない…】
「魔族の子供が1人で生きていけるほど世の中は甘くないよ。」
「知った様な事言うな、インも。」
自分達なんて世間を知って数日だ…ハッキリ言って大変だが、その分…面白い発見が色々とある…まだ見ぬ世界、綺麗な鉱石、美味しい食べ物…
全てが新鮮で楽しい、とっても。
「あ、そうだ!アンタって見た目子供っぽいから孤児院に行けば?」
【こじーん?】
「なんだそれ。」
「昔本で読んだことあるよ、身寄りのない子供を引き取る場所って。」
「そんな所があったのか。」
だが…ダメだろう…イワは確かに見た目、中身共に子供だが…
如何せん、身長が高い…俺達より背が高いし、街で見た大人でこのくらいの人も少なかれ居た。
【学校行けばもっと頭良くなるけど…お金ない。】
「そりゃ大変だな…お金の使い方も知らないんだろう?」
「教育されて無い人ってこうなっちゃうんだね。」
学校も孤児院もダメ…直ぐに稼げて頭が悪くても出来る仕事……ある。
冒険者だ!俺達、学校に行ってないから頭が悪いけど冒険者になれば収入が出来る!…かもしれない。
お金を稼ぐためには依頼をこなしたり広告塔にもならないといけないけど。
だけど…イワは弱い…とてもじゃないが冒険者にはなれなさそう…
「バカでも出来る仕事って無いよな…バカじゃないから仕事するんだよな…」
「能無しでも出来る仕事なら決死隊があるけど…ダメだよね。」
こうなれば奥の手…街にも居たけど…乞食になるのはどうだろうか。
少々アレだが…魔族となると聖職者になるのも難しいだろう。
【イワ…何も出来ない…】
「自身無くすなよ、俺達が普通の冒険者なら一緒に連れて行くけど…」
「お生憎様、私達はとっても大事な任務の途中なの。」
【何してる途中なの?】
「ちょっとね…父親が危ないんだ。」
今の説明…誤解されて無いだろうか?
父親が危険な状態なのであって…父さん自身が危ない人と言うワケでは無い。
父さんはとっても立派な人だよ!
【ウチ、手伝うけど。】
「ダメダメ!これは危険な旅なんだよ…他人を巻き込めないよ…」
「散々巻き込んでる気がするけど。」
それを言ってはいけない気がするけど…今は目を瞑ろう。
気持ちだけ受け取っておこう、イワはハッキリ言って…足手まといになる。
本当に申し訳ないけどそう思ってしまう。
囮にするわけにもいかないし…やはり連れて行けない。
「まぁ、山を下りてから考えようよ。そう言う事は。」
「そうだよ、それが良い。」
【うん…分かった。】
「元気出してよ!何かできる事はあるかもしれな『ヤァアアッ!!』うわぁ!?」
その時、突如として横の茂みから男が俺に向かって飛び蹴りをかます!!
し、しまった…誰かが待ち伏せしてたのか…脇腹の良い所に当たってしまった…
【ひぃい!?この人…目が赤い…】
「目が赤い…コイツ!昨日の人と同じ類の奴か!」
「ウガァアアアアア!!」
飛び出して来たのは…目が赤い格闘家…山の入り口に貼ってあった行方不明者の1人だ!えーっと名前は…なんだっけな…ベロだしみたいな名前だった気がするけど…
そうだ!べコタスだ!
「イン!魔法だ!魔法を撃て!!」
「ひょ、雹球!!」
インは咄嗟に雹球を相手の位置へ乱雑に打ちこむ!!しかし、奴はなんと素手で氷の球体を殴り飛ばし、返ってきた雹球はインとイワの間をビシュン!と突き抜けた!
「ウガァアア!!」
「な!?な、殴り飛ばした…私の雹球を…」
【うわぁああ!やるしかない!!】
「ダメだイワ!やられる!」
直ぐにイワは逃げられないと悟ったのか、爪を立て、べコタスへ襲い掛かる!
