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第1部【明暗の大魔導師】編
第11話 10万ドルは決して安くない
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俺の名前はコォ…インと共に久しぶりに熟睡した冒険者だ。
やっぱり寝るにはベッドに限る…寝起きの感じと疲れの取れ方が桁違いなのだ…それ故に出る事も非常に困難になるのだが。
朝、ベッドから出れない確率は寝心地に比例する…これって法則かも。
とは言え、今日は大魔導師会の支部へ行かなくてはならない…嫌でも出なければ…
「うぅ~ん…はぁ!!…おい、イン、起きろ。」
「うーん…眠い…」
「置いてっちまうぞ。」
そう言うとインもウダウダ言いながら起き始め、髪を整え始めた。
昨日は数日ぶりに行水をしたので寝起きのスッキリさも違う…従業員にやり方を知らなくて聞いたのが少し恥ずかしかったが…まぁ良いだろう。
時計を見ればまだ朝の6時…支部が開くのは8時からだ。
事情を言えば早く入れてもらえるかもしれないので、早めに向かった方が良いだろうか?
「おい、もう行くぞ。」
「えぇ?もう…?まだゆっくりしたいよ…」
「早めの行動が大切だ。」
「マジ勘弁だよ…ふぁあ~…」
靴を履いてバンダナを…頭に巻くと失礼かな?だったら…仕舞っておくか。
あっという間に準備は完了…今思えば少し薄着過ぎたかもしれない、やっぱり自分の分の防寒具も買っておこうか…
それはさておき、外に出てみれば!…人はあまり居ない。
夜と比べて遥かに静かで人通りも偉く少ない…酔っ払いもそこら辺に倒れている…
「街の人も外で寝るんだね、寒く無いのかな?」
「寒そうだな…凍えてないから良いけど…」
しばらく道を進んでいると大きな…教会みたいな建物が見えて来た…この街は本当に大きな建物が多くて…ちょっと不安に陥ってしまう。
あの教会みたいなものが大魔導師会の支部だろう。
教会を絵で見たことがあって良かった。
「コォ、まだ開いてないよ…」
「事情を話したら早く入れてもらえるかもしれないだろ?裏口に行ってみよう。」
「そうかもね。」
裏へ回って裏口らしき場所をノックすると、自分より少し上くらい男が出た。
白い服を着て清潔そうなので此処の人間だろう。
「あの…話をしたいんですけど…」
「帰んな、8時にまた来い。」
「待ってください!あの!推薦状があるんですけど!」
「推薦状だと?」
男に推薦状を渡すと、それを読み上げ…「ちょっと待ってろ」と言うと奥へと消えてしまった…なんだ?とインと顔を見合わせていると男が戻って来た。
「来い。」
「あ、ありがとうございます…」
中へ入れば…かなり天井の高い清潔で神秘的な部屋が広がっていた…大量の長椅子、赤い絨毯の道…どれを取っても田舎者の俺達にとっては新鮮だ。
都会って言うのはなんでも大きいんだなぁ。
自分達はそんな広く、大きな部屋から離れ、普通の大きさの部屋へと通された。
此処は副支部長の部屋らしい…その副支部長とはまさに…この男であった。
「で…何の用だ?」
「何処から話せば良いか分かりませんけど…えーっとですね…」
自分は此処に来た理由、父さんの事と呪い、そして光の大魔導師の事を話した。
少しばかり長くなったが…急ぐことも無いだろう。
「……面白い話だ。そのような世迷い事を話す奴が居たとは。」
「よ、世迷い事?」
「帰れ。俺達は今、冗談を言い合っている暇はない。」
「帰れだなんて!光の大魔導師は何処に居るんですか!」
「部外者に教えるものか!とっととこの教会から去れ!」
「ぶ、部外者って…(此処やっぱり教会だったんだ…)」
ダメだ…この人、完全に信用していない…そりゃそうだ!
いきなり影の大魔導師の子供ですって!信じるはずが無いだろう!常識的に考えて!だが…ここで帰ったら二度と入れてもらえない!
