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少し前に降った雪は、クリスマスツリーと共に街から消えた。
キラキラと輝いているイルミネーションは新年を迎えるものへと変わっただけで、この時期の夜は相変わらず明るい。ジングルベルが鳴らなくなった代わりに、厄払いでもするかのように街は賑やかだ。
三次会だと騒ぐ酔っ払いたちが、高司颯天の脇を通り過ぎて行く。
既に十時を回っている。平日とはいえ、彼のように素面で路地裏を歩いているビジネスマンは少ない。
目的のビルに到着し、エレベーターで上に昇る。
ほんの二メートルほど先に扉がひとつ。氷の月が雫を落とすデザインが刻まれたガラス越しに、カウンターに座る人影が見えた。
ドアベルを鳴らしながら中に入ると、振り向いた氷室仁が「よっ」と片手をあげる。
「お疲れ」
いくつか近況報告をして、お気にいりのアルコールで喉を潤したあと、仁がにやりと口もとを歪め颯天の横顔を伺う。
「で? 今年のクリスマスはどうだったんだ? うまくいったのか?」
颯天は不敵な笑みを返す。
「彼女の手料理で楽しく過ごしたよ。ターキーのグリルとかな」
楽しく?
それには仁も驚いた。
長年苦しめた魔のクリスマスを、ついに乗り越えたのか。
「へえー、そりゃよかった。お前からそんな言葉を聞ける日が来るとはなぁ」
つい最近、彼女に逃げられそうだと不貞腐れていたはずが、彼の横顔には随分と余裕の笑みが浮かんでいる。
(――やれやれ)
「マリアが荒れてたぞ。あんな言い方しなくたっていいのにって。お前なんて言ったんだ?」
氷室家は芸能プロダクションも経営している関係で、仁はマリアの知り合いでもある。この店に呼ぶほど彼女に心を許していないが、会えば立ち話くらいはする仲だ。
「ん? 別に? なんで俺がお前と結婚しなきゃいけないんだ? って言っただけさ。客だから食事の接待くらいはするが、それ以外にお前に付き合う理由はないだろう? ってな」
「そりゃひでー」
アハハと仁が笑う。
初恋を成就させて、多少は女に優しくなったかと思いきや、颯天はやっぱり颯天だった。
今後も恋人以外の女にはとことん俺様を通すんだろう。
ただしマリア相手ならそれくらい言ってやったほうがいいと、仁も思う。
親の権力にすがり契約を盾にするとは、やり口が汚い。
「マリアにさ、もしかしてお前、親父の権力で颯天が買えるとでも思ったのか、って言ったら、あいつうなずいてたよ。私がバカだったって。まぁそれがわかっただけでも、いい勉強になっただろう」
眉をひそめた颯天は、ため息を漏らす。
「俺も安く見られたもんだ」
「で? そろそろ戻るのか? グループ本体のほうに」
「多分な」
マリアとの縁談を棒に振ったせいで、タナカとの契約は白紙になった。
だが、絵恋が言ったとおり、絵恋の夫が代表を務めるホテル企業のほうで、その損失を埋める以上の契約を取れた。
颯天の父も予想していたのか、縁談を断っても苦情は一切言って来なかった。今回の件のみならず颯天の上げた実績を父が知らぬはずはないし、三月の決算が数字でもって証明するだろう。
三年に渡る颯天の禊ぎは済んだのだ。
「で、結婚するのか?」
「ああ。そのつもりだ」
「お前が恋愛結婚とはねー、ありえねー。まぁでもよかったなぁ」
しみじみとうなずく友人の隣で、颯天は思い起こす。
『そろそろ結婚して子供がほしいんです』
杏香がそう言ったとき、内心『そうか、わかった。結婚しような杏香』と思った。
(あいつはわかっているんだろうか? 俺は一度も別れるとは口にしていないんだがな)
まあそんなことはどうでもいいが。
できれば正月に杏香の実家に挨拶にいきたいと思った。
だが、年末年始の旅館は忙しいだろう。杏香とよく相談して日程を決めるとして――、ふと考える。
せめて一緒に住み始めたいが、まだ秘書でもいてほしい。
しばらくこのままじゃ、まずいかな。まずいよなぁとため息をつく。
それよりも、と思い出した。
早く言わなければ。
(プロポーズだけは。杏香からは言わせない。言うのは俺からだ)
fin…*
高司専務の憂鬱 アルファポリスvar 2023.02.01
えー、専務まだプロポーズしてなかったんかい(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾
ってことで、
最後までお付き合いありがとうございました!