だが、いとも簡単に彼女はカウンターのパンチをお腹にめり込ませられ…直ぐにダウンしてしまった…本当に弱いんだな…いや、誰でもそうなるに決まっている!
(なんで庇っているんだ俺は…)
「くっそ…イン!魔法の準備をしろ!」
「アアアァアアッ!!」
「おいお前!こっちを向け!」
「アアアァッ?…!?うぎごッ…」
インに魔法の準備をさせると自分へ注意を向けさせる!奴はこちらへ殴りかかったか…メイスの柄で相手の拳を防ぐと、ゴッ…という鈍い音が響き…
相手は拳を抑えて蹲った…い、痛そうだ…いやそれよりも!!
今のうちに首飾りを取らなくては!!
「この…見つけた!これか!!」
「コォ!危ない!!」
「アガァアア!!」
相手は起き上がると直ぐに自分の左頬を殴り飛ばす!!ポキッという音共に歯が折れて地面に転がる…
やばい!もう起き上がった!使うしかない…魔法を!
「キム・ムーア!!この野郎!!」
「ウギイイイ!!」
魔法を使って腕を強化すると、奴との取っ組み合いになった!互いの手を掴みあって押し合う…魔法を使っていると言うのにこちらが少し押されている!
こんなにも強い力を持つ人が居るとは…それとも首飾りの力だろうか…
「イン!今の内だ!!奴の背中へ魔法を撃ちこめ!!」
「わ、分かった…火球!」
「うぐぁ!?が、がぎゃ…」
「今だッ!」
背中へ火球を撃ち込まれたべコタスが怯んでいる隙にすぐさま首飾りを掴むと思いっきり引き千切る!!首飾りはバラバラに散らばり…赤く光ると木端微塵に砕け散った…
それと同時にべコタスは糸が切れたようにその場に倒れ込む…やったか。
「やっとか…ぐっ!…しまった…腕に力を使い過ぎた…」
キム・ムーアは強化する代わりに筋肉へ強い負担を掛けてしまう…一度に使い過ぎたり、間をおかずに何度も使うと筋肉が壊死してしまう…
そうなればどうしようもない…だが、今回は大丈夫そうだ…
折れた歯は…どうにもならないのでひとまず拾っておこう…で、この人とイワは治療するか…インの方も怪我は無さそうだ。
「コォ…歯、大丈夫?」
「左上の奥歯がやられたけど…そこまで大事じゃないかな…乳歯だし。」
「なら良いけど…」
イワを先に治療すると彼女は直ぐに目を覚ました…魔族なので非力だが身体は丈夫なようだ。
それで…このべコタスさんも治療するけど、この火傷は消えそうにない。
街の医者に診てもらえば治るかもしれないが自分にはどうにもできない…服だって背中の部分が焼け焦げて寒そうだ。
「この人は危険だけどここに座らせておくか…」
「流石に連れて行けないしね。」
「よし…行くぞ、2人共。」
「うぃー」【分かった。】
山道はまだまだ続く…山頂には行かないので楽だが…先は長いな。
・・・
【おのれ…侵入者め…べコタスさえ撃退するとは…やるのう…】
「チカ様、フィルーガーの首は取ってまいりました。」
【ネストロか…ご苦労。そしてコリンパイ、べコタスを始末しに行け。そして侵入者も見つけ次第…殺せ。良いか、不意打ちでも何でも良い、絶対に殺せ。お前が一番強い。】
「御意。」
【ネストロ、お前は3魔士を呼んで来い。念には念を入れる。】
「はい。」
【ヒへへ…ワシの機嫌を損ねるとどうなるか…思い知らせちゃる…】
・・・
あれから随分と歩いたが…どのくらいまで来たのだろうか…かなり標高が高くなった気がするが、それでもまだ道は続いている。
それに…不気味な視線を感じたり、変な鳴き声が響いたりしている。
何処の山と言うのも似たようにおどろおどろしい面を持っているのか…
【霧が濃くなってきた…】
「2人共、逸れるなよ。」
かなり霧が濃くなってきたな…前は疎か、2人の顔すら見えにくい。
こんな場所で離れてしまえば直ぐに見失ってしまう、少し空が赤くなってきた気がするので直ぐにこの霧道を突破しなくては…ここで敵に襲われたら一溜まりも無い。
「ちょっと冷えて来たな…上着を……イワ、寒くないか?」
【涼しいけど特に寒くないよ。】
「やっぱり魔族って丈夫なのね。」
「なら良かった、寒かったら言ってよ。上着貸すから。」
【うん、ありがと。】
薄いが上着を着れば多少なりとも冷えは治まる…だが少し息苦しい。
この道が長く続かないと良いのだが…
【ンヴォォオオオ…】
【な、なにこの声…】
「何かが…霧の向こうに居るぞ…イン、構えろ。イワ、下がれ。」
霧の中から不気味な呻き声のような声が聞こえる…魔物か?