そうなると救えない!父さんを救えないッ!!
「突拍子も無くて無理だというのは百も承知!だが頼む!信じてくれ!」
「去れ!そしてその父親に言っておけ!嘘をついてありがとうとな!」
自分は最上級の礼、土下座をしたが…頭を蹴り飛ばされて額から出血する事になってしまった…だが…父さんを救えるならこのぐらいの犠牲…痛いけど痛くない!
「おい聞け、お前等がその子供と言うのなら…証拠ぐらい見せろよ。」
「しょ、証拠………そうだ!インは影の魔法が使える!」
「お前バカか?影魔法なんて誰でも訓練すれば使えんだよ。」
「えぇ!?そ、そうだったの…私、てっきり使うのパパだけだと思ってた…」
な、なにぃ!!チクショウ…父さん…やっぱり父さんはウソを…いや!
違う!インは父さん直々に教えてもらったんだ!影魔法にも種類はある!使わせたくないが、証拠の為なら仕方がない!
「い、イン…やれ!」
「分かったよ…(こいつコォを蹴ったからヤバいの出してやろ)」
「見せてみろよ…(なんだ?どうせ影写しくらいだろう…)」
インは何かを唱え始める…それと同時に目は黒く染まり、影も光を一切通さぬ黒さへと変わる…そして、辺りの棚は揺れ始め、窓ガラスにヒビが入る!
マズイ!何かヤバイ魔法を唱えようとしている!!何をする気だ!!
普通、やれと言ったら底なしの穴だろう!
「影狩人…」
「…は?ッ!?」
【ムッシャギィイアアアアア!!】
「!?こ、コイツは!?」
インは自身の影から何かを這いずり出させると…それはドロドロの人間の形へと姿を変え、部屋の高そうな机を真っ二つに殴り壊す!!
恐ろしいと思っていたのも束の間…その影はドロドロに崩れて元に戻ってしまった…い、今のが…影狩人か?父さんから教えられたけど…本当に危険な様だ…
と言うか!何をやっているんだ!下手すればこの人は死んでいたかもしれない…
「ほら…証拠…見せた…言え!何処に居る!大魔導師は!!」
「へ、部屋を移そうか。」
そう言われて自分達は部屋を移動する事になった…インは鼻血を垂らし、俺は額からドバドバ血が出て…この人に限っては手に机の破片が刺さってしまっている。
話を聞く前に治療しておかないと。
「おい…待てよ…」
「な、なんですか…?」
「お前…先に自分の治療をしないのか?」
そうだった……この人の治療を終わらせると自分の額も軽く治療して、バンダナを巻いておいた…ちょっと血が滲んだ気がするが大丈夫だろう。
また巻く羽目になるとは…
「お前等の正体はよく分かった…まぁ信じてやろう…2割ぐらい。」
「残りの8割は?答えないと今度はアンタをブチ折るよ。」
「おい!イン!止めろ!冗談でもそんな事は言うな!」
「ご、ごめん…」
話を戻すが、光の大魔導師の居場所は…知らないらしい。
だが此処の支部長、ゲンナが知っているかもしれないという話だ。
「そのゲンナ様は何処に?家ですか?」
「……ゲンナ様は……連れて行かれてしまった…」
「!?ど、何処に!」
「クシの森という場所だ…野盗団が大勢攻め込んで来たんだ…此処に居た兵士だけでは対応しきれず…連れて行かれてしまった。」
なんと支部長ゲンナは身代金を狙った野盗団により誘拐されてしまったらしい!
