高司専務の憂鬱 (完)

白亜凛

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◆将を射んと欲せば

天使か悪魔か 9

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「――どう、というのは?」

「彼がどうして、そこまでするのか。杏香さんが疑問に思っていらっしゃるのだとすれば、正直申し上げて私にはお答えのしようがありません。私にも彼の心の内はわかりませんのでね」

 浮かんでいる笑みは相変わらず穏やかだが、きっぱりとした言い方だった。私にはわかりませんと。

 杏香はどう答えていいのかわからなかった。

 聞きたかったのは坂元が言う通りだし、その答えも想像できていた。ある意味予想通りの展開だというのに、返事はなにも浮かんでこない。

「困りますよね、杏香さんだって」
 坂元はそう言って、クスッと笑う。

「まぁでも、ご実家の旅館が本当に助けたくなるほど魅力が満載だったのは事実ですし。なにも考えずに、好意だと受け取って頂いていいと思いますよ? それにコンサルタントを紹介しただけですからね。今後高司はノータッチですから」

 落ち着いた声でそう言われると、つい納得しそうになってしまう。

 確かに彼らが関わったのは、コンサルタントの紹介だけなのかもしれない。

 銀行との再交渉は、坂元が同行しただけで、コンサルタントが仕事として引き受けたとなる、深刻に考え過ぎているのかと思えてくる。なにを聞こうとしていたのか。眠れないほど、なにをそんなに思い悩んでいたのかと、杏香は混乱してきた。

「杏香さんは高司とのことを、どうしたいですか?」

 え? そんなふうに坂元から直接的な質問をされたのは初めてだった。

「状況はどうあれ、私は協力を惜しみませんよ?」

 別れを切り出した報告はしてあるが、その後も結局なんだかんだと会っているとを坂元は当然知っているだろう。

「私は、ただ」

 視線を落とした杏香は、唇を噛んだ。

『ただ――愛されたい。彼に愛される、この世でたった一人の女性になりたいんです』

 胸に浮かんだ言葉を心で答えると、モヤモヤとくすぶっていたものがすっかり消えた気がした。

 それが自分の正直な気持ちなのだと、あきらめに似た気持ちで悟る。

 でも、決して自覚してはいけなかった本音だった。

 絶望的な気持ちで絶句し、先の言葉を繋ぐことができず、ただ首を左右に首を振って俯くしかなかった。

「すみません……。私にもよくわからないんです」

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