インと共に武器を構えると、ノッシノッシと霧の向こうの影がこちらへ歩み寄って来る…ど、どうする…俺達の事を気にしていないみたいだが…
【ボッボォ…】
「(な、なんだコイツは…)」
霧の中から姿を現したのは不気味な4足歩行をする…頭の無い鹿だった…
頭が無い鹿なんて…生きて行けるのか?何処から声を出しているんだ?謎が多いが…敵意は無いようで、只々自分達の横を通り過ぎて行く…
なんだ…害が無いなら放置……!?あ、アレは!!
「首飾り…では無いが!似ている何か…」
「という事は…アレも…あの人たちの仲間?」
【何か知らないけどヤバそう…】
どうする…アイツ等の手下だったら左後ろ脚に付いてる飾りを…取るか?
だが相手は特にこちらへ危害を加えようとはしていない…だが…ダメだ、見過ごせない、取ろう!
俺は鹿の後ろへピッタリ付いてしばらく歩幅を合わせて歩くと、素早く後ろ脚の飾りをブチィ!と引き千切った!飾りは他の物と同じ様に光った後に砕け散る…
鹿はそのまま横たわって死んでしまった…首が無いのでどうしようもない。
「死んじゃった…だけど…これで…良いのだろうか…」
「見過ごすのもアレだしね。」
【無視するよりかは…イイと思う。他の人がやられるかも。】
「そうか……お、霧が晴れて来たな。」
丁度、霧が晴れて来たのでこの鹿の死体は埋めておこう、それが良い。
変な祟りでも貰ったら怖い…
「………」
「うっはぁ!?だ、誰ですか…急に…いつの間にここに…」
「コォ!ソイツ!首輪してる!」
「な!本当だ!?」
【さっきの奴の仲間…】
そこには…いつの間にか、白い服を着た女性が立っていた…奴らの仲間か…あの2人より豪華な赤い首飾り着けている…どうして此処が分かったのだろうか…
そ、そうか!この鹿だ!この鹿はただの囮だったのか!
やられた…それにしてもどうして自分達へ攻撃してくるんだ…最初の人の敵討ちだとしても正当防衛じゃないか!
「覚悟しろ侵入者…殺してやる。1人残らず…」
「しゃ、喋った…止めてください!何も殺し合わなくても…」
「コォ…言葉は通じるけど…話は出来なさそうだよ…」
【(もしかして…ウチも侵入者に入ってるの…?)】
ダメか…やるしかなさそうだ…どうにか撃退するしかない!