数人の騎士達を派遣して探させているが…クシの森は凶悪な魔物がうじゃうじゃ生息する魔境…いくらゲンナが攫われたとしても行く者は少ない。
厄介な事にこの街には「戦士人権保護法」があるため、嫌がる兵を無理やり向かわせることなんて出来ない…それにそんな事は可哀想だ。
「今では兵長クネが向かうのを検討している…」
「俺達は長居できないな…どうすれば…」
「コォ…私達が行くんじゃダメなの?私達で助ければ…!」
「無理だ…大人の兵士でもビビッて逃げ出す魔物を相手になんかできないよ…」
クシの森に生息する代表的な魔物として危険度3の「カオハギウツシ」と「魔導人」が居る。
カオハギウツシはドッペルゲンガーという別名のモンスターだ…聞いた事があるかもしれない…そして魔導人は古代の魔族が造り上げた模造人間…
「コォ…情けないよ!パパを助けたくないの!!」
「いったぁ!?な、殴ること無いじゃない…」
「コォ!アンタはそれで良いの!?パパが治らなくて!怖いから放置で!」
「…!!い、行くぞ!俺達は行くぞ!!クシの森へ!」
「な!バカげている!大の大人の男が力負けする相手だぞ!」
「それでも行くしか無いよ!」
俺は男に無理を言ってクシの森までの行き方等を教えてもらった。
クシの森は毎秒毎分、道が歪んでいるため、真っすぐ進むことは不可能…特殊な方位磁石を持って行かないと進むことは疎か、戻る事も出来ないらしい。
そして敵と出会った時は…直ぐに逃げた方が良いと…とにかく我武者羅に逃げれば、森は入り組んでいるので撒くことが容易い、方位磁石もある限り迷う事はない。
「本当に行くんだな?」
「二言を言うように思えますか?」
「……ケッ!勝手にしろ…磁石は貸してやる。だが!」
「だが?」
「絶対に返せよ。」
目指すは奴らが根城にするルリーグ古代城という廃墟の城。
白い方位磁石を受け取った自分達は荷物を預かってもらうと、クシの森付近まで馬車を出すように書かれた手紙を受け取った。
コレを渡せば…嫌がらない限り、連れて行ってくれるらしい。
「ああ!待ってください!名前を教えてください!」
「……ズラッソだ…お前の名前は?」
「俺はコォ!…です。」「私はイン、覚えとき!」
「ふん…敬語は痒い、普通に話せ。」
「けど年上ですよね?」
「歳喰うだけならバカでも出来るだろ。」
ズラッソは部屋に行き、方位磁石と走り書きの文字と印が押された手紙を自分へ差し出した。
「ありがとう…行って来る!待っててね!」
「絶対返せよな!できればゲンナ様込みで…」
なんでろう…ズラッソとは初めて出会ったハズなのに全然そんな気がしなかった…気のせいだろうか?
それはともかく!早速だが俺達は手紙と武器、道具を持って馬車を出してくる所まで向かったが…その道中で事件は起きた。
「ッギャァアアアア!!?」
「な、なんだ?」「今のって悲鳴?」
朝の静かな通りに悲鳴が鳴り響く…それは今まさに自分達の横にある店からだ。
次の瞬間!隣の店の窓からガッシャァアン!と何かが突き破って通りへ出て来る…それをよーく見てみれば…
「うわぁ!?ひ、人だ!!大丈夫ですか!!……し、死んでる…」
「ひぃいい!?なんでぇ…」
窓から突き破って出て来たのは女性の死体だった…首の辺りに生々しい手形の痣が付いている…首を絞めて殺されたのか…?
誰が一体そんな事を…出て来たって事はまだ中に居るのか!
辺りにガヤガヤと人だかりが出来始める…そして。
【ギャラリーが集まってるな…朝から賑やかなこったぁ…】
「ま、魔族だ…」
【うん?】
店の中から出て来た魔族…もしかしてコイツがやったのか…?
奴は自分を睨んで来たので咄嗟に砲磁石を懐に隠した…こ、怖い!視線だけでも殺されてしまいそうな程に恐ろしい目をしている!
【おい、ズラッソに伝えておけ、そこのオレンジ頭。】
「お、オレンジ頭…俺の事ですか…」
【そうだよミカン野郎!テメェは脳の代わりにマーマレードが詰まってんのか!?】
「詰まってません!!」
【なんでだよ!何で詰まって無いんだよ!!】
「知りません…人間ですから…」
そういうと相手は【そっかぁ…ごめん…】と謝って来た…怖い!
