高司専務の憂鬱 (完)

白亜凛

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◆将を射んと欲せば

三年前の秘密 9

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***

 昨夜、高司家のリビングでそんなやりとりがあったとは知らない杏香は、朝から憂鬱なため息をついていた。

「――はぁ」

 応接セットのテーブルを拭く手が止まる。

 もし、マリアさんとの結婚が決まったら、その報告は彼の口から聞かされるのだろうか?
 それともニュースで知るのだろうか?

 寝不足でズキズキする頭を抱えながら、ソファーにドカッと腰を下ろして考えた。

 夕べもその前の夜も。ふたりは毎日会っているのかもしれない。

 マリアが会社に現れた日からなのか、いつからかはわからないが、どうやら夜も会っている、らしい。というのはネットのニュース記事に、パーティに一緒に来ていたとか、ホテルのバーにいたとかそんな目撃談があるからだ。

(もしかして、彼のマンションに彼女が連日泊まっているとか?)

 そう考えてハッとした。
 マンションの鍵は先週、胸元に落とされた。あの時のまま持っている。

 慌てて自分の席に行き、念のためバッグの中を見て確認したが、鍵はしっかりとカードケースの中にしまってある。

 鍵を胸もとに落とされた日に、マリアは父親と会社に現れた。ふたりが会うようになったのがその後なら、彼は杏香に鍵を渡したことを後悔しているかもしれない。

 彼から返せと言われるのは癪だし、自分から返したほうがいいとは思うが、ついでに結婚の報告をされたらそれはそれでやはり腹が立つ。

 いっそ、ご結婚おめでとうございますと先回りしてやろうか? マリアさんと鉢合わせしたらまずいですもんね? くらい言ってやろうか?

 などと朝から悶々と考えているうちに、カチャッと扉が開いた。

 颯天の登場に慌てて席を立つ。
「おはようございます」

「おはよう」

 合鍵の結論はまだ出ていない。

 会社でその話をするのも気が引けるからいっそマンションのコンシェルジュに渡しておこうかとも思う。

(――でも、万が一、マリアさんに会ってしまったら)

 それは困る。絶対に嫌だ。

 鬱々としながら給湯室に使い捨てカップの備品を取りに行くと、秘書課の先輩が給湯室に来た。

 担当する役員にコーヒーを淹れるために朝の給湯室は少し混み合うが、颯天のコーヒーは執務室で淹れるので杏香はここで誰かと出くわすことはあまりなかった。

 おはようございますとお互いに挨拶をする。

「専務からマリアさんとの結婚について、何か聞いている?」
 彼女は社長秘書である。

「いいえ、なにも」

「米田社長がすごく気にしているの、この結婚がまとまれば大口の顧客が確保できるなんてね」

「注目の的なんですね、専務の結婚」

 努めて平静を装った。

「あ、そういえばマリアさんって、アラブの王子さまとも付き合っているらしいわよ」
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