つづく
・・・
諸々図鑑(もうナンバリングしません)
名前:ヤナギジカ 分類:野生動物 発見者:不明
危険度:レベル0(全く持って無害) 主食:植物、虫 天敵:オオカミ等
『ヤナギジカは偶蹄目、シカ科、ヤマジカ属の草食動物である。ダニーグ大陸において最も繁栄している思われる種の鹿であり、最も見かける生物とも言われている。性格は穏やかで臆病だが、繁殖期である8月から10月、出産期である2月から4月のオスは気が荒いので注意。名前にもある通り、モースヤナギの実を食すことで赤い色の角を生やすことで有名。文明とは太古より寄り添っており、肉と皮は昔も今も取引されている。秋の下旬が旬とされており、上質な皮は絨毯やコート。肉は脂が乗っていて美味、オスの朱色の角は高級漢方薬、または装飾品として人気が高い。また…初心者の猟師が最初に狩る基本の獣ともされている。なお、噛まれたり攻撃された場合は直ぐに病院へ行こう、病気を貰う可能性が高い。』
昨夜、別けあって魔物の子供…?イワと一緒に山を抜けることになった。
自分よりちょっと背が高いが、とても非力だ…インでも片手で勝てるだろう。
もちろんそんな事はさせない。
【あの…やっぱり荷物、持つよ。】
「ダメ、アンタはまだ信用できない。」
「悪いけどまだ出会ったばかりだから。」
【そうだよね…】
イワは昨夜、俺達の荷物を奪おうとした…そんな輩に荷物は任せられない。
荷物の重さと山道の足し算は非常にキツイ…だけどこの苦労が俺達を強くさせるに違いない!このまま進めば筋肉がついて…つくだろうか…
ずっと山に暮らしていたがこの歳までこの身体だった。
今更こんな所で筋肉がつくなんてあり得ないな…ははは…
「なぁイワ…君ってこの山に来てどのくらいなんだ?」
【分からない…少なくても…20回以上は雪が降った…】
「って事は…20年以上…俺達よりも年上だったのか。」
【コォ達は何歳?】
「俺達は双子で『バッキィ!!』歳だ。」
何処かで枝が折れたようだ…激しい音だったな…魔物じゃ無いよな?
流石に魔物とはもう会いたくない、何事も無く山を突破したいのだ。
しかし…この山に出て来る魔物を倒せないくらいではこの先、進むのは危ういのでは?…普通の冒険者なら倒すって聞いた事あるし…
【双子ってなに?】
「一緒に生まれたってこと。」
【どうして一緒に生まれたの?】
「アンタ、中々難しいこと考えるね。」
双子が一緒に生まれて来る理由…今思えば不思議だ…俺達はどうやって生まれたんだ?子供って言うのは母親から生まれると言うのは知っているが母親に会った事が無い。
光の大魔導師がそうだと言われているけど…どうして一緒じゃ無かったんだろう…
【子供ってどうやってできるの?】
「……分かんない…インは知ってる?」
「知らない。」
そりゃそうか…俺が知らないことを知っているワケ無いもんなぁ…
今思えば子供ってどうやって出来るんだ?いや…作るものなの?でも形あるもの、作られる時があったから存在しているんだ…という事は俺達も?
誰かに造られた…父さんに作られたのかな…それとも母親に?
世の中に謎と言うのは尽きない…
「ダメだ…どう考えても分からない…俺達が一番知っていないといけないのに…」
「生物として生物の作り方を知らないって変だよね。」
【ウチにもお父さんとお母さん…居るのかな…】
「居なかったら生まれて無いよ。何処かで暮らしてるのかも。」
【じゃあ何でウチは山の中に居るんだろう…】
「それは分からないな…」
きっとワケでもあるのだろう…両親について問題があるという面では自分達と同じだ…ちょっと親近感湧いちゃうかも。
「ところで…イワ、アンタさ…山降りたら何すんの?」
【とにかくこの山以外の場所に行きたいから…考えてない…】
「魔族の子供が1人で生きていけるほど世の中は甘くないよ。」
「知った様な事言うな、インも。」
自分達なんて世間を知って数日だ…ハッキリ言って大変だが、その分…面白い発見が色々とある…まだ見ぬ世界、綺麗な鉱石、美味しい食べ物…