そして奴はインを睨むと…
【フン!じゃあミカン野郎!伝えておけよ!身代金はもう10万上乗せとな!!人質ももう1人追加ともな!!】
「つ、追加…!?イン!!」
「きゃぁあ!?た、助けて…く、苦し…」
【(ラッキー!コイツはクシの森に来るつもりだな!だとすればこの女も仲間!)】
奴はインの後ろへ素早く回り込むと後ろから首を腕で絞め上げる!!
「おい!止めろ!!インを離せ!」
【やだね!んじゃ!バイバーイ!!】
「おい待て!!この野郎!!」
奴は笑いながら何かを地面へ投げつけると、煙がバンッ!と立ち込める!!め、目が痛い!何だこれは…チックショウ!
煙が晴れた頃には奴の姿は無く…インは攫われてしまった…
「おい!除け!何があった!!こ、これは…」
人だかりを押しのけ、衛兵がやって来る…自分は只々…立ち尽くしていた…
インが攫われた…俺は1人…奴らは野盗団…インは…こ、殺される…?
どうしよう!!どうすれば!?奴は何でインを連れて行ったんだ!?どうして!?
俺は衛兵に色々聞かれ…事情聴取もあり、連れていかれてしまった…
「…お、お前かい…」
「あ…クネさん…昨日ぶりです…」
自分は事情聴取…を受けたのだが、結局牢屋にぶち込まれてしまった…何故かというと、この建物には待合室が無いからだ…つまり、俺は無罪だ。
そんな牢屋に入って来たのは昨日のクネだった…
「名乗った覚えは無いんだが…まぁ良い。」
「もう行って良いんですか?俺、早くクシの森に行かないと…」
「その必要はない。あそこはお前のような子供が行く場所では無い。」
「子供って…妹が攫われたんです!行かないと!!」
クネは黙って俺の話を聞いていたが…妹という単語に反応していた気がする…何か憶えでもあるのだろうか?
「どうしても行くのか?私の仕事は自殺者の補助では無いが?」
「血の繋がった家族なんです。死んでも…化けてでも行きますよ。」
「フン…勝手にしろ。私も勝手にさせてもらうがな。」
「な、何を?」
「どうせ遅かれ早かれ行くんだ。私も付いて行こう。」
クネは付いて行くと言っているが…それを必死で部下は止める!
「新人の教育が!」や「ただでさえ人手不足なんです!」と泣いて止めるが…クネは…
「知らん。私は行くぞ。減給でも解雇でも何でもしろ。」
「な!?そ、そんなぁ!!誰が新人の教育をするんですかぁ!」
「お前がしろ、お前は今から代理兵長だ。」
「えぇえええ!?そんな…しかも代理って…」
哀れ代理兵長…彼女の胃は一瞬でバッキバキにぶっ壊れ状態だろう。
それも大事だが!クネが付いて来てくれるなら百人力だ…だがしかし、良いのだろうか?クネにも仕事があり、立場と言うものがある。
偉いのだからそこら辺はちゃんとするべきだろう。
だが!凄くありがたい!一旦教会に行って報告してからクシの森へ向かおう。
一時的にだが、クネが仲間になってくれた…心強い。
つづく
・・・
諸々図鑑2
名前:磁鳥(ジチョウ) 分類:魔物 発見者:不明
危険度:レベル1(関わらないなら無視してよい) 標的:小動物、虫
『磁鳥はマカイキジ目マカイキジ科ジキクジャク属の鳥である。正式名称はマカイジキクジャクであり、魔物に分類されるが、見た目は鮮やかなクジャク。磁気を操る力があると言われており、少量でも金属を含む物質を強力な磁石に変える事が出来る。クジャクとの見分け方は尾羽の鮮やかな赤色で一目瞭然だ、その見た目もあって一部の貴族は剥製に高い値段を付けて買う。その為、乱獲される事が危険視されているが…いくら動物に見えても魔物、自衛や狩りのために魔法を使うため要注意。肉は金属集が凄まじく、美味しくはない…しかし羽はアクセサリー、脚は高級漢方薬に使用されるので需要が高い。』
やっぱり寝るにはベッドに限る…寝起きの感じと疲れの取れ方が桁違いなのだ…それ故に出る事も非常に困難になるのだが。
朝、ベッドから出れない確率は寝心地に比例する…これって法則かも。
とは言え、今日は大魔導師会の支部へ行かなくてはならない…嫌でも出なければ…
「うぅ~ん…はぁ!!…おい、イン、起きろ。」
「うーん…眠い…」
「置いてっちまうぞ。」
そう言うとインもウダウダ言いながら起き始め、髪を整え始めた。
昨日は数日ぶりに行水をしたので寝起きのスッキリさも違う…従業員にやり方を知らなくて聞いたのが少し恥ずかしかったが…まぁ良いだろう。
時計を見ればまだ朝の6時…支部が開くのは8時からだ。
事情を言えば早く入れてもらえるかもしれないので、早めに向かった方が良いだろうか?