折を見てエピソードを追加していきます。少々お待ちくださいませ。
♡・・*・・♡・・*・・♡・・*・・♡・・*・・♡
恋愛小説大賞にエントリーしております。
気に入っていただけましたら
応援よろしくお願いいたしますデス☆
キラキラと輝いているイルミネーションは新年を迎えるものへと変わっただけで、この時期の夜は相変わらず明るい。ジングルベルが鳴らなくなった代わりに、厄払いでもするかのように街は賑やかだ。
三次会だと騒ぐ酔っ払いたちが、高司颯天の脇を通り過ぎて行く。
既に十時を回っている。平日とはいえ、彼のように素面で路地裏を歩いているビジネスマンは少ない。
目的のビルに到着し、エレベーターで上に昇る。
ほんの二メートルほど先に扉がひとつ。氷の月が雫を落とすデザインが刻まれたガラス越しに、カウンターに座る人影が見えた。
ドアベルを鳴らしながら中に入ると、振り向いた氷室仁が「よっ」と片手をあげる。
「お疲れ」
いくつか近況報告をして、お気にいりのアルコールで喉を潤したあと、仁がにやりと口もとを歪め颯天の横顔を伺う。
「で? 今年のクリスマスはどうだったんだ? うまくいったのか?」
颯天は不敵な笑みを返す。
「彼女の手料理で楽しく過ごしたよ。ターキーのグリルとかな」
楽しく?
それには仁も驚いた。
長年苦しめた魔のクリスマスを、ついに乗り越えたのか。
「へえー、そりゃよかった。お前からそんな言葉を聞ける日が来るとはなぁ」
つい最近、彼女に逃げられそうだと不貞腐れていたはずが、彼の横顔には随分と余裕の笑みが浮かんでいる。
(――やれやれ)
「マリアが荒れてたぞ。あんな言い方しなくたっていいのにって。お前なんて言ったんだ?」
氷室家は芸能プロダクションも経営している関係で、仁はマリアの知り合いでもある。この店に呼ぶほど彼女に心を許していないが、会えば立ち話くらいはする仲だ。
「ん? 別に? なんで俺がお前と結婚しなきゃいけないんだ? って言っただけさ。客だから食事の接待くらいはするが、それ以外にお前に付き合う理由はないだろう? ってな」
「そりゃひでー」
アハハと仁が笑う。
初恋を成就させて、多少は女に優しくなったかと思いきや、颯天はやっぱり颯天だった。
今後も恋人以外の女にはとことん俺様を通すんだろう。
ただしマリア相手ならそれくらい言ってやったほうがいいと、仁も思う。
親の権力にすがり契約を盾にするとは、やり口が汚い。
「マリアにさ、もしかしてお前、親父の権力で颯天が買えるとでも思ったのか、って言ったら、あいつうなずいてたよ。私がバカだったって。まぁそれがわかっただけでも、いい勉強になっただろう」
眉をひそめた颯天は、ため息を漏らす。
「俺も安く見られたもんだ」
「で? そろそろ戻るのか? グループ本体のほうに」
「多分な」
マリアとの縁談を棒に振ったせいで、タナカとの契約は白紙になった。
だが、絵恋が言ったとおり、絵恋の夫が代表を務めるホテル企業のほうで、その損失を埋める以上の契約を取れた。
颯天の父も予想していたのか、縁談を断っても苦情は一切言って来なかった。今回の件のみならず颯天の上げた実績を父が知らぬはずはないし、三月の決算が数字でもって証明するだろう。
三年に渡る颯天の禊ぎは済んだのだ。
「で、結婚するのか?」
「ああ。そのつもりだ」
「お前が恋愛結婚とはねー、ありえねー。まぁでもよかったなぁ」
しみじみとうなずく友人の隣で、颯天は思い起こす。
『そろそろ結婚して子供がほしいんです』
杏香がそう言ったとき、内心『そうか、わかった。結婚しような杏香』と思った。
(あいつはわかっているんだろうか? 俺は一度も別れるとは口にしていないんだがな)
まあそんなことはどうでもいいが。
できれば正月に杏香の実家に挨拶にいきたいと思った。
だが、年末年始の旅館は忙しいだろう。杏香とよく相談して日程を決めるとして――、ふと考える。
せめて一緒に住み始めたいが、まだ秘書でもいてほしい。
しばらくこのままじゃ、まずいかな。まずいよなぁとため息をつく。
それよりも、と思い出した。
早く言わなければ。
(プロポーズだけは。杏香からは言わせない。言うのは俺からだ)
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高司専務の憂鬱 アルファポリスvar 2023.02.01
えー、専務まだプロポーズしてなかったんかい(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾
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雪この中迷子になって本音出ちゃいましたね、専務に言わせたかった、もっとジレても伸びても良かったのに、、、
プロポーズ気になるわ~。
続編楽しみにしてます。
ありがとうございました。
ななママさま~。完結まで追ってくださってありがとうございます( ˘ ³˘)♡
最後は、思わず言っちゃいましたね。
専務には今後、安心できるようにずっとリードしてもらわないと
続編、少々お待ちくださいませ
楽しみを励みに、頑張ります!
イッキに読みたいので、完結するのを待ってましたヾ(*´∀`*)ノ
アッチのは読んでたけどアルファポリス版を読んで、またアッチを読み返したくなりましたわ(*´ω`*)
まだプロポーズしてないんかwww
SSを期待してます(≧∀≦)
美穂さーん😆
あっちもこっちも、ありがとうございます💕
まだプロポーズしてない専務ー🤭
ぐいぐいいってもらいたいですね
今せっせと新作を書いているので
ひと段落したら、SSがんばりまーす
どうぞよろしくでーす👋
完結お疲れ様です💕
応援しました✨
ひー、せいともさーん🤣
ありがとうございます~🤭
私も読みにいかせてもらいますよ~💕