全てが新鮮で楽しい、とっても。
「あ、そうだ!アンタって見た目子供っぽいから孤児院に行けば?」
【こじーん?】
「なんだそれ。」
「昔本で読んだことあるよ、身寄りのない子供を引き取る場所って。」
「そんな所があったのか。」
だが…ダメだろう…イワは確かに見た目、中身共に子供だが…
如何せん、身長が高い…俺達より背が高いし、街で見た大人でこのくらいの人も少なかれ居た。
【学校行けばもっと頭良くなるけど…お金ない。】
「そりゃ大変だな…お金の使い方も知らないんだろう?」
「教育されて無い人ってこうなっちゃうんだね。」
学校も孤児院もダメ…直ぐに稼げて頭が悪くても出来る仕事……ある。
冒険者だ!俺達、学校に行ってないから頭が悪いけど冒険者になれば収入が出来る!…かもしれない。
お金を稼ぐためには依頼をこなしたり広告塔にもならないといけないけど。
だけど…イワは弱い…とてもじゃないが冒険者にはなれなさそう…
「バカでも出来る仕事って無いよな…バカじゃないから仕事するんだよな…」
「能無しでも出来る仕事なら決死隊があるけど…ダメだよね。」
こうなれば奥の手…街にも居たけど…乞食になるのはどうだろうか。
少々アレだが…魔族となると聖職者になるのも難しいだろう。
【イワ…何も出来ない…】
「自身無くすなよ、俺達が普通の冒険者なら一緒に連れて行くけど…」
「お生憎様、私達はとっても大事な任務の途中なの。」
【何してる途中なの?】
「ちょっとね…父親が危ないんだ。」
今の説明…誤解されて無いだろうか?
父親が危険な状態なのであって…父さん自身が危ない人と言うワケでは無い。
父さんはとっても立派な人だよ!
【ウチ、手伝うけど。】
「ダメダメ!これは危険な旅なんだよ…他人を巻き込めないよ…」
「散々巻き込んでる気がするけど。」
それを言ってはいけない気がするけど…今は目を瞑ろう。
気持ちだけ受け取っておこう、イワはハッキリ言って…足手まといになる。
本当に申し訳ないけどそう思ってしまう。
囮にするわけにもいかないし…やはり連れて行けない。
「まぁ、山を下りてから考えようよ。そう言う事は。」
「そうだよ、それが良い。」
【うん…分かった。】
「元気出してよ!何かできる事はあるかもしれな『ヤァアアッ!!』うわぁ!?」
その時、突如として横の茂みから男が俺に向かって飛び蹴りをかます!!
し、しまった…誰かが待ち伏せしてたのか…脇腹の良い所に当たってしまった…
【ひぃい!?この人…目が赤い…】
「目が赤い…コイツ!昨日の人と同じ類の奴か!」
「ウガァアアアアア!!」
飛び出して来たのは…目が赤い格闘家…山の入り口に貼ってあった行方不明者の1人だ!えーっと名前は…なんだっけな…ベロだしみたいな名前だった気がするけど…
そうだ!べコタスだ!
「イン!魔法だ!魔法を撃て!!」
「ひょ、雹球!!」
インは咄嗟に雹球を相手の位置へ乱雑に打ちこむ!!しかし、奴はなんと素手で氷の球体を殴り飛ばし、返ってきた雹球はインとイワの間をビシュン!と突き抜けた!
「ウガァアア!!」
「な!?な、殴り飛ばした…私の雹球を…」
【うわぁああ!やるしかない!!】
「ダメだイワ!やられる!」
直ぐにイワは逃げられないと悟ったのか、爪を立て、べコタスへ襲い掛かる!
だが、いとも簡単に彼女はカウンターのパンチをお腹にめり込ませられ…直ぐにダウンしてしまった…本当に弱いんだな…いや、誰でもそうなるに決まっている!
(なんで庇っているんだ俺は…)
「くっそ…イン!魔法の準備をしろ!」
「アアアァアアッ!!」
「おいお前!こっちを向け!」
「アアアァッ?…!?うぎごッ…」
インに魔法の準備をさせると自分へ注意を向けさせる!奴はこちらへ殴りかかったか…メイスの柄で相手の拳を防ぐと、ゴッ…という鈍い音が響き…
相手は拳を抑えて蹲った…い、痛そうだ…いやそれよりも!!