「おい、もう行くぞ。」
「えぇ?もう…?まだゆっくりしたいよ…」
「早めの行動が大切だ。」
「マジ勘弁だよ…ふぁあ~…」
靴を履いてバンダナを…頭に巻くと失礼かな?だったら…仕舞っておくか。
あっという間に準備は完了…今思えば少し薄着過ぎたかもしれない、やっぱり自分の分の防寒具も買っておこうか…
それはさておき、外に出てみれば!…人はあまり居ない。
夜と比べて遥かに静かで人通りも偉く少ない…酔っ払いもそこら辺に倒れている…
「街の人も外で寝るんだね、寒く無いのかな?」
「寒そうだな…凍えてないから良いけど…」
しばらく道を進んでいると大きな…教会みたいな建物が見えて来た…この街は本当に大きな建物が多くて…ちょっと不安に陥ってしまう。
あの教会みたいなものが大魔導師会の支部だろう。
教会を絵で見たことがあって良かった。
「コォ、まだ開いてないよ…」
「事情を話したら早く入れてもらえるかもしれないだろ?裏口に行ってみよう。」
「そうかもね。」
裏へ回って裏口らしき場所をノックすると、自分より少し上くらい男が出た。
白い服を着て清潔そうなので此処の人間だろう。
「あの…話をしたいんですけど…」
「帰んな、8時にまた来い。」
「待ってください!あの!推薦状があるんですけど!」
「推薦状だと?」
男に推薦状を渡すと、それを読み上げ…「ちょっと待ってろ」と言うと奥へと消えてしまった…なんだ?とインと顔を見合わせていると男が戻って来た。
「来い。」
「あ、ありがとうございます…」
中へ入れば…かなり天井の高い清潔で神秘的な部屋が広がっていた…大量の長椅子、赤い絨毯の道…どれを取っても田舎者の俺達にとっては新鮮だ。
都会って言うのはなんでも大きいんだなぁ。
自分達はそんな広く、大きな部屋から離れ、普通の大きさの部屋へと通された。
此処は副支部長の部屋らしい…その副支部長とはまさに…この男であった。
「で…何の用だ?」
「何処から話せば良いか分かりませんけど…えーっとですね…」
自分は此処に来た理由、父さんの事と呪い、そして光の大魔導師の事を話した。
少しばかり長くなったが…急ぐことも無いだろう。
「……面白い話だ。そのような世迷い事を話す奴が居たとは。」
「よ、世迷い事?」
「帰れ。俺達は今、冗談を言い合っている暇はない。」
「帰れだなんて!光の大魔導師は何処に居るんですか!」
「部外者に教えるものか!とっととこの教会から去れ!」
「ぶ、部外者って…(此処やっぱり教会だったんだ…)」
ダメだ…この人、完全に信用していない…そりゃそうだ!
いきなり影の大魔導師の子供ですって!信じるはずが無いだろう!常識的に考えて!だが…ここで帰ったら二度と入れてもらえない!
そうなると救えない!父さんを救えないッ!!
「突拍子も無くて無理だというのは百も承知!だが頼む!信じてくれ!」
「去れ!そしてその父親に言っておけ!嘘をついてありがとうとな!」
自分は最上級の礼、土下座をしたが…頭を蹴り飛ばされて額から出血する事になってしまった…だが…父さんを救えるならこのぐらいの犠牲…痛いけど痛くない!
「おい聞け、お前等がその子供と言うのなら…証拠ぐらい見せろよ。」
「しょ、証拠………そうだ!インは影の魔法が使える!」
「お前バカか?影魔法なんて誰でも訓練すれば使えんだよ。」
「えぇ!?そ、そうだったの…私、てっきり使うのパパだけだと思ってた…」
な、なにぃ!!チクショウ…父さん…やっぱり父さんはウソを…いや!
違う!インは父さん直々に教えてもらったんだ!影魔法にも種類はある!使わせたくないが、証拠の為なら仕方がない!
「い、イン…やれ!」
「分かったよ…(こいつコォを蹴ったからヤバいの出してやろ)」
「見せてみろよ…(なんだ?どうせ影写しくらいだろう…)」
インは何かを唱え始める…それと同時に目は黒く染まり、影も光を一切通さぬ黒さへと変わる…そして、辺りの棚は揺れ始め、窓ガラスにヒビが入る!
マズイ!何かヤバイ魔法を唱えようとしている!!何をする気だ!!
普通、やれと言ったら底なしの穴だろう!
「影狩人…」
「…は?ッ!?」
【ムッシャギィイアアアアア!!】
「!?こ、コイツは!?」
インは自身の影から何かを這いずり出させると…それはドロドロの人間の形へと姿を変え、部屋の高そうな机を真っ二つに殴り壊す!!
恐ろしいと思っていたのも束の間…その影はドロドロに崩れて元に戻ってしまった…い、今のが…影狩人か?父さんから教えられたけど…本当に危険な様だ…
と言うか!何をやっているんだ!下手すればこの人は死んでいたかもしれない…
「ほら…証拠…見せた…言え!何処に居る!大魔導師は!!」
「へ、部屋を移そうか。」
そう言われて自分達は部屋を移動する事になった…インは鼻血を垂らし、俺は額からドバドバ血が出て…この人に限っては手に机の破片が刺さってしまっている。
話を聞く前に治療しておかないと。
「おい…待てよ…」
「な、なんですか…?」
「お前…先に自分の治療をしないのか?」
そうだった……この人の治療を終わらせると自分の額も軽く治療して、バンダナを巻いておいた…ちょっと血が滲んだ気がするが大丈夫だろう。
また巻く羽目になるとは…
「お前等の正体はよく分かった…まぁ信じてやろう…2割ぐらい。」
「残りの8割は?答えないと今度はアンタをブチ折るよ。」
「おい!イン!止めろ!冗談でもそんな事は言うな!」
「ご、ごめん…」
話を戻すが、光の大魔導師の居場所は…知らないらしい。
だが此処の支部長、ゲンナが知っているかもしれないという話だ。
「そのゲンナ様は何処に?家ですか?」
「……ゲンナ様は……連れて行かれてしまった…」
「!?ど、何処に!」
「クシの森という場所だ…野盗団が大勢攻め込んで来たんだ…此処に居た兵士だけでは対応しきれず…連れて行かれてしまった。」
なんと支部長ゲンナは身代金を狙った野盗団により誘拐されてしまったらしい!