今のうちに首飾りを取らなくては!!
「この…見つけた!これか!!」
「コォ!危ない!!」
「アガァアア!!」
相手は起き上がると直ぐに自分の左頬を殴り飛ばす!!ポキッという音共に歯が折れて地面に転がる…
やばい!もう起き上がった!使うしかない…魔法を!
「キム・ムーア!!この野郎!!」
「ウギイイイ!!」
魔法を使って腕を強化すると、奴との取っ組み合いになった!互いの手を掴みあって押し合う…魔法を使っていると言うのにこちらが少し押されている!
こんなにも強い力を持つ人が居るとは…それとも首飾りの力だろうか…
「イン!今の内だ!!奴の背中へ魔法を撃ちこめ!!」
「わ、分かった…火球!」
「うぐぁ!?が、がぎゃ…」
「今だッ!」
背中へ火球を撃ち込まれたべコタスが怯んでいる隙にすぐさま首飾りを掴むと思いっきり引き千切る!!首飾りはバラバラに散らばり…赤く光ると木端微塵に砕け散った…
それと同時にべコタスは糸が切れたようにその場に倒れ込む…やったか。
「やっとか…ぐっ!…しまった…腕に力を使い過ぎた…」
キム・ムーアは強化する代わりに筋肉へ強い負担を掛けてしまう…一度に使い過ぎたり、間をおかずに何度も使うと筋肉が壊死してしまう…
そうなればどうしようもない…だが、今回は大丈夫そうだ…
折れた歯は…どうにもならないのでひとまず拾っておこう…で、この人とイワは治療するか…インの方も怪我は無さそうだ。
「コォ…歯、大丈夫?」
「左上の奥歯がやられたけど…そこまで大事じゃないかな…乳歯だし。」
「なら良いけど…」
イワを先に治療すると彼女は直ぐに目を覚ました…魔族なので非力だが身体は丈夫なようだ。
それで…このべコタスさんも治療するけど、この火傷は消えそうにない。
街の医者に診てもらえば治るかもしれないが自分にはどうにもできない…服だって背中の部分が焼け焦げて寒そうだ。
「この人は危険だけどここに座らせておくか…」
「流石に連れて行けないしね。」
「よし…行くぞ、2人共。」
「うぃー」【分かった。】
山道はまだまだ続く…山頂には行かないので楽だが…先は長いな。
・・・
【おのれ…侵入者め…べコタスさえ撃退するとは…やるのう…】
「チカ様、フィルーガーの首は取ってまいりました。」
【ネストロか…ご苦労。そしてコリンパイ、べコタスを始末しに行け。そして侵入者も見つけ次第…殺せ。良いか、不意打ちでも何でも良い、絶対に殺せ。お前が一番強い。】
「御意。」
【ネストロ、お前は3魔士を呼んで来い。念には念を入れる。】
「はい。」
【ヒへへ…ワシの機嫌を損ねるとどうなるか…思い知らせちゃる…】
・・・
あれから随分と歩いたが…どのくらいまで来たのだろうか…かなり標高が高くなった気がするが、それでもまだ道は続いている。
それに…不気味な視線を感じたり、変な鳴き声が響いたりしている。
何処の山と言うのも似たようにおどろおどろしい面を持っているのか…
【霧が濃くなってきた…】
「2人共、逸れるなよ。」
かなり霧が濃くなってきたな…前は疎か、2人の顔すら見えにくい。
こんな場所で離れてしまえば直ぐに見失ってしまう、少し空が赤くなってきた気がするので直ぐにこの霧道を突破しなくては…ここで敵に襲われたら一溜まりも無い。
「ちょっと冷えて来たな…上着を……イワ、寒くないか?」
【涼しいけど特に寒くないよ。】
「やっぱり魔族って丈夫なのね。」
「なら良かった、寒かったら言ってよ。上着貸すから。」
【うん、ありがと。】
薄いが上着を着れば多少なりとも冷えは治まる…だが少し息苦しい。
この道が長く続かないと良いのだが…
【ンヴォォオオオ…】
【な、なにこの声…】
「何かが…霧の向こうに居るぞ…イン、構えろ。イワ、下がれ。」
霧の中から不気味な呻き声のような声が聞こえる…魔物か?