数人の騎士達を派遣して探させているが…クシの森は凶悪な魔物がうじゃうじゃ生息する魔境…いくらゲンナが攫われたとしても行く者は少ない。
厄介な事にこの街には「戦士人権保護法」があるため、嫌がる兵を無理やり向かわせることなんて出来ない…それにそんな事は可哀想だ。
「今では兵長クネが向かうのを検討している…」
「俺達は長居できないな…どうすれば…」
「コォ…私達が行くんじゃダメなの?私達で助ければ…!」
「無理だ…大人の兵士でもビビッて逃げ出す魔物を相手になんかできないよ…」
クシの森に生息する代表的な魔物として危険度3の「カオハギウツシ」と「魔導人」が居る。
カオハギウツシはドッペルゲンガーという別名のモンスターだ…聞いた事があるかもしれない…そして魔導人は古代の魔族が造り上げた模造人間…
「コォ…情けないよ!パパを助けたくないの!!」
「いったぁ!?な、殴ること無いじゃない…」
「コォ!アンタはそれで良いの!?パパが治らなくて!怖いから放置で!」
「…!!い、行くぞ!俺達は行くぞ!!クシの森へ!」
「な!バカげている!大の大人の男が力負けする相手だぞ!」
「それでも行くしか無いよ!」
俺は男に無理を言ってクシの森までの行き方等を教えてもらった。
クシの森は毎秒毎分、道が歪んでいるため、真っすぐ進むことは不可能…特殊な方位磁石を持って行かないと進むことは疎か、戻る事も出来ないらしい。
そして敵と出会った時は…直ぐに逃げた方が良いと…とにかく我武者羅に逃げれば、森は入り組んでいるので撒くことが容易い、方位磁石もある限り迷う事はない。
「本当に行くんだな?」
「二言を言うように思えますか?」
「……ケッ!勝手にしろ…磁石は貸してやる。だが!」
「だが?」
「絶対に返せよ。」
目指すは奴らが根城にするルリーグ古代城という廃墟の城。
白い方位磁石を受け取った自分達は荷物を預かってもらうと、クシの森付近まで馬車を出すように書かれた手紙を受け取った。
コレを渡せば…嫌がらない限り、連れて行ってくれるらしい。
「ああ!待ってください!名前を教えてください!」
「……ズラッソだ…お前の名前は?」
「俺はコォ!…です。」「私はイン、覚えとき!」
「ふん…敬語は痒い、普通に話せ。」
「けど年上ですよね?」
「歳喰うだけならバカでも出来るだろ。」
ズラッソは部屋に行き、方位磁石と走り書きの文字と印が押された手紙を自分へ差し出した。
「ありがとう…行って来る!待っててね!」
「絶対返せよな!できればゲンナ様込みで…」
なんでろう…ズラッソとは初めて出会ったハズなのに全然そんな気がしなかった…気のせいだろうか?
それはともかく!早速だが俺達は手紙と武器、道具を持って馬車を出してくる所まで向かったが…その道中で事件は起きた。
「ッギャァアアアア!!?」
「な、なんだ?」「今のって悲鳴?」
朝の静かな通りに悲鳴が鳴り響く…それは今まさに自分達の横にある店からだ。
次の瞬間!隣の店の窓からガッシャァアン!と何かが突き破って通りへ出て来る…それをよーく見てみれば…
「うわぁ!?ひ、人だ!!大丈夫ですか!!……し、死んでる…」
「ひぃいい!?なんでぇ…」
窓から突き破って出て来たのは女性の死体だった…首の辺りに生々しい手形の痣が付いている…首を絞めて殺されたのか…?
誰が一体そんな事を…出て来たって事はまだ中に居るのか!
辺りにガヤガヤと人だかりが出来始める…そして。
【ギャラリーが集まってるな…朝から賑やかなこったぁ…】
「ま、魔族だ…」
【うん?】
店の中から出て来た魔族…もしかしてコイツがやったのか…?
奴は自分を睨んで来たので咄嗟に砲磁石を懐に隠した…こ、怖い!視線だけでも殺されてしまいそうな程に恐ろしい目をしている!
【おい、ズラッソに伝えておけ、そこのオレンジ頭。】
「お、オレンジ頭…俺の事ですか…」
【そうだよミカン野郎!テメェは脳の代わりにマーマレードが詰まってんのか!?】
「詰まってません!!」
【なんでだよ!何で詰まって無いんだよ!!】
「知りません…人間ですから…」
そういうと相手は【そっかぁ…ごめん…】と謝って来た…怖い!
そして奴はインを睨むと…
【フン!じゃあミカン野郎!伝えておけよ!身代金はもう10万上乗せとな!!人質ももう1人追加ともな!!】
「つ、追加…!?イン!!」
「きゃぁあ!?た、助けて…く、苦し…」
【(ラッキー!コイツはクシの森に来るつもりだな!だとすればこの女も仲間!)】
奴はインの後ろへ素早く回り込むと後ろから首を腕で絞め上げる!!
「おい!止めろ!!インを離せ!」
【やだね!んじゃ!バイバーイ!!】
「おい待て!!この野郎!!」
奴は笑いながら何かを地面へ投げつけると、煙がバンッ!と立ち込める!!め、目が痛い!何だこれは…チックショウ!
煙が晴れた頃には奴の姿は無く…インは攫われてしまった…
「おい!除け!何があった!!こ、これは…」
人だかりを押しのけ、衛兵がやって来る…自分は只々…立ち尽くしていた…
インが攫われた…俺は1人…奴らは野盗団…インは…こ、殺される…?
どうしよう!!どうすれば!?奴は何でインを連れて行ったんだ!?どうして!?
俺は衛兵に色々聞かれ…事情聴取もあり、連れていかれてしまった…
「…お、お前かい…」
「あ…クネさん…昨日ぶりです…」
自分は事情聴取…を受けたのだが、結局牢屋にぶち込まれてしまった…何故かというと、この建物には待合室が無いからだ…つまり、俺は無罪だ。
そんな牢屋に入って来たのは昨日のクネだった…
「名乗った覚えは無いんだが…まぁ良い。」
「もう行って良いんですか?俺、早くクシの森に行かないと…」
「その必要はない。あそこはお前のような子供が行く場所では無い。」
「子供って…妹が攫われたんです!行かないと!!」
クネは黙って俺の話を聞いていたが…妹という単語に反応していた気がする…何か憶えでもあるのだろうか?
「どうしても行くのか?私の仕事は自殺者の補助では無いが?」
「血の繋がった家族なんです。死んでも…化けてでも行きますよ。」
「フン…勝手にしろ。私も勝手にさせてもらうがな。」
「な、何を?」
「どうせ遅かれ早かれ行くんだ。私も付いて行こう。」
クネは付いて行くと言っているが…それを必死で部下は止める!
「新人の教育が!」や「ただでさえ人手不足なんです!」と泣いて止めるが…クネは…
「知らん。私は行くぞ。減給でも解雇でも何でもしろ。」
「な!?そ、そんなぁ!!誰が新人の教育をするんですかぁ!」
「お前がしろ、お前は今から代理兵長だ。」
「えぇえええ!?そんな…しかも代理って…」
哀れ代理兵長…彼女の胃は一瞬でバッキバキにぶっ壊れ状態だろう。
それも大事だが!クネが付いて来てくれるなら百人力だ…だがしかし、良いのだろうか?クネにも仕事があり、立場と言うものがある。
偉いのだからそこら辺はちゃんとするべきだろう。
だが!凄くありがたい!一旦教会に行って報告してからクシの森へ向かおう。
一時的にだが、クネが仲間になってくれた…心強い。
つづく
・・・
諸々図鑑2
名前:磁鳥(ジチョウ) 分類:魔物 発見者:不明
危険度:レベル1(関わらないなら無視してよい) 標的:小動物、虫
『磁鳥はマカイキジ目マカイキジ科ジキクジャク属の鳥である。正式名称はマカイジキクジャクであり、魔物に分類されるが、見た目は鮮やかなクジャク。磁気を操る力があると言われており、少量でも金属を含む物質を強力な磁石に変える事が出来る。クジャクとの見分け方は尾羽の鮮やかな赤色で一目瞭然だ、その見た目もあって一部の貴族は剥製に高い値段を付けて買う。その為、乱獲される事が危険視されているが…いくら動物に見えても魔物、自衛や狩りのために魔法を使うため要注意。肉は金属集が凄まじく、美味しくはない…しかし羽はアクセサリー、脚は高級漢方薬に使用されるので需要が高い。』
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