インと共に武器を構えると、ノッシノッシと霧の向こうの影がこちらへ歩み寄って来る…ど、どうする…俺達の事を気にしていないみたいだが…
【ボッボォ…】
「(な、なんだコイツは…)」
霧の中から姿を現したのは不気味な4足歩行をする…頭の無い鹿だった…
頭が無い鹿なんて…生きて行けるのか?何処から声を出しているんだ?謎が多いが…敵意は無いようで、只々自分達の横を通り過ぎて行く…
なんだ…害が無いなら放置……!?あ、アレは!!
「首飾り…では無いが!似ている何か…」
「という事は…アレも…あの人たちの仲間?」
【何か知らないけどヤバそう…】
どうする…アイツ等の手下だったら左後ろ脚に付いてる飾りを…取るか?
だが相手は特にこちらへ危害を加えようとはしていない…だが…ダメだ、見過ごせない、取ろう!
俺は鹿の後ろへピッタリ付いてしばらく歩幅を合わせて歩くと、素早く後ろ脚の飾りをブチィ!と引き千切った!飾りは他の物と同じ様に光った後に砕け散る…
鹿はそのまま横たわって死んでしまった…首が無いのでどうしようもない。
「死んじゃった…だけど…これで…良いのだろうか…」
「見過ごすのもアレだしね。」
【無視するよりかは…イイと思う。他の人がやられるかも。】
「そうか……お、霧が晴れて来たな。」
丁度、霧が晴れて来たのでこの鹿の死体は埋めておこう、それが良い。
変な祟りでも貰ったら怖い…
「………」
「うっはぁ!?だ、誰ですか…急に…いつの間にここに…」
「コォ!ソイツ!首輪してる!」
「な!本当だ!?」
【さっきの奴の仲間…】
そこには…いつの間にか、白い服を着た女性が立っていた…奴らの仲間か…あの2人より豪華な赤い首飾り着けている…どうして此処が分かったのだろうか…
そ、そうか!この鹿だ!この鹿はただの囮だったのか!
やられた…それにしてもどうして自分達へ攻撃してくるんだ…最初の人の敵討ちだとしても正当防衛じゃないか!
「覚悟しろ侵入者…殺してやる。1人残らず…」
「しゃ、喋った…止めてください!何も殺し合わなくても…」
「コォ…言葉は通じるけど…話は出来なさそうだよ…」
【(もしかして…ウチも侵入者に入ってるの…?)】
ダメか…やるしかなさそうだ…どうにか撃退するしかない!
つづく
・・・
諸々図鑑(もうナンバリングしません)
名前:ヤナギジカ 分類:野生動物 発見者:不明
危険度:レベル0(全く持って無害) 主食:植物、虫 天敵:オオカミ等
『ヤナギジカは偶蹄目、シカ科、ヤマジカ属の草食動物である。ダニーグ大陸において最も繁栄している思われる種の鹿であり、最も見かける生物とも言われている。性格は穏やかで臆病だが、繁殖期である8月から10月、出産期である2月から4月のオスは気が荒いので注意。名前にもある通り、モースヤナギの実を食すことで赤い色の角を生やすことで有名。文明とは太古より寄り添っており、肉と皮は昔も今も取引されている。秋の下旬が旬とされており、上質な皮は絨毯やコート。肉は脂が乗っていて美味、オスの朱色の角は高級漢方薬、または装飾品として人気が高い。また…初心者の猟師が最初に狩る基本の獣ともされている。なお、噛まれたり攻撃された場合は直ぐに病院へ行こう、病気を貰う可能性が高い。』
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また、新シリーズとしてファンタジーものの長編小説(エロ)を企画中です。
更新準備が整いましたらこちらとTwitterでご報告させていただきます。
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